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第20話 浮遊霊偵察隊

「ひ・・・ひぃぃぃ!!!」

先ほどまでのふてぶてしい笑いとは一転。

幽体離脱をした海馬は情けない声を出す。

「おい・・・しっかりしろよ。お前が言ったんだろ?作戦その1、幽体離脱でまずは相手を偵察するって。」

あまりにもさっきとの差がひどくて鷲一は呆れた声を出す。

「こ・・・怖いものは!!怖いんだ!!!」

顔が真っ青な海馬をよそにまだ2回目の朱夏は飛べる感覚に夢中になっている。

「あはは!海馬お兄ちゃん、幽体離脱って面白いね!!」

「面白くなぁい!!!!」

海馬が叫んで突っ込む。

「ほらほら、行こう?今しか見て回るチャンスないよ?」

心琴は少しあきれ顔でそう言った。

「う・・・ごめん。行こうか・・・えっと、鷲一と心琴ちゃんが2階を。僕と朱夏ちゃんは1階を見て回る。敵の位置、人数の把握。まずはそこからだね。」

「わかりました。」

「了解!」

「おっけー!」

4人は二手に分かれた。


海馬と朱夏は1階を担当している。

壁を突き抜け、一部屋一部屋見て回る。

「暗いと薄気味悪いですね。お化けが出てきそう。」

朱夏は海馬に寄り添う。

「いや、今は僕らがそのお化けだからね?」

「あ、そうでした!」

思い出したかのように目を丸くする朱夏に海馬はちょっと噴き出す。

「ぶふっ・・・今の、天然だったね。」

「ちょ、ちょっと間違っちゃっただけです。」

照れる朱夏の顔を海馬は愛おしそうに眺めた。

そうこうしているうちに少し大きい部屋に到着する。

「ここは・・・食事処かな?」

見るとお皿や冷蔵庫、洗面台などもある。

さながら、学校の家庭科室だ。

「あ、あれ。あの子が桃です。」

「あれが魔女の娘か。」

桃は食べ終わった食器の横で突っ伏していた。

「こんなところで・・・寝てるのでしょうか?」

「そのようだね。寝ているみたいだ。」

海馬と朱夏はゆっくりと近づいてみる。

すると桃は涙を流しているようだった。

「・・・!?」

「泣いてる・・・ね・・・。」

先ほどの心琴を切りつけている時の表情とはまるで別人。

そこには涙でほほを濡らす普通の少女の姿があった。

「ママ・・・。」

桃が寝言を言いながら涙を流す。

その顔を見ながら心琴の声が脳裏に響く。

【桃も被害者だと思うんだ】

朱夏は心琴の言わんとしていることを分かりたくなくて、目を逸らした。

「なんか・・・可哀そうに見えてくる。もう、行こうか。」

「・・・はい。」

2人は桃の側をそっと離れるのだった。



こちらは心琴と鷲一。

2階をうろついている。

「こっちは・・・廊下。とホテルみたいな個室がたくさんあるね。」

「Dの番号が書いてあるな。被験者たちの部屋って事か?」

ドア一つ一つに番号が振られている。

番号は抜け番がたくさんある。

「確か死神はD-09だったね。」

「あー・・・おぼえてねぇな。あ、でもD-09って書いてる部屋あったぞ?」

二人はそこに入ってみる。

やはりホテルみたいな一室だった。

何もない部屋には家族写真が一枚飾ってあるだけだった。

「これ・・・普通の家族写真だね。」

「本当だ。これ・・・まさか死神じゃないか?」

「え!?うそ!!!」

髪の毛も目の色も違う日本人の少年はギザギザの歯を見せて笑っている。

今の姿と違い過ぎる容姿に胸が痛んだ。

「パラサイトに・・・させられた被験者って事なのか?」

「解んない。けど・・・可哀想だね。」

死神に何があったかは分からないがロクなものではない事だけは感じ取った。

「仲間にできるなら・・・なって欲しいね。」

「ああ。こんな場所から解放してやりてぇな。」

二人はお互いを見てにこりと笑った。

「・・・あれ?」

心琴が明らかにベッドがこんもりしている事に気が付いた。

促されて鷲一もベッドを見る。

「死神が寝てるのかな?」

こんもりした掛け布団を覗き込むが見えない。

物理的に何も触れられないのは厄介だ。

けれど、鷲一にはそこで誰が寝ているか一瞬で分かった。

「あ・・・いやぁ・・・・違うみたいだぜ?」

「え?」

心琴が解らないでいると、鷲一が指を指す。

そこには布団から飛び出した細い腕があった。

「あ・・・五芒星レッドの腕輪だ。」

「連覇・・・なんでよりによって死神の部屋で寝てるんだ?」

鷲一は頭を抱えた。

「え?でも、連覇君にしては盛り上がりが大きいよね?」

「確かに・・・。って・・・もしかして。死神の妹もここにいるのか。」

二人は一緒に逃走した。

そう考えれば納得がいく。

「まぁ・・・。連覇は静電気も帯びていないみたいだし、生き残れるはずだ。」

「このまま、誰にも見つからないように祈っておこうか。」

二人は次の場所へと移動をはじめる。



海馬と朱夏は今度は豪華な部屋を見つけた。

そこには高級そうなワイングラスや、最新の通信機器などが取り揃えられている。

大きなキングサイズのベッドには「魔女」がいびきをかいて眠っていた。

「・・・あれが魔女・・・化粧濃ゆっ・・・。」

化け物のような風貌の魔女に身の毛がよだつ。

「何か・・・手掛かりを探しましょう?」

「ああ。ここが本拠地って事だもんな。」

二人は手分けをして見れるだけの情報を探る。

「海馬お兄ちゃん見て!!」

「何か見つけたかい!?」

朱夏が見つけたのは日記のようなものだった。

「これ、今日の日付・・・。日記?」

そこにはこう書かれている。

【今日、桃がD-15を捕獲した。これで私も和弘と同じ・・・あの方に認めてもらえる!!さぁ、明日はD-15についたパラサイトを桃に転移させなくちゃ。これで私の未来は思いのまま。桃を作った私ってなんて天才なのかしら。パラサイトの転移が終わるまではあの三上ってのを殺せないのは面倒くさいけど・・・まぁ、良いわ。3日は死なないでしょ。】

読み終わった海馬は胸糞が悪そうだ。

「反吐が出る内容だね。」

「このままじゃエリも危ないですね。実験に使うつもりみたい。」

海馬は日記の文面をよく見る。

「「あの人」って書いてあるね・・・?まだ他に敵がいるのか・・・。この建物にいるかもしれない。探してみようか。」

「はい。」

二人は部屋を後にした。

「あと行ってないのは・・・右側の部屋だけかな?」

「そうですね。」

右側の部屋の扉は物々しい大きな扉の部屋だった。

海馬はそこを軽々すり抜ける。

普段なら絶対に入れない場所だ。

「何があるかな・・・?・・・って・・うっ・・・。朱夏・・・入るな!!」

海馬が突然叫んだ。

「え!?」

朱夏は扉の前で立ち止まった。

海馬がすぐに出てくる。

「うえぇ・・・。」

体がないのに吐き気が止められない。

「だ、だいじょうぶ!?」

「うえぇ・・・じ・・・実験・・・部屋だ・・・。酷い・・・酷過ぎる。」

海馬は気軽に部屋に飛び込んだことを後悔した。

あまりにも凄惨な光景がそこには広がっていたからだ。

地下の部屋を拷問部屋だと思っていたが比ではない。

床は血で埋まっていない所はないほどの真っ赤な部屋。

人を殺す実験なのか・・・千切れた体は無数に転がっている。

死体は放置されたままで、大量の蛆虫やコバエ、ネズミの類が肉をむさぼっていた。

「うえっ・・・。」

見ただけでも吐き気が止められないほどの光景。

「あんなところに今まで・・・死神や桃は連れていかれてたのか・・・。」

「私は・・・入らないほうがよさそうですね・・・。」

朱夏は大きな扉をにらみつけた。

「ああ。絶対にダメだ・・・。入るな。」

海馬はいつにない強い口調でそう言った。

「戻ろう。もう、ここから離れたい。」

「う、うん。わかった。」

二人はゆっくりと地下に戻っていった。



再び、心琴と鷲一。

ふたりが桃のいる食堂を去ると、廊下には見覚えのある男がいた。

「死神だ。」

死神は窓から外を眺めていた。

その表情は疲れ切っているように見える。

すると、死神はふとこっちを見る。

「あぁ!?てめぇら、何してんだぁ!?」

「あれ?私達の事、見えてる!?」

自分達はいま幽体離脱の真っ最中だ。

「あたり前だろうがよぉ?魂切るやつが魂見えない訳ないだろぉ!?」

「あ、そっか!」

「いやいや、そっかじゃねぇだろぉ。ぶっ殺すぞぉ?」

死神は赤い鎌を出す。

魂を切り取る鎌は月の光に不気味に光った。

「うわわっ!ちょっと、ちょっとだけ待って!?」

心琴は慌てる。

「話がある。ちょっと面貸してくんねぇか?」

鷲一はニヤリと笑う。

「話、だとぉ?聞く訳ねぇだろが。」

死神は聞く耳を持たない。

「首輪を取る方法が分かるかもしれない、と言ったら?」

その言葉に死神は目を見開く。

「正直、力じゃその首輪どうにも出来ねぇんだろ?」

死神は黙って鷲一の言葉を聞いている。

「ウチの坊主が、あんたが力を貸してくれたら具体的な方法を教えるって言ってたぜ?」

死神は迷っているようだった。

「妹さんも、それにあなたの事も私達は助けたいの。」

妹と言うワードを聞いて死神は顔を上げた。

そして何も言わずに歩き始めた。

「何処へ行く?」

鷲一が聞くが、それでも何も話さなずに死神は歩き続ける。

「鷲一、どうしよう?」

「着いていこう。」


鷲一と心琴は何も言わない死神にゆっくりと着いていくのだった。



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