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第2章 あれから

退院の荷物を三上が手配したワゴン車に乗せると、鷲一は海馬の両親に軽く挨拶をした。

「治療してくれてどうもありがとうございました。」

「いえいえ。海馬のこと、よろしく頼みますね。あの子友達少ないから。」

海馬の母は口元を押さえながら上品に笑う。

「しばらくはあまり無理をしないように。傷口が開く。」

海馬の父は愛想笑いを一切しない男だった。

「はい。気をつけます。」

鷲一は他の看護婦さんにも一礼するとナースセンターを出た。

外では心琴が待っていてくれた。

「お待たせ。挨拶済んだよ。お礼が言えて良かった。」

「うん、良かったね。さぁて。鷲一、何食べたい?」

「え?」

突然の質問に鷲一は身構えた。

「私、作ってあげるよ!」

心琴は張り切っていた。

なんせ初めての鷲一の家訪問だ。

良いところが見せたかった。

「心琴って料理できるのか?」

「あ!失礼だなぁ。」

心琴はちょっと怒った顔をしてみせる。

だが、鷲一は不安で仕方がなかった。

心琴はどちらかと言うと活発で料理をするようには見えない。

「出来るよ!全然大丈夫!・・・多分。」

「多分かよ!」

「う。」

鷲一の予想はズバリ的中していたようだ。

「今日は時間かかる事はやめようぜ。連覇呼ぶし、海馬だって外出許可で出てくるんだろ?」

鷲一は心琴が傷つかないようにやんわりとお断りする。

「だってさ。なんか・・・してあげたいじゃん。」

心琴は少し寂しそうな顔をして、俯いた。

そして小さな声で呟く。

「付き合い始めたんだからさ。」

小さ過ぎる声で鷲一は聞き取れずに聞き返す。

「え?」

「な、何でもない!」

心琴は手を左右に振って慌てて取り消した。

「なんか、今日心琴、変じゃ無いか?」

「そんな事・・・ないもん。」

鷲一は首をかしげるが理由がさっぱり分からない。

「なんだ?ハッキリ言ってくれよ・・・?」

「何でもないってば!ほら、みんなが待ってる、行こう!」

心琴は今の会話を揉み消すかのように早足で出口に向かっていく。

「ちょっと!待てや!おい!」

鷲一も松葉杖片手に治りたての足でヒョコヒョコついて行くのだった。


◇◇


病院を出て、駅前の通りをまっすぐ行ったところに鷲一の住むマンションはあった。

「ここ、鷲一の家!すごい、高いです!」

エリはマンションを見上げた。

街一番の大屋敷の朱夏の家に住むエリは初マンションだ。

そんなエリの様子に海馬がニヤニヤする。

「勘違いするとまずいから先に言うけど・・・この細長い建物全部、鷲一の家だからね!」

「本当!?すごい!!すごい!!」

案の定、純粋無垢なエリは信じてしまう。

「ぶわーはっはっ!!」

信じたエリを見て海馬は大声で笑った。

「そんな訳あるか!!」

「もぉ、海馬お兄ちゃんったら・・・!」

鷲一はいつもの調子で突っ込みを入れ、朱夏は海馬を白い目で見た。

「え!?ええ!?」

何が本当か分からなくなってるエリに心琴が注釈を入れる。

「エリちゃん。普通マンションは沢山の家が一つになった物なんだ。ここにも沢山の人が住んでるよ?」

「レンパの家もマンションだよ!」

連覇も元気に手を挙げた。

それを聞いたエリは不服そうだ。

「かいば、うそ、良くない!」

「ごめんごめん!」

エリはプリプリ怒ってみせるも、海馬はそれさえ楽しそうにしている。


「ほら、こっちだ。」

鷲一が自動ドアをくぐっていく。

自動ドアの向こうにはエレベーターがあり、番号を入れるダイヤルが着いていた。

鷲一がダイヤルを入力すると、指を押し当てる。

ピピッと言う音がして、しばらくするとエレベーターが到着した。

「このマンションちょっと変わってて、暗証番号を入力した上で指紋認証しないとエレベーターが来ないんだ。しかも、暗証番号と紐付けされた部屋にしかエレベーターは止まらない。更に家のドアも鍵がかかってるからそうそう変な奴が来ないんだわ。」

鷲一は得意気にそう言う。

「すっごい!こんなの初めて見たよ!」

過去に色々とあった鷲一家が最終的に行き着いたのはセキュリティ抜群のマンションだった。

「さ、行こう。エレベーターに乗ってくれ。」

皆んなが乗っても余裕ある大きめのエレベーターは、5階で止まった。

扉が開くと目の前は踊り場と扉が一つだけ。

「ここが俺の家。ちょっと待ってな。軽く片付ける。」

そう言うと鷲一は鍵を開けて中へ入って行った。

「心琴ちゃんも初めてかい?」

海馬が何気なく聞いてくる。

「うん、実際私達出会ったの2週間前だからね。」

それを聞いた朱夏は驚きの声を上げた。

「そうだったのですね!私がお会いした時にはすでに仲が良かったのでもっと長いものかと。」

色々あって、朱夏は少し後からこのメンツに仲間入りした。

その時には既に心琴と鷲一はすでに仲が良かったので朱夏は驚いた様子だ。

「まだ・・・2週間かぁ。」

心琴はなんだか変な感じがした。

実際に初めて鷲一に声をかけられたのは7月7日の約1週間前だった。

寝ても覚めても一緒にいたので、どうも長い付合いのような気になっている。

「濃すぎる2週間だったもんなぁ。」

しみじみと海馬も頷く。

「あはは・・・この2週間で3回命救われてる。あ、覚えてないだけで、もっとかも!」

事件が終わりを迎え、今までの状況が如何に異常だったかを実感する。

ちなみに、世間では先週起こった脱線事故は鷲一の伯父が起こした事件として報道された。

脱線事故に巻き込まれた叔父は未だ意識不明のままだ。

「そうだ!朱夏ちゃんの方は?お父さん元気?」

「はい!忙しそうですが、皆様のおかげで死なずに済みましたから!」

あれ以来、毎日のように記者がこの田舎町に詰めかけてきている。

この街の町長である朱夏のお父さんは多忙を極めているようだった。

「忙しくてしばらく家には帰れないって言ってました。」

「そ、そうなんだ・・・そんなに忙しいんだね・・・。」

心琴はすこしだけ町長がかわいそうに思えてならなかった。


そんな世間話をしていると鷲一の家の扉が開いた。

「みんな、お待たせ。入ってくれ。」

「わぁい!お邪魔します!」

一行は和気藹々と鷲一の家にお邪魔するのであった。



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