第19話 連覇と杏
「はぁっはぁっ!」
連覇は海馬に言われ、杏を連れて知らない建物の中を駆け巡っていた。
「ど、何処行くの?」
「分かんない!でも、何処か隠れなきゃ。」
闇雲に走るが隠れられる所が見つからない。
「もう。疲れた。走りたくない。」
「えぇ!?」
杏は立ち止まってしまった。
連覇も足を止める。
「闇雲なら走らない。何処に行きたいの?」
「あの、お兄ちゃんに見つからない所だよ!」
連覇はとにかく慌てていた。
「どうして?」
「どうしてって!レンパの事隠してたじゃん!」
連覇はあの死神のお兄ちゃんに殺されると思った。
海馬お兄ちゃんと鷲一お兄ちゃんは捕まった。
「うん。それで?」
「えぇ!?レンパ、見つかったら殺されちゃうよ!杏ちゃんだって!」
中々伝わらない杏に連覇は焦る。
しかし、それを聞いた杏は大声で笑った。
「あっはっは!お兄ちゃんが?ウチを殺すって?ウケる!マジ、ウケる!」
腹を抱えて笑ってる杏に連覇は困った。
「じゃぁさ。こっちおいでよ。」
「え?う、うん。」
そう言うと杏はとある部屋に連覇を連れて行った。
中に入ると先程と同様のホテルの一室のような部屋がある。
ほぼ何も無い部屋だったが一つだけ目に止まる物がある。
机にある家族写真が飾られていた。
普通の家族写真。
黒髪の女の子と少し背の高い男の子。
その後ろにはお父さんとお母さんが笑っていた。
家の前で撮られた写真は少しだけボロボロだけどとても暖かい雰囲気のする写真だった。
「これ、ウチとお兄ちゃん。お母さんとお父さんは組織に殺されちゃった。」
「え!?これ、杏ちゃん?!」
よくよく見ると顔の造形は杏によく似ていた。
しかし、髪の毛も目も黒い普通の日本人だった。
「隣にいるのがお兄ちゃん。私達は昔から良く幽霊を見るって評判だったの。それで目をつけられたのね。連れ去られ、パラサイトにさせられた。」
悲しい顔で杏は語る。
「訳のわかんない注射をされたの。目が覚めたらこの姿だった。」
杏は鏡を見る。半分だけ白い髪の毛をそっと撫でた。
「普通の日本人だったんだね。」
「そうよ。友達も沢山いたし、学校にだってちゃんと通ってた。」
杏は辛そうというよりは寂しそうな表情だ。
全て奪い取られてここで幽閉生活を送っている内に杏は全てを諦め始めていた。
「しかも、最悪な事に私は能力に目覚めなかった。こんな姿になってまで、何一つ得られなかった。」
「そうだったんだ・・・。」
能力が目覚めたほうがよかったのか、悪かったのか。
連覇にはわからない。
「でも、ウチと違ってお兄ちゃんは能力を得た。しかも、結構強い能力だったの。」
「さっきのおっきな赤い鎌だよね。」
「そう!スピリット・リッパー。魂を切る能力だよ。」
さっきの大きな鎌を想像して連覇は身震いする。
「けれどもお兄ちゃんは誰かの言う事を聞く人じゃ無い。」
「それで、杏が人質に?」
杏はゆっくりとうなづいた。
「お兄ちゃん、ウチを守るために、沢山の辛い想いをしてるんだと思う。」
「そう・・・なんだ・・・。」
きっとこれまでも、そしてこのままならこれからも杏は辛い思いをしていくのだろう。
そう思うと連覇はやっぱり杏を救いたいと思った。
「で、まだウチのことお兄ちゃんが殺すと思う?」
「え!?あー・・・いや。杏は殺されないね・・・。」
自分の勘違いだとはっきりわかって恥ずかしそうに連覇が言った。
「でっしょー!」
杏はその様子を嬉しそうに見ている。
杏にとっては死神は自慢のお兄ちゃんなのだろう。
しかし、連覇はある事に気づく。
「・・・あれ?でも待って!レンパは!?」
「さぁ?殺されるかもね!」
自分には関係なさそうに杏は笑った。
「そんなぁ・・・!!!」
ちょっと裏切られた感じで言う連覇を見て杏はクスクスと笑った。
「冗談!!ほら、ここのベットに隠れてて。」
「わかった!!」
連覇は素直にベッドの中に隠れた。
(ここ、お兄ちゃんの部屋だなんて、連覇が聞いたら驚くだろうなぁ。でもここなら、桃や魔女が来ない。きっとお兄ちゃんなら、連覇を見つけても殺さない・・・よね?)
杏は毎日のように絞められる首を優しく撫でながら連覇を眺めた。
連覇は暫くもぞもぞしていたが、急に動かなくなった。
すやすやと言う寝息が聞こえてくる。
「え・・・?まさか寝ちゃったの!?」
杏は図太い連覇に呆れた。
「・・・もう夜もだいぶ更けてきたもんね。私も寝ようかな。」
杏も連覇と一緒に布団の中に隠れた。
そして二人はそのままぐっすりと朝まで眠るのであった。
「・・・チッ・・・。」
二人のやりとりを部屋の外で聞いていた死神はそっと舌打ちをした。
「ま、逃げられたし見つけてなければ、捕まえなくてもいいっかぁ。」
死神はそう言うとふらふらと別の場所へ消えて行くのだった。
◇◇
一方地下の拷問部屋で海馬、鷲一、朱夏、心琴、エリの5人は雁首揃えて作戦会議をしていた。
「状況は最悪だぜ?」
鷲一が辺りを見渡す。
重傷で気絶している大人が二人。
意識はあるが大怪我の心琴。
足が動かない朱夏。
体は自由だけど、もともと死にかけの男二人。
そして、三上に着けられた首輪が繋がったエリ。
「よくもまぁ、みんなでここまでボロボロになれたもんだね・・・。」
ため息をつくしかない。
「一人も死んでいないのが奇跡です。」
朱夏ちゃんは自身の足をさする。
「状況を考えると・・・。僕らだけの力じゃどう考えても難しいなぁ。」
海馬は腕を組んで考えあぐねていた。
「そう・・・だよね。」
心琴はすこし残念そうだ。
海馬なら良い案を授けてくれると思っていた。
「みんな・・・死ぬの?」
エリも不安そうに海馬を見る。
「まぁ、まぁ、心琴ちゃんエリちゃん。最後まで話を聞いてくれ?」
「え?」
思ったより明るい声に2人は顔を上げた。
「僕らの力だけじゃ・・・って言っただろ?」
久々に見るふてぶてしい笑顔だった。
エリと心琴は顔を見合わせる。
「何かいい案があるってことだな?」
「き、聞きたいです!」
みんなが海馬に寄ってくる。
皆んなが寄ってきたことを確認すると海馬は自信満々にこう言った。
「死神を仲間に引き込むのさ!」
不敵な笑みに皆んなが戸惑った。
「は?」
「え・・・!?」
「・・・ええええ!?」
鷲一も心琴もエリも驚きの声を上げる。
「あの、赤い目の男の子だよね?」
怖い白黒の髪に赤い目の風貌。
どう見ても敵役だ。
「仲間になってくれると思えないんだけど・・・。」
心琴は困った顔でそう言う。
「そうだね。今のままじゃ多分無理だ。」
「だろうなぁ・・・。」
死神に思いっきり打たれた頭を摩りながら鷲一も言う。
「でも、あいつの行動をよく考えると不自然な点が多すぎるんだ。」
「・・・不自然ですか?」
朱夏は首を傾げて聞き返す。
「あいつに出くわした時、連覇を逃がすため僕ら二人は死神を二人掛かりで押さえつけようとしたんだ。」
「おお!海馬、鷲一、すごい!」
死神の強さを知るエリは感嘆した。
「けど、弱ってるとはいえ僕らより10cmは背の小さい死神に吹っ飛ばされた。」
「バカ力だったよな。マジで。」
鷲一なんかは体格もいい方だ。
中学生くらいの男子には負けない自信があった。
「鷲一が真っ先に頭を打たれてやられたんだ。」
しかしこれが結果である。
「あれは、人間業じゃないぜ。」
思い出すとぞっとした。
「そう、それだけの力を持つ死神だったら・・・簡単に鷲一を殺せたはずなんだ。」
海馬は力強くそういった。
「確かに・・・それはそうですね。」
海馬が感じた「不自然さ」は皆にちょっとずつ伝わっていく。
「さらに言うと・・・このガタイのいい鷲一を重そうに運んでたんだ。殺せば運ぶ必要なんてない。それなのに、わざわざ生きたままここに連れてきた。」
「不自然かもな・・・。」
「そうですね。敵とは思えない行動です。」
力強い海馬の論理に鷲一と朱夏は耳を傾け始めた。
「死神に直接聞いたんだ。どうして殺さないんだって。」
「え?!直接聞いたの?」
「まぁね。」
海馬はかるく頷く。
それはそれで勇気のいる事だ。
「そしたら死神は【ばばぁが「侵入者を見つけたらここへ連れてこい」と俺様に命令した】。そういったんだ。」
「つまり・・・【殺す命令は含まれていなかった】・・・と。」
朱夏は徐々に海馬の言いたいことが分かってきた。
「朱夏ちゃんご名答!命令に背きさえしなければ、妹の首は絞まらないのだろう。けれども「ばばぁ」がした命令は守らなくちゃいけない。だから【殺さないで重たい鷲一をここまで運んだ】。」
海馬はここまで言うと息を少し吸って皆を見た。
皆も海馬の事を真剣に見ている。
「この事から【死神は僕たちを殺したいと思っていない】って事が推測できると思うんだ。・・・どうかな?」
「な・・・なるほど。」
「それで・・・仲間にできると思ったんですね?」
少しずつ【死神引き入れ作戦】に希望が見えた気がして鷲一と朱夏の目が輝いた。
しかしこの説に一石を投じる女の子がいた。
「でも、味方ならない!死神、「みちずれの首輪」つけられてる。」
エリだった。
三上にもその首輪が付いていて、光の紐がエリの首に巻き付いたままだ。
命令に背いたり、首輪をつけた本人が死ねばとエリの首が絞めつけられる仕組みだ。
「その通りだね、エリちゃん。あいつは命令に背けない。妹の首に首輪がかけられているからだ。」
そして心琴も訝しげな顔をしている。
「首輪が付いている限り、仲間になってくれないよね?」
その質問を待っていたように、海馬は次の議題を提示する。
「さて、じゃぁもう一つ。みんなに疑問をぶつけるとしよう。」
エリと心琴は不信感を抱いている。
「なぜ、三上の首輪は腕についているんでしょう!?」
「え?」
今までとは全く違う質問にエリも心琴も意表をつかれた。
「エリ、守るため・・・変な態勢・・・だったから?」
エリは状況を思い出して答えてみる。
「いやいや、そういう意味じゃないよ、エリちゃん。」
「えっと、じゃぁどういう意味なのかな?」
心琴もさっぱり言いたいことが分からない。
「どうして・・・首輪がエリに繋がっているのに外さないかって話さ。」
「!?」
「た・・・たしかに。どうしてだろう?」
エリも心琴も、そして鷲一も朱夏もわからない様子だった。
「エリの話から、命令には【エリを殺さずにつれてくる】事が含まれている。なのに、エリがここにきても三上についた腕輪は解除していない。三上が死ねばエリも死んでしまう。さらに言うと、外せば簡単に三上を殺せるのに。」
「本当だ・・・変だよね!?・・・でもどうしてなんだろう?」
「いくつか考えられる理由はあれども、それは机上の空論だ。だから、実際に・・・目の前で解いてもらおうと思う。」
海馬のふてぶてしい笑みが月光で光る。
「え!?ど、どういう事ですか??」
「死神を仲間に引き入れるため、僕らは妹ちゃんの首輪を外したい。けれども解除の方法が分からない。」
「う・・・うん!!」
「さ、こっちに集まって?ここからはぶっつけ本番!作戦内容だ。」
海馬はみんなを手招きした。
皆が檻を挟んでできるだけ近くに集まる。
「ごにょごにょ・・・。」
海馬は作戦を言い渡した。
「え!?ま、またそんな危ない話なんですか!?」
「でもま、リスクあれども今よりはましになるかもしれねぇなぁ。」
「やるっきゃなさそうだよね・・・。」
「エリ、頑張る!」
各々がそれそれの反応を示す。
その様子に海馬は満足した様子だった。
「さぁ、みんな。頑張ろうか!明日は日食。泣いても笑っても多分「最期」だ。」
そういうと各々は冷たい石畳の上に寝転んだ。
「「「「おやすみなさい!!」」」
こうしてコンクリート製の建物でみんなは眠りに入った。
いい夢など見れない。
その代わりに、希望を夢見るために。




