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第14章 自信喪失

「やぁ。お隣さん。調子はどうだい?」

昨日死線を彷徨った海馬は松葉杖をついてゆっくりと鷲一の部屋に入ってきた。

「はは。退院して2日後に戻るとは思わなかった。」

「だろうね。」

ゆっくりとベッドの横に座る。

鷲一は隣に座る海馬を横目で眺めた。

「海馬こそ、死ぬところだったって聞いたぞ。」

「あはは・・・。あの後、お前が身体に戻った後は、本当にやばかったんだ。」

珍しく元気がない海馬を少し心配した。

「何があった?」

「わかんない。」

海馬は震える指先を見てそう言う。

鷲一は静かに話を聞いた。

「体が浮き上がるにつれてどんどん、病院が小さくなっていった。体に戻ろうとしても・・・できなくて。」

「ああ。」

「死ぬんだなって思った。」

「・・・。」

「でもさ、こんなにしっかりと意識があると・・・怖くて。後悔ばかりが頭をよぎるんだ。」

「・・・。」

海馬は昨日直面した死への恐怖に打ちのめされていた。

ふてぶてしさは微塵もなく、心の底から弱り果てている。

「大丈夫か?戻って休んだ方が・・・」

言いかけたがやめた。


(一人でいると考えすぎてしまうって事もあるか・・・。)


そう考えなおして改めた。

「まぁ、落ち着くまではここにいてもいいけどな。」

ため息交じりにそういう。

しかし、海馬からはいつもの憎まれ口は返ってこない。

その代わりに零れるような声を聴いた。

「僕・・・。また・・。役立たずだ・・・。」

ポツリとそう言うと海馬は頭を抱えた。

「役立たず?」

鷲一が怪訝な顔で聞き返す。

「いつもそうだ。前回も前々回も真っ先に怪我したり殺されたり・・・。今回だって大変なことが起こってるのに何の役に立ててもいない。」

「それは・・・お前が体を張って俺らを守ってくれたからだろ?」

海馬のお腹には今も癒えていない大きな切り傷がある。

それは心琴と鷲一が叔父に捕まった時に海馬が助けに来てくれたからだった。

あの時、海馬が助けに来なかったらすでに鷲一は死んでいたか、叔父の好きなようにされていただろう。

鷲一からすると海馬も恩人の一人なのだ。

「でも・・・・!!僕は・・・最後まで一緒にいることさえできない・・・一番情けない奴なんだよ。」

その恩人の心がポッキリと折れているのを感じずにはいられない。

「そんなことねぇって!」

我慢出来ずつい大きな声を出してしまう。

それでも、海馬は頭を抱えたまま動かない。

一回深呼吸すると今度は冷静に話をしてみる。

「・・・お前、自分のことをそんなふうに思ってたのか?」

今まで、知らなかった海馬の心の闇を見ているようだった。

「ああ。ずっとね・・・。僕は自分を情けないっていつも思ってるんだ。こんなんじゃいつまで経っても・・・」

「??」

「・・・なんでもない。」

海馬は大事な何かを言いかけて口をつぐんだ。

大体予想はついたが、こちらからいう事でもないと鷲一は思った。

それは海馬は海馬自身で見つけなくてはいけない答えだからだ。

「どうしたんだよ。本当にらしくないぞ?」

「・・・・。」

今度は急に何も言わなくなった。

自分の弱さを感じて、立ちすくんでいる。

怖くて怖くて仕方がない。

そんな雰囲気を感じて仕方がない。

2歳年上のはずの命の恩人は情けなく頭を抱えたままだった。


(ったく・・・しょうがねぇなぁ。)


再び軽くため息を吐く。

そして、右の手を拳にすると隣に座る海馬の頭をゴンッと殴った。

しかも結構本気のゲンコツだ。

「ぐあ!!いってえええ!!何すんだよバカいち!」

海馬は痛みに涙目になりながら頭を上げた。

「おい・・・アホ海馬。聞けよ。」

「!!」

気がつくと鷲一は真面目な顔をしていた。

その表情はどこか怒りさえ感じる。


「そんなんじゃ・・・朱夏を守れねぇぞ。」

「!!!!!!」


鷲一は睨むような目で海馬を見ていた。

「う・・・うるさい!!!!!」

海馬は今一番言われたくない言葉を言われて鷲一の胸ぐらを掴んだ。

「お前になにが・・・何が解んだよ!!!」

鷲一は胸ぐらをつかまれたのにも関わらず、少しニヤッと笑って見せた。

「随分・・・必死じゃねぇか。」

「・・・!!!」

「普段暴力に訴える事なんてしないだろうが。」

海馬は言われてはじめて自分の体が勝手に動いていたことに気が付く。

「・・・僕だって言われたくない一言や二言はあるんだよ!」

それでも、海馬は噛みつくように言葉を吐き捨てる。

「口で返せないからだろ?!」

「ち、違っ!!」

海馬は動揺して視線が定まらない。

鷲一は海馬の目をしっかりと見定めて確信をついた。

「裏返せば・・・それこそがお前を立ち止まらせている本当の要因なんだよ!!」

「っ・・・!!!」

服を掴む力がだんだん弱くなる。

「いい加減、気づけよ!!いや、気づいてるんだろ?」

「・・・!!」

海馬は徐々に俯いた。


「その気持ち。朱夏に伝えれば状況は変わるぜ?」


確信をつかれた海馬は泣きそうな表情になりながらゆっくりと手の力を抜いていく。

「なんだよ・・・お見通しかよ・・・。」

胸ぐらから離された手は脱力し、肩から重力に任せてぶらさがった。

ドスンと椅子にもたれかかる。

「そんなに後悔するくらいなら、当たって砕けろよ。」

「・・・当たって砕けろ、か。確かに一理あるな。」

困った表情だけど、海馬は少し穏やかに笑う。

「わるかった。なんか、勝手に体が動いてしまってね・・・。」

「ああ。」

「・・・・。」

「・・・・。」

少しの静寂が二人を包んだ。

「お前ってさ、頭良いくせに馬鹿だろ。」

横目で坊主を見て鼻で笑った。

「馬鹿なくせに確信ばっかりついてくる鷲一にだけは言われたくはないね。」

海馬は肩をすくめてみせる。

少しずついつもの海馬に戻っていく。

「考えすぎも程々にしとけよ。」

「悪かった。ちょっと頭冷やしてくるよ。」

そういうとまた、松葉杖を片手にひょこひょこと扉に向かって歩き始めた。

「おい。」

背中に向かって鷲一は話しかける。

海馬は立ち止りはしたがこちらは振り返らない。

「いっつもふてぶてしくバカ言ってるお前の方が俺は好きだぜ。」

「げ。好きとか・・・きもっ。」

海馬は嫌そうな顔で振り向いた。

本気でドン引きした顔に鷲一も口がへの字に戻る。

「キモい言うな。」

への字口からいつもの言葉が出てくる事に海馬は安心する。

「・・・あははっ。」

海馬は目を閉じて軽く笑うのだった。


ーペポン

ーペポン


その時、それぞれのスマホから通知音が流れる。

スマホを開くとそこには位置情報と思われるマップが表示された。

「これは・・・?」

「なんだこれ?」

送信者は朱夏だった。

「なんで位置情報が?ってか、これ山の中だぞ?」

「もしかして・・・エリが見つかったのか?」

海馬が朱夏に返信をする。

【シー・ホース:エリちゃん見つかったのかい?】

けれども返信が返ってこない。

「返事が返ってこない・・・忙しいのかな?」

「んじゃ、心琴に送信してみようか。あいつ返信だけは早いから。」

【鷲一:おーい、エリは見つかったのか?】

しかし、心琴からも返事が返ってこない。

「・・・。」

「・・・・。」

男二人は嫌な予感を隠しきれなかった。

「まさか・・・。」

「ああ。きっとこれ・・・。」


「朱夏からのSOSだ!!」


◇◇


一方、山奥の研究所。

角田、朱夏、心琴の3人は死神に鎌を突きつけられつつ、地下へ連れて行かれていた。

「・・・。」

コツン・・・コツン・・・。

薄暗い廊下に歩く音がコンクリートの壁に反響して不気味さが増す。

緊張が走る。

「おい、ここだ。」

死神が鉄の扉を開けるとそこには少し広い空間があった。

その扉の中を見て3人は絶句した。

「な・・・なにこれ・・・。」

部屋の中心にある鉄の診療台は血がこびりついている。

壁際には人を吊るしておける手錠が何個もぶら下がる。

よくわからない機械や、ナイフ、鉄球ありとあらゆる拷問器具がそこに置いてあった。

恐ろしい光景に立ち尽くす3人を死神は鎌の柄で押し込んだ。

「ほら、とっとと歩け。」

奥の方に歩いて行くと、鉄の診療台を中心としている広間があった。

「あ・・・あれ・・・!!!」

見覚えのある黒い髪の女性が壁に吊るされていた。

「きゃぁ!!!」

あまりの光景に朱夏は悲鳴をあげた。

「み・・・三上さん・・・!!!!」

角田は三上に駆け寄った。

動く方の手で手錠をはずそうとするが鉄製でビクともしない。

「ち・・・ちくしょう!!!」

三上は意識を失っている。

身体中が傷だらけで生きているかもわからない状態だった。

「朱夏!!心琴!!!角田!」

一番奥にある牢屋には青い目の少女がいた。

泣きはらした目は真っ赤だった。

「エリ!!!」

心琴と朱夏は牢屋の扉に駆け寄った。

「ごめん・・・ごめんなさい・・・!!!」

エリは泣きじゃくりながら謝る。

「エリ・・・。」

鉄格子越しに朱夏はエリの頭を撫でた。

「三上・・・私・・・庇って・・・。」

三上を見れば、どんな状況だったかは大体予想がついた。

「おい。おしゃべりしてんなよぉ。ぶっ殺すぞぉ。」

死神が一個手前の牢屋の扉を乱暴に開ける。

ガシャンという重い音が響いた。

「はいれや。」

「・・・。」

角田も心琴も朱夏も入ろうとしなかった。

静かに死神を睨んでいる。

「早くしろよ!」

「あぁら。死神。新しいおもちゃを持ってきてくれたのね!キャハッ」

おぞましい桃の声が入り口から聞こえた。

「チッ・・・・。」

死神も舌打ちをしてゆっくりと後ろを振り返る。

「お・・・もちゃ・・・ですって!?」

朱夏が怒りをあらわにする。

「あぁら。可愛らしいお嬢さん。私、桃よ。よろしくね。」

「誰がよろしくするもんですか!!」

心琴も声を荒げる。

そんな二人を見て桃はつまらない顔をしてみせる。

「まぁ、いいわ。それより、死神?」

「あんだよ。」

死神は桃を睨みつける。

「邪魔者は殺せっていう命令、忘れちゃった?」

ひどく冷たい目で死神を見下す。

「・・・邪魔者にさえならないほど弱い奴らだ。どうせ、明日死ぬだろ。」

死神も赤い目を光らせてそういった。

「ママに逆らうの?」

「逆らってないねぇ。邪魔者じゃないからよぉ。」

ギザギザの歯を見せて死神は笑った。

「・・・ママを呼んでくる。今のあんた、めっちゃくちゃ腹たつ。」

桃の目も桃色に光る。

その様子を心琴と朱夏と角田は睨みながら見ていた。

「・・・二人とも・・・目が光ってる。」

「二人ともパラサイトということなのかもしれません。」

小声で思ったことを言い合う。


「前から思っていたことがあってよぉ。俺らはすこぶる相性があわねぇなぁ。」

「あらぁ、私もよ。キャハッ。」

睨み合う二人。

光る目。

二人は同時に叫ぶ。

「イジェクト・ソウル!!!」

「ソウル・リッパー!!!」

その瞬間。空気が波打った。

「お前のママの命令に「お前を殺すな」とは言われてねぇよなぁ。」

「私も死神を殺すなとは言われてないわ!キャハッ」

ばちばちと言う静電気の音が桃を取り囲む。

一方死神の手には赤くて大きな鎌が出現した。


「どうしよう。喧嘩なのかな?」

「わかりませんが・・・。今のうちに鍵を探しましょう。」

「う、うん!」

2人が移動しようとした瞬間。

「外野はよぉ、ちょっと静かにしていてくれよぉ。」

伸縮自在の死神の鎌が二人の足を「通過」した。

「え・・・!?」

「きゃっ・・・!!」

その瞬間二人はその場に崩れ落ちた。

「朱夏様!!」

角田が慌てて駆け寄る。

「いたた・・・。」

心琴は立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かなかった。

起き上がろうとしたが膝から下が動かない。

「足が動かないよ!!」

「ほ、本当です!!」

信じられないものを見る顔で死神を見る。

「俺の能力は魂を切断することでなぁ。あんたらの足、切断させてもらったわぁ。」

死神が歯を見せて笑う。

「な・・・。」

二人は言葉を失った。

これでは鍵を探すのはおろか、逃げることさえできない。

「安心しとけ。しばらくすると元に戻る。肉体とは違うんでなぁ。」

そう言うとまた歯を見せてニカッと笑う。

「・・・。ママに言いつけることがもう一つ増えたわね。」

それをつまらなそうに見ているのは桃だった。

「・・・なんだよ。」

「本当に足をちょん切っちゃえば良かったのにさぁ?キャハッ」

恍惚の笑みで朱夏と心琴を見る。

「・・・あんたの悪趣味には本当ヘドが出るぜ。」

死神は唾を吐き捨てた。

桃のばちばちと言う音がひどくなる。

死神の鎌も赤く光る。

「死ねや。」

「あんたがね!!」

お互いに能力をぶつけようとしたその時、階段から怒号が飛んできた。


「やめんか馬鹿ども!!!!!」


そこにいたのは肩まで伸びるぼさぼさの金髪に紫色の口紅をしたおばさんだった。

「ママ!!!」

桃は思わず声を上げた。

ママと呼ばれたおばさんの出現に心琴も朱夏も身構えるのだった。


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