第13章 非力
「ここは一本道だ・・・脇道がないかみんなは目を凝らしていてくれ。」
エリを最後に見かけた場所から近くの山道への入り口に到着すると角田はみんなにそう言った。
「はい。」
「まかせて!」
「レンパが見つけるぞー!」
ガタガタの山道をハイエースが走り抜ける。
車が走る事30分、最寄りの山の入り口に入ってから随分と経過した。
森は鬱蒼と茂っており、日差しがあまり入ってこない。
どこまでも続く木に途方も無いものを感じた。
「ぜ、全然見つからないね。」
連覇が真っ先に弱音を吐く。
「仕方がありません。そう近くには根城を用意しないでしょう。」
「脇道かぁ・・・脇道っていうか獣道さえみつからないよ・・・。」
心琴も少し疲れてきたようだ。
「・・・ねぇ、お姉ちゃんたち?」
連覇がもぞもぞとしている。
「レンパ・・・おしっこ!!」
困った顔で連覇が訴える。
限界は近そうだ。
「あー・・・!!あはは。仕方がないね、トイレだけはね。」
「角田。一回車を止めてください。」
「了解です。」
ハイエースを路肩に停車する。
連覇は車を飛び出した。
茂みの奥に隠れて用を足す。
「ふー・・・あぶなかったぁ!!」
ズボンのチャックを上げて正面を見る。
「・・・あ、あれ?」
そこにには・・・ひらけた場所があった。
連覇はそのまま歩き始める。
草むらを掻き分けていくと・・・目の前に大きな四角い建物が姿を現した。
「あ・・・あった!?」
脇道も獣道さえない木々の奥に研究所は立っていた。
2階建と思われる平べったくて大きい緑色のコンクリート製の建物。
一瞬通り過ぎるだけなら絶対に気づかなかっただろう。
連覇は少し建物に近づいてみる。
いくつも並ぶ2階の窓にさっと動く影を見た気がした。
「え?誰か・・・いる・・・エリ?」
目を凝らしてみると、そこには半分黒く、半分白い髪の毛で目が赤い少女がいた。
「違う・・・違う女の子だ。」
女の子は連覇に気づとすぐに身を隠した。
「あ!まって!!!」
連覇が大きな声を出す。
「おぉい。誰だぁ。」
その声に反応して別の方向から声がした。
「い!?や、やば!!」
慌てて連覇は身を隠した。
連覇が茂みに隠れると入れ替わりに髪の毛が半分白く半分黒い中学生くらいの男子が出てきた。
(あの人も目が赤い・・・。)
息を潜めて茂みから覗く。
「おい!杏。聞こえるか?」
男は上に向かって声をかけた。
「なに??」
杏と呼ばれた子はさっきの窓からひょっこりと顔をだした。
(さっきの女の子だ!)
連覇は焦った。
さっき確かに姿を見られた。
「誰か居なかったかぁ?」
「・・・いぃやぁ。誰も。」
女の子は何事もなかったかのようにそう言った。
(え・・・?)
「そうかー!誰かいるから気をつけろぉ。」
そう言ってその場をさろうとした・・その時だった。
「こっちから、声が聞こえました!!」
「連覇ー!!連覇くーん!」
(朱夏お姉ちゃんと心琴お姉ちゃんだ!!)
帰りの遅い連覇を探しに、心琴と朱夏がくさむらを掻き分けてくる。
(ま・・・まずい!!!)
連覇は茂みから出るか迷った。
ーコンッコンッ
上の方から窓をノックするような音がして連覇は上を見た。
窓の上の少女が連覇に向かって唇に指を立てている。
「しー・・・!!!」
(シーって・・・静かにって事!?)
連覇は目を見開く。
「誰だてめぇらぁ!!!!」
「きゃあああああ!!!!」
そうこうしている内に男の子に二人が見つかってしまった。
「朱夏様!!!下がってください!!!!」
角田がメリケンを片手に朱夏と心琴の前に出てきた。
「・・・。ほぉ。昨日の女と同じ服装・・・少しは楽しめそうだ。」
「なっ!!!!」
角田が目を見開く。
血管が切れそうなほど浮き出ている。
「て・・・てめぇ・・・。三上さんを・・・!!!」
「三上さんをどうしたあああああ!!!!!」
その様子に男の子は嬉しそうに言った。
「あははっ!超楽しそう。俺様はD-09。通称・・・死神さ!」
死神の目が赤く光る。
「スピリット・リッパー!!」
手のひらから真っ赤な鎌が出現した。
「楽しませてくれよ、おっちゃん!!!!」
「ゆるさねぇ!!!くそガキが!!!!!」
大ぶりの拳が死神の顔をめがけて炸裂する。
「・・・。」
死神はさっとそれを避ける。
そして、赤い鎌を角田の腕目掛けてすっと振り下げた。
「!?」
手は切れていない。
「な・・・?」
しかし、握っていたメリケンが床に落ちた。
手がピクリとも動かない。
「・・・どう言う・・・事だ?」
「なんだぁ。あの女から話を聞いていないのかぁ・・・つまんねぇ。」
死神は一気に優勢になった事にむすっとした。
「角田!!大丈夫ですか?!」
「朱夏様、心琴様、・・・逃げてください・・・。こいつ、只者ではありません。」
ブラブラとする左手を右手で抑えて角田は言う。
「非力・・・。」
「え?」
「非力だなぁ・・・・。非力すぎるよぉ。つまんねぇ・・・。」
死神は目を赤くした。
「もっと、怒れよ。もっと強くなれよ。それじゃなきゃ俺を倒せねぇよぉ。」
「何を言って・・・・。あ!!!」
一瞬だった。
気がついたら目の前に鎌の柄があった。
「がはっ!!!」
喉元をつかれた角田は吹っ飛ばされた。
息ができずにもがき苦しむ。
「角田!!!」
吹っ飛ばされた角田の前に立ちはだかるように心琴が手を広げる。
「や、やめて!!!」
叶うはずない相手に精一杯叫ぶ。
「非力なやつはここに来るなよぉ・・・。」
「殺さなきゃいけなくなるだろぉがよぉ!!!!」
鎌を大きく振りかぶる。
「おにいちゃん!!!!」
窓の上から声が聞こえ、死神はピタッと鎌を止めた。
(お兄ちゃん・・・?)
連覇も窓を見ると女の子は身を乗り出している。
「お願い・・・無益な殺生までする必要・・・ないよ。」
「ちっ・・・わかったよ。」
死神は窓を一瞥すると、角田の首に鎌をかける。
「歩け。喋るな。このまま逃すわけにもいかねぇんでなぁ。」
3人は顔を見合わせたがなすすべがない。
「早くしろよ。お前らの仲間のところへ連れて行ってやるからよぉ。」
「!!!」
それを聞き3人はおとなしく歩き始める。
朱夏は死神に気づかれないように時計のボタンをそっと押したのだった。
(場所はわかったけど・・・これじゃ・・・状況が悪化するばかりですわ・・・。)
焦りは募る。
3人は死神に連れられるがままに建物へと入って行くのだった。
◇◇
「ど・・・どうしよう!?!?」
連覇はその様子をただじっと見守るしかできなかった。
「ねぇ。」
「え?」
上を見ると杏と呼ばれた少女がこっちに向かって話しかけている。
「ねぇ、あそこ。あそこから登ってきて。」
「ええ!?」
指をさす方を見るとそこには螺旋状の非常階段があった。
非常階段を登り、細い梁を伝って、2つ窓枠を越えれば確かにあの子の部屋に入れなくはない。
「仲間、助けたいんでしょ?」
その言葉に連覇は反応した。
「うん。」
「なら、急ぎなよ。見張りくるよ。」
「わ、わかった。」
連覇は急いで螺旋階段を登る。
2階に到着し、柵を越える。
「・・・こ・・・こわいい・・・。」
下を見ないように梁に足をかける。
しっかりと窓の縁を掴んで一歩を踏み出した。
「ひい・・・。」
手が震えて力がうまく入らない。
それでも懸命に連覇は梁を伝って歩く。
「んー・・・!!!よい・・・しょ・・っと!!!」
なんとか1個目の窓を通過した。
もう一つ、窓枠を越えれば杏のいる部屋だ。
「もう少し。がんば。」
「う、うん!」
軽い応援に応えながらもう一つの窓枠に手をかける。
一歩、また一歩と進んでいく。
手に汗が滴り落ちる。
ーがらっっ!!
「あ!!!」
足元のコンクリートの梁は思ったより脆かった。
連覇の体重を支えられずに砕けちった。
急に浮遊感に襲われる。
体勢が崩れて窓枠から手がはずれた。
「お、落ちるっ!!」
「捕まりな!」
片手でぶら下がっている連覇に向かって手が差し出された。
「!!!」
咄嗟に刺し出された手を連覇はしっかり握る。
「引っ張るよ。」
「う、うん!!!」
杏は力一杯連覇を引っ張りあげた。
そうして、なんとか連覇は窓の中へ入ることができた。
そこは普通の部屋だった。
ベッドがあり、トイレがあり。さながら、ホテルの一室のような場所。
「あぁー。疲れた・・・。」
膝を折り曲げて杏はヘタリ込む。
「あ・・・ありがとう!」
連覇はとびきりの笑顔でお礼を言った。
「え・・・ああ、うん。」
眩しすぎる笑顔に杏は戸惑った。
「ウチは杏。あんたは?」
「レンパ!何回も勝つって意味なんだって!」
「・・・元気だね。」
「えへへ!」
連覇は嬉しそうに笑った。
「杏はどうしてここにいるの?」
「・・・捕まってるの。」
「え?」
案はそっと自分の首を撫でる。
そこには何回も何回も首が閉められたような跡があった。
「これ・・・ひどい。痛そう・・・。」
痛々しい首に思わず呟く。
「ウチ、人質なんだ。」
「人質・・・?だからこんな酷い怪我を・・・?杏、かわいそう。」
連覇の顔が悲しげに曇った。
「お兄ちゃんに・・・あ・・・さっきの鎌持った人がお兄ちゃんなんだけどさ。」
「ああ!さっきの怖い人だ!」
「こわい・・・?あははっ!!!確かに!」
素直な連覇の反応に杏は声を出して笑った。
「あ!杏笑った!今の顔、とっても良いよ!」
連覇も親指を立てて笑う。
「え?笑った?・・・そっか・・・ウチ、捕まってから全然笑ってなかったかも・・・。」
切羽詰まった状況に心の余裕がなかった。
そんな杏をみて連覇は身を乗り出した。
「ねぇ、杏?どうしたら君を助けられるかな?」
連覇が真剣な顔でそう言った。
「え!?助けてくれるの?」
「うん!だって、杏さっきレンパを助けてくれたし!」
屈託のない笑顔に杏の心に響く。
「・・・あはは。なんだろ。君みたいな小さな子にそんなこと言われると思ってなかった。」
杏は目頭に熱いものを感じる。
「杏?」
「お兄ちゃんの首に・・・ついている首輪を外して欲しいの。」
杏は連覇にすがるような目でそう言った。
「お兄ちゃんが命令に逆らうと私の首が締まるの。」
「え!?なんで!?」
連覇は仕組みを全く理解できなかった。
「ここに住んでる、金髪で唇が紫の魔女みたいなおばさんの能力なの。」
「う・・・うん。そう言うことじゃないんだけど・・・まぁいいや。」
連覇は説明を諦める。
「それで・・・あの魔女を倒さないときっとダメだと思うんだ。」
「お・・・おもう?」
不確定要素の多い話に連覇は困惑する一方だ。
「だって、あのお兄ちゃんが壊せないんだよ?力じゃ無理だと思うんだ。」
「う・・・うーん・・・。」
杏の説明は論理的なようなそうでもないような曖昧なものばかりだ。
連覇は困惑しながらそれを聞いていたら突然結論がぶっ飛んできた。
「だから、魔女を倒して!ね?」
いい笑顔。
杏は今までで一番良い笑顔でとんでもないことを連覇に押し付けた。
「え!?・・・僕が?」
「もっちろん!」
なんの能力も持たない小学一年生に無茶振りにもほどがあるお願いをしてのける。
杏はそういう女の子だった。
「それはいくら何でも・・・むりだよお!!!!!」
連覇はいきなりきた魔女退治のお願いに、顔を引きつらせるのであった。




