第11章 道ずれ
「本当にごめんなさい!!ママ、ゆるして!?」
桃が電話でものすごく謝っている。
ぼこぼこにされた三上は血まみれでピクリとも動かない。
「ひっく・・・ひっく・・・。」
エリは泣きじゃくるばかりだ。
死神は何も言わずにその様子をつまらなさそうに眺めた。
「う、うん。本当ごめん。うん・・・ありがと。じゃね・・・。」
電話が終わったらしい。
「さて・・・このでかい図体もしかして俺が運ぶのかぁ?」
桃に死神が聞くと桃は首を横に振った。
「ママが車で迎えに来てくれるって!」
「おお。やった。」
死神が歯を見せて笑う。
「殺せないし?・・・牢屋にぶち込んでおけってさ。キャハッ」
「まぁ、仕方ねぇなぁ。」
死神はまたつまらなさそうにベンチで胡坐をかいた。
「でもさぁ・・・それだけじゃ詰まんないから・・・磔にして拷問してもいいかな?」
桃のキラキラした目が恍惚の表情を浮かべる。
「・・・好きにすれば?」
死神は興味なさそうだ。
エリは今の会話を聞いて三上に抱きついた。
「あ、車だ。」
「しにがみー。車に乗っけるのやってー?」
「へいへい。」
乱暴に三上を担ぐとトランクに三上を詰め込んだ。
「あー・・・空気穴ないと死ぬか。死ぬのはまずいんだっけ?」
少しだけ扉を開ける。
「おい。D-15も乗れ。言う事聞けよ?黒髪の命もかかってるからなぁ?」
ニヤッと牙を見せて笑う。
エリもしぶしぶ、桃と死神の車に乗り込んだ。
◇◇
「・・・あ・・・あれ!?」
角田と丸尾がエリと三上の帰りが遅いと聞きつけた二人は住宅街を探していた。
町は閑散として誰もいなかった。
「例の幽体離脱が原因かな?」
「そうかもしれねぇが・・・。気味悪いな。」
あたりを見渡す。
夕日が赤く染まっている。
赤く染まる町が不気味さを増している。
「それにしても、三上さんとエリちゃんどこ行っちまったんだろう?」
「・・・ねぇ、角田。あれ!」
動いている車があった。
その車は大きい道路の前方から来た。
道路に他には車がいないためとても目立つ。
二人を横切るように通り過ぎる。
その時ふと角田はその車の後部座席を見た。
「え・・・エリ様だ。」
角田がつぶやく。
丸尾もその声に反応して車を見る。
明るい茶髪に青い目の少女は見間違えようがなかった。
エリは悲しそうにうつむいている。
2人は急いで後を追いかけた。
「ちょっと待て!!トランク見ろよ!」
トランクから手がはみ出していた。
その手には自分たちと同じグローブ、そしてスーツの裾が見えた。
「ま・・・まさか・・・三上・・・さん!?!?」
車は無情にも、ものすごいスピードで走り去っていった。
丸尾は眼鏡のシャッターを切る。
「撮れたか!?」
「解んない。早すぎる。」
丸尾の眼鏡はいつでも撮影が可能な隠しカメラが内蔵されている。
「とにかく・・・あっちは山への入り口だ。」
「画像の解析、頼む。俺は車を取って山に向かう。」
「了解。任せろ。」
ボディーガードはひとまず朱夏の家へと走って戻った。
「丸尾、角田!お二人は!?」
朱夏が二人の帰りを出迎える。
「・・・それが・・・。」
丸尾が写真のデータをタブレットに移す。
そこには・・・トランクからはみ出ている手が映っていた。
「・・・まさか・・・!?」
手を口に当てて驚いた。
「はい・・・。申し訳ございません。三上とエリ様は・・・どうやら・・・。」
続きは言えなかった。
「もう!どうしてこう次々と事件ばっかり起こるんですか!?」
連日の事件と睡眠不足も相まって朱夏はめまいがした。
「・・・。丸尾。あなたは三上の居場所を突き止められますか?」
「それが、山の奥で・・・難しそうです。」
しどろもどろに丸尾は答える。
「どうしたら、居場所を突き止められますか?」
「・・・電話などしてくれれば・・・あるいわ・・・。」
摑まっている状態で電話をかけれるとは到底思えなかった。
「・・・。」
朱夏は指を顎に当てて考えた。
「朱夏様?」
「角田。丸尾。明日は私も一緒に捜索へ出かけます。」
思ってもみない言葉にボディーガード達は驚いた。
「へ!?朱夏様が!?だめですよ!」
「いえ!絶対に行きますから。」
「えええ!?」
頑として宣言する朱夏にボディーガード2人もたじたじだ。
そして、朱夏は二人に対して最終手段を口に出した。
「くらいあんとめいれいですっ!」
「いや!クライアントはお父様でしょ!?」
「今日はいらっしゃいませんもの。一任されている私がクライアントです!」
一点張りな朱夏を言い任せられるのは三上だけだ。
2人は観念してこう言った。
「もー・・・!しょうがないなぁ・・・。」
「無理だけはしないでくださいよ・・・?」
「えへへ。二人ともありがとうございます!」
男二人は見事に高校生に押し切られたのだった。
◇◇
「みかみ!!・・・みかみ!!」
檻の中から三上に呼びかける。
三上はあれから一時間以上桃のおもちゃにされていた。
「あー・・・たのしかったぁ。キャハッ!」
「相変わらず、良い趣味してやがるぜぇ。反吐が出る。」
死神は適当な床に座ってその様子を眺めるだけだった。
三上は体中がボロボロでところどころナイフで刻まれていた。
体の傷を見て三上は屈辱の表情を浮かべた。
「あらあなただって遊んでいいのよ?」
「興味ねぇ。」
死神はそっけない。
そうこうしていると階段から金髪で紫色の口紅をしたおばさんが降りてきた。
濃ゆいメイクにウッと来る。
「・・・桃。」
「ママ!」
「ママ!?」
桃はおばさんに駆け寄っていく。
「あんた。名前は?」
手錠でつるされた三上に向かってゆっくり歩く。
「・・・三上・・・玲央・・・。」
聞かれたことはすべて答えなくては・・・エリの首が絞まってしまう。
三上は素直に答えた。
「エリの能力の名前は?」
「・・・デジャヴ・ドリーム・・・。」
言いたくない・・・けれどもエリを苦しめられない。
三上は泣きながら情報を漏らしていく。
「エリ達は何て呼ばれている?」
「・・・パラサイト・・・。」
「ほぉ・・・そこまで・・・ばれているのね。」
「ち・・・ちくしょう・・・。」
「三上・・・。」
辛そうな表情にエリは何も言えない。
「じゃぁ、私たちのボスは?」
「・・・知らない。」
金髪のママはエリをじっと見つめる。
「そう。そこまではバレていないのね。」
エリの首が閉まっているか、いないかが嘘をついているかついていないかの判断基準だ。
「・・・パラサイトの作り方・・・は?」
エリはその質問に驚いた。
「・・・え?作る・・・?」
三上は口をつぐむ。
徐々にエリの首が閉まっていく。
「あ・・・ぐっ・・・!!」
「エリ!!や、やめて!!!」
「・・・パラサイトの作り方は?」
ママは三上の目をじっと見つめる。
「・・・ボスの・・・ボスの遺伝子を・・・子供に寄生させる・・・。」
「ガハッ!!!」
首のひもがほどける。
エリが三上を見ると・・・三上は泣きそうな顔をしていた。
「なっ!?なんで三上がそれを!?」
エリは三上に聞くが三上は何も返してこない。
「最後の質問よ。」
ママが嫌な笑いをする。
「うちの桃、最高だと思う?思わない?」
三上はその質問は鼻で笑い飛ばした。
「ハッ!思うわけないでしょ。こんな性悪娘。」
「なんですって?!?!?!?」
ママは三上を思いっきりぶん殴った。
「ぐあ!!!!」
「私の最高傑作よ!!!さ・い・こ・う!!」
「ママも最高よ!!最高!キャハッ!!」
三上は頭が春の親子をにらみつける。
「フッ・・・。親が親なら子も子だな!!」
三上がママに唾を吐きかける。
「まだ・・・痛めつけが足りないんじゃないかしら?ねぇ、桃?」
ママは桃をにらみつけた。
「ご、ご、ごめんなさい!!」
三上はその様子に違和感を感じた。
(もしかして・・・?)
「この娘を作ったのあんたでしょ?」
「ご名答、三上さん。私が持っている研究データの一番いい所を桃に植え付けたの。私の大事な娘にね!」
「あっはっは!!」
三上はそれを聞いて笑った。
「大事な娘?本当に大事なら実験対象になんかしないでしょ!」
見下した態度にママはますます激怒する。
「あんたなんかに何が解るのよ!!世界で一番の娘にしたい気持ちに嘘はないわ。」
そういうと地団太をふんだ。
「そうかしら?自分の娘を「最高傑作」?笑わせないで。あんたの娘は物じゃない!!!!」
「・・・!?!?」
桃は驚いていた。
三上の言っていいることを理解できなかった。
「娘の為を装っているけど、あなたのは「自己満足」よ!愛でも何でもない!!娘にそんな危ない能力を押し付けて!!!」
「黙りなさい!!」
太い腕の太いボディーブローが三上の腹に炸裂する。
「ガァッ!!!!」
口から血があふれた。
「・・・っつ・・」
三上はそれ以上喋れなくなった。
「はん。ようやく静かになったね。さ、桃いくよ。」
「う、うん・・・。」
親子は階段をのそのそと登っていくのだった。
「みかみ!!三上!!!」
「・・・・。」
「どうして?パラサイトの作り方なんて知ってるの!?」
「ごめ・・なさ・・・い。」
ガラガラの声で三上は謝る。
「記憶・・・共有できるようにしたのは・・・私とおじいちゃん・・・なの・・・。」
「え!?!?」
思ってもみない言葉にエリは絶句する。
「あなたが本当に私たちに預けられた理由は・・・。」
それでも三上はゆっくり話す。
「パラサイトを2対・・・寄生させる実験の為・・・。」
エリは静かに泣いた。
「・・・私とおじいちゃんは昔・・・ここの研究員だったの・・・。黙ってて・・・ごめんなさい。」
「ミカミ・・・。さっき・・・怒ってた。」
エリはゆっくりと口を開いた。
怒りのような悲しみのような複雑な表情だ。
「本当に・・・大事な人は・・・実験対象なんか・・・しないって。」
「!!!!」
三上は自分の言葉を振り返った。
「ごめんなさい・・・!そういう意味ではないの!!」
「・・・!!」
三上とエリの溝は深まっていくばかりだった。
エリは泣きながら冷たい床に突っ伏した。
すると意外な方向から声が聞こえてくる。
「D-15。あんた何言ってんのぉ?」
静観していた死神だった。
間延びした声でゆっくりエリの檻に近づく。
「どして、死神、口出す?」
エリは顔だけ上げて睨みつけた。
「あんた、意外と冷たいんだなぁ。」
「なっ!?」
驚いて顔を上げる。
死神はしゃがむとギザギザの歯を見せて笑った。
「あんなボロボロになるまでお前を守ってる奴にありがとうも言えねぇ。俺ならすぐに見捨てるね。」
「!?」
エリは言われて三上を見る。
体中傷だらけだ。
血が滴っている場所もある。
エリは自分の言動を反省した。
「あんたが居なけりゃ実力ならこの姉さんのが強いと思うぜぇ?」
三上は眉を潜めてこちらを見ている。
「・・・死神、言う、正しい。私、悪かった。ごめん、三上。」
「エリ・・・様・・・。」
「まぁ、俺の知ったこっちゃねぇかぁ。」
死神は一瞬ニヤッと笑うとすぐに立ち上がった。
「あ、そうだ。姉さんよ。」
「なんだ。」
今度は三上の方に向かってあるく。
「水、飲んどけ。」
「は?」
鞄から未開封の天然水を開ける。
三上は差し出された水を飲もうとしなかった。
その様子に死神は苛立ちを隠せない。
「さっさとしろ。アイツら戻ってきたら妹がヤバイんだよ。」
「妹?ん!んぐっ!」
死神に無理矢理水を飲まされる。
「ガハッ!」
「よし。とりあえず飲んだな。」
そう言うとサッとカバンに水をしまった。
「多分、D-15は殺さないようにするだろうが、姉さんは放置される。食事なんてでねぇからなぁ?飲めるときに飲まねえとあっという間にくたばる。分かったかぁ?」
「死神、あなたは?」
死神はギザギザな歯をニヤッとさせて首輪を指差す。
「俺様もアンタラと一緒なのさぁ。じゃぁな。」
死神は暗闇に溶けるようにいなくなった。




