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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
四章 消えた過去
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二十五話 近くて遠い2


「お疲れ様でした。今日はこれで終わりです」


葉が結んでまとめていた髪を解いてくれる。外はもう暗い。彩夜は星と遊び疲れてもう寝ているらしい。


今日1日で色々なことが変わった気がした。


「明日は?」


「塩の調達ですね。一度だけでなくこれから取引が続くと思うので長く見て渡す分にどれくらいの量が確保できるのか見にいかなくてはいけません」


「そんなの誰かに任せられないの?」


わざわざ作っているところに見にいくなんて跡継ぎの教育係を任されるような一ノ宮家がするような仕事ではない気がする。


「話が急すぎて任せる暇がないんですよ。塩を作っている人たちだってそんなのいきなり言われてもって感じでしょう? だから私たちが頼みに行くんです」


村にいた時は役人なんてと思っていたけれど葉達は違うらしい。


「明後日には葵から人が来ます。そこにも出てくださいね」


「どうして? 瑠璃さんを連れて帰ってくれるだけじゃないの?」


「これを機に仲良くしようという話ですよ。結理様はただその場に居れば大丈夫ですからお願いしますね」


別に上に立って自分で考えてあれこれ動けと言われている訳ではない。ただのお飾りになって欲しいと言われているだけ。


「それが、誰かのためになるんですよ」


「誰かって誰?」


「顔なんて見たことのないどこかの誰かのためですよ。結理様だって今まで苦労されてきたでしょう? 同じような誰かがそのおかげで少しかもしれませんが助かるかもしれません」


そんなのおれじゃなくてもいいのに。杏や華鈴にやらせればいいのに。


「・・結局、彩夜と出かける暇無かった」


「この件が落ち着いたら行きましょうね。案内もしましょうか?」


葉に当たっても意味はないのに。


「これでも食べてください」


葉が持ってきたのはカゴの上に乗せられたぶどうだった。今日は暑かったからとても美味しそうだ。


「彩夜さんからの差し入れですよ。本当はおやつにと持ってきたようですけど私たちが居ませんでしたから。ここのいくつか無い部分は彩夜さんが味見したそうですよ」


「大丈夫かな・・」


彩夜はぶどうはあまり食べれない。本人は好きらしいが食べればかゆくなるからと何つぶかしか食べないように言われているらしい。


「?」


「会った時にお礼言っとかないと」


「そうですね。・・私はもう部屋に戻りますから早く寝てくださいね。おやすみなさい」


「はーい、おやすみ」


軽い服に着替えて布団の上に倒れ込む。


まだこれからなのに。今日なんて大したことはしていないのにとても疲れてしまった。


「頑張ったら・・遊びに行ける」


今はそれを楽しみに頑張るしかない。何日間か頑張ればいいだけの話だから。









「・・・暑い」


馬に揺られながら上からは真夏の太陽に照らされている。


「おい、離れるな。危ないだろ」


下からは馬の体温。後ろには陸の体温。少しでも風が来る空間が欲しくて陸から離れる。


「だって暑い」


「なら一人で馬にくらい乗れるようになるんだな」


「乗れるよ? ただもうちょっとゆっくりじゃないとダメなだけで」


今はそれなりの速さで走っている。どれくらいかというのは難しいけれどきっと自転車と自動車の間の速さくらい。


「おれはお留守番じゃダメだったの?」


「せっかくだから実際の様子を見てみればいい」


「見なくてもいい」


「ここから戻る方が時間がかかるぞ? 行き先は海だから少しは涼しいかもしれない」


夏休み前には宙達と海に行こうかという話もあったけれど無くなったのを思い出した。


「ならいい」


「そうか。・・結理、その髪・・・染めてるのか?」


「染めてたらこんな色じゃないって。染めようかとも思ってるんだけどどう思う?」


「そのままでいい。いい目印になっている」


なんで陸は急にそんなことを言い出したのだろう?


「昔と色違う?」


「いや、なんでもない。光の加減でちょっと違うように見えただけだ」


「真っ黒になれば楽なのに」


「辺境の村には居なかったと思いますが中央には結理様のように色を持った方もいらっしゃいますよ。多くはないですが見たことはある人が多いので大丈夫かと」


「そうなの?」


逃げた先が変わった容姿にも理解のある場所だったらもう少し楽だっただろうか?

もし、なんて話をしても意味がないのはわかっているけれどつい考えてしまう。


「これも遺伝なの?」


「どちらの場合もある。ただ・・優理と優斗も同じように黒では無かったから遺伝かもしれないな」


「そうだっけ?」


どんな容姿だったか。色くらい出てきそうなものだけれど思い出そうとしても記憶が古すぎてはっきりとは出てこない。


「結理様、帰ったら馬を選びにいきましょうか。選んだらその馬で乗る練習をしましょう。この件が落ち着いたらになるとは思いますが」


「選ぶ?」


「たくさん居るから好きなのを選ぶといい。性格も違えば見た目も違う。基本同じ個体にしか乗ることがないから自分の馬を選ぶんだ」


自分の馬。幼い頃にもう少し大きくなったら選んでいいと言われてそれをとても楽しみにしていたのを覚えている。


「陸達も持ってるんだよね? どんな馬? どう選ぶのがいいの?」


「コツは・・直感だな。私の馬は他には懐かないが私の前では大人しい」


「私の馬は喧嘩すると乗せてくれなくなるんですよ」


馬にも個性があるらしい。


「楽しそうですね」


「楽しみだったのを思い出したから」


海のそばにある塩を作っている場所まではまだ半分も来ていない。


陸達と話しながらの道中は意外と悪い物では無かった。








「・・結理様、止まらないでください。着替えるのでしょう?」


やっと帰ってきたと思ったら次もまたすることがあるらしい。元々でも機嫌が斜めに傾いているのに更に傾きそうだ。


「・・星ばっかりずるい」


視線の先では彩夜と星、そして瑠璃さんが話しながら歩いている。


「瑠璃様はいいのですか?」


「そこまで言ったら彩夜に器が小さいって言われる気がする」


「星はただ付いているだけですよ?」


「ほら。あの二人って同い年だし星って見た目は女みたいだからどんどん距離が近くなってるように見えるんだけど。そのまま仲良くなって・・とか思わない?」


彩夜は外見も性格も良いから星はコロッと好きになるなんてことがあるかもしれない。


「あの弟に限ってそんなことは無いな。ちゃんと結理のお気に入りと伝えてる。安心しろ」


おれの彩夜への気持ちはしっかりばれているのだろう。


「もしそんなことがあってもちゃんと諦めさせますから大丈夫ですよ」


「諦めさせるの?」


「自然と諦めるだろう。まだ杏様か華鈴様に想いを寄せた方が可能性はあるな」


彩夜は誰が好きなんだろう? やっぱりまだそういうことはわからないだろうか?


「秋翔くんだって実は兄弟じゃないし、宙も幼馴染だし可能性が・・」


「若いと言うのは大変だな」


「彩夜さんなら大丈夫ですよ。これからどうなるから結理様次第でしょうけれど」


今は葵のことをどうにかするしかない。そう思って彩夜のことを頭の隅にやる。


「そろそろ葵の方が到着されますよ。そろそろ準備を始めましょう」


ちゃんと顔を出さないことが条件なのは覚えているだろうか?


「はーい」


「台本を作らないとな」


「なんの?」


劇でもするんだろうか? 台本と言えば夏休みが終わる前にドラマの分を彩夜に覚えさせなければいけない。多分嫌がる。途中で飽きたと言い始めるはず。どうやって最後まで覚えさせようか・・。


「結理が向こうと話すための台本だ。その場で合わせて言うなんてできないだろう?」


話が違う! その場にいるだけでいいと言っていたのに。


「聞いてない」


「結理が何も話さないわけにはいかないんだ。それくらいわかってくれ。幼い頃からやってただろう?」


確かにそうだけれど今となってはできる気がしない。あの頃は言われたことをただやるのが正解だと素直に思っていたからできた。


「瑠璃様のためと思ってください」


「・・わかった」








「そろそろいらっしゃるはずです。話し合いはあちらで行いますから移動しましょう」


「これは着るの後でいい?」


手には鮮やかな青の羽織がある。青の中でも澄んだ青。ほんの少し緑がかっている色。


「ここから着ていくと目立ちますからいいですよ。それとこれが仮面ですがどれがいいですか?」


ちゃんと要望通りに用意してくれたらしい。鬼の面、能面、狐の面。どれがいいのだろう?


「どう見られたいか、それを考えて選べばいい」


鬼の面をすれば威圧感があるだろう。能面は? 表情がはっきりしない怖さはある気がする。狐の面は怪しそう。


陸はどう見られたいかで選べと言った。この面で印象が決まるだろう。


「これにする」


「そうか」


理由は聞かないらしい。意見も言わない。これでいいということだろうか? それともおれに任せるということ?

まあどちらでもいいか。


「移動は裏から行きます。いいですか?」


「その方がいい」


裏から入れば人がたくさんいる場所を通らずに済む。

部屋から出てその裏口のある場所へ移動していると・・


「なにこれ?」


綺麗に磨かれた廊下に足跡がある。その場所だけ色が濃いいからきっと濡れたまま歩いてついた足跡だろう。一ノ宮家にもそんな状態で動き回る人がいるのだろうか?


「掃除するように言っておかなくてはいけないな。誰がこんなことをしたのかも探さなくては」


「陸の子供とか?」


おれも幼い頃に同じことをして怒られた記憶がある。確かあの時は陸達の父親にたっぷり長々と怒られた。


「この足跡ほど足が大きくない。この大きさなら・・ある程度の年齢の者が犯人だろう」


おれの手よりも大きい足跡。星ならこれくらいだろうか?


「今はこんなのはいいですから行きますよ。お客様より遅く行くわけにはいきません」


「はーい」


この足跡の犯人は思ったよりも近くに居たらしい。それに気づくのはなぜか何年も先のことだった。




読んでいただきありがとうございます。

今回は結視点のお話でした。結と陸様たちの会話は書いてて楽しいです。結視点は前半だけにするつもりがいつの間にか長くなっていました。次は彩夜視点から書くつもりです。

最後の一行はどういう意味なのでしょうか?

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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