二十四話 近くて遠い1
「彩夜さん、こっちなんてとてもいいものがありますよ」
「わあー、すごい!」
暇になった私は星くんに屋敷の中を案内して貰っていた。
「案内しておいて言うのもなんですが・・・面白いですか?」
「面白いですよ。どうやって作っているんだろう?とか職人さんがすごいなって」
「そこを見るんですね」
「他にどこを見るんですか?」
綺麗、とかだろうか? 確かに綺麗だけれどその裏にはたくさんの技術が隠れているはずだ。
「僕は興味がないので考えたことはないですけど・・ちょっと違うと思いますよ?」
「そうですか?」
「そうですね」
「彩夜ー、何してるの?」
瑠璃がくっついてくる。
「瑠璃様、ここにいていいのですか? 慧琳様がまた探されているのでは?」
「慧琳はちゃんと時間になったら呼びに来てくれるのよ? だからそれまでは彩夜といるの。ねえ、壁の前に立ってて楽しいの?」
「瑠璃、あれを見てたの」
「あれ? ・・大したことないわね。私の実家はもっと綺麗なのがあるの。見にくる?」
興味はあるけれど見にいくことは無い気がする。
瑠璃はお姫様で今は私のすぐそばに居ても本当はそばにいるはずのない人。
「帰る気になったの?」
「だって帰るしかないじゃない。結理さんにもいいこと教えて貰ったからこれから頑張るの」
「そうなんだ」
「やっぱり大人って酷いわ。私はあんな大人にはなりたくない。星もそう思わない?」
自然と瑠璃と星くんの三人でいることが多くなり瑠璃と星くんも仲良く?なっている。
「僕ですか? 兄様方は意外と優しいですし・・」
「陸様方は大人ではないでしょう? どちらかといえば子供よりで結理さんの味方じゃない。大人って言うのは親くらいの歳の人たちのことを言ってるのよ」
「そうですか」
「ねえ、セイってどんな字なの?」
星くんの話し方が柔らしいせいかもしれないけれど瑠璃が星くんに話すときはお姫様らしい話し方をする。
「星と書いてセイですよ。瑠璃様は瑠璃色のルリですよね?」
「星ってとってもキラキラした名前ね。それに綺麗」
「褒めてますか?」
「褒めてるわよ。ね、彩夜」
「いい名前だと思いますよ?」
ふわっとよく知っている空気を感じた。そちらを見ると結が陸様たちに囲まれてどこかへ歩いているところだった。
いつもと格好も表情も違う。もちろん私にも気づかず通り過ぎる。
後で少しだけでも話す時間があるだろうか? 疲れていそうだった。料理は下手だから果物でも探して持って行こうか・・。
「・・・あの・・瑠璃様、慧琳様のことが好きなんですよね? どうするのですか?」
「慧琳は・・私のことどう思っているのかわからないし、ただの姫かもしれないでしょう? 慧琳は私よりも年上だからもう・・いいひとがいるのかもしれないし・・」
「慧琳さんっていくつなの?」
「今年・・16だったかな? 3つも上なの。私なんて子供に見えているだろうし・・慧琳のことは別に・・」
「でも・・特別なんじゃない?」
好きではあるはずだ。でもそれが恋愛的な好きかなんてわからない。私だって結のことをどう思っているかなんてはっきりとはわからないけれど特別な人だ。
「特別・・うん、そう」
「瑠璃、私にも特別な人いるよ」
「結理さん?」
「・・うん。結は・・私にはとっても遠い人に見えるの」
「あんなにそばにいるのに?」
「ずっと・・このままならいいのにって思わない? 私は思うよ。でも変わらないものはなくて何もかも少しずつ変わっていくから、・・・あのね、だって瑠璃と慧琳さんに残ってる時間は少ないんじゃないかなって思うから」
結はきっと中学を卒業するまではそばにいてくれる。それも短い期間だけれどちゃんと後どれくらいかが見えている。けれど瑠璃達にはそれがない。
この気持ちだっていつか変わっていって昔の思い出になるのだろうか?
「姫ー、また勝手に抜け出して・・」
慧琳さんの声がして瑠璃が赤くなっていく。
「どうしたんですか? 熱があるんですか?」
「違うわよ。さ、触らないで」
「外が暑かったからですか? 早く部屋の中に入りましょう?」
瑠璃は迷うように目線を動かして・・
「あのね・・慧琳」
「なんですか?」
「ずっと・・私の面倒見なさい。ほ、他の人がこの私の面倒見るなんて無理でしょう?」
「いいですよ?」
「この先、ずーっとなのよ? もし私が姫じゃなくなってもよ? 朝でも昼でも夜でもよ? 他の人と会う暇なんてないかもしれないわよ。それでも?」
これが今の瑠璃にできる一番の気持ちの伝え方だったのだろう。
「いいですよ? どうしたんですか。今までだってそうだったじゃないですか?」
「・・・この前」
「この前?」
「綺麗な人と会ってたじゃない。楽しそうに話してて」
「あー、あの人は姉ですよ。瑠璃も幼い頃に会ってると思いますよ? もしかして・・嫉妬しましたか?」
「そんなわけないじゃない」
「そろそろ行きますよ。それともまた逃げないように紐をつけたほうがいいでしょうか?」
「・・・わかってるわ。あっちの部屋だったわよね?」
「星くん、瑠璃ってかわいいね」
ニコニコと笑って僕に話しかけてくる。
兄達以外は女っぽいとか弱っちいとか言ってくるのにそんなことは何も言わない変な人。
「ですね。目の前であんなものを見ることになるとは思いませんでしたけれど」
瑠璃様なりの精一杯の気持ちの伝え方があれだったのだろう。
「私には二人は両思いに見えるんだけどどう思う?」
「・・慧琳様が瑠璃様をどう思われているのかわかりませんが、同じように特別で大事な存在ではあるのでしょうね」
「二人は・・これからも一緒にいてほしいなー」
どこか寂しそうに見える表情。
「彩夜さん?」
「何? あ、次はあっちに行こうよ」
さっき結理様が横を通った時にも寂しそうな顔をしていた。
「彩夜さんはそのうち妃になるのですか?」
「妃って何?」
「領主様、国をまとめる方の奥方のことですよ」
「ならない」
とても真っ直ぐな表情でそう言った。ほんの少しだけどこかに違う感情も見えるけれど何かを決めているらしい。
「結理様は彩夜さんのことを・・」
「妹って思ってる。それか・・ただの友達」
「では、仮にもし、結理様が・・」
彩夜さんは誰がどう見ても結理様のことが好きだろう。自覚しているかどうかは置いておいてもあの人に向ける目は瑠璃様が慧琳様に向けるものと変わらない。
「そうだとしてもね、なることはない。妃なんかなれないよ」
『なれない』と『ならない』。どちらが本音なのだろう?
「・・・」
「星くん、私・・奏さんのところに行ってこようと思うから誰かに伝えておいてくれる?」
「うん。わかった」
「結には秘密にしてね。勝手にどこかにいくとすぐに怒るから」
「うん」
止めた方がいいことだったのかもしれないけれど今までほとんど屋敷から出ることなく育った僕には自分で決めて自分で歩いて行こうとしている彩夜さん達を止めることはできない気がした。
「彩夜ちゃん、どうしたの?」
屋敷の門の近くまで行くと奏さんが待っていた。
「奏さん、果物を取りに行きたいんです。山?に行ったらありますか? 連れて行ってもらえませんか?」
「いいよ。なんの果物を取りたいの?」
「えっと・・・」
今は八月、どれならなっている時期だろうか? 現代にはあってもこの時代にはない果物もあるだろう。
「ぶどうとか・・なし? あとは・・」
「ぶどうなら近くにあると思うよ?」
「そこに連れて行って下さい。それと」
「どうしたの?」
言ってもいいことだろうか? もしかしたらどうにかなるのかもしれないから言ってみるだけでも言ってみよう。
「どうしたら行き来できますか?」
「・・・強くなったら。彩夜ちゃんは水を操れるでしょ? それがもっと上手になったら自由に行き来できるようになるよ」
「水? 操るって?」
「そっか・・無自覚かー」
「?」
奏さんに頭をふわふわ撫でられる。
「それとね。彩夜ちゃんは癒しの力も持ってるの。それはわかる?」
「結が・・頭痛いって言った時に良くなれって思って触れたら痛くなくなったみたいで・・それのことですか?」
「それは経験あったんだね。でもね、使い慣れてないのに使っちゃうと危ないから慣れていこうか」
「奏さん力って・・」
「力は能力の一つだよ。運動が得意だったり勉強の方が得意だったり料理が得意だったり?それと同じ。彩夜ちゃんは他の人より力を扱うのが上手に生まれてきたの。ただ他の能力と違うのはね、ある程度どれだけ上達するのか決まってるの。使えない人はどれだけ頑張っても使えないけど彩夜ちゃんみたいな子はどれだけでも可能性がある」
力なんて言われてもとても曖昧で・・
「どう使ったら良いんですか?」
「自分を守るためとか大事な人のためかな。きっと慣れていったらいつどんな風に使えば良いのかもわかってくると思うの。でもね、傷つけるために使うのは絶対にだめ。いい?」
「はい」
奏さんの言うことだからちゃんとした理由も合って言っているのだと思う。その理由もいつかわかるだろうか?
「わかってくれたならよかった。・・どう? 昨日から流くん家にいるけど楽しい?」
「楽しい。でもちょっとだけ寂しいです。結が陸様達に囲まれてすぐにどっかにいっちゃうんです」
「果物も結理に?」
「・・きっとこんな暑いのにあっちこっち動き回ってるだろうから。私にはこれくらいしかできないから持って行けたらなって」
「きっと結理は喜ぶよ」
奏さんは結のことも考えている。どうしてあの時奏さんは結のことを嫌いなんて言ったのだろう?
「今日はぶどう狩りに行こうか? 力の使い方を覚えるのは明日から、それでいい?」
「はい。でも結には秘密にしてもらえますか? きっと・・一人で出歩いてるのを怒るから」
「うん。・・・そういうところちょっと面倒だなって思わない?」
「お兄ちゃんで慣れてるので」
結の過保護さはお兄ちゃんと変わらないと思っている。
「・・お兄ちゃんと一緒にされてるのかー」
奏さんがちょっと困った表情をしているのは私は気づかなかった。
読んでいただきありがとうございます。
今回は瑠璃と彩夜、星のお話がメインでした。良い三人組になってくれた気がします。
同い年のまだまだ成長途中の三人がこれからどう成長してくれるか楽しみです。
次話も読んでいただけると嬉しいです。




