二十三話 葵と屋敷15
「結、後で見に行ける?」
隣を歩く結に話かけた。この質問で伝わってるだろうか?
「どうかな、陸達に捕まらなければいけるんだけど・・・」
「結理様、まさか自分から言い出しておいて人に丸投げなんてしませんよね?」
流さんが確認するように言う。結はスーッと目を逸らして・・
「そこをなんとか」
「ダメです」
「このおれに何かできることがあると思う?」
「とりあえずちゃんとした服を着て立っていればそれでいいですよ。陸兄様なら他にも何かしろと言うかもしれませんね」
気づかないふりをしていよう。鈍感なままでいれば寂しくない。
「色葉家って大きな国を持ってるのに他に跡継ぎいないのですか? 私は結理さんは向いてないと思いますよ」
瑠璃が結を見ながらそういった。
「残念ながら男子がいないんだ。どうにか妹に押し付けようか・・・。どのあたりが向いてないと思う?」
「何も知らない私にそこまで良くしてくださるところです。きっと私が姫でなくても助けてくださったでしょう? 簡単に信じて助けようなんてする方はすぐ騙されますわ」
「ちゃんと見分けてるつもりなんですよ? 彩夜が懐く人に悪い人はいないのです」
自分では見分けられないってこと?
「懐くって・・言い方を考えられてはどうですか? 大国の跡取りがまさか成り代わってるなんて・・・世の中色々あるものですね」
「成り代わってる訳ではないですよ。物心つく前にここの子になってその子として育てられてるんですから」
「ではどうしてあんな辺境の村にいるのですか?」
「・・・幼い頃に反乱が起きたのですよ。しっかり巻き込まれてしまって気づけばあの村にいたのです。見つけて貰えたつい最近までただの村びとでしたから」
あの状況でも村びとと言えるのだろうか? 村の中では生活していないように見えたのに。
「帰ろうとは思わなかったのですか?」
「なんでも答えると思わないでください」
「失礼いたしました」
結との硬い会話が終わると瑠璃はパッと表情を柔らかいものにして私に寄ってくる。
「この人中途半端だね。微妙にちゃんとしてる」
「そうかな? 中途半端くらいが私はいいけどな・・」
「もう着きましたよ。そこの部屋です。どうぞ入って下さい。あ、結理様はダメですよ」
「どうでもいいから入らない。彩夜も外で待っとこう」
「うん」
ここからは瑠璃の問題だから入らない。
「おい、捕まえろ!」
「逃げるな!」
そんな大きな声がして部屋の中から誰かが飛び出してきた。
「慧琳!」
「瑠璃!」
その人はこちらに向かって来ようとしたけれどすぐに陸様達に抑えられる。
瑠璃は一歩陸様達の方に近づいて・・頭を下げた。
「陸様、葉様、私の従者が申し訳ありませんでした。今まで私がしたこともお詫びします。だから、私に渡して下さい」
「陸兄様、瑠璃さんは三葉家の長女、瑠璃姫らしいですよ」
「やはりそうだったか」
陸様達は知っていたんだ。結もわかっていたようだからわかる人がみればわかるものなのだろうか?
「お願いします」
「陸兄様、どうしますか?」
「別に返さない理由はないだろう。預かっていたって邪魔なだけだ」
「っ・・ありがとうございます」
瑠璃は陸様達に押さえられていた人の方へ駆け出した。その人にくっ付いて・・
「よかった。慧琳・・無事でよかった」
捕まっていた人の姿を初めてよく見た。まだ若い。私たちよりほんの数歳上くらいだろう。ぼろぼろで泥だらけ。瑠璃を見つけるためにあちこち駆け回ったのだろうか?
「私のためにありがとうございます。それと、瑠璃・・姫、それは私が言いたいことですよ。なんで藍の中心なんかにいるんですか?」
「見つけてくれてありがとう。それと瑠璃と呼びなさいと言ったでしょう?」
この人が瑠璃の好きな人だろうか? 優しそうな人。これってもしかして・・
「結、これって小説でよくある姫と従者の禁断の恋ってこと? 本当にあるんだね!」
二人の空気を邪魔しないように小さな声で話す。
「・・彩夜、そんなのまで読むの?」
「読んだことはないけど本の間に挟まってるチラシみたいなので見たことあるよ? 瑠璃って本物のお姫様みたいだけど、あの人とうまくいくといいね」
「現実はそんな簡単にいかないと思うけど?」
それくらいわかっている。現実ではあり得ないから物語になっているのだ。
「瑠璃、一緒に帰りましょう」
慧琳さん?が瑠璃に手を差し出す。とってもいい雰囲気だ。
「それは嫌よ。帰りたくないの」
「いや、そこは頷くところでしょう? きっとお父上も心配してますよ」
「きっと、なのね」
「その・・確認してないんです。瑠璃がいないのに気づいて報告も忘れて飛び出してきたのですから・・どうしましょう? 一番最初に瑠璃がいないことに気づいたのは私ですし、報告しなかったのと仕事中に勝手に居なくなったので罰せられるかもしれません」
「私のだから誰にも文句は言わせないわ。やめさせられてもまた私の従者にすればいいもの」
つんとちょっと上に顔を向けて言う。瑠璃の本性というか本物の姫なところをしっかり見てしまった気がする。
「うちの姫がご迷惑おかけいたしました。責任持って私が連れて帰ります」
慧琳さんはしっかりした人らしい。お兄ちゃんと歳は変わらないくらいに見えるのにそこまでしっかりしてるなんてすごい。
「お願いします。さっきまで帰りたくないだの海に飛び込むだの言っていて困っていたところだったのですよ」
流さんがさっきあったことを言ってしまう。
「・・・瑠璃」
「ちゃんと溺れられるもの。このまま言いなりになるくらいならって思って・・! これは何!」
慧琳さんが瑠璃の手と自分の手を紐で結んでいる。器用なことに手錠のようにある程度手をバラバラに動かせるような形に結んである。
「姫、飛び込むなら私も道連れにするしかなくなりましたよ? この紐は特殊なものなので燃やすことも切ることもできません。姫には難しい結び方なのでほどこうと思っても無駄ですよ?」
「そんなことしないわ。そう思って家を出たって言いたかっただけなの。今はそんなこと思ってないからね? だからこれは外してくれない?」
「逃げるかもしれないでしょう?」
後ろからやってきた手が目に被さる。
「結? 見えない」
「彩夜、早く遊びに行こう」
「それはいいけど、手どけてよ」
「よくない。彩夜は見なくていい。まだ早い」
「早いってなに? ねえ、このまま歩いたら危ないって」
「あの・・・結理様、今どこかにいかれては困ります。もうしばらくここにいて下さい」
流さんが遠くから何か言っているけれど結には聞こえていなさそうだ。
「なんかすれ違ってますねー。それにしてもここの妙に甘い空気はなんでしょう?」
「若いな」
「ですね」
私たちまでではないにしても若いはずの陸様と葉様が眺めながらそんなことを呟いている。
「結、まだ遊びに行けないってよ? 用事は早く終わらせてよ」
「えっと、陸。何をしたらいいの?」
「そこの客をどうにかしてくれ」
「どうにかって・・。瑠璃姫、早く帰って貰えませんか? もしくは何か動くとか?」
結が適当になっている。
「あー、では塩の件をお願いしてもいいですか? 交渉は慧琳が・・」
「あの、姫。なんの話でしょうか? ここは一ノ宮家ですよね? そちらの方々がこの家の方なのはわかりますが・・あの立場のよくわからない方は?」
慧琳さんが私たちの方を見ていった。
「彩夜は私の友達なの。結理さんは・・どう説明したらいいですか?」
「おれはただの・・その・・」
「こちらは色葉家の長子の結理様だ」
「陸!」
結が誤魔化そうとしていたのに陸様が言ってしまった。絶対にわざとだろう。
「なんだ? 塩の件をどうにかしないといけないだろう?」
「でも、ほら、そっちの顔とこっちは別にしようと思ってたのに。色葉なんて名乗りたくないし。またどっかに居なくなろうか? 彩夜、行きたいところある?」
「んー・・無いかな」
そんなことを言われても・・行きたいところなんて無いけれど仮にあっても怖い陸様の前に言えるわけがない。
「名乗らなくてもあの色の服を着ていれば問題ない」
「それは名乗ってるのと一緒だって。・・瑠璃姫だってそう思いませんか?」
「でも、着ていなければ気づかれないものですよ? 皆さん服しか見ていないようですので」
瑠璃は陸様たちの味方をしてそう言ったわけではないだろうからそれが事実なのだろう。
「・・あ! 昨日ここに来たばっかりだし服なんて用意してないよね?」
「見つかった時からすぐに仕立ててある。ちゃんと大きさも合わせて作ってあるから今すぐにでも着れるようにしてある」
陸様たちは結の何倍も上手だ。口で勝てるわけがない。
「星に代わりになってもらうのは? 歳は近いし、星は引きこもりなんだよね? なら顔もバレてないから・・」
「だめですよ。うちの弟は小さいですし気が弱いですから代わりなんてできません」
「子供ではないのですからわがままを言うのはおやめください」
そこまで言わなくてもいいのに。
ちょっとだけ服の袖がが引っ張られた。ちらっと見てみれば結が袖をぎゅっと握っていた。
「・・・わかった。ただ・・顔は出さない。それを約束して」
「わかりました」
「結、大丈夫?」
このままでは話が進まないからと一度部屋に戻ることになった。そこでやっと結と二人きりになる。
「わがままなのはわかってるけど・・あーでも言わないと聞いて貰えない。ダメなのだってわかってるし」
「うん」
「・・・陸だってある程度は聞いてくれるから。・・本当に嫌になったら一緒にどこかに行ってくれる?」
「うん、いいよ。楽しそう。でもあんまり怖くないところがいいな」
真っ暗だったり虫がたくさんいるところは嫌だ。
「じゃあ考えとく」
「・・ねえ、思い出したの?」
結の瞳が揺れる。一瞬迷うような・・・。
「うん。彩夜、優斗のこと・・ありがとう。やっぱり似てるの? 見たことなくてもわかるもの?」
「わかるよ。顔もなんとなく似てるし、何よりここのことをよく知ってたの。妹?のこと結が忘れてたってのも聞いてたからもしかしたら弟もいたのかな?って」
「・・双子の兄?弟?もいるんだ。優理って名前で・・・どっちが上かなんて気にしてなかったから覚えてないんだけど。優理と優斗は本当の兄弟だよ。優理を見つければ・・」
本当の兄弟ってなんだろう?
「見つけたいんだ。じゃあ、嫌になったら優理?さんを探しに行こうよ」
「おれが誰なのか見つけたい。陸たちも協力してくれてるから・・今は瑠璃姫関係のことを頑張る」
「愚痴は聞くよ?」
「聞いて。多分、たくさん話したくなると思うから」
「うん」
このままではいられない。結が継ぐのを選んでも選ばなくても何かが変わっていくだろう。
「彩夜、どうかした?」
「ううん。私にできることがあったら言ってね」
少しずつ結との距離が離れていくように感じる。嫌だなんてとてもいえない。できるのは結に気づかれないように離れないように手を伸ばすだけだ。
読んでいただきありがとうございます。
今回で葵と屋敷は終わりです。やっと終わったという感じですが夏休みのお話はまだ続きます。書いていたらいつの間にか長くなってしまいました。
これから一章の内容など大幅に書き直すかもしれません。設定が変わることがあれば後がきに書きたいと思います。
次話も読んでいただけると嬉しいです。




