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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
四章 消えた過去
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二十話 葵と屋敷12


「遅い」


一ノ宮家の屋敷で彩夜達が来るのを待っている間空を見上げていたら、もう薄暗くなってきている。


「・・・あの村までどれだけ距離があると思ってるんだ」


家だから比較的ゆったりとした格好の陸がやってきた。家族がいるらしいのにおれのところにいて良いのだろうか?


「お湯は沸いてますよ? 待っている間に湯浴みでもされてきては?」


「そっか・・お風呂あるんだ」


こちらの風呂に入るのなんて何年ぶりだろう? やっぱり現代はその辺がどの家にもあり、蛇口をひねれば飲める水が出てくるのが一番良いなと思ったところだ。


「あるに決まってるでしょう? ここは一ノ宮家ですよ?」


不思議な気分になる。よく考えればあるのは当然だけれど。


「だって村には無かったから」


「冬はどうするのですか?」


「お湯沸かして桶に溜めてみたり」


記憶がなくてもそれに慣れるまではずっと違和感があったのを覚えている。


「そんなことできるのはたまにだけど。・・じゃあ入ってこようかな。どこにある? あっち?」


「案内しますよ。着替えも用意していますからごゆっくり」


「ありがとう」







「陸、すごかった! お風呂、思ったより広いし大きい!」


「結理様、まだ髪が濡れていますよ。拭きますからこちらに」


タオルを持った葉が後ろからついてくる。


「それくらい自分でできる」


「服を自分で脱げなかった結理様がですか?」


「あんなごちゃってしてる服の脱ぎ方なんて知らない。普通の服なら脱ぎ着だってできるし洗濯だって・・なんなら作るのだってできる」


あの頃のままとは思わないで欲しい。ちゃんと成長しているのだから。


「それに、野草を見分けたり軽くなら家だって直せる。あと、弓を作ってみたり他の道具も色々・・」


「できるようになったことを今度見せてくれ」


「・・機会があれば」


「そうか」


「あ」


「どうかしたか?」


遠くをみる。姿は見えないけれど・・・


「奏さんが戻ってきた。玄関はどっちだっけ? あっち?」


「戻ってきたらこっちに入ってきてもらうように言ってある。あまり外に出るな」


「わざわざ行かなくてもすぐにいらっしゃいますよ」


流にはちゃんと頼んでいたけれど大丈夫だっただろうか?


「あ、結!」


なぜがボロボロの彩夜と真っ白の毛の犬。


「どうした? なんか汚れてるし、手と足は怪我してるし」


ついでに服は土まみれ。


「その・・転んじゃって、手と足を擦りむいただけだから大丈夫」


「結理様、一つ報告がありまして・・」


「流さん! それはダメです。言わないでください」


「流、教えて」


「彩夜芽さんが遊びに行きたいとおしゃったので近いところだけで危ない場所には行かないと約束したのに橋の向こう側に行った挙句、迷子になって転んで怪我をして帰ってらっしゃいました」


「彩夜、道をわかってないのに一人で行くんじゃない」


「一人じゃ無かったもん。瑠璃と二人で遊びに行ったの。途中まではちゃんと草を結んで印をつけてたんだよ」


「あーもう、こんなに怪我して。彩夜、あっちに井戸があるから洗いに行こう」


手を引っ張っても彩夜が来ない。


「あのね。この子、森で会ったの。どうしよう? 自然に返すのは・・ポメラニアンだし無理でしょう? どっかで飼えるかな?」


「まるにそっくり。というか、まる? 陸、この犬って真希が飼ってたまるに似てない? 真希に聞いたらわかるかな?」


「結理様、その前に紹介してもらっても?」


怖そうな人にちょっと優しそうな人。どちらもどこか流さんと似ている。


「これが、彩夜芽。歳はおれの一つ下。大人が苦手だから・・」


「結の知ってる人なんだよね? なら大丈夫」


「そう?」


「そちらの方は?」


そうだった。瑠璃のことを紹介していない。


「こちらが瑠璃さんです。迷っていたところを見つけました。彩夜芽さん、瑠璃さん、こちらが私の兄達です」


「初めまして。お世話になります」


一緒になって頭を下げておく。ちゃんと挨拶のできる瑠璃はやっぱりしっかりしている。


「瑠璃さん? どこからいらっしゃったのですか? 彩夜と仲良くしてもらったようでありがとうございます」


結がとても丁寧な話し方をしている。陸さん達の前だから?


「いえ、私の方が何もわからないところをたくさん教えていただきました」


「そうですか。葉、瑠璃さんを部屋に案内してあげて」


「わかりました。結理様」


瑠璃は葉様に連れられてどこかへ行ってしまう。


出かける前の結より今の結は表情が柔らかい気がする。良いことでもあったのかな?


「初めまして、彩夜芽さん。私が結理の教育係だった陸だ」


「えっと・・陸様と・・葉様、初めまして」


「・・これが結理様のお気に入りですか。可愛らしい方ですね」


「あ・・」


どう返したら良いのだろう?


「まるは預かっておくから行くよ。土を落としてから・・あ、陸、彩夜の着替えにできそうな服があれば持ってきてくれる?」


「はあ・・・あなたはもう・・」


陸様のため息なんか結は聞くことなく私の手を引いて井戸へ連れて行かれた。










広いお屋敷の一室で・・


「あの・・こんなのを私なんかが着ても良いのでしょうか?」


土を落としたらお風呂に入れられてそこに用意されていたのは高そうに見える着物だった。


着方もわからずあたふたしていたら女性が入ってきて着せてくれた。


「似合う!」


「それは母がもう着ないと言っていた物だ。気にしないでくれ」


「わかりました」


できるだけ汚さないようにしなくては。


「彩夜」


「あ、瑠璃! 服乾いてたんだ」


瑠璃も着替えていて、それは瑠璃が川上から流れてきた時に来ていた服だった。


「こんなにすぐに乾くとは思わなかった。世の中、知らないことってたくさんあるのね」


「瑠璃が知らなすぎるんじゃない?」


「明日もまた山に行きましょう! 今度は別の場所に・・」


「うん」


今度こそちゃんと迷子にならないように行けるはず。


「だめだ。迷子になったばっかりなんだから行かせられない」


「山はやめたほうが良い。最近、紅からの侵入者が増えている。攫われたくはないだろう」


「紅って・・・?」


どこかで聞いたような知らないような・・・


「隣の国だよ。ここよりは小さいけれど同じくらいの力を持ってる国」


「そういう話は多くなってきているので気をつけてくださいね」


なら私たちだけで山に入るのはやめておこう。


「瑠璃、それなら仕方ないね」


「・・・」


「瑠璃?」


顔色が悪い。瑠璃が青くなって両手とも服をぎゅっと握っている。


「大丈夫? 体調悪い? いっぱい濡れてたし風邪ひいた?」


「彩夜、ありがとう。大丈夫」


大丈夫には見えない。急にどうしたのだろう?


「あ、瑠璃は海を見に行きたいんだよね? 結、ここの近くにある?」


「遠くもないけれど近くはないかな?」


「彩夜、・・海・・・大丈夫だから、ごめんね。今日はもう休もうかな?」


「そう? おやすみ」


「うん。おやすみ」


瑠璃はこの場から逃げるように出て行ってしまった。


「陸、瑠璃さんって・・」


「・・わかるか?」


「陸もそう思う? ・・だって杏と華鈴に似てる。それにただの少女には見えないしそうかなって」


「結、瑠璃がどうかしたの?」


「いや、どこから来たのかなって話」


結は瑠璃を家に帰すつもりだろうか?


「帰りたくなさそうなの。だからもうしばらくは一緒にいようかなって思ってるんだけどだめかな? ・・・私だって今は家に帰りたくないよ」


「・・おれだって望んでないのに帰すようなことはしたくないけど、そうもいかないかもしれないんだ。何か事情もあるみたいだし面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だから」


「明日にでも聞き出すか? それとも泳がしておいて・・」


「陸様、瑠璃に何かするつもりですか?」


はっきりとしたことを誰も言わないから私には意味があまりわからない。でも良い話をしていないことはわかる。


「場合によっては。こちらは色々問題を抱えているんだ。それはわかってくれ」

 

「彩夜、瑠璃さんはおれたちがそうあれこれで出来るような人ではないから安心して。せいぜい聞き出すくらいだから」


「結、聞き出すって? 結もそれが良いって思ってるの?」


「彩夜、悪いようにはならないようにしてもらうから。出来る限り、おれに出来ることならするつもりだから」


わからない。でも、結の言葉を信じよう。







       ・         ・         ・







「・・・」


眩しい朝日が扉からさしている。昨日はあまり眠れなかった。慣れない場所だったからだろうか?


これからどうしたら良いだろう? この部屋には私一人。昨日は陸様に部屋まで案内してもらったからここがどこかわからない。結や瑠璃がどこにいるのかも知らない。


「どうにかなるかな?」


廊下に出てあたりを見回してみる。目の前にはとても広い庭。ここは立派なお屋敷らしい。


建物もいくつもあって・・・確かあっちから来たような・・・・


「あれ?」


後ろを振り返る。くるっと一周回って見ているけれど・・・どこから来たんだっけ?


似たような建物ばかりでどの部屋から出てきたのかわからなくなった。


「どうかしましたか? えっと・・昨日いらしゃったお客様でしょうか?」


声がして振り向くとそこにいたのは・・・


女の子? 長い髪を一つに結んでいて気が弱そうな人。歳は私と変わらないくらいに見える。でも服が結が着ている物に似ている。なら男の子なのかな? でも顔は可愛い感じで声も女の子と言っても良いほどの高さ。


「そうです。その結と・・えっと・・・一緒に来た人を探していたら迷子になってしまって」


「どちらの部屋かわかられますか?」


「わからないです」


「・・・なら着いて来ていただけますか? 私もわからないのでとりあえず兄のところに案内しますね」


「ありがとうございます」


この人についていくといくつか渡り廊下を通って・・・


「陸兄様、おはようございます。お客様が迷子になっていらしたのですがどちらに案内すれば良いですか?」


「おはようございます。・・・すみません。勝手に動いて部屋もどこだったのかわからなくなりました」


陸様の眉間の皺が深くなる。怖い。


「・・・屋敷の中でも迷子になるなんて・・」


「すみません」


あれ? さっき案内してくれたこの人が陸兄様って・・


「え? ご兄弟ですか?」


「ああ、これが(せい)。私の一番下の弟だ。歳は同じじゃないか?」


弟・・男の子だったんだ。それと・・・似てない。流さんとも葉様とも似てない。


「お兄様のお客様だったんですか」


「いや、結理様の・・お気に入り?だ」


昨日からよくお気に入りと紹介されるけれどお気に入りってなんだろう?


「お気に入りってなんですか? というか・・結理様って何年も行方不明だった? 見つかったんですか?」


「あとで会ってくれ。良い方だから大丈夫だ」


「あの・・結は?」


「あー、もうすぐここにくるはずだ。そこの部屋で待っていてくれ」


移動しなくていいのならまた迷子にならなくて済みそうだ。









読んでいただきありがとうございます。

今回はバラバラに動いていた結と彩夜が揃ったお話でした。

瑠璃が何者なのか結はなんとなくわかっているようです。これからどうなっていくのでしょうか?

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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