十八話 葵と屋敷8
「どうしたら私の育った場所に来てくれますか?」
『それはね、できないの』
『僕たちはこの木からはなれられないの』
精霊というものは古い植物から生まれるらしい。ずっとその生まれた元と繋がっていてある程度の場所までしか離れられない。
「そう・・ですか」
『精霊はたくさんいるよ』
「そうでしょうか?」
『僕たちにたよらなくてもどうにかなるよ?』
私には話の内容がわからない。きっと精霊さん達には瑠璃の言いたいことがわかっているのだろう。
「瑠璃、精霊さん達は大丈夫って言ってるよ?」
「・・そうだね」
『君、たくさんちからを持ってるね』
『でも、気づいてないみたいだよ』
『なら、むりだね。そしつはあるけど、つかえないならいみがない』
私に精霊さん達が話しかけてくる。
「困っていることがあるの?」
『この木、弱っているの』
『もうすぐこのちかくをまもれなくなるの』
「どうして? もう古くて歳だから?」
『また来たよ。あぶない』
『にげないと』
『二人もはやくかえったほうがいいよ』
急に騒がしくなってどんどん光が消えていく。
「ねえ、彩夜、なんだろう?」
「あぶない? 逃げる? 早く帰ったほうが良いって言ってたよ。何か来るのかも」
「そうだね。遠くまでは行かないようにって言われてたしそろそろ帰ったほうが良いかも」
大木に背を向ける。あっちから来たから・・
「瑠璃・・・ここどこだろう?」
「道があったはずなのに」
獣道かもしれないけれどちゃんと人が通れるような道があった。なのに大木の周りにそんなものは見えない。一面、草と木々に囲まれている。
「・・彩夜、私思い出したよ」
「瑠璃。私も今思い出した」
迷子になっても帰れるように印をつけながら進むように言われていたのをすっかり忘れていた。
「どうしよう?」
「彩夜、声を出したら聞こえるかな?」
「流さんが声に気づいてくれても・・吊り橋渡っちゃったから見つけられないかも」
精霊さん達が今はどこにも見当たらない。何か起きるはずだ。
「とにかく逃げよう! 瑠璃、走れる?」
何か怖いものが近づいてくるような感覚もする。早く逃げないとダメだ。
「うん。でもどっちに行くの?」
「大木の反対側。あっちから来たはずだから」
「うん」
まあまあの高さのある草の間を走る。でも何かの根に引っかかって転けそうになったりして早く走れない。
「彩夜、待って!」
声に振り返ればいつの間にか瑠璃との距離が空いていた。
「瑠璃、手出して」
「うん」
手を繋いでおけばついて来てるかちゃんとわかる。ここで瑠璃とも逸れてしまったら終わりだと思う。どんどん何かの足音が大きくなっていく。私達はただただ夢中で走った。
・ ・ ・
「ねえ、流くん」
「今度はなんですか?」
用がないのなら速くどこかに行ってほしいのに奏さまはここに居座っている。
「結理の情報ってどこから手に入れたの?」
「・・よくわからないのですよ」
「というと?」
奏さまなら何か知っているかもしれないと思っていたが知らないのだろうか?
「ある日、うちに手紙が届きまして・・・水崎村に結理様がいると書いてありました。いたずらかとも思いましたが、それなら今更という話ですし、確かめないわけにはいかないでしょう?」
「そうだね」
「結果的に結理様は見つかりました。その手紙を出した方はどんなつもりで出したのか知りませんが今のところはただ教えてくれただけのようですね」
今のところ目的はわかっていないから警戒は続けている。一番の問題なのは出したのが誰でどうして結理様のことがわかったかだ。
「あの頃の結理様は幼かったですからほとんど外には出ていなかった・・・なのにどうして顔がわかったんですかね? そばに居たような人物はある程度あたってみましたがだれも知らないそうです」
あの事件があったとき自分もまだ子供だった。近くにどんな人が居たかなんてあまり覚えていない。何年も経てばそばにいる人は変わっていく。兄達と話しながら出てきた思い当たる人は全員違うようだった。
「そうだよね・・流くんも大きくなったよねー」
「いつの頃と比べているのですか?」
「私は10歳になってない君に会ったことがあるんだよ。私だってことは隠してたけどね」
「あの・・おいくつですか? ・・なんでもありません」
口が滑ってつい聞いてしまった。聞かなかったことにしてくださるだろうか?
「いや、取り消したってしっかり聞こえてるから」
「ですよね・・・」
「年齢は秘密。ただ秘密っていいたくなるような歳だよ」
そんな年齢の人が『だよ!』っていうんだろうか?
「奏様にそんなことを聞く私が間違いでしたね」
「それってなに? 私が悪いようにも聞こえるんだけど?」
「気のせいですよ。というかいつまでここにいらっしゃるつもりですか? 暇なんですか?」
「流くんも言うね。良いのかな? お兄さん達に君が隠していること言っちゃうよ?」
どうして奏様がそれを?
「なんのことですか? 私は隠していることなんて何もありませんよ?」
「何も隠し事がない人なんて居ないに決まってるでしょ。そっちの方が怪しい」
「・・なら奏様にも隠し事があるのですか?」
それから、奏様が飽きるまでチクチクと脅されることになった。
・ ・ ・
「彩夜! なんか来てる!」
「瑠璃、見たらだめ。前だけ見て走って!」
走るのが遅くて得意でない私にはそろそろ立ち止まりたくなってきた。でも後ろからくる何かから逃げないといけない。
「彩夜、まだ?」
「わからない」
ずいぶん戻ってきているはずなのにまだ吊り橋は見えない。
一生懸命走っているつもりなのにあまり進まない。こんな時に足が遅いのが嫌になる。
「 追いつかれるよ!」
追いつかれるのは時間の問題だ。どうしよう?
「瑠璃、止まって」
「え? うん」
どうせ逃げられないのだから頑張るしかない。瑠璃の前に立ってやってくる物の方を向く。
「彩夜、あぶないよ!」
「大丈夫なはずだけど・・瑠璃、あぶないと思ったら逃げて」
今までもこうやっって何かに追いかけられることはあった。きっとどうにかなる。
どうにもならなかったら奏さんが助けてくれるだろう。だから大丈夫。
迫ってきているのは黒いもや。それが何なのか見えない。
「瑠璃、あれが何に見える?」
「黒い塊にしか見えないよ。・・なんか動きが動物みたいだけど」
そう言われればそう見えるけれど・・・
「危ないよ!」
私たちの上にどーんと大きなもやが飛んできていた。
「瑠璃!」
二人で一緒に地面に小さくなる。目を瞑って何か衝撃が来るのを待つけれど・・・
「・・・あれ? 痛くない?」
ついでに潰された感じもない。そっと目を開けてみると・・あたりが黒いもやに覆われていた。
「なんだろう?」
「彩夜、なんか私たちの近くだけ空間がない?」
手を伸ばして届く範囲くらいまでもやのない空間だ。どうなってるの? 奏さんが助けてくれたのかな?
『がーうー』
もやが動くと青い空がチラリと見えた。もやが乗っかっていただけ?
『があー!』
もやの手のような物が私たちの上に降りてくる。でも頭の少し上でその手は止まる。
何度も踏みつけるようにべしべしやっているけれど結果は同じだ。
「彩夜・・・私には可愛く見えてきたんだけれど?」
「うん。少しわかる」
何度やってもダメだとわかったのか拗ねてちょっと離れたところでゴロンとなって足をバタバタさせている。
「犬・・かな?」
「ほら、三角の耳があるよ。ふさふさの尻尾も!」
さっきより黒いもやの形がはっきりしてきた。
「触ってみたい・・」
隣で瑠璃が呟いた。触ってみたいって聞こえた気がしたけれど・・いやそんなことはいうわけがないだろう。
「彩夜、近づいてみても良いかな?」
「触りたいの?」
「うん!」
瑠璃ってすごい子なのかもしれない。
「だってふさふさだよ。あんな可愛い動きをするんだから大丈夫だよ!」
たまにチラッっとこちらをみてはまたゴロゴロしている。大きさを無視すれば可愛い犬だ。
「そうだね!」
私たちを囲うものから抜け出してみる。出てもあの犬は襲ってこない。大丈夫。
「瑠璃、ゆっくりだよ?」
「わかってる」
そっと二人でその犬に近づいた。
・ ・ ・
「二人ともすごいなー」
私、奏は近くの木からもやに近づいていく彩夜ちゃんともう一人の少女を見ていた。
「助けなんていらなかったねー」
あれをどうして可愛いと思うのか理解はできないけれど彩夜ちゃんは自分の力で解決しようとしている。
危険もなさそうだから私が何かする必要はない。
「自覚するのももう少しかな」
怪しまれないうちに流の元に戻らないといけない。
「でも・・よかったね」
彩夜ちゃんは良いお友達を見つけられたらしい。
読んでいただきありがとうございます。もう一話、投稿間に合いました。
今回は彩夜と瑠璃のお話でした。瑠璃の人柄がわかってきたと思います。
それと奏さんが動いているのが多い回でもありました。何をしようとしているのでしょうか?
次話も読んでいただけると嬉しいです。




