十四話 葵と屋敷6
遠くで蝉の声がする静かな空間にただペラペラと紙の擦れる音がする。
三人で探しているのに探し物はなかなか見つからない。
「! ありましたよ。これではないですか?」
葉が一番先に何か見つけてくれた。
「いつの?」
「麗華様が嫁がれてきた時の記録ですね」
麗華様はお母様のこと。それは呼び方なだけで実際はどうなのか知らない。
「おれでも読めそう?」
「読めないところがあったら言ってください。代わりに読みます」
葉が開いてくれているページを見てみる。
「えっと・・ーー家から?」
そこは不自然に塗りつぶされている。でもなんとなく元々書かれていた字の形は見えて・・
「藍にはこんな家なかったはずだから・・・葵とか紅のあたりの貴族?」
葵も紅も藍国と同じ国の呼び方。藍はおれの住んでいるところのことで葵も紅もお隣の国だ。
古い記憶を引っ張り出す。色葉に嫁ぐなら同じくらいか、上の方の貴族の家だろう。それくらいは教えられていた気がする。
「でも・・こんな感じの字の家無かったような・・」
「さすが結理様」
「違う、私の教育のおかげだな」
なんか偉そうにしている陸。確かに陸の教育のおかげだけど・・。
「てことは・・教えてもらってないってこと? お母様の実家なのに?」
「結理様が生まれる前に滅んだ家ですからね」
「・・待って、ここの消されてるところ。片っぽ葉の字が書いてあるように見えるんだけど?」
「そうだ。内乱で滅んだらしいが、色葉と並ぶ家だった」
「色は?」
葉の字が苗字に付けられている家は専用の色を持っている。
「紫でした」
色葉は青で他に緑や赤の家があったはずだから紫もあればちょうど良い。
「だから知らないのか・・・」
他国の資料なんてほとんどない。しかも今は滅んだ国の資料なんて見つかるだろうか?
「まあいっか。じゃあ、次は16年前のを探す。その時二人はいくつ?」
「7歳・・くらいか?」
「私は4歳ですね。もちろん記憶なんてほとんどありませんよ」
わからなかったら陸の記憶を頼るしかない。
「この辺りかなー」
結理様が生まれたことになっている年。ちょっとでも何か記録が残っているはずだけれど・・。
「! ほら見て、適当に開いたらそのページだったよ!」
「ぺーじ・・とはなんだ?」
そうだった。あれは外来語だった。陸達がわかるはずがない。
「そんなのはいいの。ただ一発で見つけれたよって」
「そうですね。よかったですね」
葉はなんか適当に言っている気がする。
「それで? なんて書いてあった?」
「第一子、第二子誕生・・・両方男児。双子ってこと?」
「そうだな」
双子なんて聞いてない。もう一人居たということだろう。ならそのもう一人はどこに行ったんだろうか?
記録なら付けられた名前も書いておいてくれたら良いのに。
他には何も怪しいことは書いていない。でも何か引っかかる。
「陸、葉、何かおかしくない?」
「・・おかしいと思っていても私たちが結理様に言うと思いますか?」
「自分で見つけろ」
二人とも協力してくれているけれど、事実を見つけて欲しいと思っていないのかも知れない。
他のページと比べながら見てみる。
「ここだけ色が違う?」
紙の色が少し違う気がする。他のところの紙より薄い色に見える。
墨の色も他と違うけれどこれは前のページで墨を使ってしまったのかも知れないし、証拠にはならない気がする。
「・・これって、まとめて書く? それともバラバラに書く?」
「一気にはかけませんし、わかった時点で記録するものもありますからバラバラに書きますね」
「じゃあ、閉じるのはいつ?」
「次の年にならないとわからないこともあるからな・・二、三年後に閉じるはずだ」
ならここだけ後で書き換えた可能性も出てきた。
「次はそれを調べますか?」
「十四年前」
妹の杏と華鈴が生まれた年でおれが生まれた年でもある。
「・・なんでこんなに14年前の記録多いの?」
他の年の二倍くらいの記録がある。
「大きな災害でもあったのではないでしょうか?」
「台風かもしれないな。そしたら作物の収穫量まで変わってきて記録が増える」
その中からほんの少しの杏達の記録を見つけるのは難しく見つけるのには時間がかかった。
・ ・ ・
「流さん、これからどうしますか?」
お昼ご飯を食べ終わり、その片付けも終わるとすることがなくなっていた。
普段ここで生活している人ならすることはたくさんあるだろうけれど、ここにいるのは他所の人ばかり。
「山菜とか取った方がいいんですかね?」
暑いからできるだけ動きたくない。現代にいればきっと扇風機の前で本を読んでる。でも何もすることのないこの時代ではそうはいかない。
「・・夏の山は危険ですからやめてください。蛇や虫だってたくさん出ますよ?」
「私、ちょっとその辺りを歩いてみたいです!」
瑠璃が横から顔を出してそう言ってきた。
「瑠璃、この辺りって山の中だから何もないですよ?」
「それでもいいです! 彩夜一緒に行きましょうよ。・・ちょっとだけ、ダメですか?」
瑠璃と散歩・・・ちょっと楽しそう。
「・・流さん、どうですか?」
今は流さんが保護者か見張り役のような感じだ。もし勝手に行ったらそれを流さんが結に伝えて、私は怒られる。
「私はすることがあるので・・、二人で行くならいいですよ」
「ありがとうございます!」
「ただし、遠くにいかないこと。必ず二人一緒に行動すること。危ない場所には近づかないこと。川にも入らないこと。いいですか?」
川には行きたいなと思っていたから少し残念だけれど、流さんは危ないからと言ってくれてる。仕方ない。
「あと、迷子にならないように木か草に印を付けながら進むようにしてくださいね」
「印ってどうやってつけるんですか?」
「私も知らないです」
「木なら刃物で傷をつけるか、草なら結び目を作っておけば、そこを通ったというのがわかるんです」
そんな方法があるなら迷子にならずに帰って来れそうだ。
「瑠璃、行こう!」
「はい!」
・ ・ ・
「暑い・・・」
今日もいい天気で、古くてエアコンのないこの家はとても暑い。
「成雨、何か冷たいものない?」
「燈依、自分で取りに行って。冷凍した果物なら入ってるから」
北の方の寒い場所で生まれた私には九州のこの暑さは苦手だ。ここにきてもう何回も夏を迎えるが未だに慣れない。
「こんにちはー、誰かいますか?」
光月ちゃんと宙くんが来たらしい。向こうだって私たちが家にいることくらいわかっているだろうから勝手に上がってくればいいのに。
「夏牙、行ってきて」
「嫌だ。今、勉強してる」
夏牙は今、私が学校からもらってきた数学のプリントをやっている。これくらいできないとこれから困る。彩夜ちゃんとも話が合わないと適当に言っておいたらやる気を出してくれた。
そのせいで夏牙は言うことを聞かなくなったけれど、ちょっと前の何もしないで居られる状態よりはいい。
「どうぞ。勝手に入って」
「はーい、お邪魔しまーす」
「こんにちは・・・あれ? 三人だけですか?」
二人は学校にいる時とは違う空気を纏っている。私としてはこっちの方が見慣れているから違和感がなくていい。
「あれは部屋に引きこもってる。桃はお出かけ中」
桃は見た目は高校生くらいの女の子でこれといって特徴はない。
でももう一人の部屋に引きこもっているあれは個性的で簡単に説明すると変人だ。
「あ、夏牙は勉強してるんだ。俺が教えようか?」
「何しにきた?」
夏牙は二人をあまりよく思っていないらしい。わかりやすく二人に対して壁を作っている。
「遊びに来たの。野菜のお裾分けも持ってきたよ」
「ありがとう。たくさん食べるのがいるから助かるわ」
「だれ?」
「夏牙とあの変人」
夏牙は成長期だからなのかよく食べ、変人は引きこもっているくせによく食べる。
元々家庭菜園である程度の野菜は買わずに済んでいたのに、何人も住人が増えたせいで買わないと足りなくなってしまった。
「そうだ! 夏牙、毎日畑の面倒を見なさい」
「どうして?」
「今は何を手に入れるにもお金がいるの。だから育てるしかないでしょう」
「わかった」
説明して納得すれば素直に聞いてくれる。そんなところは夏牙のいいところだろう。
「ねえ、光月ちゃん。彩夜ちゃんはどうしてるの?」
「元気っぽいよ。今は結理くんとあっちに行ってるみたい」
「みんなで都会に行ってきたんだって? それは?」
「えっと・・うまく仲良くできてたよ。お友達も三人できたみたい」
これから共同生活がなんとかという話を聞いていたから心配していたけれどそれなら安心だ。
「一人は彩夜ちゃんの妹だっけ?」
「妹がいるの?」
最近、家に来たと言う兄弟のことだろうか?
「実の双子の妹。まさかこんなに離れた場所にいたなんて・・・うまくいかないものだね」
「どこにいるんだろうとは思ってたけどな。早めに見つかってよかった」
「結理くんの弟も彩夜ちゃんの妹と一緒なんてラッキーだったよ」
「わざと・・なの?」
双子にわざとするなんてできるはずないが・・この二人ならやってしまうのかもしれない。
「・・・最初はそんなつもりなかったんだけどね」
「ならどうして?」
「それは言わないよ」
光月ちゃんと宙くんが役者向きで、ドラマに出ることになるくらい演技が上手いのもよくわかる。こうして何も知らないただの中学生を普通に演じているのだから。
「それより燈依先生、勉強教えてくれますか?」
今度はただの生徒のように振る舞うらしい。
「これくらいわかるんじゃないの?」
「えー、あの頃にはこんな難しいことすることなかったからわからないよ」
「あの頃だって俺は頭使うこと苦手だったから無理」
「古典の授業があれば良い点数取れるのに」
「ほら、早く宿題出しなさい。終わらないでしょう」
中学一年生程度の内容ならギリギリわかる。2年生の内容になったら学校なんて行ったことのない私にはもう無理だ。
「それより、ドラマの件で都会まで行った時のこと聞きたくないですか?」
「色々話しますよ?」
あまり彩夜ちゃん達に関われない今、彩夜ちゃん達の情報源はこの二人だ。
「・・どんなことがあったの?」
「聞かせてほしいなー」
夏牙も急に大人しくなって聞いている。
後でちゃんと宿題はさせようと思いつつ、今はそこであった事を聞くことにした。
読んでいただきありがとうございます。
久しぶりにポイントが増えました。ありがとうございます!
今回は彩夜の様子と結の事、そして燈依先生達のことも書いてみました。
燈依先生のところに名前だけ出てきている人がいますが、その人はもう少ししたらちゃんと出てくると思います。
次話も読んでいただけると嬉しいです。




