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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
四章 消えた過去
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十三話 葵と屋敷5

今回は短めのお話になっています。

最初は彩夜視点、そのあとはおじさん視点のお話です。


「これはなんですか?」


瑠璃が私の荷物を覗き込んでいる。持ってくるものは最低限にしているけれど、中にはこの時代には無いものも入っているから不思議なんだろう。


「どれのことですか?」


「入れ物です」


瑠璃が手に持っているのは小さな瓶に入った出汁だ。


「えっと・・・透明のところはガラスで、蓋は・・」


プラスチックはあるはずが無い。言ったらだめだ。


「なんでしょうね。私もあまり知らないんですよ」


良い感じに誤魔化しておこう。


「ガラスというのは何ですか?」


「えっと・・」


確か漢字でも書けて別の言い方をできるはずだけれど覚えていない。どう説明したら伝わるだろうか?


「こういう透明で硬くて、割れやすいものって見たことはないですか?」


「そういうものがあるとは聞いたことがあります。とても高級なものでは?」


「流さん、そうなんですか?」


「・・まあ、この辺りで見ることは無いものですね。外国から運ばれてこない限り見ることの無いものだと思います」


金属だって見ることの少ない生活の場所だ。壊れやすくて作りにくいガラスなんてないかもしれない。


「彩夜芽さん、柔らかくなりましたよ」


「じゃあ、食べましょう!」


うどんをザルに上げて軽くあらって鍋を皿代わりにしてその上におく。


「良いのですか?」


「多めに持ってきたのでどうぞ」


「では、いただきますね」


器に麺を入れてその上に出汁をちょっとかけ、混ぜて食べる。


「美味しいですね」


「紫蘇もどうですか? 多分合いますよ?」


その辺に生えていたから摘んで持ってきた。


「私は貰いますね。瑠璃さんはどうですか?」


「最初はこれだけで食べたいです。段々味を変えるのを楽しみたいので」


「瑠璃は紫蘇、食べれるんですか?」


「食べれますけど?」


年は変わらないように見えるけれど、大人だ。


「私は・・香りと味が苦手なんです。爽やかといえばそうですけど、癖があるじゃないですか」


「そうですね。良さがわかるようになったのなんて最近ですね」


「子供の頃は苦手ですよね」


のんびりとしたお昼ご飯。


何でもないようなことを話しながら、ゆったりとした時間が過ぎていった。





     ・      ・       ・





「今日も暑いなー」


小さくてボロい店だから風通しはいいけれど、今日は吹く風もむわっとしている。


「おじさーん、これ下さい」


お使いに来たであろう小さな子供がやってくる。


「頼まれたのはこれで合ってるか?」


「うん!」


落とさないようにその子供が持ってきていた布で包んでから渡す。


「ありがとう!」


暑いのに元気に走って行く子供の姿を見ると自分の歳を感じる。


「若いなー」


「そういうおじさんも、見た目の割に随分若いじゃないですか」


「うるさい」


何のためにこんな見た目をしているかなんていつも何となくあれこれ言ってくる若いのにはわからないだろう。


「今日、赤に行かせていた三人が帰ってきますよ」


「どんなお土産を持って帰ってくるか・・」


「菓子なんてどうですか?」


ここは表は子供がお使いに来るような普通の店だけれど、裏は情報屋だ。


赤はとある地名を隠した言葉で、菓子だってあの甘い菓子のことではない。


「こんにちは、今いいですか?」


やって来たのは、傘を被った随分綺麗な服を着た二十代くらいの女だ。


一人だろうか? こんな客が来るのは珍しい。


「どうぞ」


店の表からは見えない場所に案内する。


「そうだ、山にでも行ってこい」


店に居た若いのは追い出して客と二人きりになる。


「どんな御用件で?」


情報を買いに来るのはそれなりの立場があるやつだ。だからそれなりに丁寧な言葉を使っておく。


「情報が欲しいわけじゃないの。ただ・・結理のことを聞きたい」


「どなたのことでしょうか?」


結理はあの青髪のことだ。どうしてあんな端っこの小さな村に住んでいるあいつのことを聞きに来るのだろう?


「知ってるでしょう?」


ここはお金さえもらえれば何でも売るような情報屋ではない。客を見てからその使い道次第で売るかどうかを決めている。


どんな客であっても、青髪のことは売れない。


「君は信頼できるね」


「?」


「ねえ、私のこと見覚えない?」


風でふわっとその女の来ていた羽織がめくれた。羽織の下から覗く着物は・・


「失礼いたしました」


咄嗟に膝をついた。


「あー、そういうのいいから楽にして」


「はい」


どんな立場の人だったかは覚えていない。でもこの人は絶対に逆らってはダメな人だ。


「奏って、あの子の口から聞いたことは無い? それが私なんだけど?」


「・・貴女さまのことでしたか。ご存知だったとは思いませんでした」


「あの子を助けたのもあの村に隠したのも私だよ」


それなのに俺は存在を向こうに教えてしまった。それを怒ってここに来たんだろうか?


「色々、面倒見てくれたみたいだね。ありがとう」


「町に来たときに少し話していただけです」


「あの子のことを一ノ宮家に教えたのはあなたでしょう?」


「・・社会の厳しさを知っていますから」


子供でなくなったときにどうなるか良く知っていた。だから賭けのようにしてあいつのことを教えた。


「・・君たちも結理と似たようなものだったね」


どうしてこの人はここまで知っているのだろう?


「来たのはね、一つお願いがあるの」


「何でしょう?」


「別の場所で店をして欲しいの。場所はちゃんと私が用意する。もうこの場所にこだわる必要はないでしょう?」


あれから何年も経っている今ならどこでだって店を開ける。


「理由を聞いても?」


「影であの子を助けて欲しいの。君は自分とあの子を重ねて見て見捨てるなんて出来ないはず」


「あれはただの客で・・」


この人がどんな立場なのかわからない以上、大事なことは誤魔化して返事をするしかない。


「でも、あの子の正体をわかった上で今まで隠していたでしょう? ここにいる仲間だって、全員ちゃんと成人するまで育ててる」


「全員ではありませんよ。まだちびも何人もいますから」


あれからまだ8年ほどしか経っていない。もう8年という気持ちもあるけれど、ちびたちが大人になりきる時間は経っていない。


「・・じゃあ、考えておいて。また来る」


「はい」


ふわっと強い風が吹き・・・


「あれ?」


いつの間にかそこにいたはずのあの方の姿は消えていた。









読んでいただきありがとうございます。

区切りのいいところで切ったのでちょっと短くなってしまいました。

今回は彩夜達ののんびりとしたお昼のお話を最初に書きました。結の方がのんびりふわふわ感が少ないのでちょうどいいかなと思います。

そのあとは久しぶりに登場したおじさん視点のお話です。

今回のお話で少しおじさんの正体に近づいて来たのではないでしょうか?

次は結視点のお話になると思います。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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