七話 夕食2
文章は少し書き直しました。内容は変わってません。(R4 9月18日)
「なんでもないよ」
「いいよ、気つかわなくて」
そう言われても気を使わないようにするのも難しい。
「ここに来たばっかりの頃は寂しかった。まだ7歳だったし・・けどもう慣れたから」
「そうなんだ・・」
結は淡々と山菜をぶちぶちと摘んでいる。記憶を無くす前、ここに来る前に何かあったんだろうか?
「覚えてないからわからないけど・・時々理由がわからないのに『これは嫌だ』とか、知らないはずの事をすらすら言えるんだ。不思議だよな。気づいたら知らない場所に一人で立っててそれを桜が見つけてくれたんだ」
それが2人の出会い
「困ることなんてないし昔の記憶はいらないかな。・・思い出したくないって思うから」
辛い記憶だったのならそれでよかったのかもしれない。そのほうが幸せだろう。
「結は桜さんと仲良いよね」
「拾ってもらってから1人で生活できるようになるまではせわしてもらってたし・・姉みたいな感じ?」
姉というにはどこか壁があるように見えるのは気のせいなのかな。
「あっ、早く材料取らないと日が暮れるよ」
「うん」
山の中を慣れたように歩いていく結をついていく。
見上げるとまだ若い葉っぱの間からの木漏れ日、飛び回る小鳥の影が見える。
「あった。これは食べやすいよ。比較的癖がない」
「えっとー、まるくてふわふわ」
見つけたら一つ一つ山菜の特徴を覚えていく。やくに立てるように一つでも多く山菜を覚えたい。
「これは少し苦いかな」
「ちょっとギザギザ?」
「あと・・・これとこれ」
なにこれ? どれも似てる。どれがどれだかわからない。覚えようとしているうちにも結は次の場所へ行ってしまうのを追いかける。
「次はきのこを、えっと・・これ」
「食べれるの?」
きのこは毒を持っているものもあって危ないと聞いたことがある。何もわからない私が摘んで大丈夫なものだろうか?
「これは食べれる。でも似てるのがあって、そっちは毒あるから気をつけて」
きのこは難しい。どれも茶色でよくわからない。
「あっ、しいたけ」
これはわかる。スーパーでよく見かけるえのきやしめじもあるのかな?
「しいたけはわかるんだ」
「うん。家で育ててるの」
「そうなんだ。あっ、危ないから勝手に遠くに行かないように」
「はーい」
小さい頃から裏山で遊んでいたから少しくらい離れても大丈夫だろう。
「わぁー」
すごく大きいきのこがいくつも生えている。しいたけ? ちょっと色がしいたけより薄いような気も
するけど美味しそう。
「結、見つけたよ」
「どれ?」
少し凹んだところに生えている。 結のところからは見えないのかな?
プッチと取って上にあげた。 これで見えるかな?
「ほらー、大きいでしょ」
「! 彩夜、それはなせ」
「え?」
どうして?と首をかしげていると結が走って私のところに来て持っているきのこを奪い、投げた。
「なんで?」
「早く、こっちだ」
手をひかれ近くの川まで連れて行かれた。そして川の中に手を突っ込まれた。
「早く手洗って! えっと薬草は・・」
とりあえず言われた通りにする。何かダメなことをしただろうか?
「どうして投げたの?」
「あれは毒きのこ! 触ったら赤く腫れる」
そういえば結の手が赤くなっている。椎茸にしか見えなかったのに。やっぱりキノコ取りは危険だ。
「結も手洗って!」
「あれ? もう赤くなってる」
私が勝手に動いたせいだ。
「ごめんなさい」
「大丈夫。薬草貼っとけば治るから」
「・・でも」
「彩夜、手どうもなってない? おれより触ってた時間長かったよな」
そういえばなんともない。自分の手をじっと見つめてみてもいつもと変わらない。でもどうして私だけ?
「大丈夫みたい」
「よかった」
「触る場所によって違うこともあるらしいから・・・今度からは気をつけて」
「はい」
やっぱりまた怒られてしまった。私が悪いから仕方ない。
「勝手に色々触らない事。おれのそばから離れない事」
すぐに心配するところなんかはお兄ちゃんによく似てる。
「猪出ることもあるからな」
結は赤くなった手に薬草を乗せ上から布で巻いている。けれどうまくいかないようで・・・
「私がしようか?」
「できる?」
「うん。できたよ」
それなりに手先は器用だからこういうことならできる。
「ありがとう。じゃあ行こうか」
「うん」
結は私より歩くのが早い。それに頑張ってついて行っているうちに・・
「あっ」
べちゃっと転けてしまった。痛い。木の根につまずいたらしい。
「大丈夫か?」
「うん」
落ち葉のおかげで怪我はない。
「あー、よごれちゃった」
着物が落ち葉だらけになってしまった。パタパタと払うと思ったよりすぐに落ちた。
「危なっかしいなー、ほら」
結が手を出してくる。手を繋ぐってこと? 結の手に私の手を乗せてみた。
「これでどっか行かない。安全だな」
ぎゅっと手を繋がれた。これで合っているらしい。でも少し気に入らない。
「私そんな子供じゃないよ」
「まだ子供、おれだって子供なんだから」
こう言われては反論できない。
「もう」
「はいはい。ふくれないで」
一つ歳上なだけなのに子供扱いするのは嫌だけど、こんななんでもない会話が楽しかった。
「ほら、しっかり掴んで」
手を上から結に固定されてそれから手を離すことができない。
「んー、ヌルってする。こっち見てる」
独特の感覚がとても気持ち悪い。どうして動く? どうなってるの?
「ちゃんと見て。ここに手を入れて」
「見るのは無理!」
どうにか出来ているけれど手元は見ることができない。とてもそれと目は合わせられない。
「次は引っ張る」
「どう? できた?」
手元のまな板の上を見れば頭がなくなった魚がいた。魚を捌くなんて初めてでここまででもうぐったりだ。
「まだあるからな。次は内臓を取る」
「えっ?」
さすがにそれは・・・ここまでは手でやっていたけれど包丁を使いますよね?
「ひっぱれば簡単に取れるから」
「あの・・・結、私もう頑張ったよ」
「うん。やってみようか」
今無視したよね? 私なりに精一杯やりたくないを表現したつもりだったのにこんな笑顔で『やってみようか』なんて・・
「まずこうして」
「待ってよ! そんないきなり」
結が後ろから私の手を掴んだ。逃げられない
触ったことのない今までよりもさらにヌメっとした感触が・・・・・半泣きになりながらどうにか終わった
「嫌だ。もう二度とやりたくない」
「大体、彩夜が内臓は苦いから嫌いって言うからだろ」
「そうだけど・・・」
ああいうのは苦手だからしょうがない。でもお肉を料理するのよりはマシだった。
「彩夜、次は野菜切って」
「はーい」
言われた通りに切っていく。家の中にはトントントントンとリズムのいい音と、トン・・・トン・トン・・トンと全くリズムのない音が響いている
もちろん私がリズムのない、ゆっくりな方で・・
「ほら、手動かして」
毎日料理をしているから当たり前なのかもしれないけれど結の手際が良すぎる。
「結、早すぎる」
「今日は遅いほうだけど? さすがに手が少し痛いし」
そうだった。結は右利きで毒キノコのせいで腫れたのは右手だった。
「それで遅いの?」
「毎日やってるし・・慣れたら速くなる」
それならいつもはどれだけ早いのだろう? 確かに私はお兄ちゃんがあんまり包丁をさわらせてくれなかったからあんまり料理の経験はないけどちょっと悔しい。
「はい、次はこれ」
「どんな風に切ったらいい?」
「さいの目切りで」
「・・・わからない。どういう切り方?」
家庭科で習った様な・・でもテストの前にちょっと覚えただけで今まで必要なかったからすぐに忘れた気がする。
「こんな風に」
結が実際にやってみてくれた。サイコロ型に切るっていう意味だったらしい。1センチ角くらいに・・・
「出来た」
「・・・うん、まあ四角だし・・うん」
私のは大きさがバラバラなのに結のは綺麗に四角で同じ大きさ
「・・練習すればできるようになるよ・・多分」
フォローされると余計に悲しくなる
「んー、彩夜にはお兄さんいるんだろ。お兄さんには勝てるんじゃない?」
首を横に振る。私のお兄ちゃんは完璧なのだ。優しいのはもちろん家事も勉強も完璧にこなす。
「あ・・・次は火起こそうか」
「うん」
この時代、ライターは無いよね。もしかしてマッチすら無い?どうするんだろう?
「まずは薪を囲炉裏に入れて」
「うん」
山のような形になるように積んでいく。いつかテレビで火おこしのコツで見た。
「火はどうやってつけるの?」
「どうしようか・・」
なぜか結は私のことをじっと見ている。私に聞かれてもマッチでつけるくらいしかやり方を知らない。
「彩夜、これから見ることは誰にも言わないでほしい。いいかな?」
「?・・うん」
「言ったらこの村から追い出される」
「えっ!」
なにをする気なんだろう? とっても危険なこととか? でも結に限ってそんなことはしないだろう。
「見てて」
パッと蝋燭の火くらいの大きさの火が結の手の上に浮かんでいた
「わぁー! すごい」
「・・・やっぱり彩夜は喜んでくれるんだ」
「だってすごいよ」
どういう仕組みなんだろう? どうして火がつくの? 浮かんでるの? 手熱くないのかな?
「一本枝取って」
「はい」
結が手の上の火に渡した枝を近づけると枝に燃え移った。
結はそれを囲炉裏に落としてつつきながらどんどん火を大きくしていく
「すごい」
陽が傾いて暗くなってきていた部屋が明るくなった
読んで頂きありがとうございます
2日続けて書くことができました。
これから何話かはこのようなほのぼのした話が続く予定です。
次話も読んでいただけると嬉しいです