四話 裏
「結、ただいま」
「おかえり、話せた?」
結はまだ机に向かって勉強?をしている。
「うん。あ、お菓子食べてる! 私にもちょうだい」
さっき持ってないと言ってたのに!
「もういい時間だけど?」
「ちょっとだけ」
「おれのだからダメ」
「ゆーいー!」
「ダメ、台本覚えるか宿題するならあげるけど?」
こんなところがお兄ちゃんに似てきた。
「秋翔くんに宿題をさせておくように言われてるから」
「嫌だ」
宿題なんてやりたくない。台本を覚える気にもなれない。
「大体なんで宿題なんかしないといけないの?」
「えっと・・学力向上?」
「学力なんて今のままで十分なの」
「提出物として成績に関わってくるから?」
「成績なんか悪くていい」
結からこんな普通な答えが返ってくると思わなかった。
「・・彩夜、おれは成績なんかどうでもいいよ。でも彩夜はこっちで暮らしていかないといけないんだから・・悪くて困るのは彩夜じゃないの?」
結はこっちで暮らしていくなんて絶対にないから成績なんかどうでもよくて私はここにいないといけないから成績が悪いのはダメ。そう言いたいのだろう。
「悪くてどうなるの?」
「よく知らないけど・・行きたい高校に入れないとか?」
「学校なんか行きたくないし」
「彩夜・・・ねえ」
「なあに?」
「彩夜も大変だな」
も? 別に私に大変なつもりはない。
「もう眠い。おやすみ」
そこにあったベットに横になる。
「え、彩夜、待って!」
結が何か言っていたような気がするけれど目を閉じるとすぐに眠ってしまった。
「彩夜ー、ねえ、起きて!」
疲れていたのかすぐに眠ってしまった。もちろん何を言っても聞こえてない。軽く揺らしてみるが反応はない。
眠ってしまう前にちゃんと止めたのに聞いてくれなかった。ここはおれ達が泊まる部屋なのに・・。
「隣の部屋まで行ってから寝てよ・・・」
隣ではまだ女子会があっているだろう。彩夜を運ぶことはできる。でもそんなところに彩夜を運んでいくなんてできない。眠ってしまったと光月ちゃんに伝えにいくのも難しい。
「あ」
携帯を取り出して宙に電話をかける。
『結理、どうかした?』
「今どこ? 外に出てるだけならすぐに戻ってきて、これどうにかして」
『何かあった?』
「いいから早く!」
「わかった」
宙に聞けばいい方法が見つかるかもしれない。
宙はすぐに部屋に戻ってきてくれた。
「どうしたの?」
「見ればわかるって」
扉はすぐに閉めて困っている原因を見せる。
「? 何があった? え? 結理が?」
「おれは何もしてないし・・いや、宿題したら?とは言ったけどそしたら彩夜は『嫌だ!』って言ってそこで寝ちゃって・・・どうしたらいい?」
こんなところを誰かに見られれば面倒なことになる。
「えー・・彩夜ちゃんが?」
「ちゃんと寝る前に止めたのに。思いっきり揺すったら起きるかな?」
「・・・それって彩夜ちゃんの機嫌がすごく悪くなりそうじゃない?」
朝だってなかなか起きてこない彩夜をたまに起こすことはあるけれど本当に眠かったりした時はその後荒れる。起きているのに布団から出てこない時もある。
「・・じゃあどうしたらいい?」
「このままにしておく?」
「それはダメだって」
「二人なら運べる?」
「彩夜って軽いからおれ一人でも運べたけど」
「運んだことあるの!」
「一回だけ」
倒れた彩夜を運んだことがあるけれど・・運べても、いくら隣の部屋と言ってもできれば運びたくない。
「宙、もし見つかったらどうなる?」
「何してるの?ってなるよな。じゃあ、俺たちどこで寝る?」
椅子はあるけれど小さい。ベットに二人は並ばない。布団だったらいけたかもしれないけれどベットは無理だ。
「・・・」
「じゃあ、俺がみーちゃんのところに行くから、結理は・・」
「光月ちゃんに蹴られても知らないからな」
「蹴りで済むかな? やっぱり起こすしかない?」
彩夜は夏休み前に誕生日が来ているから今は13歳、のはずなのにこんなにふわっとしている。
「おれのこと兄と思っているのかな?」
「そうかもね。・・・そっちの方が都合がいいところもあるんじゃない?」
「そっちがいいかなとも一時期思ってたけど今は嫌だ」
そんなことより今はこっちだ。
「あ、いいこと思いついた」
「宙、なに!」
「そこの空いてるベットに寝て」
「なんで?」
「いいから」
宙なら何か良い考えがあってのことだろうと言われた通りにする。
「? こう?」
「そう。じゃあ、おやすみ」
宙はニコッと笑っていて・・急な眠気が襲ってきてすぐに夢の中に引きずり込まれた。
「彩夜ちゃん、もう戻ってきたら・・あれ?」
光月は部屋を見て状況を確認した後、俺をしっかり睨んできた。
「二人は寝ちゃったんだよ」
「・・どういうつもり? 結理くんは宙が眠らせたってことはわかってるんだからね」
「なんのこと? それより俺が寝る場所がなくて」
光月を引っ張って隣の部屋に行く。あれ? 大人しく着いてきてる。
そしてちゃんと扉を閉めてから振り返ると・・
「宙」
「・・・」
怖い。久しぶりにこんなに怖い笑顔を見た気がする。
「私は藤光月、あなたは白崎宙、それはわかってる?」
そんなのわかっている。
「光月・・ねえ」
「なに?」
「ちょっと話そうかと思っただけで・・」
「都合がいい時ばっかり。私達まだ中学生で13歳、私は宙なんかどうにでもできるしベランダから返せばいいけど彩夜ちゃん達が困るでしょ?」
「たまに二人っきりになるくらいダメ?」
「ここまでしなくていいじゃん」
向けられる目が怖いものではなくなった。
「ベランダから帰れって? 危なくない?」
「落ちれば?」
ここのホテルの部屋の鍵は扉が閉まると勝手に閉まるようになっている。俺は部屋に鍵を置いてきてしまった。だから部屋に戻るならベランダから帰るしかない。
「冷たい」
昔より俺に対する当たりが強いのは気のせいだろうか?
「あなたはずるい。今は私しかいないからって・・・他の人ばかり見てた時期を知ってるんだから」
ただの13歳がすることのない、とても冷たくて氷のような目をしている。
「あれは・・そうじゃなくて」
誤解してたのは知っている。知っていてそのままにしたのだから俺が悪い。今更違うと言っても聞いてもらえないだろう。
「宙、一回ベランダに出て」
「え・・はい」
ここは言われた通りにしないとなにをされるかわからない。
「出たけど?」
ガラッ・・・窓が閉められた。
「光月! みーちゃん! ごめん、俺が悪かった。だから・・」
「おやすみ!」
今日で一番の笑顔で言われてしまった。カーテンも閉められて・・
「はあー」
ため息をついて冷たい床に座り込む。今夜はどうしようかと考えながら。
できれば隣に飛び移るなんてしたくない。隣に行っても中に入れるかわからない。
窓の鍵が閉められていないことに気づくのはもう少し後のことだ。
読んでいただきありがとうございます。
今回は前回の後のお話です。書いていたら思ったよりも長くなっていました。
次話は次の日のお話です。彩夜はいつ隣の部屋で寝てしまったことに気づくのでしょうか?
次話も読んでいただけると嬉しいです。




