三話 双子3
「はあー」
手にある冊子を見てため息をつく。同じような声があちらこちらで上がっている。
もしくはもう諦めたのかぐでっとしていたり、ほんの一部が一生懸命覚えようとしていたり・・。
「無理だよー」
「疲れたのに」
「やだよー」
長い長い説明があった上に最後に明日までにオーディションの内容を覚えなさいと言われてしまった。
そして今は夕食前、そんなみんな一緒の場所にいるからこの部屋はどこか暗い気がする。
「彩夜芽ちゃんは暗記は得意?」
「苦手、彩夜乃ちゃんは?」
「とっても苦手。だからまた優斗に手伝ってもらわないと」
夕食の席は学校がバラバラになるようにしていあるらしい。四人席のうち二人は人はたまたま彩夜乃ちゃんとあおいちゃんだけれどもう一人は知らない人だ。
「ねえ、椿さん」
あおいちゃんに話しかけられた。
「よかったら、名前で呼んでくれる?」
「いいの?」
「うん。私はあおいちゃんって呼んでいいかな?」
どうせ私は椿さんではない。苗字で呼ばれるのは慣れていないから名前で呼ばれた方がいい。
「いいよ。ねえ、彩夜芽ちゃんと彩夜乃ちゃんってそっくりだけど・・双子なの?」
「そうなんだよ。でも彩夜芽ちゃんは育ててくれた人から聞いてなくて知らなかったんだって」
やっぱり彩夜乃ちゃんは他の人と仲良くなるのが早い。
「そんなことってあるんだね」
「あ、彩夜芽ちゃんはどこに住んでるの?」
「九州」
「私は中部だよ。こんなに離さなくてもよかったのに」
確かに九州と中部だときっと環境のずいぶん違うだろう。九州は島だからか中学生なんて九州から出たことがない人もそれなりにいる。だから今まで会うことがなかったのかな?
「あおいちゃんは中国地方だったよね」
「うん」
「そうなんだ! あったかいとこ? 寒いところ?」
「瀬戸内海に面してる方だからそんなに寒くはならないかな。雪もあんまり降らないし。九州はどう?」
「日本海側じゃなくて・・どちらかといえば南の方だから滅多に雪も積もらなくて」
「ねえ、奥山さんは?」
名前も知らなかったもう一人の人に彩夜乃ちゃんが話しかけた。長い髪で眼鏡でとてもおとなしそうな人だ。
「えっと・・私は東北なのでとても寒いです。夏もそんなに暑くないので・・こっちは暑いなって思ってます」
奥山さんとは仲良くなれるかもしれない。
「私も冬は雪がすごいところに住んでるからわかるなー」
雪がいっぱいなんて楽しそう。
「そんなにすごいの? 雪だるまが何個も作れるくらい?」
「もう雪だるまを作ろうなんて気になれないくらい降りますよ」
「そうそう。雪かきしないといけないくらいだから。作っても次の日には雪の中かも」
私とあおいちゃんには想像できないほどに降るのだろう。
「・・・よければ私のことも名前で・・夢羽と呼んでください」
「むうちゃん?」
「はい」
「敬語じゃなくていいよ。ねえ、むうってどんな字書くの?」
「夢に羽で夢羽」
あまり聞かない名前な気がする。
「私はあおいってひらがなで普通だけど三人は珍しいよね」
「大体名前見て驚かれるかな?」
「書くのが大変」
「夜がいらないなって小さい時は思ったなー」
「なくても『あや』って読めるもんね」
今では良さもわかるけれどそれのわからない頃は名前を書くのが難しいのはただ面倒だった。
「ねえ、都会ってやっぱりすごいって思わなかった?」
あおいちゃんが真剣な顔をして聞いてきた。
「わかる! 私が住んでるのって県の中では都会だけどあんな10階建てを超えるビルなんてほとんどない場所だから」
「私は目の前が海で後ろは山の場所に住んでるからもちろん田舎だよ」
「私も」
「私が住んでるのは山の方なのでもちろん田舎ですが・・冬は真っ白なの」
夢羽ちゃんも仲良くなれそう。
「夢羽ちゃん」
「はい?」
「その・・暗記は得意?」
「自信があることって少なくて・・考えて答えを出さないといけない勉強は苦手だけど暗記だけは得意かな?」
まさかこんなところに暗記が得意な人がいるなんて!
「コツを教えて! 苦手なの!」
「私も! 優斗に迷惑ばっかりかけられないからお願い!」
「私もほのかちゃんにいっつも頼ってるの。だからお願い!」
「私でよければ」
少しずつみんなと仲良くなれればいいなー
「ゆいー、疲れたよー」
結は台本を覚えている。そんなところを邪魔して話しかける。
ここは結と宙の泊まる部屋だけれど宙はいないし少しくらいふにゃっとしてもいいだろう。
「・・なんでここに来たの?」
「だって・・部屋にたくさん人が来てるから」
みーちゃんが仲良くなった人が早速遊びに来ている。元気な人が多くて入っていけなくてここに逃げてきた。
「なんか携帯が何回もなってたけど?」
「知らない」
どうせお兄ちゃんとかだろう。なんとなく見たくない。しばらく話したくない。
「秋翔くんだと思うけど?」
「わかってる!」
わかっていて嫌だと言っているのに。
「メールだけでも見たら?」
「嫌だ」
「宿題したら?」
「嫌だ」
今はそんな気分じゃない。
「台本覚えたら?」
「嫌だ」
もう疲れてそんなことできない。
「お菓子食べる?」
「食べる」
「ちゃんと聞いてるんだ」
「お菓子ってなに? 甘いの? しょっぱいの?」
「言ってみただけ」
「・・・」
無いなら持ってるみたいなことを言うのをやめてほしい。
「どうだった? 仲良くなれそう?」
「うん。彩夜乃ちゃんと、あおいちゃん、夢羽ちゃんと話せたよ」
「よかった」
「結は?」
「なんの話をしていいのかわからない。ゲームの話とか色々・・・よくわからないけど、なんかうまくやっていける気がする」
結がニコッと笑った。なんか楽しそうでよかった。
「私、彩夜乃ちゃんのところに行ってこようかな?」
「・・いいんじゃない? まだ外に出てもいい時間だし」
「うん。そうだね」
出ていい時間まであと30分もないけれど・・いいかな?
彩夜乃ちゃんもみーちゃんみたいに誰かと一緒にいるかな?
「行くんだよね? いってらっしゃい」
「行ってきます」
そして・・・彩夜乃ちゃんの部屋までたどり着いたけれど・・・・。
どうしよう。やっぱりやめようか。扉の前を行ったり来たりする。
「あれ? 彩夜芽ちゃん?」
「え?」
彩夜乃ちゃんが後ろにいた。私と同じ金色の髪。
「ちょっと飲み物買いに行ってたの。こんなところでどうしたの? 部屋がわからなくなった?」
「彩夜乃ちゃんに・・時間があるから・・・会いに・・・」
ぎゅっと抱きつかれる。
「彩夜乃ちゃん?」
「彩夜芽ちゃんがそう言ってくれて嬉しい! そっちでお話ししようよ!」
「うん」
テラスのようなベランダのような庭のようなところにあるベンチに二人並んで座る。
でも何を話せばいいんだろう? 何も考えてなかった。
「あのね、本当にごめんね」
「もういいよ。・・髪、そのままにしてるんだね」
「うん。だってこれからみんなで暮らすことになるんだし、見せてもいいかなって。目はコンタクトまだ取ってないけどね、明日は取るつもり」
私ならできるだけ隠しておきたいと思うのに。
「私・・空気を読んだり人の気持ちを考えるのが苦手なの。いっつも優斗に言われてからダメだったって気づいて」
「私はね、人に合わせるのが苦手。知らない人と話すのも苦手。たくさんの人の輪に入ったり・・だからドーンって色んな人のところに行ける彩夜乃ちゃんはすごいって思ったの」
「私は彩夜芽ちゃんが・・大人っぽくて、私にはできないことをできてすごいと思う」
「そうかな?」
双子でもできないことは違うらしい。
「じゃあ、二人で居たらうまくやっていけるかな?」
「そうかもしれないね」
できないことが違うなら二人で補えばいい。もしも一緒に育っていたなら助け合ってしたのかもしれない。
「私、泣き虫なんだ・・」
「私もだよ。一緒だね」
お互いのことをあまり知らない。だから・・
「あのね、私・・・伝えるのが苦手なの。だから、彩夜乃ちゃんを困らせるかも。なんというか・・・思ってることはあるけどうまく言葉にならなくて」
「私もそんなことよくあるから大丈夫。そういう時は優斗に通訳してもらうの」
「優斗くんと仲がいいんだね」
「私がいる家はお兄ちゃんが二人いて、少し歳が離れているの。幼稚園生の時に優斗がうちに来て、同い年で私のこともわかってくれる。嬉しかったんだー」
兄弟ではなくても兄弟にはなれる。そしたらお兄ちゃんとも結ともこれからもうまくやっていけるのかな?
「ねえ、本当の親のことって知ってるの?」
「ほとんど知らない。でも、誕生日の数日前にお母さんに手紙を書くの。そしたら誕生日に一言『誕生日おめでとう』って書いた手紙とちょっとしたプレゼントが届くんだー。育ててくれてるお母さんはお母さんが誰なのか知ってるけどお母さんとの約束で秘密なんだって」
だからおばあちゃん達も隠していたのかな?
「お父さんはね、私たちの存在を知らないんだって。育ててくれてるお母さんも多分あの人が私たちのお父さんだろうってなんとなくわかってるみたいだけどお母さんから聞いたわけじゃないみたい」
そんなことってあるのかな? お母さんはなんで会わないんだろう? プレゼントが届くなら嫌っているわけでは無いだろうし・・・・。お父さんの方は色々事情がありそうなのはなんとなくわかるけれど。
「私ね、お母さんに見にきて欲しくて演劇部に入ったの。直接は会ってくれなくても舞台の私なら見てくれるかなって。有名になったら会いに来てくれるかなって思ったの」
空を見上げると星がキラキラしている。今日は月はないらしい。
「彩夜芽ちゃん、綺麗だね。・・・私、雪景色が好きなの。真っ白でキラキラでとっても綺麗なんだよ」
「真っ白になるくらい雪が降ったの見たことないから見てみたいな」
「楽しいよ。雪合戦し放題」
雪合戦なんてしたことがない気がする。雪だるまを作れば近くに積もっている雪はすぐになくなってしまう。
「私は・・・夜空より朝と夕方の空の色が好き。だんだん変わっていくのが綺麗」
「わかるなー。ねえ、彩夜芽ちゃん」
「なあに?」
「・・・もういい時間みたい。また明日・・だね」
「うん」
彩夜乃ちゃんにぎゅっとされる。
「・・もっと早く会ってこうしたかった」
背はほとんど変わらないらしい。
「そうだね」
「私達、双子だよ。生まれるまではこうやって隣にいたはずなのにね」
「うん」
読んでいただきありがとうございます。
今回も新キャラが出てきました。奥山夢羽ちゃんです。まだはっきりどんな人物になるか想像できていないのでどうなるのか楽しみです。
双子のお話は今回で区切りがいいので終わりです。彩夜乃と彩夜芽は仲良くなっていきそうですが家族の問題はまだ秋翔とのことが残っています。そのお話はもう少し後になりそうです。次はこの回に入りきらなかった短いお話になる予定です。
次話も読んでいただけると嬉しいです。




