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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
三章 青春
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二十五話 花火の終わり


 「終わったね」


 「早いー」


 花火なんて終われば夜空には白い煙しか残らない。


 「帰らないとね」


 「そうだね」


 「あのさ、話があるんだ」


 宙がいつもと違う声で言った。


 「なに?」


 「どうしたの?」


 「俺、・・・一学期が終わったら引っ越す予定なんだ」


 風が吹いて葉の揺れる音がする。不思議ととても静かでその音しか聞こえない。


 「そっか」


 引っ越しなんて子供にはどうしようもない。


 「宙。でも、片方のおじいちゃん家はこっちなんだからたまには来るでしょ」


 「・・・多分」


 「うん。わかった。そっか」


 みーちゃんが下を向いて元々握っていた私の手をさらに強く握った。


 「でも、あの・・ドラマの話が進めば俺はここに残れるかもしれない。部長に聞いたら残れるように話をしてくれるって」


 「え・・そうなの?」


 「どうなるかはまだわからないんだけど」


 「うん。じゃあ、私からも何か言ってみようかなー。どうしたらいいかな〜」


 あれ? みーちゃんの顔がパッと明るくなった? そのまま楽しそうにみーちゃんと宙は二人で話している。


 「結、・・二人はそのままにしておいた方がいいの?」


 なぜか、声をかけづらい。


 「じゃあ帰ろうか」


 「うん。みーちゃん、宙、じゃあね」


 やっぱり二人は聴こえていないみたいだけれど・・・いいか。


 「結、夜ご飯は何かな?」


 「秋翔くんが何か作ってるんじゃない?」


 「味噌汁がいいなー」


 「俺は・・普通にいつものご飯が食べたい。最近ゆっくり食べる暇もなかったからのんびり食べたいかな?」


 





 「ただいまー」


 「・・・あれ? 静かだし・・誰もいない? 秋翔くんもいない」


 玄関は空いている、電気も付いているのに誰もいない。


 中に入って確認しても誰もいない。


 「彩夜・・・誰か料理をしてたみたいだけど・・」


 野菜がまな板に乗ったまま放置されている。そのうち半分はもう切ってある。


 どうしたんだろう? 花火の時間になって慌てて出て行ったのかな?


 「・・・ご飯できてないね」


 出ている鍋の蓋を開けたり冷蔵庫を覗いてみるがなにも入っていない。


 「じゃあ作る?」


 「うん!」






 

 「ただいま」


 「おかえり・・・ご飯できてるよ」


 なんか人数が少ない気がする。お兄ちゃんはいない。おじいちゃんとおばあちゃんもいない。お父さんとお母さんもいない。そして帰ってきたのは弟妹達が三人だけ。一人足りない。


 やっとご飯が食べれる。でもみんな帰ってくるまで待っていた方がいいのかな?


 「お姉ちゃん」


 「? どうしたの? いちかちゃん?」


 いちかちゃんは六年生。あの私とはずいぶん違う女の子。名前はやっと覚えた。増えた兄弟の中では一番年上だ。


 「あのね、春樹がね、怪我したんだよ」


 「春樹くんが?」


 「そう。なんかわからないけど・・何かに当たってちょっとちょっと飛ばされてぶつかって・・ぐったりしてて」


 春樹くんは一番下の男の子だったはず。


 「そうなんだ」


 だからみんな帰ってこないのかな? どうしたらいいんだろう?


 「結、春樹くんが怪我したって。どうする? ご飯は食べてたほうがいいのかな? 他の家事も・・」


 妹たちはまだ小学生だ。今はもう20時を過ぎている。いちかちゃんは置いておいてまだ小学校低学年のこだっている。先に食べていたほうがいいのか、どうしたらいいのか・・。


 「どうかな? いちかちゃん達は先に・・・着替えてきたら? お風呂もためてあるから入ってきてもいいし」


 「うん。それまでにご飯の準備はしておくから」


 「お姉ちゃん」


 「どうしたの?」


 「春樹のこと心配じゃないの?」


 心配・・・よくわからない。状況から多分大丈夫だろうと思った。


 大変な事態になっているのなら私たちにまで連絡が来るだろう。誰か家に帰ってくるだろう。だから・・


 「なんで何も言わないの?」


 「いちかちゃん、彩夜は・・」


 「私はお姉ちゃんに聞いてるの!」


 なんと答えればいいんだろう?


 「・・・心配」


 「本当に思ってる? 一緒にいる時間が短いけど弟だよ。心配なら春樹のこともっと聞くよね」


 「だって・・」


 そんなこと思わないんだもん。多分、心配は少ししてると思うけれど・・・。


 お父さんとお母さんは医者だ。だから余程のことがない限り大丈夫だと思う。


 「怪我したんだよ!」


 「・・・」


 「お姉ちゃんってそんなに冷たい人だったんだ」


 いちかちゃんは怒ってる。冷たい目を向けてくる。


 「・・ごめんね。・・もう六年生だから・・ある程度のことは自分でできるよね」


 いちかちゃんに何を言ってもダメだと思う。心配していないのは事実だから。私が冷たいのだって本当だと思う。


 「うん。ここにくるまでは私がお姉ちゃんだったから」


 「そっか」


 リビングに戻って自分の茶碗にご飯を注いでお椀に味噌汁を注ぐ。おかずも少しとってお盆に乗っける。


 「彩夜」


 「・・部屋で食べる。どうせお兄ちゃんもすぐには帰ってこないんだろうし・・」


 お兄ちゃんにバレなければ部屋でご飯を食べても怒られないだろう。


 「なら、おれも行くから待ってて」


 「・・・うん」







 少し待っていると結も同じようにご飯を持ってやってきた。


 「ご飯は一人で食べるより二人で食べた方が美味しいから」


 「ありがとう」


 ずっと一人だった結が言うのだから本当なのだろう。


 「どんどんこの家に居づらくなっていくね」


 元々いちかちゃんとはあまりうまくいってない。お父さんとお母さんともほとんど話したことはない。


 お兄ちゃんも増えた家族とは距離をおいているから家の中はしっかり2つに割れている。


 「いちかちゃんが言ってたことは気にしなくていいと・・」


 「違うよ。別に自分でも冷たいって冷めてるってわかってる。心配なんてしてないと思うし・・心配したってどうにもならないじゃん。・・・いちかちゃんに対してどうしたらいいのかわからないから逃げてきただけなの」


 嘘でもすぐに心配しているふりをすればよかったんだろうか?


 「結は聞いてどう思った?」


 「・・・家の中がこうなっていた理由がわかった。それだけかな?」


 「どうしようかな? 家の中で演技なんかできないし」


 舞台だったらあれだけ演技も頑張れるのに・・


 「ご飯、美味しいね」


 「でも秋翔くんが作った方がやっぱり美味しい」


 「結、向こうに帰るつもりはないの?」


 「夏休みになったら帰るつもり」


 「なら・・私も連れてって」


 「・・・」


 だめって言われるだろうか? でも夏休みになったらいちかちゃん達はずっと家に居るだろう。1日中一緒なんて無理だ。


 「・・わかった」


 「いいの?」


 「うん。ただ、・・・長くあっちに帰るつもりはないから」


 「それでもいい。・・・あの子達はやっぱり違うよね。お兄ちゃんならあんなこと言わないだろうし・・結だってそんなこと言わないもん。時間の長さとか関係ないし、弟妹って思ってないし」


 できるだけ仲良くしてみようと思っていたけれどやっぱりできない。もう壁を作ってしまおう。


 「えっと・・・おれは部外者だし何も言わないつもりで居たんだけど・・・・彩夜がここに居づらくなるならそれが無くなるようにする」


 「・・・ありがとう。でもいい。自分でどうにかする。明日になったら気分も変わるのかもしれないし」


 楽しかったけれど疲れた。もう眠い。


 「今日は早く寝ようかな・・でも外に出たくないな」


 部屋から出たら多分誰かに会う。お風呂場はここから遠い。


 「秋翔くんくらい会ったら?」


 「うん。あ、お兄ちゃんにこれあげるの。いいの見つけたんだよ」


 「喜ぶだろうね。・・また秋翔くんに捕まるかな」


 「何かしたの?」


 「劇の時のことをまだ納得してないみたいだから」


 もう少しお兄ちゃんに何か言っておいた方がいいかもしれない。


 「ねえ。みーちゃんは欲しいものがあるから早く大人になりたいんだって」


 「そうなんだ」


 「うん。『今だって掴んでるような気はするんだけど・・大人にならないと捕まえられなくて』ってなんだと思う? 虫じゃないらしいんだけど・・これってなぞなぞなのかな?」


 「物扱いかー。おれは今だってしっかり捕まえてると思うけど」


 「わかるの?」


 「・・まあ」


 結はなぜか視線を逸らす。


 「教えて」


 「その・・・おれだってはっきりわかってるわけじゃないから」


 「それでもいい」


 「答えは本人から聞いて」


 結は教えてくれる気はないらしい。


 「虫に近いもの?」


 「・・・生き物ってところはあってるかな」


 「網で捕まえられる?」


 「んー・・大きい網なら入るかも」


 「わかった、魚?」


 大きいお魚なら今捕まえるのは難しいかもしれない。


 「違う。陸の生物」


 「そっか・・。何か・・ペットとか?」


 「ペット扱いされたら可哀想」


 「違うんだ」


 「まあ・・光月ちゃんの下になるのは決まってることだけど、・・・ペットまでは無い」


 「じゃあ・・」


 お兄ちゃんが私の部屋に入ってきてまた結を捕まえるまで答えのわからないクイズの答え探しは続いた。






      ・       ・     ・






 「あれ? 彩夜ちゃん達は? 宙、知ってる?」


 ふと辺りを見回すと二人がいなくなっていた。


 「知ってる。先に帰ったよ。気づかなかった?」


 全く気づかなかった。そんなに話に夢中になっていただろうか?


 「・・・私たちも帰ろう」


 「もう少し・・」


 「帰るよ」


 中学生にはもう遅い時間だから。本当は私だってもう少しここに居たい。


 「宙・・ねえ、大学にはいくつもりある?」


 「どうかな? 行った方が良さそうなら行く」


 「そっか」


 「行かないで欲しい?」


 なんで私にそんなことを聞くんだろうか?


 「行けばいいんじゃない? その方がいい仕事につけるでしょ」


 「光月は?」


 「みーちゃんでしょ」


 そう呼んでもらえるのは嬉しいけれど・・だめだ。みーちゃんと呼んでくれるから幼馴染の関係を保てるのに。


 「彩夜ちゃん達も居ないし葉月ちゃんも居ないよ」


 「・・・今だけだよ」


 どういうつもりなんだろうか? 何も言わないからわからない。


 「私は・・・したい仕事なんてないからわからない。でも大学生活も楽しそうだね」


 「その・・光月」


 「なに?」


 「俺は・・」


 何を言うつもりだろう? 私をじっと見てきて真面目な顔をしてる時は何か言いにくいことを伝えようとしている時だ。


 「一つ約束してくれる?」


 宙は前よりちょっと背が伸びて見上げないといけないようになってきた。


 「結婚式は呼んでね」


 「・・・俺の予定ではわざわざ呼ばなくても光月はそこに居るつもりだけど?」


 「予定は未定でしょ。どうなっても彩夜ちゃんと見に行ってあげる」


 宙が不満そうな顔をするが無視しておく。


 私が宙をこう扱ってしまう原因は宙本人なのだから・・・いつになったら気づくんだろうか?


 「宙、今いくつ?」


 「まだ12歳」


 「そっか」


 あと何年したらこの不安は無くなるだろうか? 早くて6年、遅いならいつまで続くのかなんてわからない。


 「・・・それで?」


 「それで?ってなに? ただ聞いただけだよ。悪い?」


 「いや・・・あのさ、成雨達に恨まれたらどうするつもり?」


 「恨まれたって仕方ないでしょ。・・ただ受け入れるだけじゃない? 何されたって文句は言えない」


 「あの人達が危険ってわかってる?」


 「わかってるよ」


 わかった上で恨まれたって受け入れると言っているのに・・私のことを心配してるんだろうか?


 「今更何言ってるの? 止めたいならもっと早く言って欲しかったなー」


 「その・・・やっと・・現実になってきたから改めて考えると・・・・その・・」


 「宙、これはなんのため? 私だってできるならこんなことしたくなかったよ。逃げたいなら逃げれば? 宙はもう宙なんだからあの子たちのことも私のことも忘れたっていいんだよ?」


 宙はどうするんだろうか? 意外と簡単に忘れるかもしれない。


 「ねえ、怒ってる? なんで? 俺何かしたっけ?」


 「宙、帰るね。お姉ちゃんも多分もう家に居るはずだから」


 もう知らない。なんでこんなに振り回されているんだろう?


 「送っていく」


 「いい、自分で帰れる」


 「危ないって」


 「大丈夫だから」


 「じゃあなんで怒ってるのか教えて!」


 「いや!」


 なぜか喧嘩しながら家に帰ることになった。


 


 

 

読んでいただきありがとうございます。

今回は関係が変わっていくようなそうでもないようなお話でした。今回のおはなしで宙と光月の関係がだんだん見えてきたのではないでしょうか?

次は数日後のお話になると思います。

次話も呼んでいただけると嬉しいです。

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