二十四話 花火
少し待っていれば段々痛みは引いていく。
「結、もう大丈夫。ありがとう」
小さな声で伝えれば結は頷いた。
続きを演技しないといけないけれど・・・
「・・どうしよう。・・・セリフが飛んだ」
どこまで演技をしたか覚えていない。しかもこれからの場面が今回の変更部分だった。
「再会した場面。おれは『会いたかった』って言ったからそれの返事から続けて」
そろそろ何か言わないとお客さんにセリフが飛んだのがバレてしまう。
「大丈夫、彩夜の言ったことに合わせるから」
雪ならなんと言うだろうか?
「裏音様、・・・どうしてここに? これは夢?」
会えて嬉しいはずだけれどまず疑うはずだ。
「夢じゃない。雪を探してやっと見つけた」
「探してくださったのですか?」
「そうだよ」
雪は姫だ。強がるような性格をしている。私だったら会いたかったとすぐに伝える気がする。
「迎えに来た」
「私を?」
「他に誰がいる?」
「・・・裏音様・・・会いたかったです。ずっと・・・待っていました」
台本とは随分違う気がするけれどもういいか。このまま続けてしまおう。
二人が結ばれるように話を進めればこの話は終わりだから。
「もっと早く見つけられたら・・」
「もう二度と会えないかと思っていました。・・来てくださっただけでも十分です」
彼がそっと手を差し出す。
「・・姫、私と来てくださいますか」
「喜んで」
しっかりとその手を取ると大きな狐さんがやってきて他の出演者も出てくる。
よかった。ちゃんと終わった。
挨拶も全て終わったのに幕が閉じない。
「壊れたのかな?」
「いや、ステージの幕って手動で回して閉めるから壊れにくいはずだけど・・」
「誰か閉じに行かないの?」
私たちは中心にいるから閉じに行けない。ここにきてトラブルだろうか?
「ここで、一つ発表があります!」
そんなのが突然放送席から流れてくる。
「聞いてる?」
「知らない」
「なんだろう?」
お客さんはなんだろうともちろんざわざわするけれど私たちだって何も聞いていない。
「では、演劇部部長、アリスさんどうぞ」
スタスタと舞台前までアリス部長はマイクを持ってやってきた。
「まず、私たちの劇を見て頂きありがとうございます。そして、役者の皆さんお疲れ様でした」
二日間頑張った。
「演劇部の皆さん、ちょっと前に近くのホールで練習のような劇をしたのを覚えていますか?」
「・・あー・・そんなこともあったような?」
「それってちょっと前だっけ? 随分前じゃないっけ?」
「そんなのあったっけ?」
「ほら・・土曜日に行かないと行けなかったあれじゃない?」
ここ数日が長く感じるせいでその前のことが遠い昔のことのように思える。
「覚えているようですね。それで優秀賞に選ばれました!」
『・・・・』
数秒の沈黙の後に起こる拍手。
それってすごいの?どんなものなの?
「彩夜、なんなんだろう?」
「さあ? 良くわからない」
「やったね、彩夜ちゃん!」
「・・うん」
思ったより大したことではない気がする。
「その他色々良くわかりませんが何かあるそうです!」
なんだろう。そのざっくりすぎる説明というか報告は。
「結、今の説明でわかった?」
「何もわからない」
「というわけでありがとうございました! ぜひ来年もよろしくお願いします!」
そんな良くわからない感じで文化祭は終わった。
「みんなお疲れ!」
幕が閉まると早速アリス部長は私たちに声をかけてきた。
「部長、さっきのはなんだったんですか?」
「聞きたい?」
それより早く着替えたい。
「光月ちゃん、宙くん、彩夜芽ちゃん、結理くんに招待状が来てます。そしてこれが決まれば大道具と小道具、衣装係にも良い話を発表できます!」
さっきの説明より随分わかりやすい説明だ。
「招待状ってなんですか?」
「簡単に言うと・・・ドラマに出てみませんか?」
「「「「?」」」」
「ちゃんと出演料はもらえるらしいよ。全国の無名の中学生から選ばれてるんだって。校長先生に話が通してあるくらいだからもちろん。ちゃんとしたテレビ局から来てるみたいだよ。そこら辺の地方のテレビ局からじゃないしね。もちろん断ってもいいし、・・どうする?」
急に大きな話になった気がする。でもいきなり言われたってどうしたら良いのかわからない。
「えっと・・私はやりたいです!」
「俺も」
みーちゃんと宙はいつも決めるのが早い。私はそうやってすぐに決めるのが得意じゃない。
「うん。光月ちゃんと宙くんは参加希望ね。保護者には先生からも話してくれるらしいからその辺は任せて。彩夜芽ちゃんと結理くんは?」
「えっと・・・わかりません」
「アリス部長、もう少し後に返事をしても良いですか?」
「もちろん。彩夜芽ちゃんは秋翔先輩に反対されるかもしれないけどそしたら私に言ってね。説得はするから」
「ありがとうございます」
あとでも良いならゆっくり考えよう。
「これは他の人に言うのは禁止だからね。それを守ったら役者だけじゃなくて他もちゃんと良いことが待ってるから」
それってなんなんだろう?
「はーい」
「彩夜ちゃん、一緒に出ようよー」
「でも・・・」
「私は一緒が良い! それが私の気持ち。彩夜ちゃんが嫌なら仕方ないけど」
「うん」
セミはいつの間にか鳴きやんでもっと小さな虫が鳴いている。夕方になってずいぶん涼しくなった。
「彩夜ちゃん」
「え、燈依先生?」
着替え終わって体育館裏で涼んでいると先生がやってきた。
「ねえ、大丈夫?」
「なんのことですか?」
「ほら、劇の時に・・」
「あ・・・」
燈依先生には気づかれていたらしい。
「大丈夫ですよ。あれって少し待っていれば良くなるので」
「・・そう?」
「多分ちょっと疲れてるからだと思います。だから心配しないでください」
結もだけれど大したことではないから心配しなくても良いのに。
「本当は今すぐって言いたいけれど・・楽しい花火はこれからだから。明日はゆっくり休んでね。いい?」
「はい」
「みーちゃん、ちゃんとなってる?」
「うん。良い感じだよ。彩夜ちゃん、浴衣着るの上手だね」
「みーちゃんだって上手だよ」
日が暮れたころ、劇の片付けも終わった。家には帰らずに部室で浴衣に着替えている。
「あと・・・髪はどうしようかなー」
「彩夜ちゃんは長いからいいよねー。私は短いから結べないしなー、私も伸ばそうかな?」
「前も同じこと言ってたけどめんどくさいからって短いままだったよ」
背中まで伸びた髪は結び方も色々ある。下ろしておいても、結んでも、ポニーテールにしてもいいし、三つ編みだってできてしまう。
「下ろしとくのはまだ暑いから・・・」
「二つに高い場所で結ぼうよ」
「え・・・子供っぽくない?」
「可愛いよ! 私が結んであげる」
「ほら、結構いいんじゃない?」
「うん・・・でも・・」
こんな髪型は小学校の中学年の時以来していない。
「可愛いよ。これにネックレスも着けて・・」
「やっぱりやめようよ!」
「大丈夫だよ。ネックレスの飾りだって大きくないからよく見ないとわからないくらいだと思うよ。私もつけるし」
まあ、祭りのようなものだからいいか。見た目をきにするのなんて自分だけだ。みんなどうせ見るのは花火なのだから。
「みーちゃん、彩夜ちゃん、まだ?」
「今行くー」
「え・・」
「ほら行くよ」
「・・・うん」
校舎には片付けで来ている生徒がちらほらいるだけだ。とても静かでいつもとは少し空気が違う。
「宙、どう? 似合ってる?」
宙は少しの間無言になって・・・
「うん。似合ってる。とっても似合ってると思う」
「その間はなに?」
「なんか・・・いつもと雰囲気が違うから」
「結は?」
「えっと・・・秋翔くんに捕まってる」
結がまたお兄ちゃんに絡まれてるんだろうか? 絡まれる原因になるようなことってあったっけ?
「なんで?」
「え・・わからないの?」
「劇のあれに決まってるでしょ!」
「・・・あー・・・あれで」
でもあれは抱きしめたように見せかけているだけで実際はほとんど触れていない。なぜかお兄ちゃんは私と結がべったりするのを嫌がる。
触れていたのなんて落ち着くまで私が結に掴まっていたくらいだ。
「お兄ちゃんはどこにいるの?」
「そこの角に」
「お兄ちゃん! 結は悪くないからね!」
「いや、演技とはいえ彩夜を・・・」
お兄ちゃんが怒ってる。
「だから違うって。こう・・・手で丸を作ってそんな風に見えるようにしてただけだって。ね、彩夜」
「そうだよ!」
「秋翔、妹に嫌われたくないならその辺にいておいたら?」
さすが葉月ちゃん。いつもお兄ちゃんを止めてくれる。
「葉月、でも結理って・・」
「お兄ちゃん!」
「わかった。・・・葉月行こう」
「・・しょうがないなー」
あれ? この二人・・前とは何か空気が違う?
距離が近いような気がするのは気のせい?
「みーちゃん、どう思う?」
「いい感じだよね!」
「やっぱりそう思う!」
「どうしてそんなにそんな話が好きなの?」
恋バナのことだろうか? そんなことを聞かれたって・・・
「楽しいから?」
「面白いから」
「きっとそんな年頃だからじゃない?」
「そっか・・・昔はこんな話してなかったのにある時からこんな話をし始めたんだよ。これだけはついていけない」
「わかるわかる」
男子二人がまた仲良くなっているような気がする。
「ねえ、何時から花火はあるの?」
「七時からじゃないっけ? 暗くならないと花火は見えないしね」
ならもう少し時間がある。
「二人は浴衣着ないの?」
「着ないよ。大体そんなもの持ってない」
「でも普通の服に着替えるつもり。だから部室使っていい? 誰もいない?」
「いないよ。遊びたいから早く着替えてきてね!」
部室の横には劇で使ったものを置いておく物置もあるのだからそこで着替えておけばよかったのに。
「お姉ちゃん、さっきうっすら化粧してたよ。やっぱり秋翔くんと花火見るからかな?」
「お兄ちゃん気づくかな?」
「気づかないかもね」
「気づいて欲しいなー」
「彩夜ちゃんは早く大人になりたいって思う?」
「え?」
突然の質問に少し考える。
「みーちゃんは?」
「早く大人になりたい」
「・・・私は子供でいたい。どうしてそう思うの?」
「・・・欲しいものがあるから。今だって掴んでるような気はするんだけど・・大人にならないと捕まえられなくて、だから早く大人になりたい」
「・・・虫とか? なわけないよね」
「虫なんて欲しくないよ。なんていうか・・・うん。虫より捕まえるのはずっと難しいんだよ。彩夜ちゃんもそのうちわかるんじゃない?」
掴んでるのに捕まえられない? みーちゃんが欲しいものってなんだろう? これってなぞなぞ?
「彩夜ちゃんはどうして子供でいたいの?」
「えっと・・大人って大変そうだし、このままがいい」
「それもわかるかも」
「花火って今年はどれくらい上がるんだろうね?」
「どうかなー」
なぜか毎年花火の上がる数が違う。多かったり少なかったり・・。
「花火って向こうの川で上がるよね」
「そうみたいだね。どうする? もう少し近くで見る?」
「私は学校から見ればいいかな」
「なんの話してるの?」
「えっと、花火の話」
「彩夜、花火ってどんなの?」
そっか、結は花火を見たことがないんだ。
「えっと・・見ればわかるよ」
あれの説明は難しい。
「ここで見ようよ!」
「ちょうど見えそうだね」
人も少なくてちょうど階段になっているところに四人で並んで座る。
「もう始まるよ」
すると空が光ってパッと大きな花火が咲いて大きくドーンと音がする。
「宙、綺麗だね」
「うん」
「花火ってこんなのなんだ・・」
何度も大きな音がして何度も光る。
「彩夜?」
「あ、ごめん」
いつの間にか結の服を掴んでいたらしい。毎年お兄ちゃんにそうしていたからかもしれない。
「どうしたの?」
「・・あのね」
ちらっと宙とみーちゃんの方を見ても二人とも花火しか見ていない。大丈夫。
「私、大きな音が苦手なの。だから・・・花火は綺麗だなって思うんだけど」
できれば音があまり聞こえない遠いところで見ていたい。
「あ・・・誰かが大きい声を出すと嫌って顔するのも?」
「嫌って顔してる?」
「うん」
「・・顔には出してないつもりだったんだけどね」
苦手なものは苦手だからどうにもならない。
「・・・早く帰る?」
「ここにいる。みーちゃんたちとこんな時間まで一緒なんて滅多にないもん」
まだ帰りたくない。ここに居たい。
「無理してないならいい」
「うん。大丈夫だよ」
ふとみーちゃんたちの方を見ると二人も何か楽しそうに話している。
「・・・」
「彩夜?」
「やっぱりみーちゃんと葉月ちゃんって似てるんだね」
今のみーちゃんは葉月ちゃんがお兄ちゃんと話している時と同じ顔をしている。
「本当だ・・」
「でしょ」
できるならまた来年もこうして四人で花火を・・・。
読んでいただきありがとうございます
星を付けてくださった方がいたようです。ありがとうございます。ずっと読んでくださっている方もありがとうございます。
今回で文化祭のお話がやっと終わりました。今回は青春らしい回になった気がします。この章はもう少し続きます。
次話も読んでいただけると嬉しいです




