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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
三章 青春
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二十二話 文化祭4


 「ううぅ・・・○○様、○○が・・・」


 誰かの腕の中でその子は泣いていた。鮮やかで綺麗な服を着たあの人はずっと抱きしめて頭を撫でてくれる。


 あの人が動くたびにシャンといつもの音がする。


 「○○、あの子はきっと無事よ。・・・いつか会えるわ」


 あの人は顔は笑っているけれど泣いていた。 


 「○○・・ごめんなさい」


 「・・なんで謝るの?」


 見上げると更にぎゅっと抱きしめられる。


 「○○にばかり辛い思いをさせてしまっているから。・・・ごめんなさい。私が・・あなた達をここに連れてきてしまったから・・」





 




 「!」 


 目を開けるといつもの天井があった。あちらの山の中の家とは比べ物にならないほど立派な家。なんの心配もせずに安心して眠れる場所。


 「なんだ・・夢か」


 ただなんとなくぼやけている。目を擦ると少し濡れた。

 

 怖い夢を見て飛び起きるなんていつぶりだろうか?


 「はあー」


 外はまだ暗い。でももう一度眠る気にはなれない。あの夢の続きを見てしまいそうだから。


 秋翔くんも彩夜もまだ眠っているだろう。


 どんな夢だったかなんて覚えていないけれどまだ恐怖と悲しみが残っている。


 今日の劇で変わる部分でも覚えようか。忙しくしていれば忘れられる。





      ・       ・      ・






 「おはよう! 今日の変更部分は覚えた?」


 「・・・なんのことですか?」


 そんなの貰った覚えがない。


 昨日の劇の後は・・・・泣いて眠って起きて、着替えたその後はすぐに家に帰った。劇の終わった後から帰るまでにアリス部長には会ってない。


 「結理くんに渡したんだけど?」


 「・・・結?」


 「・・・彩夜ごめん。忘れてた」


 「ゆいー!」


 今日の公演が始まるまであと30分もないのに!


 「小道具の裏にセリフの紙を貼っとこう!」


 「いいんですか?」


 「それはそれで面白いからね」


 「?」


 アリス部長は劇に出ないからこの大変さがわからないのかもしれない。


 面白くなんてないのに。


 「はい、これが今日の変更部分」


 「今日に限っていつもより長いセリフになってる・・・」


 「覚えられそう?」


 「できるだけ頑張ってみる」


 毎回変わることでよりいいお話に変わって行っているような気がする。


 それに大きく内容が変わっているわけではない。


 「彩夜ちゃん、これが終わったら一緒にお店に行こうね。だから頑張ろう!」


 「うん!」


 





 裏音を演じる彼のそばによって見つめ合う。


 「雪、ずっと一緒に暮らしてほしい」


 「はい」


 これがプロポーズのシーンだ。


 ずっとなんていつまで続くかわからない。けれどこの時の二人には幸せな未来しか見えていないのだろう。


 物語ならこのままハッピーエンドでもいいのに、この物語はこれで終わらない。


 書いた人はどうしてこんな話にしたんだろうか?



 




 「雪、ちょっと行かないといけないところがあるんだ。すぐに帰ってくるから」


 「うん。なら私は裏音様の好きなものでも作って待ってるわ」


 「楽しみにしているよ」


 そうして裏音は出かけていく。


 そうして雪が屋敷に一人になったときに・・・



 「姫、お迎えにあがりました」


 「どうして・・」


 演劇部男子部員のほとんどが演じるお迎えの人たちにずらっと囲まれる。


 「帰りましょう」


 「嫌よ。私はここで暮らすの」


 「・・・では仕方ありません」


 「え?」


 捕まえる部分は実際に私は動けないようにされる。1分ほどで動けないようにしないといけないけれど私は抵抗する演技をしないといけない。お迎えの人役が私を捕まえて動けないようにしやすくしつつ抵抗するのは難しい。


 そしてあっという間に捕まって雪は城に戻されてしまった。


 


 

 「姫」


 「なに?」


 「何かされたいことはありますか?」


 「それなら外に行きたいわ」


 前よりずっと見張りは多くなってこっそり外に出ることはできない。


 出来たって迷ったところを大きな狐にあの屋敷まで連れて行ってもらったのだ。自分一人ではたどり着けない。


 「それは出来ません」


 「そう」


 そして一度照明が落ちて真っ暗になる。


 少し間があって明かりが付くが白いスポットライトが一つだけだ。









 「お疲れ様」


 「みーちゃん、頑張ったよー」


 変わった部分のセリフもどうにか暗記してちゃんと言うことができた。


 「じゃあお昼食べに行こうか」


 「うん。あ、ちょっとまって結に言っとかないといけないことがあるから」


 「うん」


 すでに開けっ放しになっている男子更衣室に入る。結はこっちで衣装を片付けていたはずだ。


 「結ー・・・」


 いないのかな?


 「彩夜ちゃん、どうした?」


 「宙、結がどこにいるか知らない?」


 「結理ならそこで寝てるけど」


 「え?」


 宙の指をさした方を見れば30センチはある体育用のふわふわマットの上で眠っていた。


 結がこんなところで寝るなんて・・・


 「なんか寝不足だったらしくて・・・なんの用事があったの?」


 「えっと・・・お兄ちゃんから高校のお店の割引券をたくさん貰ったからいるかな?って聞きに来たの。でも・・・結お昼ご飯どうするんだろう?」


 普通の声で話していて起きる気配がないからしばらくは起きそうにないだろう。


 「宙はずっとここにいる? どっかに行く?」


 「ここにいるつもり」


 「じゃあ、私が買ってくるって言っといて。結が起きるまでには多分帰ってくるから」


 「うん。あ、俺のもよろしく」


 「はいはい」



 



 「お昼何食べる?」


 みーちゃんと回れるのはやっぱり嬉しい。


 「結と宙のも買ってこないといけないんだよね」


 「なら・・・高校生のうどん屋さんに行かない? 美味しいって評判だよ。持ち帰りもあるし」


 「そうする! あ! 割引券もあるよ」


 「やったね」


 


 今日は中学校と高校を繋ぐフェンスの扉が開けっ放しになっている。


 そこを通れば対して時間がかからずに高校の方に移動できる。


 「お兄ちゃんいるかな?」


 「どうかな? うちのお姉ちゃんは今日のお昼は店番だって言ってたよ。見にいく?」


 「行く! まずはうどん屋さんだけどね」


 校舎に入ってすぐの調理室にうどん屋さんはあった。


 「賑わってるね」


 「席空いてるかな?」


 「いらっしゃいませー。何名様・・・」


 私たちのところにやってきた店員の人は何故か私をじっと見て止まった。


 「?」


 するとその人はそのまま後ろに振り返って・・


 「秋翔、妹ちゃんきたぞ」


 「え! 彩夜ー」


 キッチンからエプロンを着たお兄ちゃんが出てきた。


 「ここ、お兄ちゃんのクラスだったんだ」


 「そう、兄ちゃんがつゆだって作ってるんだ。美味しいよ。いくついる?」


 「いつもお兄ちゃんの料理は美味しいもんね。持ち帰り二つとみーちゃんと私の分」


 「すぐ持ってくるからな。その辺に座って待ってて」


 「ちゃんと順番にしてよ」


 あの兄なら私を優先させかねない。ちゃんと言っておかなくてはいけない。


 「待っとく間に台本読んどく?」


 「そうだね。・・・次の公演で最後か・・・楽しかったな」


 「私も楽しかったよ。・・終わりってなるとなんとなく寂しいね。やるまでは大変だなーって思ってたのにね。演技も興味なかったのに」


 短い間だったけれど楽しかった。中学生っぽいこともできた気がする。


 「みーちゃんは来年は衣装係するんでしょ」


 「するけど、演技もしたい・・かもしれない。彩夜ちゃんはまた一緒に演技してくれる?」


 「いいよ」


 「えっと・・今回はどこが変わってるのかなー・・・え!」


 みーちゃんの楽しそうだった顔が青くなっていく。


 「どうしたの!」


 「見て、この量。最後だからって変えすぎだようー」


 「ひどい!」


 「お待たせ、持ち帰り用二つと出来立て二つ。・・・どうした?」


 お兄ちゃんが心配そうに私たちを見てくる。


 「お兄ちゃん・・・見て。これだけ次の公演までに覚えないといけないの」


 「アリス部長の意地悪!」


 「・・これだけ書き換えるのも大変だと思うけど。微妙な言葉遣いとか・・場面のセットに何を使うのかも変えてるのか。時間内に大道具が移動できるかの計算とか色々あるだろうし」


 確かにそうかもしれない。最初の台本を作るまでに何日もかかった。その後ちゃんと時間内に収めるために内容を削ったり増やしたり・・・やっと出来上がったものを更に一発本番で書き換えている。


 「大変だろうけど頑張って」


 「うん!」


 「わあー、美味しそう。さすが秋翔くん。お姉ちゃんに伝えておくね」


 「え、葉月に?」


 「うん。ちゃんといい感じに言っておくから」


 「・・・そっか」


 お兄ちゃんはみーちゃんが葉月ちゃんになんと伝えるのか気にしているんだろう。


 あの二人は早く、くっつけばいいのに。


 「ねえ、みーちゃん。二人ってお似合いだよね」


 お兄ちゃんには聞こえないくらいの声で話す。


 「うん。うちのお姉ちゃんには秋翔くんくらいしっかりしてて理解のある人じゃないとダメだもん」


 「うちのお兄ちゃんにも葉月ちゃんくらいの人じゃないとダメだと思う」

 

 「いい妹さん達だねー。羨ましいよ」


 お兄ちゃんにお兄ちゃんのお友達?が突きながら言っている。


 「達って・・妹は彩夜だけだって」


 「ほら、そっちの子は将来の妹かもしれないんだろ」


 「彩夜の前で言うな!」


 妹には知られたくないのかな。なら、そういうことにしておいてあげよう。


 「お兄ちゃん、なんの話? 私には教えてくれないの?」


 「なんでもないよ。ほら、のびないうちに早く食べて」


 「はーい」


 「本当に良い妹さんだな」


 お兄ちゃんがこうしてお友達といるのを見るのは滅多にない。


 こんなところを見るとお兄ちゃんも高校生らしい。


 「お兄ちゃん、おすすめのとこ知らない? 次の公演までしか時間がないから一個一個見て回るわけにはいかなくて・・」


 「んー・・・食べる系?遊ぶ系?」


 「私はどっちでも良いけど・・みーちゃんは?」


 「遊ぶ!」


 「じゃあ、校庭に巨大迷路があるけどどう? みんな面白いって言ってたよ」


 「面白そう! 彩夜ちゃん、行こう!」


 「うん」




 

 


 宙に昼食を届けた後・・・

 

 「わあぁー、大きい・・」


 「出れるかな?」


 段ボールなど色々なもので身長よりも大きな壁が作ってある。その壁のお陰で中は全く見えない。


 全体の広さは多分学校にあるプールよりも大きい。


 「入口はこちらでーす」


 「行く?」


 「行く!」


 「ゴールは北です。頑張ってくださいね」


 受付ではコンパスだけ渡された。これを見てゴールを目指さないといけないらしい。


 「早く脱出しないとね。みーちゃん!」


 「他のところにも行きたいもん」


 「でも・・普通に歩き回って出られると思う?」


 「出られないと思う」


 どうしたら良いだろうか・・・


 「あ・・・地図を作りながら歩いてみる?」


 「・・・そうだね。良いかも!」


 コンパスがあるお陰で方向だけはわかる。ちょうど紙とペンも持っている。


 「えっと・・・ここがこうなって・・」


 「あっちは右に進んでたよ」


 「そっちは行き止まりみたい」


 「ならあっちだね」


 そうして少しずつ進んでいった。


 


 

 


 


 


 


 




 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

読んでいただきありがとうございます。

今回は彩夜とみーちゃんの文化祭の様子のお話です。次もこの続きから始まる予定です。あともう少しで!文化祭のお話も終わります。

次話も読んで頂けたら嬉しいです。

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