二十話 文化祭3
今回は彩夜芽視点と成雨視点になっています。
あっという間に自由時間は終わって次の公演の準備をしていた。遊びに行くために髪もほどいてしまっていたからまた朝と同じように準備しないといけない。
こんなことならそのまま遊びに行ったほうがよかったかもしれない。
「彩夜ちゃん、いいことあったの?」
「楽しかったよ。お化け屋敷は怖かったけど・・面白いところにも行けたしいっぱい遊べたから」
「それだけ? 結理くんと何かあった?」
「仲良くしてくれるって」
結とのことがとても嬉しかったけれどみーちゃんがすぐ気づくほど私はそんなにわかりやすいんだろうか?
「光月ちゃん、紹介したお店はどうだった?」
髪を結んでくれていた紗羅さんが聞いた。紗羅さんのクラスのお店ではないだろう。紗羅さんは結と同じクラスでお化け屋敷だから。あれはお店ではないだろう。
「面白かったです」
「みーちゃんはどんなお店に行ったの?」
「えっと紗羅さんに教えてもらったところと、甘いものがある店を回ったかなー。おいしかったよ。彩夜ちゃんも行ってみたら?」
「でも結は甘いの好きじゃないからなー」
「明日は私と二人で回ろうよ。二人で行きたいところもあるんだよ」
「いいの?」
「うん。二人で好きなところをのんびり回るのもいいでしょ」
「楽しみ」
どこを回ろうか。今日気になったけれど見には行けなかったところにも行ってみたい。
「彩夜ちゃん、公演が終わったらもふもふの狐くんに会えるってよ」
「本当!」
「うん。燈依先生に伝えておいてねって言われたの」
「みーちゃんも見にいく?」
ぜひあの可愛さをみーちゃんにも見せたい。
「見たいんだけど・・・私はちょっと用事があるから」
「そっか。みーちゃんっていっつも忙しいよね」
「でも明日は二人でいっぱい遊べるから。劇なんか早く終わらせて遊びに行こうね」
「うん」
スポットライトの下で一人演技をする。
「ああ、どこに行ったらいいのかしら? 一体どこに街はあるの?」
城を抜け出したのはいいものの迷子になってしまっている場面だ。
「いくら歩いてもずっとずっと森の中。街にも行けない、城にも帰れない」
『コーン』
ここで大きな狐が現れる。段ボールに何十にも紙を貼っていて見た目はとても綺麗。そしてちゃんと首や足が動くように作ってある。瞬きだってする。大道具係が一番頑張って作ったものらしい。
「これが狐ね。どうしたの?」
狐は動いて私に擦り寄ってくる。中ではジャンケンで負けたメンバーが頑張っているんだろう。
「私を背中に乗せてくれるの?」
「クー」
「ありがとう。狐ってこんなに大きいものだったのね」
お姫様である雪は本物の狐を見たことがないという話らしい。
「どこに連れて行ってくれるの? 私は街に行ってみたいわ」
狐に乗ったまま舞台袖に入って私はほんの少しの休憩だ。
「水のむ?」
「ありがとうございます」
この間がほんの1分ほどしかない。このあとはしばらく舞台に立ちっぱなしだから今のうちに休憩はしておかないといけない。
「彩夜ちゃん、出て」
「もうなの!」
急いで狐に乗って再びスポットライトの下にでた。
「・・・ここなの?」
狐が止まって顔をあげ、あたりを見渡す。すると大きなお屋敷があった。
「ここはどこ?」
「クー」
「やっと帰ってきたんだね。今日はどこに行ってたんだい? ん? あなたはどうしてここに?」
綺麗な衣装を着た結がやっと出てきた。舞台に一人なのはやっぱり不安だ。間違えたりセリフが飛んだ時はどうしようもなくなる。でもここからは一人の場面はほとんどないから心配せずに演技ができる。
「私が森で迷っているところをこの狐さんが連れてきてくれたのです」
「あなたはどこから来たのですか?」
「それは・・・・」
姫は逃げ出して出てきたからきた場所を言ってはダメだと思っている。城には帰りたくないから。
「訳ありのようですね。よければ中へどうぞ」
「ですが・・」
「帰る場所がわからないのでしょう。わかるまではどうぞここで暮らしてください。この子が連れてきたお客様なのですから」
二人はめでたく結ばれてそれで本当の物語は終わる。
そこまで終わると出演者がみんな出てきて並んで二人を祝い幕が降りていく。それがこの劇の終わりだ。
精一杯幸せそうに笑って幕が降り切るまでそのままでいる。こんな風に・・・
「彩夜ちゃん」
「・・・ん? みーちゃん、何か言った?」
「ぼーっとしてるみたいだからどうしたのかなって思って・・・。疲れたのかな?」
「そうかも」
緊張して暑い中演技を頑張って疲れた。ぼーっとしていたのは疲れていたからではないけれど。
「彩夜ちゃん。狐くんは体育館裏にいるって。まだいないかもしれないけどすぐ来ると思うよ。行っておいでよ」
「そうだった。でも・・着替えてからじゃないとダメだよね」
「もう今日は終わりだしいいよ。疲れを癒すためにも行っておいで。部長には私から言っとくから」
「ありがとう」
体育館倉庫から開く扉から裏に出る。建物の影になっていて暗いそこには誰もいない。
「どこだろう?」
まだいないのかな?
「早く会いたいなー」
「彩夜ちゃんのどうだった?」
衣装のままの光月ちゃんがわざわざ俺たちの元までやってきた。
「君が仕組んだのかな?」
「あの話」
「誰が作ったの?」
「私じゃない。私はこんな話知らないもん。物語を作ったのだって誰なのか知らない。部長がこれを選んだのだって偶然」
彼女の立場ならここで嘘をついても得はない。多分本当だろう。
「・・・」
「もう少し待って。みんなが私たちのことよく思ってないのはわかってる」
「わかってるなら・・・」
なにをしようとしているのかくらい教えて欲しい。
昔は堂々としていた彼女は昔より幼くなっている気がする。精神は体に引っ張られるものなのだろうか?
「全部終わったら・・・どうしたっていいから」
「光月」
「・・宙」
「今は葉月ちゃんだって近くにいるだろうし誰がみてるかわからない」
「うん。そうだね。・・・彩夜ちゃん待ってるので早く行ってあげてください」
宙は昔と対して変わらない気がする。
「宙くん、君はどうなのかな?」
「・・・光月と同じように思ってる。光月と違って彩夜ちゃん側に寄ってるなんてことはないけど」
この二人の間でも意見が割れているんだろうか? まあ、これからじっくり聞き出せばいいか。
「露優、玲優はどうするかな?」
「会う」
「成雨と夏牙だけなんてずるい」
「設定は忘れないでよ。あと、完璧に化けること」
「遅いなー」
座っているおかげで浮いている足をバタバタさせつつ待っている。早くもふもふしたい。あった事を話したい。
「クー」
「! 狐さん、会いたかったよ」
ぴょんと跳ねてやってきた狐さんを捕まえ抱えてぎゅっと抱きしめる。
「あのね、劇楽しいよ。疲れるけどね、やってよかった。結とも仲直りできたんだよ」
君には伝わってるかな?
「私、頑張ったよ」
着物を着て嬉しそうに笑う彼女は彼女そのものだった。
なにも変わらない。
「・・あ・・・あの時の?」
彼女はやっと近くに居た俺たちに気づく。
「その狐の飼い主なんだ。この二人は甥っ子でね」
「露優だよ」
「玲優だよ」
「ろゆう・・れゆう?」
「そう」
首を傾げてどこか遠いところをみている。どうかしたんだろうか?
「せーう・・なつき・・」
笑顔が消えて代わりに泣き出しそうな顔になっている。
「クー」
夏牙も心配そうに擦り寄っている。
夏牙のように近づいてどうしたのか聞きたいところだけれど他人の俺たちにはみておく事しかできない。下手に近づいて怖がられるのも困る。
「ききょうとひょうねは?」
実際はほんの一瞬のことだったはずだけれど彼女がそう言った後とても長く誰もなにも言えなかった気がした。
「・・彩夜芽ちゃん?」
よくこの時ちゃんとこの名前で呼ぶことができたと思う。
「・・・え・・・あ・・・今なんて。・・・なんでもないです」
自分でどうしてその言葉を言ったのかわかっていないらしい。
でも思い出す日も近いのかもしれない。
「えっと・・・あの時はありがとうございました。公園で迷子になっていた時・・お兄ちゃんたちのところまで連れて行ってくれた人ですよね」
「あー、そんなこともあったね」
「あの人にもそう伝えてください。助かりました」
ちょっと疲れているようだけれど顔色はよくて身長もそこまで低くない。
ちゃんとした家で育ったんだろう。よかった。
「・・この狐さんは名前はなんて言うんですか?」
「夏牙」
「夏牙かー、いい名前だね」
「クゥー」
「喜んでるよ」
しっぽがブンブンしているからわかりやすい。夏牙がこんなにべったりするのはなかなか見れない。
「彩夜ちゃん、毛玉の触り心地はどう?」
「燈依先生、ふわふわでいいですよ」
後ろからやってきた燈依はそのまま彼女の隣に座った。
「・・・何かあったの?」
「なんで燈依先生はわかるんですか?」
「表情がわかりやすいからかしら」
「今日は良いこともあったんです。でも・・・劇が終わって・・・幕が下がるじゃないですか。その時に思ったんです」
彼女は悲しそうに目を伏せ、夏牙をぎゅっと抱きしめる。
「雪と裏音はこの後ずっと一緒で・・・そんな未来はいいなーって」
「結理くんが隣に居たらってこと?」
「・・・多分」
なんで悲しそうなんだろうか? 記憶はないはずなのに。
「・・・どうしたら忘れられますか? 雪の気持ちがわかるような気がして・・このままがいいけど・・でも結はお兄ちゃんでいいんです。そしたら・・・離れたって寂しくないじゃないですか」
彼女は夏牙の毛並みに顔を埋めた。
「結理くんはどこかに行くの?」
「・・多分。はっきりとはわからないけど・・いつか会えなくなるんですよ。会ったらいけない」
声が少し変わる。泣いているんだろうか?
「今だって・・・だめって気付いてるけど気づかないふりして・・」
「・・まだいいんじゃない? 中学生だもの」
「楽しいとその分だけ不安も大きくなって・・怖いんです」
これはあの二人にちゃんと話しを聞かなければいけない。
彼女はまだ幼い。なのに信頼している燈依にもはっきり言えないほどの何かを背負わせているらしい。
「頑張って疲れたのね。・・・言いたいことははなして。言った方がスッキリするかも」
「結がいなくなったら・・私のこと誰も気付いてくれなくなるかもしれなくて。お兄ちゃんがね、私がいなかったのにわからなかったの」
日和は何かを知っているのか顔を曇らせる。
「クー」
「・・彩夜ちゃん、今度うちに遊びにくる? そこならみんな彩夜ちゃんのことちゃんとわかるわ」
燈依だって心配なのだろう。やっぱり彼女はこちら側にいた方が幸せかのかもしれない。
ただみていることなんてできなくて隣に座る。そして泣いて震える背を撫でた。
読んでいただきありがとうございます。今回はちょっと暗い回だったかもしれません。
今は彩夜ちゃんがたくさん悩んでいる時期なので夏牙たちにあったらこうなるかなーと思いました。
夏牙と彩夜のふわふわした話しは彩夜ちゃんが燈依先生の家に遊びに行った時にでも描こうかなと思います。
もう少しでこの章と文化祭のお話は終わります。文化祭をしっかり楽しむお話も次かその次にはある予定です。
次話も読んでいただけたら嬉しいです。




