十八話 文化祭1
幕が上がるとまず私にスポットライトが当てられる。最初は大きなお城のシーンだ。
『昔々、とある国に雪姫というとても美しいお姫様がおりました』
「姫、今日はなにをなさいますか?」
侍女役のみーちゃんが聞いてくる。
「昨日の物語の続きが読みたいわ。あの町が舞台のお話」
「わかりました。姫、どうぞ」
「ありがとう」
見た目だけ巻物のような中は真っ白の巻物風小道具を広げて読む。
「ねえ、外ってどんな世界なのかしら? こんなお城の中よりずっと自由なのでしょうね」
「姫は外に行ったことがないのですか?」
「お城から出たことがないのよ。いつか、この物語の町のようなところに行ってみたいわ」
城の中の暮らししか知らない姫は外に憧れていた。
「姫、外など楽しいところではありませんよ。物語は作り話なのですから」
「それでも見てみたいわ」
「いけません。外は危険です。この物語も読むのは禁止です。別のことをされてはいかがですか?」
そうして巻物は取られてしまい、舞台は暗くなった。
「次はどこだっけ?」
今はナレーションで繋いでいる。それはたったの10秒その間に私は移動して服を変えないといけない。といけない。
「セットBのとこ」
「ありがとう」
「これ着て」
「うん」
何枚も重ねた着物の衣装だから一番上だけ脱いで別の柄のものを羽織る。それだけで違う服に見えるものだ。
そしてさっきとは別のお城セットが用意してあるところにいく。次は私一人のシーンだ。
「はあー、あれから町が出てくる話だけでなくて物語も見せてもらえない。なにがそんなにいけないのかしら?」
ため息をついて・・・
「そうだわ。自分で見に行けば良いんだわ。ここにいると決められたことしかさせてもらえない。『今日はなにをなさいますか?』って選択肢なんかほとんどないじゃない。こんなにつまらない場所なんか出ていきましょう!」
立ち上がって外に出て・・・木を登って塀から外に出る。
この塀と木セットは実は登りやすいように見えないように工夫されている。
大道具係は本当にすごい。
そして外に出た姫は・・・
「これで私は自由よ!」
しっかり大声を出してから森の中へかけて行った。
舞台袖には紗羅さんが待っていた。他の皆さんはバタバタしているし、みーちゃんは演技中で結達は反対側の袖にいる。
「・・・どうでしたか?」
「いつも通り上手だったよ」
「よかったです」
とりあえず最初の私の場面は終わりだ。今は姫がいなくなったと騒ぎになっているお城のシーン。
「実際にあんな塀のそばで大声出したら見つかりますよね」
「ほら、物語だから」
「そうですね」
幕が下がりきって拍手が止んだのを確認してから・・・
「はぁー、長かった」
みーちゃんに寄りかかる。
「疲れたー」
「お腹すいたよー」
あと数回同じことをしないといけないかと思うと気が遠くなる。
「早く着替えて文化祭を楽しまないと!」
「そうだね!」
早速、ぽいぽい脱いでいく。あとでまとめて更衣室に運べば良いだろう。
「彩夜、こんなところで脱いだらだめだって」
「中に体操服を着てるんだよ。ここで脱いでもいいでしょ」
だって今は更衣室の場所は一時的に大道具を片付けるために人がいっぱいで着替える場所なんてない。
「ほら、みんなそうしてる」
「じゃあ、おれもそうしよう」
「彩夜ちゃん、私はこのあと友達と回る約束してるんだけどどうする? 一緒に回る?」
「・・私はいいや」
毎年のようにお兄ちゃんと回ろう。宙と結だって友達と回るだろうから。
「秋翔くんは葉月ちゃんと回るってアリス部長が言ってたよ」
「おー、デートだね」
一人で見て回るのは嫌だなー。
「彩夜、おれでよければ一緒に見てまわろうよ」
「いいの? 友達と回らないの?」
「そんな友達いないから。それに始まる前に行こうって言ったんだけどな」
「そうだったっけ?」
楽しく話したのは覚えているけど内容は忘れてしまった。
「結理、プランはわかってる?」
「え、あー・・・うん」
「じゃあ、頑張って」
なんの話だろう?
「あ、ちょっと待って! 着替えないで!」
「え?」
「アリス部長、どうしたんですか?」
「俺たち頑張ったんですから早く自由にしてくださいよー」
早く遊びに行きたいのに!
「演技はとってもよかったよ。で、宣伝のためにこれで自由時間を過ごしてほしいんだけど・・・」
「どれですか?」
「衣装で」
「嫌です」
「もう着てられません」
部長は演技をしないからこの服がどれだけ暑いのかわかっていない。
「それなら部長が着て宣伝すればいいんじゃないですか?」
「あと、次の公演はここが内容変わるからお願いね」
「・・・えっと?」
「今なんて言いました?」
「冗談ですよね」
そんなことを当日になってから言うなんてことはないよね?
「部長やめてくださいよ」
「お願いね」
台本を渡されて笑顔でしっかり言われてしまう。
台本を見てみれば変わるところが書いてあるだけのはずなのに紙が何枚も・・・
「午後の公演は何時からでしたっけ?」
「3時からだからよろしくね」
今は12時、あと三時間。そのうち30分は準備、残りの二時間半は遊びたい。
「頑張って!」
「・・・はい、わかりました」
「アリス部長、やればいいんでしょう。ちゃんとやりますから、あとで・・・」
「えっとうちのクラスがやってる店の割引券。遊びにきてね」
「ちょっと!」
部長は私たちに『遊びにきてね』と言いながら、遊ばせる気があるんだろうか?
「こうなったら一刻も早く楽しまないと!」
「代わりにこっちの要望を聞いてもらおうと思ったのに」
「あー、変わるところが私のセリフ多いよー」
「しょうがないよ。主役だから」
この演劇部は意外とブラックな部活かもしれない。
「結、どこからいく?」
やっと着替え終わって、教室が色々なお店に変わり賑わっている廊下を歩いていた。
「とりあえず、何か食べたい。お腹すいた」
「食べ物は・・・外にあるみたい。どうする? なに食べる? 見ながら考える? とりあえずうちのクラスのたこ焼き食べに行こうよ。割引券あるんだよ」
「うん。彩夜はクラスの店は手伝わなくていいの?」
「うん。なんかいいんだって。ほら、普段からあんまりクラスにいること無いし・・・」
みーちゃんたちも手伝わないらしいから劇に関わっているからかな?
「劇だって大変だし・・・あの部長がまた覚えてなんて言うんだから」
「・・・あー、無理だって。覚えれないよー。やだなー嫌だなー」
「はいはい」
結が最近とてもお兄ちゃんに似てきた気がする。まるで真似ているかのように、一緒にいると他人でも似てくるって言うからそれでなのかな?
「あった! ねえ、どれがいい? 一つずつ食べる? たこ焼きは分けて食べて他のも色々食べる?」
結は一人でいくつも食べれるかもしれないけれど私はそんなにたくさんは食べられない。
「色々食べたいけど・・時間あるかな?」
「急げば間に合うんじゃない?」
ちょっと前は二人でいると気まずかったけれどいつの間にかそれがなくなっていた。
「えっと・・たこ焼き一つください。割引券は・・・ありがとうございます」
早く回らないと遊ぶ時間がなくなってしまう。
「彩夜、友達と・・光月ちゃんと回らなくてよかったのか?」
そんなこと・・・聞かなくていいのに。
みーちゃんは友達が多いから大人数で回るだろう。そんなのに入っていけないしついていけない。
「私は結と回る方が楽しいんだよ。だから気にしないで。・・・結だって私に気を遣わないで友達と回りたかったら言ってね」
「本当?」
「ほんとだよ」
「そんな友達いないから。彩夜こそおれのことなんか置いていって楽しく回ってきていいんだよ?」
せっかくの文化祭なんだから楽しめばいいのに。結は優しい。だからこう言ってくれているのかな?
「結、次!」
「え、どこいくの?」
「さあ?」
「え?」
「食べたいの見つけたら言ってね」
なんとなく結の手を引いてどこかへ向かう。
「あ、あれなんてどう? 美味しそうだよ」
「急に止まらないで。危ないから」
どうしたらいいのだろう? 劇のおかげで結はまた人気者になってしまう。
手の届かない人になったら嫌だ。ずっとこうしてお兄ちゃんみたいだったらいいのに。お兄ちゃんだったらずっとそばにいてくれるかな? いつかくる別れだって来ないかな? 少しくらいわがまま言ってもいいかな?
「はあー、いっぱい食べたね」
「美味しかったー」
ご飯系からデザート系まで二人で分けて食べたらいくつも食べることができた。それでも全部食べたらお腹いっぱいになったけれど・・・。
「ねえ、どこにいく? あと一時間以上余ってるよ」
「部長おすすめのところは?」
「どんなところ?」
「よく知らないけど、すぐそこにあるみたい」
「じゃあ覗くだけでも行ってみよう!」
いつもは家庭科室があるところでやっているらしい。そして入り口にはなんの看板もない。
「あってるの?」
「多分。ちょっと扉開けてみて」
「うん。・・・(!o!)」
「!」
フリフリで可愛い色とりどりの衣装。
「いらっしゃいませ!」
動くたびに揺れる長い髪、そして猫耳に猫のしっぽらしきもの。
「二名様ですね」
甘いパンケーキの香りと紅茶の香り。そしてたまにずれるかつら。
それを笑顔で配る、低い声を精一杯高くして可愛らしい動きをしているガタイのいい男子たち。
「えっと・・・」
「間違えました」
結に引っ張られて外に出されてしまった。
「なんか・・・すごかったね」
「うん」
「・・どんな名前がついている店なの?」
「柔道部のドキドキメイド喫茶・・・だって」
「笑えるような・・・笑えないような・・・」
柔道部ってなんでこういう面白いのをよくやるんだろう?
「ちょっと面白かったのに」
「なんか・・・彩夜をこんなところに連れてきたのがバレたら秋翔くんに怒られる気がする」
「・・・お兄ちゃんならありそう」
ここは入れなさそうだから・・・
「次は? 楽しそうなところ知ってる?」
「えっと・・・お化け屋敷は?」
「・・・嫌だ」
そういえば結のクラスはお化け屋敷だっけ・・・。でも楽しいところじゃない。
「え? 本物見えるよね」
「それとこれは別! だってお化け屋敷ってドッキリ屋敷でしょ。本物は驚かしてこようとなんてしないもん」
幼い頃お兄ちゃんと一緒にお化け屋敷に入ったことがあるけれどあれはとても怖かった。
どこのお化け屋敷だっただろうか? 遊園地だったかな? それとも文化祭だったのか・・・。
「そうなんだけど・・ほら、たかが中学生の作ったお化け屋敷だから」
「・・・わかった」
そう言ったけれど怖いものは怖い。
「どこにあるの?」
「2階にある2年の教室を丸々二つ使ったそれなりに立派なお化け屋敷」
「・・・結も入るよね?」
「うん」
「ならいいよ」
お化け屋敷の入り口まで行くと・・・中学生が作ったもののようには見えなかった。ちゃんと外からは中が見えないようになっていてちゃんと悲鳴も聞こえてくる。
「本当に怖くないの?」
「怖くないって。おれは中の構造知ってるし、どこでお化け役の人が出てくるかもわかってるから」
「・・・」
「ほら、行くよ」
そうして結に反強制的にお化け屋敷へ連れて行かれてしまった。
読んでいただきありがとうございます。
前半は劇で後半は彩夜と結の文化祭デート?でした。劇の内容はまた何回目かの公演の分で書く予定です。そして次はお化け屋敷の話になりそうです。やっとドキドキな展開になるんでしょうか?
一つお知らせです。タイトルの〜〜の間の部分を変えようと思っています。決まり次第後書きに書く予定です。
次話も読んでいただけたら嬉しいです。




