十六話 お泊まり会 裏
結理視点のお話です。
その頃
「・・・三人同じ部屋なの?」
おれは布団が三枚敷かれた部屋を見てため息をつきつつ宙に聞いた。
「嫌だった?」
「だって・・・」
宙と同じ部屋で寝るのは何も思わない。でも・・・秋翔くんまで同じなのはちょっと・・・。
「さっきまで誤解されて追いかけられてたんだよ」
本人がいないから言えることだ。秋翔くんが近くにいないか確認しつつ伝える。今はやっと忘れてくれたようだから本人に思い出させるようなことはしたくない。
「そうだね。彩夜ちゃんに何したの?」
「・・・何も」
ちょっと額と額とくっつけようとしただけだ。幼い頃に奏さんがそうやって奏さんの見てる景色を見せてくれたことがあったから。
敷かれた布団の一つに座る。今日はできれば端っこの布団で寝たい。
「元はといえば彩夜が・・・」
あんなことを言うからそんなことをしようとしたんだ。二人っきりだったのもあってなんとなく自然にそんな事をしてしまった。
「どうしたって?」
宙がからかうような笑みを浮かべて聞いてくる。
「ねえ、彩夜って怖がりだよね」
「うん。それがどうしたの?」
「なんとなく聞いただけ」
「それで、答えは出たの?」
「・・」
答えとは彩夜のことをどう思っているかということだろうか?
「言いたくないなら良いけどさ」
いつかのような宙ではないような目をしている。
「・・・兄のように振る舞うよ。元から似てるって言われてるんだから」
「それが結理の答えか・・」
「でもわざとらしくなってるのかな? 彩夜が普段と違う目を向けてくる時があるんだ」
でも彩夜は何も言わない。怪しんでいるような目をするけれどすぐにいつもの笑顔に戻す。
「絶対・・おれのせいだ」
「・・まあ、頑張って」
こっちとしては結構な問題なのに軽く返される。
「宙、意味わからなかったらごめん」
「なにー?」
「宙って誰なの?」
「・・・誰なんだろうねー」
どうせちゃんとした答えは返ってこない。聞く前からわかっていたことだ。
「そうなんだ。あ、秋翔くん来てる。・・・この話は終わり」
「そうだねー」
宙とはなんだか奇妙な関係になってしまった気がする。
「・・・二人でなにしてんの?」
「秘密ー」
「ふーん」
「じゃあ、俺はこれで」
宙が何故か布団と枕を抱え始める。
「どっか行くの!?」
「兄ちゃんの部屋で寝ようかなーと思って。だから、二人で仲良くここで寝てね。おやすみー」
「え、ちょっ、宙!」
さっきまで秋翔くんとは嫌だと話していたのに・・。
「結理、なんでそんなに嫌そうな顔をしてるんだ?」
「・・・早く寝ようよ」
立って電気を消す。
ここで何か話したら余計なことまで言ってしまいそうだ。
「良いけどさ・・・・聞きたいことがあるんだけど」
「・・・なんですか?」
「いつから彩夜のこと知ってるの?」
「それはここに来た時から」
「嘘つくな」
だめだ。普通に答えたはずなのに。それとも秋翔くんはわかった上で聞いているのか・・。
「彩夜が誘拐事件にあったとき、もしくはそれより前から知ってるんだろう!」
なんでバレてるんだろう?
これをはぐらかすなんてできなさそうだ。
「そうだよ。初めて彩夜とあったのはその時」
もう白状してしまおう。また追いかけ回されるなんて嫌だ。
「どうして? 山の奥だったはず」
おれからしたらあんな場所は山奥ではない。山奥というのは村から山を一つか二つ超えたところの山のことだ。
「どうして・・」
「・・おれが彩夜のところについた時にはすでに撃たれていた。でもあの大人はまだ彩夜のことを狙ってたみたい。だから・・・突然おれが出てきたように見えたのかな? 驚いて逃げて行ったよ」
きっと奏さんのことは話してはいけない。秋翔くんが知らない名前を出したら次はそれは誰だと聞かれる。
「なんでそんなところにいたんだ?」
なんて話そうか? 本当は奏さんに彩夜を助けるように言われたから。
偶然ということにした方が都合がいいかな?
「たまたまその日は山の中に居たんだよ。そしたら聞き慣れない音と子供の泣くような声が聞こえたから行ってみたらそんなことになってた」
「助けた後、彩夜をどうした?」
確か・・・彩夜はおれと居た間行方不明ということになっていたはずだ。一番怪しまれないようにしつつ本当のことに近く言うには・・・。
「雨の当たらないところに連れて行った。そこで危ない状態じゃなくなるまでずっと見てた」
「当時結理だって幼かったはずだ。それなのに彩夜を運べたのか?」
「えっと・・・確か周りに居た人ではない人達が手伝ってくれたんだよ」
奏さんだってそうなんだからなにも間違っていることは言っていない。
というか人ではない人達って言葉がおかしい? 何達といえばいいんだろう?
「彩夜を治したのも?」
「そう。たった七歳のおれがあんな怪我を治せるわけないんだから。おれは様子を見てただけ」
「・・・ずっと彩夜芽とどこかで隠れて会ってたのか?」
「いや、再会したのは今年。彩夜はあの時のこともおれのこともあんまり覚えてなかったみたい。辛い記憶と繋がってるから仕方ないよね。・・・今は思い出してくれたみたいだけれど」
「なんで隠してた?」
本音を言えば、こんなこと簡単には言えないしわざわざ言うようなことでもない。それに彩夜だって隠そうとしていたからだ。
「だって、秋翔くんがわかってくれる人かどうかもわからないのにこんなこと言えない」
「・・・」
「あの時、ずっと早くお兄ちゃんに会いたいって言ってたよ」
七年前のあの時も数ヶ月前のあの時も。
「そっか」
もうちゃんと話した。そろそろ眠い。
なのに秋翔くんは微妙な顔をしている。まだ聞きたいことでもあるんだろうか?
こんなにうるさいお兄ちゃんだと妹に嫌われるのも時間の問題だと思う。
それを教えてあげたほうがいいんだろうか?
「結理」
「もう寝たいんだけど。なに?」
「彩夜を山に連れてってるの? いつの話? あっちってどこ?」
「え・・・」
一気に眠気が吹き飛んだ気がする。
「もし彩夜を危険な目に合わせたら・・」
グッと襟を掴まれて壁に押し付けられる。そして怖い目で睨まれる。
これがあの壁ドンだろうか?
秋翔くんはやっぱり人だ。おれとは違う。
「彩夜のこと離したくないの? ふわふわしていて危なっかしいから?」
するとさらにグッと押しつけられて首だってきつくなっていっている気がする。
「いいから答えを・・」
「ずるいよ。質問を一方的にしてきて無理矢理聞き出そうとするなんて」
「・・・わかった」
何がいいだろうか? 気になっていることはいくつもある。
「・・彩夜が生まれた時のこと、覚えてる?」
「・・・生まれた時のことは知らない。ある時三ヶ月ぶりに母さんが帰ってきて・・・生まれたばかりの・・妹だよって言われて、彩夜を連れてきた。確か・・冬だった」
「可愛かった?」
「もちろん」
これは知りたくなかった。違うことを聞けばよかった。予感が確信に変わろうとしている。
「これでいいんだろ。早く答えを」
「おれは彩夜を危険な目に合わせたりしない。秋翔くんと同じで彩夜のこと大事だから」
「・・それでどこに連れて行ってる?」
「・・・彩夜が行きたいって言ったんだよ。嫌がってたら連れて行かないよ」
「結理は何なんだ? どうしてそんな姿をしてる? 今までどこで暮らしてた? どうして彩夜と出会った?」
秋翔くんもいつかおれを恐れるようになるんだろうか?
「じゃあ聞くけど秋翔くんは何なの? 誰なの? どうして彩夜といるの? 何でおれたちはこんな色で産まれたの?」
「・・・」
「ね、答えられないでしょ」
秋翔くんの痛いところをついたのか押さえられていた手が緩む。隙間からそっと抜けて離れた。
「彩夜はそんなに人以外と・・」
「人も何もないんだよ。彩夜にとってはわかってくれる人と仲良くしてたらそれが人ではなかっただけ。それでもお兄ちゃんは絶対みたいだよ。よかったね」
「何も聞いてない」
「兄弟でも親子でも親友だって隠し事くらいあるでしょ。違う?」
「それは・・・」
「もういいよね。これでこの話は終わり」
いつもならこの時間には寝ているのに。
「彩夜のためにも・・この話はここだけのことにして」
「・・わかってる」
横になるとすぐに夢の中へ引きずり込まれた。
読んでいただきありがとうございます
結視点のお話はどうだったでしょうか? 結理はいつも通りに動いていましたがお兄ちゃんは違ったのかな?と思います。これからどう変わっていくのでしょうか?
次は彩夜視点のお話です。次話も読んでいただけると嬉しいです。




