十三話 箱の中 2
「彩夜、結理、起きて」
「んー」
お兄ちゃんの声がする。もう少し寝たい。なんでお兄ちゃんはいつも起こしてくるんだろう?
「夜ご飯がいらないなら起きなくていい」
「?」
ご飯は食べたい。でもなんで夜ご飯?と思いつつ目を開ける。すると外は真っ暗、目の前には結が眠っていて・・・
「! 今何時!」
「えっと・・七時」
「そんなに寝てたの!?」
「外から呼んでも返事がないから部屋に入ってみれば二人で寝てるし・・・食べたかったら結理も起こしてリビングに来て」
「はーい」
お兄ちゃんはそのまま部屋から出ていく。
起き上がるとなんか体が痛い。変な体勢で寝てたのかな?
「ゆーいー」
結は起こすのを躊躇うほどぐっすりと眠っている。
そういえば結の寝顔を見るのは初めてかもしれない。私は早く起きるのが苦手だし夜も眠くて早く寝てしまうから見たことがなかった。
起きている時は大人っぽいけれど寝ている姿は子供っぽい。
「結、起きて。夜ご飯食べよう」
「・・・?・・寝てた?」
「そうみたい。頭は痛くない?」
「・・・うん。全く痛くない」
「よかったー。いきなりでびっくりしたんだよ」
「彩夜が直してくれたんだよね。ありがとう」
そういえばいつの間にか前のような空気に戻っている。今だけなのかな?このまま元通りになればいいのに。
「私は特に何もしてないんだけどなー」
あの光はなんだったんだろう? 今まであんなこと起きたことがなかった。
「とにかくもう大丈夫だから」
「うん。あ・・・制服ぐちゃぐちゃだね」
「あ・・・本当だ」
制服のまま寝てしまったせいだ。結はシャツが、私はスカートが皺だらけになっている。
「お兄ちゃんに怒られるかな?」
「・・・今回はわざとじゃないから」
「そうだね。寝るつもりなんてなかったし」
「お腹すいた・・、着替えなくてそのままでいいかな?」
「ぐちゃぐちゃなのは変わらないし、今着替えたら洗濯物が増えるだけだよ」
「うん。ならいっか。・・彩夜」
結が私の頭に手を伸ばして優しく髪を梳かしてくれる。
「髪もぐちゃぐちゃだよ。・・・対して知らない人たちもいるんだから髪くらい整えておいたら?」
「ありがとう。・・すぐにボサボサになるんだよね」
「わかる」
「?」
どうしてわかるんだろう? 結は髪は短いからそこまでボサボサにはならないはずだ。二人いるという妹さんがそうだったのかな?
「おれも昔は髪伸ばしてたから」
「男なのに?」
「こっちでは男で髪が長いってあんまりないみたいだけど、向こうでは普通に伸ばしてるから。流も髪伸ばしてるでしょ」
「あー、確かに」
流さんはそれなりに長い髪を結んでいた。町でも同じようにしている人を見かけたような・・。
「なら結はどうして髪を短くしてるの?」
「なんでだったかな? もうずいぶん昔のことだし・・・長いと暑いし洗いにくいから?それとも隠しにくかったからだっけ?・・・よく覚えてない」
「そうなんだ。・・・長くてもにあいそう。綺麗な青だよね」
派手でもなく落ち着いた綺麗な青。
そう思って見てるのに結は微妙な顔をして私を見ている。
「どうしたの?」
「簡単にそういうことを言わない方がいいよ」
「でも」
「本当に思ってそんなふうに言ってるのはわかるから」
今度は髪をぐちゃぐちゃにされる。
「なんで!」
「・・・なんとなく。・・・彩夜の髪の方がずっと綺麗だと思うけど?」
「でも目立つんだよ。結は黒に近い色だからそんなに目立たないでしょ。金色ってすぐに光を反射して隠しても目だちゃうんだもん」
「おれはこの瞳が目立つから。赤ってすぐ怖がられるんだ」
確かに怖そうな色かもしれない。でも
「怖い目をしてないもん。優しいよ。わかってくれる人がもっと居たらいいのにね」
色が黒くたってもっと怖い目をしてる人だっている。昔、私を誘拐したような人たちのように。
「彩夜、もう少し人間ことだって信じた方がいいよ」
「・・・」
結局、人だろうと妖だろうと悪い人もいればいい人もいる。結だってそれを知ってるはずだ。私だってわかっている。けれどどうしても人ではないものの方を信じてしまう。結はなんでそんなことを言うんだろう? 私だって好きでこうなったわけじゃないのに。
「昔、何かから襲われて助けてって言った時に助けてくれたのは妖だった。誘拐事件の後にあった事を話しても信じてくれるのは妖と妖精さんたちだった」
あの時はまだとても幼かった。そんな私のところに警察の人がたくさん来て、頑張ってちゃんと話しても信じてもらえなかった。そして怒られた。
お兄ちゃんは私を庇ってくれてたけれど信じてはくれていなかった。お兄ちゃんは私の前では聞いてくれたけれど、きっとそんな夢を見たんだと言っていたのを知っている。
「彩夜、ごめん」
「・・・ううん」
「彩夜、今度妖精さんたちのところに連れて行ってよ。行ってみたい」
「いいよ。・・あっちには居ないんだっけ?」
「・・・居ないこともないとは思うけど・・見かけないだけなのかな?」
「今度探してみようかな」
昔からある木には大体いるから見つかるはずだ。
「彩夜、山を勝手に歩き回るのは危ないからやめて」
「大丈夫だって。毒キノコには触らないようにするし、遠くにもいかない」
「でも、彩夜は何をするかわからないし何かあっても自分でどうにかできないからダメ!」
「・・・はーい」
「わかったならいい」
また頭を撫でられる。けれど髪をぐちゃぐちゃにするわけでもないし・・お兄ちゃんみたいだ。
「ゆーいーりー」
「「!」」
声がして振り返ればお兄ちゃんがとても黒い空気を出しながら扉から部屋を覗いていた。
すごく怖いし、とても怒っている。
「あ・・・秋翔くん」
結はなぜかお兄ちゃんを見ながら両手をあげる。
「なかなか来ないと思ったら・・・」
これは・・・お兄ちゃんはまた結に何か言い出すのかな? 結は何もしてないのに。
「お兄ちゃん、私お腹すいたから早くリビングに行こうよ」
「でも」
「お兄ちゃんと一緒がいいの」
お兄ちゃんを見上げてダメ?と目で訴える。
「しょうがないなー」
お兄ちゃんはこうすればすぐに言うことを聞いてくれる。
「早く行こうよー」
早く結と離さないと! お兄ちゃんを押して部屋から出る。
「彩夜、ありがとう」
「結、お兄ちゃんに何かされたら言ってね。私から言っとくから」
「うん。・・あとで秋翔くんに捕まるかもな・・」
「?」
後半はぶつぶつ言っていて聞こえなかった。
「いや、その時はよろしく。彩夜のことになるとあの人すごく怖いから」
「結理、なんか言った?」
「いえ、何も言ってません。早く行きましょう」
結もお兄ちゃんも前ではおとなしくしている。お兄ちゃんは怒ると怖い。
「・・・お兄ちゃん、あの人たちも居るんだよね」
「いるよ」
やっぱりお兄ちゃんの声は硬い。
「うん。わかった」
できる限り近づいてみよう。私はお兄ちゃんと違って全くあの人たちの記憶がないのだからただ、他人と思って接すればいい。
「結はどうするの?」
「どうって?」
「同居人が増えるんだよ」
「・・・秋翔くんみたいに接しようかな? おれには避ける理由もないし」
「私もそうする」
できる限りそうしよう。
「彩夜は・・・子供だったら知らない子でも大丈夫なの?」
「・・大人よりは大丈夫。多分・・・」
親戚と会ったことがなくて近所にも居ないから小さい子と関わったことがほとんどない。
「でも・・私、妹だしな・・」
お兄ちゃんにもみーちゃんたちにも普段から甘えてばっかりだ。どうしよう?
「まあいいや。とにかくやってみて、ダメだったらその時に考える!」
「うん」
リビングに行くと、幼い子が走り回ってちょっと大きい子は食事の用意を手伝っている。
「おばあちゃん、私も手伝うよ」
「ありがとう。これはこんで」
「はーい」
・ ・ ・
「はあー」
時計を見るとすでにいい時間になっていた。
部屋から出たくないけれど出ないと夕食を食べられない。
しばらく考えて・・・彩夜を誘ってから一緒に行くことにした。
部屋からそっと顔を出して見たけれど廊下には誰もいない。今のうちにと彩夜の部屋の扉の前に立つ。
「彩夜ー、入っていい?」
まだまだ幼い妹だけれど中学生だ。嫌われたくないから朝以外はちゃんと返事をもらってから入ることにしている。
けれど・・・
「彩夜ー、彩夜芽?」
全く返事がないし、中から音も聞こえない。もしかしたら寝ているんだろうか?
少し扉を開けて確認してみる。
「?」
電気も付いていなくて誰もいない。それに学校のカバンも持って帰ってきた状態のまま置かれている。
ここにいないとなると、他に考えられるのはあそこしかない。
彩夜の部屋から出て、同居人である結理の部屋に行く。
「結理、入っていい?」
こちらにも一応声をかけてからいつも部屋に入っている。こっちも返事がない。
「結理、おーい」
やっぱり返事はないし入ってしまおう。
そっと扉を開けて中を覗くと、電気は付いていて彩夜と結理は眠っていた。
結理は布団で、彩夜はその布団に顔を突っ込んで眠っている。二人とも制服のままだ。あの後何がどうしてこうなっているんだろうか?
それに結理はいつもいつも彩夜と部屋で二人っきりになって・・・兄としてはちょっと結理が気に入らない。彩夜のよさをわかってくれる良いやつではあるけれど、邪魔でもある。
けれど彩夜が結から離れないから離そうにも離せない。
「彩夜、結理、起きて」
二人を揺する。
「んー」
彩夜はいつものようにまだ起きたくないと俺に背を向けてくる。結理はぐっすり眠っているらしく反応がない。
「夜ご飯がいらないなら起きなくていい」
「?」
彩夜がぱっとこちらをみる。昔からご飯には眠くても反応する。まだぼーっとしているようだけれど・・
「! 今何時!」
「えっと・・七時」
「そんなに寝てたの!?」
「外から呼んでも返事がないから部屋に入ってみれば二人で寝てるし・・・食べたかったら結理も起こしてリビングに来て」
「はーい」
ご飯の事を言ったからすぐに来るだろうと部屋から出た。
「あ・・」
部屋の電気をつけたままだったことを思い出して一度部屋へ戻る。
そしてついでに勉強道具も軽く片付けて扉の前に戻ると・・
「おれはこの瞳が目立つから。赤ってすぐ怖がられるんだ」
結理と彩夜が話す声が聞こえた。
「怖い目をしてないもん。優しいよ。わかってくれる人がもっと居たらいいのにね」
彩夜は優しい子だ。心からそう思って素直に言っている。ほんの少しの悲しさと一緒に言っているんだろう。
「彩夜、もう少し人間ことだって信じた方がいいよ」
それに少しドキッとする。
彩夜が人よりそうでないものと昔から関わっているのは知っている。ただ、見えているのをわかってくれるからだと思っていた。
信じるとかそういう問題だったのか?
「昔、何かから襲われて助けてって言った時に助けてくれたのは妖だった。誘拐事件の後にあった事を話しても信じてくれるのは妖と妖精さんたちだった」
そんなの知らない。人ではないものの存在自体は知っている。彩夜ほど普通に見えるわけではないけれど感じたりうっすら見えることはあるから。でも見えないものに怯える彩夜に何もしてあげられなくて・・。
誘拐事件の時だって・・・
『青い髪に赤い目の男の子が助けてくれた』彩夜はずっとそう言い張っていた。そんな容姿の子供がいるはずないと誰も信じなかった。
俺はその時人ではないものを見たのだと思った。だからきっと夢でも見たんだと大人に伝えた。これ以上彩夜が奇怪の目で見られるのは避けたかった。
「彩夜、ごめん」
「・・・ううん」
そういえばその男の子の特徴は結理とそのままだ。
「彩夜、今度妖精さんたちのところに連れて行ってよ。行ってみたい」
そして結理も人ではないものの存在を知っていて・・きっと彩夜と同じようにはっきり見えている。
「いいよ。・・あっちには居ないんだっけ?」
「・・・居ないこともないとは思うけど・・見かけないだけなのかな?」
あっちってなんだ?
「今度探してみようかな」
「彩夜、山を勝手に歩き回るのは危ないからやめて」
そっと扉の隙間から覗く。二人は楽しそうに話していて・・・。
彩夜は結理がきてから山になんて行ってないはずだ。いつそんなことがあったのだろう?
「大丈夫だって。毒キノコには触らないようにするし、遠くにもいかない」
「でも、彩夜は何をするかわからないし何かあっても自分でどうにかできないからダメ!」
「・・・はーい」
「わかったならいい」
二人はどうしてこんなに仲がいいんだろう? 彩夜は結理がきた時からすでにべったりだった。そしてとても楽しそうで、最初はただ彩夜にいい友達が増えて良かったくらいにしか思わなかったけれど何かおかしい。
それに俺の妹にこんな風に触れるなんて!
「ゆーいーりー」
「「!」」
結理はすぐに両手をあげる。何もしてないとでも言いたいのだろうか?
こっちはちゃんと見てるというのに。
「なかなか来ないと思ったら・・・」
すると彩夜がくるっと俺の方を見て・・。
「お兄ちゃん、私お腹すいたから早くリビングに行こうよ」
「でも」
ちょっと結理に釘を刺しておきたいし、さっきの話の内容のことも気になる
「お兄ちゃんと一緒がいいの」
腕を引っ張られて上目遣いで見つめてくる。本当に妹は可愛いい。
「しょうがないなー」
妹がわざとやっているのもわかっているが可愛さには敵わない。
「早く行こうよー」
色々と気になることも家族のこともあるけれど今はそう遠くない未来に『お兄ちゃんなんか嫌い』とか言い出すかもしれない妹の可愛さを堪能することにした。
読んでいただきありがとうございます。
投稿が遅くなってしまいすみません。次はできるだけ早く投稿しようと思います。
今回はこの前の続きとお兄ちゃんが見てしまったお話です。ふわふわしている彩夜、どうするか決めた結理、しっかりしている秋翔、妹大好きのお兄ちゃんはこれからどう動くのでしょうか?
私の中でもまだ決まっていないのでどうなっていくのか私としても楽しみです。
次話も読んでいただけると嬉しいです。




