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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
三章 青春
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十話 そして本番へ


 忙しいと時間が過ぎるのは早いものであっという間に一ヶ月が過ぎた。


 「もうすぐ本番だね」


 「そうだね」


 すでに七月になり暑い日が続いている。制服も中間服から夏服になった。そして私は部室でみーちゃんと二人、ぐだっとなっている。


 「ねえ、なんでこんなに制服って暑いのかな?」


 「なんでだろうね? もう少し生地を薄くできないのかな?」


 セーラー服はとにかく暑い。後ろの広い襟のあたりなんて後身ごろの部分も合わせると四枚ほど生地が重なっている。


 そしてスカートにはウールが混ざっている。


 「みーちゃん家は制服屋さんだよね。どうにかならないの? 形を変えるとかせめて生地を薄くするとか」


 「そう簡単には変えられないらしいよ」


 「そうなんだ。せめてもう少し扇風機を増やして欲しいなー」


 扇風機は壁に付いているから動かせない。教室の真ん中はほとんど風が当たらない。


 そして今は梅雨。しっかり斜めに雨が降っているから窓は開けられないし、気温も湿度も高いからどうにもならない。


 「私、溶けそう。彩夜ちゃん、助けて」


 「もう溶けてるんじゃない?」


 「そうかも」


 「ただいまー ! 暑っ! なんで?」


 「おかえりー」


 宙と結が部長から頼まれて職員室に行っていたが帰ってきた。


 「職員室は天国だった? クーラーついてたよね」


 「寒いくらいについてたよ」


 「廊下の方がここよりずっと涼しいけど?」


 「そっか、溶けそうなくらい暑いのって部長たちの熱のせいか。私アイス食べたい。ほら、彩夜ちゃんもこんなに溶けてるんだよ。どうにかしてよ」


 部長たちはもうすぐ本番ということでそれぞれ担当している部分に不足はないかと見ていて・・・それにだいぶ熱が入ってる。


 そして衣装担当は家庭科室からたくさん借りてきたアイロンで衣装のシワを伸ばしている。暑い一番の原因はアイロンかもしれない。


 「私も溶けてる? 冷やしたら固まるかな?」


 「冷蔵庫があったらいいのに」


 「結理、どうしよう? この二人おかしくなってる」


 「暑さのせいなら涼しい廊下に出せばいいんじゃない? 固まるかも?」


 「そっか」


 二人にずるずる引っ張られて廊下にぽいっと出される。


 今日は特にくらい雲がかかっていて廊下は電気が付いてないから薄暗い。怖いような雰囲気もあって・・。


 「あー、涼しい」


 「壁って冷たくて気持ちいいね」


 「ほんとだー、冷たーい」


 とても良い。部室とは大違いだ。


 「どう? もういつもの二人に戻った?」


 「うん!」


 「今日は帰ろうよ。練習なんかしなくてもいいよね。全部覚えてしまったし」


 あの部室に戻りたくない。せっかく冷えたのにまた溶けてしまう。


 「もうすぐ始まるね。文化祭」


 「楽しみだね。今年もみんなで見にいく?」


 「そうだね」


 ここの学校の文化祭は梅雨が明ける、もしくは長く晴れる日があると三日連続で始まる。一日目は幼稚園・保育園・小学生が主役、二・三日目は中学生・高校生が主役で三日目の夜には花火が上がる。


 文化祭と言っても町のお祭りのようなものだ。大人の人たちもお店を出したり何かを発表したりする。


 「結のクラスは何をするの? お店?」


 「うん。お化け屋敷」


 「彩夜ちゃん、私と一緒に行こうね」


 「私怖いの嫌い。みーちゃんは宙と行ってきたら?」


 「だって宙は驚かないから面白くないんだもん」


 みーちゃんも怖いものは平気だ。昔三人でお化け屋敷に入ったけれど怖がったのは私だけだった。


 「彩夜たちのクラスは何をするの?」


 「たこ焼き屋さんだよ。中身が何かわからないたこ焼きを売るの」


 家にたこ焼き器があるところが多くて準備しやすいからとそうなった。看板と料理するところを作っただけで材料は当日に揃えればいいだけだ。


 他のクラスは何週間も準備をするけれどうちのクラスは一週間で終わらせた。


 「もちろん普通のたこ焼きも売ってるから」


 「タコなしも売ってるよ」


 「それってたこ焼きって言わないんじゃ・・」


 「だってたこは嫌いなんだもん」


 「彩夜ちゃんは嫌いなの多過ぎるよ」


 私が嫌いなのはとても多い。お肉はどれもダメだし、魚系もタコやイカだけでなく貝、青魚や赤魚も好きではない。そして野菜も好き嫌いが多い。


 「彩夜は嫌いなのがあるといつもおれの皿にこそっと載せてくるんだよ」


 「だってお兄ちゃんは食べなさいって言うから結しかいないんだもん」


 もしお兄ちゃんのお皿に嫌いなものを乗せたらお兄ちゃんは私が嫌いな食材を倍にして返してくる。


 「文化祭、楽しみだね」


 「でもいつになったら晴れるかな?」


 「晴れが日曜日に重ならないとダメだしね」


 「そうなんだ」


 金・土・日曜日で文化祭は行われる。金曜日と土曜日は雨でもどうにかなるけれど日曜日だけは晴れなければ花火が上がらない。


 だから一週間前くらいにならないといつ開催されるかわからない。きっとこの頃梅雨が明けるとの予想で決められるらしい。


 「去年は先週くらいの時にあったよね」


 「その前は再来週くらいの時だったっけ?」


 そうして開催される日は三週間分ほど前後する。


 「楽しそうね。先生も混ぜて」


 声がして振り返ると薄暗い廊下の先から人影が


 「ぎゃぁ! 燈依先生!」


 「彩夜ちゃん、びっくりしすぎだよ」


 でも、つい驚いてしまう。声で誰なのかはわかったけれど、先生は色が白いから幽霊のようで怖かった。


 「先生、急に声かけるのはやめてください」


 「なら声かけるよって言ってから声をかけたらいいの?」


 「それって急に声をかけるのと一緒じゃないですか? 燈依先生?」


 「彩夜ちゃんが言ったんでしょう」


 「そうですけど・・・」


 「急にトントンってしても驚くでしょう」


 「そうですね」


 これはどうしようもないのかもしれない。


 「なんで燈依先生はこんなところにいるんですか?」


 燈依先生が保健室以外にいることは滅多にない。こうして外にいるのは珍しい。


 「文化祭の日が決まったの」


 「いつですか!」


 「やっと晴れるの?」


 「教えて! 先生!」


 「次の次の金曜日から始まることになったのよ」


 今は木曜日だから・・来週の金曜日かな?


 「思ったより早いね」


 「そういえばどうして廊下に座り込んでるの?」


 「部室に入ればわかりますよ。ね、みーちゃん」


 「そうだね。どうぞ、入ってみてください」


 「?」


 燈依先生は言われるがまま部室に入る。


 「!」


 そしてすぐに出てきて扉をしっかり閉めた。


 「・・暑すぎないかしら?」


 「溶けそうになったので外に出てたんです。壁って冷たくていいですよ。彩夜ちゃんもこの通り壁にくっついていますし」


 「先生、壁っていいですよ。あ! 先生冷たい」


 氷みたいに先生の手は冷たい。気持ちよくてつい先生の手を握る。


 「先生は一年中手が冷たいんですね。私も冬は冷たいけど」


 「彩夜ちゃんは冬になると冷たい手を私にピタってしてくるんですよ。やめてほしいです」


 「みーちゃんだってやり返してくるよね」


 「まあね」


 そしてそういう時は宙は大体そばで私たちの様子を笑いながら見ている。


 「冬の彩夜ちゃんの手は大丈夫?生きてる?ってくらい冷たいですから。みーちゃんはそうでもないけどね」


 「宙は年中あったかいよね。いいカイロになってるんです」


 「結の手もいっつもあったかいよ」


 「そうかな?」


 「うん。寒い時にはちょうどいい」


 隣で眠った時は暖かくてぐっすり眠れた。


 「そうだ。先生、狐さんは元気にしてますか?」


 「え、うん。とっても元気にしてるわよ」


 「たまに前会った場所で探してるんですけどいないから逃げ出してないんですね」


 「やっと少しおとなしくなってきたの。あの子まだ子供だから」


 「先生、またもふもふしたいんですけど・・・連れてきてもらえませんか?」


 だめかな? 飼い主さんの事情もあるんだろうし・・・どうかな? 会いたいなー。


 「そうね・・・本当は学校ってペットが入るのダメだから文化祭の時でどう?」


 「いいんですか?」


 「いいわよ。きっとあの子も喜ぶから」


 「ありがとうございます」


 やったぁー! また会える! もふもふできる!


 「狐って彩夜ちゃんが前に言ってた?」


 「学校の中に迷い込んでたっていう? 珍しくおとなしい珍しい毛並みの狐?」


 「そう! 可愛いんだよ」


 「彩夜って狐は平気なの?」


 結が不思議そうな顔で聞いてくる。結の前では犬を怖がったり猫を避けたりしているから疑問に思うのは当然だろう。


 「狐も本当はだめだよ。触れないし近づくなんて無理。だけどね、あの狐さんはなんか平気だったの」


 「燈依先生・・その狐さんって・・」


 「まさか?」


 燈依先生はみーちゃんと宙の質問に頷いている。なんのことだろう?


 「どうしたの?」


 「いや、前にその狐さんをちょっとみたことがあって、もしかしてって思ったの」


 「そうそう」


 ふと隣に立っている結を見上げる。私は床に座っているからどちらかといえば背の低い結でも大きく見える。


 「はぁー」


 あれからずっと微妙な空気が私たちの間にはある。


 お互いなんでもないように振る舞っているけれど前とは距離がとても離れてしまった気がする。


 早く仲直りしたいのにそれができない。そうだ。ちょうどいいところにいい人がいるじゃないか。


 「先生、今暇ですか?」


 「暇だけど?」


 「ちょっと・・・お兄ちゃんの愚痴を聞いてください」


 「いいわよ」


 本当は仲直りをどうしたらいいのか聞きたいけれどここには本人がいるから、それは隠した。


 「彩夜ちゃん、保健室にくる?」


 「いいですか?」


 「もちろん。荷物も持って来てね。私は先に保健室で待ってるから」


 「はい」


 一度、暑すぎる部室に入ってバックなど荷物を持って保健室に向かう。


 その時に、結達とももちろんすれ違って結と目があった。


 けれど、なぜかすぐ目を逸らしてしまった。






 ・       ・       ・


 




 「・・まだそんななの?」


 「もう一ヶ月くらい経ってるよね?」

 

 「・・うん」


 光月ちゃんと宙に言われてどうしようかと廊下に座り込んだ。


 「あれは秋翔くんの愚痴相談なんかじゃないよね。・・・おれのこと?」


 「他にあると思うの?」


 「それ以外考えられないと思うけど」


 「やっぱり?」


 そんなことを言われたってどうしようもない。まだ言えない。あれもこれも。


 このままで居たくて隠してるのに。それでこんなことになるなんて。


 そんな同じことを一ヶ月くらいずっと考えている。


 「仲直りしたい?」


 「元通りになりたいけど・・・光月ちゃんは何か聞いてない?」


 彩夜にとって一番の友達の光月ちゃんなら何か知っているかもしれない。


 「・・・聞いてるけど、・・・どうして彩夜ちゃんがあんな風になってるのか、結理くんなりの考えを教えてくれたら教えてあげる」


 「・・・隠し事がいっぱいだから。彩夜はおれが隠してるのを知ってる。それにまだ言えないって彩夜には伝えてる。でも・・だめだったのかな?」


 「他に思い当たることはないの?」


 「・・・えっと」


 思い当たることはたくさんある。彩夜をみてるとだんだん思ってることがあちこちに出るのがわかるようになってきた。顔だけでなく声や仕草・・。


 他に特に元気がなかったのは・・・


 「彩夜には相談しないって言ったこと」


 「・・・私ははっきりどれが原因かなんてわからないけど・・多分彩夜ちゃんは結理くんが隠し事をするのはそんなに気にしてないと思うの」


 「そうなの?」


 「・・・彩夜ちゃんって踏み込んだらいけないところを・・・線みたいなところをよくわかってるから。・・誰にだって隠し事の一つや二つあるものでしょう」


 今までそんなに多くの人と関わってこなかったからわからない。


 「だから、彩夜ちゃんはちょっと悲しかったんじゃない? 信頼してる結理くんから相談しないって言われて。・・・あと結理くんの言い方も悪いよ」


 「俺もそれは思ったよ。結理がその時考えていたことを彩夜ちゃんには相談しないって意味で言ったんじゃない?」


 「そう」


 「きっと・・彩夜ちゃんは結理に頼りにされてないって思ったんだと思う。何があっても言ってくれないんだって彩夜ちゃんは言葉を受け取った」


 そう考えればあそこまで元気をなくすのもわかるかもしれない。


 もし、彩夜にそんなことを言われたら・・・そんなの嫌だ。


 「謝らないと」


 「そうだよ。彩夜ちゃんならわかってくれるから」


 「うん」


 彩夜と過ごしてる期間こそ少ないけれどおれはいつも彩夜を頼ってるのに。


 「聞いてくれるかな?」


 「あ、二人で文化祭回ったら?」


 「え?」


 「私たちが二人で回れば自然と二人になるでしょ。そこの楽しい雰囲気で謝って仲直り。どう?」


 「そうだよ。もし微妙な空気になったってその後楽しめば彩夜ちゃんは空気が微妙になってたのなんて忘れるから」


 確かにいいかもしれない。


 「じゃあ、それで決まりだよね」


 「色々プランを考えようか」


 「ぷらん?」


 また意味のわからない言葉が出てきた。一ヶ月もこちらにいてやっと慣れてきたと思っていたけれど知らない言葉は次から次へと出てくる。


 でも彩夜がいないから誰も説明してくれない。あれはいつもとても助かっているのに・・・そんなところでも頼っていたのか。


 今まで気づかなかった。


 「えっと・・・お化け屋敷は行ってほしいよね」


 「そうだね。あとは・・・ここはどうかな?」


 そしてこの時二人が仲直りだけを目的にしているのではないことも気づかなかった。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

 

読んでいただきありがとうございます。

この前のお話からは一ヶ月経ちました。これから二人はどう仲直りするのでしょうか?

これは前にも書いていましたがこれから出てくる人数が増えるので名前案がありましたら感想から下さればとても助かります。

あと一話か二話で文化祭が始まります(予定です)。次話も読んでいただけると嬉しいです。

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