八話 演技2
「あのね、お兄ちゃん」
今日はおじいちゃんとおばあちゃんは集まりに行っていていない。だから三人で夕食を食べている。
「なに?」
「私と結、劇に出ることになったよ」
「へー・・・え!」
お兄ちゃんは驚きすぎたのか持っていた箸を落とした。
「なに? そんなに驚くこと?」
私はただの報告のつもりで言ったのに・・なんでこんなに驚くんだろう?
「演劇部の部長に捕まったの?」
お兄ちゃんは中学時代、部長に捕まってやらされていたんだっけ?
「いや、みーちゃんと宙の誘い」
「・・・・なんの役をするの?」
お兄ちゃんは箸を拾いつつ聞いてくる。
「主役だよ!」
「おれは主人公と結ばれる少年の役」
「!」
お兄ちゃんはまた箸を落とした。どうしたんだろう? 疲れてるのかな?
「彩夜に兄ちゃんはそんなのさせないからな。佐藤、なんで結をそんな役に・・・」
佐藤? えっと・・・アリス部長のことかな?
「お兄ちゃん、だめなの?」
「あ! 違う! 彩夜がダメなんじゃなくて、佐藤と結が悪いというか・・いや、光月ちゃんと宙もか」
「なんで? せっかく誘ってくれたんだよ」
「・・・悪くな・・いやー、でも!」
なんでお兄ちゃんはこんな風に言うんだろう? 結にまで言わなくたっていいのに。
「ごちそうさま。結、後で部屋に来て。一緒に宿題しよう」
空になったお皿を台所に持っていく。
「彩夜が好きな寒天作ったんだけど・・・」
「・・・明日食べる」
そのままリビングを出ようとしたけれど・・。でも・・・やっぱり寒天は食べたい。
戻って冷蔵庫から寒天が入ったタッパーとスプーンを取って部屋に行った。
タッパーごと持って来たから私が全部兄ちゃんが作ってくれた寒天を全部持っていることになる。まあいいか。全部私が食べてしまおう。
ちょっとしたお兄ちゃんへの仕返しだ。
「彩夜が・・・」
彩夜が部屋に戻ってしまうと秋翔くんの元気がとたんになくなった。
「ま、まあ、寒天は持っていってくれたから」
「嫌われた? でもさ、お兄ちゃんとしてはさ、嫌なんだよ。かわいい彩夜芽が結理なんかに取られるなんて」
秋翔くんは本当に彩夜が大好きだ。でもそれが裏目に出て彩夜には若干めんどくさがられているように見えるけれど。
「取らないから。それに彩夜はお兄ちゃん大好きってのが見てて伝わってくるよ」
「昔からお兄ちゃん、お兄ちゃんって言ってくれてたけどもう彩夜は中学生だし、あっち行ってとか近づかないでとか言うようになる?」
「そんなことないよ」
「そう?」
なんでこんなことになってるんだろう?
「彩夜はそんなこと言うような子じゃない。それは秋翔くんがよく知ってるでしょう」
「そう! 彩夜はすごくいい子で可愛くて・・・」
やっと秋翔くんはいつもの調子が戻って来たようだ。もう放っておいても大丈夫だろう。
「ごちそうさまでした。じゃあおれは彩夜のところに・・秋翔くん?」
皿を持ってとりあえず片付けようとしたら腕をガッと秋翔くんに掴まれた。
「離してよ」
「離さない」
「えー」
どうしたらいいんだろう? きっと秋翔くんはおれを彩夜のところに行かせたくないんだろう。
「とりあえずお皿片付けてくるだけだから・・ね」
「・・・俺が持っていくから結理はそこに座っとこうか」
すごくいい笑顔で言われる。仕方なく・・。
「・・・はい」
さっきまで座っていた椅子にすぐに座った。
どうしよう? 宿題を一緒にしようと彩夜に誘われているし・・けれど秋翔くんが離してくれない。
「あ、彩夜の寒天の誘惑に負けて部屋を出たのに戻って来たのとか・・彩夜らしいよね」
どうにか話で逸らしてこそっと彩夜のところに行こう。
「そうなんだよ! あんなところも可愛くて」
「冷蔵庫開けて寒天を見つけた時ちょっと嬉しそうにして慌ててふてくされた表情作ってるのも可愛かった」
「かわいい?」
またいい笑顔を向けられる。おれがかわいいと言うのはダメらしい。
「えっと・・・秋翔くんならそういうだろうなーと思って言った」
「そうか。ならいい」
めんどくさい。なんで思ってることを言ったらダメなんだろうか?
ん? おれって彩夜をかわいいって思ってる? なんで? 彩夜を妹みたいに思ってるってこと? いや、それはない。彩夜から兄のように思われるなんて嫌だから妹なんて思ってないはず。
「結理、どうした?」
「なんでもない」
わからない。そういえばいつからこんな風に思ってたんだろう? 再会した時には思ってたような気がする。
「秋翔くん、宿題してくる」
「うん」
宿題をしに彩夜のところに行くのに秋翔くんに止められなかった。
いつの間にか作戦は成功していたらしい。
部屋に行って宿題をとって彩夜のところに行く。
「彩夜、入っていい?」
「・・いいよ」
彩夜は部屋の端っこの方にちょこんと座って寒天を美味しそうに食べていた。
「・・結も食べようよ。スプーンもう一つあるよ。そんなに甘くないから美味しいよ」
「・・ちょうだい」
「はい。好きなだけ食べていいよ」
スプーンを渡されて寒天の入ったのも渡される。
「お兄ちゃんの分まで二人で食べようよ。空にして置いとくの。いいでしょ」
「仕返し?」
「だって・・・お兄ちゃんが色々言うから」
「うん、美味しい」
「でしょ! これ好きなんだ」
彩夜は表情がコロコロ変わる。好きなものを教えてくれる時は特にとてもいい笑顔を見せてくれる。
「・・・秋翔くんは彩夜が寒天全部美味しそうに食べたら喜ぶんじゃない?」
「え!」
彩夜は どうしよう? というような困った顔をする。
「それじゃあ仕返しにならないよ」
「彩夜、秋翔くんはただ彩夜のことが大事なだけだし・・」
なんでおれはわざわざこんなことを言ってるんだろう? 別に二人の仲なんておれが気にしなくてもすぐに仲直りするだろうし。
「結?」
「・・宿題しようよ」
一度いくら考えても答えが出ない考えを放棄したくてそういった。
「そうだね」
ニコッと彩夜が笑う。なんとなく、
ずっとこの先もこの笑顔を見ていたいと思ってしまった。
翌日
「ここはどこ?」
放課後に今日も私は演技の練習をしていた。
「・・・クーン」
みーちゃんが狐の声を担当する。本番は大きな段ボールで作った狐を使うらしい。
「あなたが私を連れていってくれるの?」
そこに大きな狐がいる前提で動くのはなかなか難しい。
「いいよー、一回休憩にしようか」
「はーい」
「彩夜ちゃん結構上手だったよ」
「みーちゃんも狐の声上手だったよ」
「彩夜ちゃんは狐の声ってわかるの?」
「あのね、この前かわいい狐さんを学校の中で見つけたの。銀色の毛並みで青い瞳だったんだよ」
「!」
今度また探しにいってみようか? またもふもふしたい。
「そ、その狐どうしたの?」
「もふもふしてたら燈依先生が来たんだけど、燈依先生はその狐さんが飼われてるところを知ってたみたいだから頼んだの」
「もふもふしたの?」
「うん。おとなしかったから触れたの。膝に乗せてもふもふしたらすりすりしてきて可愛かった」
「へー、よかったね。私も会いたいなー。・・・後で夏牙に確認しに行かないと」
みーちゃんが後半は考え込んでぶつぶつ言っていたから私には聞こえなかった。
「みーちゃん?」
「いや、なんでもないよ。ほら、それよりなんか紗羅さんがいい笑顔でこっち見てるよ」
「!」
昨日はなかった段ボールの影から顔だけ出して私を見ている。とてもいい笑顔で。
「えっと・・・紗羅さん、なんですか?」
「これね、全部衣装の材料なの。彩夜芽ちゃんはアリス部長が独り占めしちゃうから休憩の時くらいしか時間がないでしょう」
紗羅さんはダンボールを閉じていたガムテープをびりっとはいでその中から綺麗な布を取り出して私にジリジリと近づいてくる。
「どの色が似合うか見せて欲しいの!」
「今・・休憩中で・・・」
「うん。彩夜芽ちゃんはただ立っててくれればいいから」
紗羅さんは私に休憩時間をくれる気はないらしい。
「ちょっと、紗羅ちゃん! 今日は私の番なんだけど!」
アリス部長が私と紗羅さんの間に入ってきた。
「衣装だって早く作らないといけないんですよ! それに布も届いたんですから本人に合わせてみてから考えたほうが想像が広がってもっといいものができると思うんです!」
「メインはお話なの!」
「いえ、メインは衣装です! いくらお話が良くても衣装がダメだとそれはダメでしょう!」
「衣装だけが良くてお話が全然だったら演劇としてダメじゃない!」
これってどうしたらいいの? ほっといていいかな?
するとそこへ・・
「アリス部長、背景だって大事ですよ!」
「それなら音楽も大事です! 一番重要です!」
各担当がどんどんやってきて自分のが一番演劇で大事だと言い始めてしまった。
「え、あ、あの・・・」
止めようかとも思ったけれどワーワー言っているところに入れない。
「彩夜ちゃん、おいで」
困っていると宙によばれそちらに行く。
「宙、あれってどうしたらいいの?」
「放っておいていいんだよ。いつものことだから」
「そうだよ。みんな演劇やりたくてやってるわけじゃないからこうなるんだよねー」
やっぱりこの部は変わってる。
「結は? どこにいるの?」
「さあ? さっきまでいたよ」
「なんかね、昨日結が変だったんだよ」
どこかおかしい。よく考え事をしているし、私をみては首を傾げている。
「気になるの?」
「だって・・・おかしいんだもん。どこかよそよそしくて・・・、お兄ちゃんとは楽しそうにしてるんだよ。なんの話をしてるのか私にはわからないことで二人は盛り上がってるの」
結が部屋に来た時からどこか変だった。それからずっと違和感がある。
楽しそうな二人を今日の朝も眺めてみたけどなんだかよくわからなかった。
「昨日、秋翔くんと喧嘩したんじゃなかったの?」
「喧嘩じゃないよ。ただ・・・お兄ちゃんがうるさかったからやだって思っただけ。でも寝て起きたらすっかり忘れてて・・・それを結が笑うんだよ」
「・・・そういえば彩夜ちゃん最近前よりちゃんと髪を梳かしたりしてるね」
そういえば前は手櫛で終わらせてたことも多かったけど・・・いつからちゃんと櫛で毎朝梳かしてるっけ?
「気になる人でもできたの?」
「・・・ない」
「お兄ちゃんが結理くんに取られて寂しい?」
そうなのかな? 確かにお兄ちゃんのことは好きだけど・・・昔ほどではないし・・
「その逆?」
でも・・・違う?
考えても答えは出なかった。
でも、この前みたいに結が大きな問題を悩んでてそれで結がまた変になったのではなければいいなと思った。
読んでいただきありがとうございます。
今回は彩夜視点と結視点のお話がありました。彩夜と結はそれぞれ何か思うことがあったようです。
結は自分の気持ちに気づくのでしょうか?
次話も読んでいただけると嬉しいです。




