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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
三章 青春
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六話 毛玉1


 頭の中でたくさんの景色がぐるぐるする。どこからかたくさんの音も混ざって聞こえて何が何だかわからない。


 「彩夜ちゃん、おーい。どうしたの?」


 「ん? え? みーちゃん、何?」


 みーちゃんに呼ばれてやっと意識が戻ってきた。


 「大丈夫? 疲れた?」


 「そうかも」


 自分でもなんでこうなったのかよくわからない。それになんだか心がぐらぐらしている。


 「休憩してきたら? ちょっと散歩してくるとか気分転換にいいかもよ」


 「そうだね。ちょっと行ってくる」


 中学生らしい真っ白の靴を履いて外に出る。5時に近いこの時間は少し涼しくて風が気持ちいい。


 「はあー」


 なんとなく敷地内の林の方に行ってみる。木陰で暑く無いからお散歩にはちょうどいい。


 少し前とは違う鳥の声がする。春の鳥はもっと寒いどこかに行ってしまったんだろう。


 「・・・綺麗」


 まだ若い葉っぱが光でキラキラするのは美しくて面白い。


 すぐそこにちょうどぴったりな石を見つけて座る。こうしていると景色をずっと眺めていられる気がする。


 がさっ、がささっ


 近くの茂みで何か音がした。虫とかが動いていつも茂みはガサガサ言っているけれどそれにしては音が大きい。まさかへび? いや、蛇よりならここまで音はしないだろう。


 まさか動物? 猫とか犬だろうか? 学校の中にもよく入ってくるが、私は動物があんまり得意じゃない。


 「クー」


 「?」


 茂みの中から白い毛玉が顔を出した。丸い目が私をじっと見つめている。


 「近づかないで」


 「!」


 言葉が通じたのか毛玉は驚いた素振りを見せる。


 私は可愛い動物を見るのは良いけれど触れない。それに怖くて近づけない。


 「これ以上近づかないならそこにいていいよ」


 結構可愛い顔をしている毛玉だ。耳が三角で顔はとんがっている犬系の顔だ。


 日本犬かな? そんな感じの顔をしている。


 また毛玉に言葉が通じたのか茂みから出てきてちょっと離れたところにちょこんと座った。


 やっと毛玉の全体が見える。


 「可愛い」


 子供と大人の間くらいの大きさで毛はよく見れば銀色だ。目は深い青をしている。


 「あなたも変わった色してるんだね。私と同じ突然変異?」


 私のこの容姿は遺伝では無い。先祖にこんな容姿の人はいない。


 この毛玉の尻尾はもふもふしている。なんだか犬っぽくは無い。なんの動物だろう?


 「もしかして、狐?」


 この辺りに狐っていただろうか? イタチらしき小動物は見かけたことがあるから狐だっているかもしれない。


 「狐って言葉わかるの? あなたが特殊なの?」


 このこは絶対私の言葉を理解している。色が変わってるから言葉までわかるってことだろうか?


 「ねえ、私の話聞いてくれる?」


 動物相手ならなんとなく話せる気がする。このこは誰にも私の話を話さないだろうから。


 『いいよ』と言うようにこのこは、ほんの少し私に近づいてきた。


 「たまにね、頭の中で知らない景色がぐるぐるするの。その時声とか音も聞こえるの。あれってなんなんだろう?」


 「クー」


 そうなった時よくわからないものに飲み込まれそうになる。それが怖い。


 「今ね、劇に出ないかって誘われてこれから練習なんだー。私は雪役なんだって。雪っていうのは主役のお姫様で・・・できるかな? 楽しそうだけどね、でもね」


 不安もたくさんある。私は脇役くらいでちょうどいい。


 「私の仲がいい人で結って人がいるんだけどね、結が裏音役なんだ。裏音は雪と結ばれる少年なの。結とは一緒に中心人物を演じるの。友達のみーちゃんの宙も一緒にね。それは楽しみなんだ」


 毛玉はまた少し私のところに寄ってくる。このこなんなんだろう? 私に寄ってくるなんて変わってる。


 「あなたは名前あるの? 人になれてるよね。誰かのペットとか?」


 このこはよくわからないというように首を傾げた。これは通じてない?


 「毛並みも綺麗だね。山に住んでたらこんなに綺麗じゃ無いよね」


 毛は艶々でもふもふのしっぽにも汚れは見当たらない。ちゃんと洗ってないとこうはならないだろう。


 「・・・それにおとなしい。・・・ねえ、あんまり動かない? おとなしくしててくれる?」


 この子はいいと言ってくれているのか体をペタッと地面につけて手足を伸ばしてごろっとしている。


 「ちょっとだけ・・」


 この子の背中にちょっと触れてみる。やっぱり毛はふわふわで、でも動物だからやっぱり硬い。それに当たり前だけど動いている。

 

 おとなしくいてくれてるからもう少し撫でてみる。ちょっとビクッと動いたような気もしたけれどそのままでいてくれる。


 「かわいいね。私動物苦手なの。噛んだりしてきそうで怖いから。あなたなら大丈夫かも」


 しばらくこの子のもふもふを堪能して・・・・ふと見るとこの子はリラックスしたのか地面にべたー、ごろーんとなっている。かわいい。このこなら・・。


 「ねえ、あなたのこと抱っこしてもいいかな?」


 このこは耳をピクッと動かして、びっくりするような速さで立って私に甘えるように寄ってくる。『早く、早く!』とまるで言っているようだ。


 「ちょっと待ってね。えっと・・・ねえ、どこを持ったらいいの?」


 ほとんどこうして動物と触れ合ったことはない。だからどうしたらいいのかわからない。


 触ったらいやがるところもあるかもしれない。


 「嫌だったら言ってね」


 恐る恐るこの子のお腹のあたりに触れてみる。様子が変わらないから大丈夫だろうか?


 両手でそっとこの子のお腹?わき?に手を回して持ち上げて膝に乗せた。


 「クーン」


 私に鼻の先を近づけて擦り寄ってくる。


 「わっ! くすぐったいよ」


 すると少し控えめに擦り寄ってくるようになった。やっぱり言葉がわかってるのかな?


 「あなたって動物っぽくないね。・・・ん? 普通にシャンプーの匂いしない?」


 顔を近づけてみるとやっぱりシャンプーの香りがする。


 「あなたは人間と同じのを使うの? 動物って同じのを使っていいの?」


 この子はよくわからないというようにきょとんとして私を見ている。


 「・・・あなたって誰かに飼われてるの? ペット? 逃げてきたの? ちゃんと家には帰らないとだめだよ」


 帰らないと帰るところがなくなっているかもしれない。でもこの子はプイッとそっぽを向いてしまう。


 「あなたは私に似てるのかもね」


 なんとなくそんな気がした。


 「話せたら良いのに。そしたら仲良くなれると思うの。あ・・・でも私話すのあんまり得意じゃ無いから話せなくてもいいや」


 この子は私にペッタリとくっついてくる。


 「私の気持ちあなたには伝わってるの? あなたの思ってることはなんとなくわかるよ。合ってるかどうかはわからないけど。あなたといると落ち着く気がする」


 なんでなのかはわからないけれど安心感がある。


 目の前でふわふわともふもふのしっぽが揺れる。見てるとなんだか触れたくなってきた。


 「しっぽって触ってもいい?」


 「!」


 この子は急いでしっぽを私から隠した。触られたく無いらしい。


 「ごめんね。嫌なら触らないから」


 疑っているのか、じっと私を見てそれからそっとしっぽを元に戻した。


 「かわいいね。私その毛並み好きだよ。とっても綺麗」


 「本当ねー」


 頭の上から聞きなれた声が降ってきた。


 「! 燈依先生、いきなりはやめてくださいよ。びっくりします」


 「・・・あ! なんでこんなところに! え、あ・・ほら、こんなところに狐っているのねー」


 「私もびっくりしました」


 この子は燈依先生に気づくとビクッとして私の後ろに隠れてしまう。やっぱり狐だったんだ。


 「彩夜ちゃんって動物触れなかったわよね。触れるようになったの?」


 「この子なら触れました。かわいいですよ」


 この子を捕まえて持ち上げて先生に見せる。私が抱えている間はおとなしくしてくれるらしい。


 「私がこの子抱えても良い?」


 「どうぞ、おとなしくて良い子です」


 先生に渡すとこの子はバタバタと暴れる。小さい体で一生懸命抵抗しているらしい。


 「本当に彩夜ちゃん大好きね。もう少しどうにかしなさいよ」


 「?」


 「あ、ほらー、彩夜ちゃんの時は大人しかったから懐いてるのねって思ったの」


 「そうですかね?」


 抵抗しても無駄だとわかったのか少しおとなしくなったけれどふわふわの毛が逆立っている。


 「まあ、元気はあるみたいね。この子はオスみたいよ」


 何か嫌だったのかまた暴れ始める。先生を蹴ろうとしているようだけど足が短くて届かないらしい。一生懸命なのがとてもかわいい。


 「先生、貸してください」


 「はい」


 先生から狐さんを受け取って優しく撫でる。すると逆立っていた毛も元に戻る。


 「あなた男の子だったんだ」


 「艶々の毛ね。良い筆になりそう」


 「かわいそうですよ」


 狐さんは私にしがみついてまた毛を逆立てている。


 「しっぽもふさふさ」


 燈依先生が狐さんのしっぽをムズッと掴んだ。


 「!」


 とてもびっくりしたのか私の腕の中で器用に跳ねて燈依先生に向かって威嚇している。


 「しっぽは触られるのが嫌みたいですよ。やめてあげてくださいね」


 「そうなのね」


 「はい」


 「彩夜ちゃんはどうしてこんなところにいるの?」


 「えっと・・・あ! ちょっと休憩でお散歩してたら狐さんを見つけたんです。そろそろ戻らないと」


 狐さんが可愛くてすっかり忘れていた。


 「でもこの子・・・どうしよう?」


 「私が連れて帰るから大丈夫よ」


 「この子の家、知ってるんですか?」


 「そうなの。そういえば知り合いの家にこんな子がいたなーと思って」


 「ならお願いします」


 先生に狐さんを渡す。


 「うん。任せて。じゃあね、また明日」


 「はい。さようなら燈依先生、狐さん」


 それから急いで部室に戻ったけれど、どこに行っていたのかと心配されることになった。










 


 


 

 


 

読んでいただきありがとうございます。

今回はかわいい狐さんが出てきました。かわいい彩夜芽ちゃんと並ぶと二倍かわいいんではないでしょうか?

書いていてとても楽しいシーンでした。

次話は短い狐さんのお話です。次話も読んでいただけると嬉しいです

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