五話 演技
「・・・いつ書き終わるの?」
「さあ? というか・・・変えてるのって絶対少しだけじゃないよね」
部長が台本を書き換え始めてしまったから特に何もすることがなくて楽しそうな部長をなんとなく眺めている。
「アリス部長、暇なので帰っていいですか? 彩夜ちゃんすごく暇そうですよ」
「あー、宿題でもしといて。もう少しで終わるから」
「部長のもう少しは少しじゃないんだよ」
「今日の宿題何があったっけ?」
でも、机の上はものが溢れかえっているし、どこならできるかな?
「あ、衣装のために採寸したら? あとでどうせしないといけないんだから暇なうちにしておかないと」
「彩夜ちゃん、私がしていい?」
「いいよ」
「採寸なら私もするからね」
「!」
突然誰かが後ろからにゅっと現れた。名札が赤だから二年生かな?
ちなみに一年生の名札は青で三年生は緑になっている。
「今日は来てたんですね」
「うん。そろそろこの時期だから来ないわけにはいかないでしょう。なのに部長はまた書き始めちゃうし・・・」
「そうですね。あ、こちらは衣装係の」
「二年一組の鮎川紗羅。よろしくね」
背が低くて髪の短い、そして眼鏡をかけた可愛らしい人だ。なんか小動物っぽい。二年一組ってことは・・
「結のクラスメイト?」
「そうだよ。色葉くんは私のことわからないと思うけど。女子に囲まれて大変そうだったね」
「・・・うん」
「あ、私は色葉くんなんて全く興味ないから安心してね。でもマネキンとしてはいいね。いろんな衣装が似合いそう」
この人も変わっているらしい。興味がなくてもこんなにはっきり言う人はそうそういない。それにマネキンって・・。
「彩夜芽ちゃん、色葉くん、二人とも大人しくしててね」
「え」
「彩夜、次は何!」
「結理くん、ちょっとあれこれサイズを測らせてもらうだけだから大人しくしててね」
「え! 光月ちゃんも!」
「どこから測ろうかなー。そうだ!宙くんと光月ちゃんも一緒に計っちゃおうか」
紗羅さんがメジャーをシャァッと伸ばす。そして花のような笑みで近づいてくる。
「測った結果はきちんと管理してみられないようにするから安心してね」
「ねえ、どんなデザインがいい?」
「こんなのはどうだろう?」
「うん。かわいい」
紗羅さんは測り終わるとそのまま他の部員の人たちのところへ行き、デザインについて話し始めてしまった。
またすることがなくなってしまった。
「彩夜ちゃん、測った結果見ていい?」
「いいよ。・・・見てて面白い?」
「面白いっていうか・・・なんか・・これを見てれば服作れるんだなーと思ったの。これだけでピッタリに作るのは無理なんだろうけどね」
「洋服作るのって面白いよね。みーちゃんの見ていい?」
「どうぞ」
することもないしなんとなく見てみる。やっぱりみーちゃん細いなー。
私もある程度は裁縫はできる。暇な時で作ろうと思った時しかしないけれど。
「ここでは普段作れないようなものも作れるんだよ。面白そうでしょ。よかったらこのまま演劇部入ってよ!」
「楽しそうだね。・・・考えとくよ」
「うん」
「ねえ、彩夜ちゃん、俺もこれ見ていい?」
宙が測った結果を書いた紙をピラピラする。
「だめ、勝手に見ないで」
宙から紙を取ろうとする。けれど私より背が高い宙は取ろうとする私の手をうまく避けてしまう。
「返して!」
「どれどれ、なんて書いてあるのかなー」
「宙!」
「がぁっ!」
みーちゃんが宙にそれはとても見事な蹴りを入れた。宙はそのまま床にうずくまっている。
「彩夜ちゃん、取り返したよ」
「ありがとう。・・・宙、大丈夫?」
「ちゃんと手加減したから少しすれば大丈夫だと思うよ。ねー、宙」
あまり大丈夫には見えないけど・・。結が宙を心配してつついているし。
「ひどい、ちょっと遊んだだけなのに。大体女子がスカートで蹴り入れるってどうなんだよ」
「中に体操服のズボン履いてるから問題ないの!」
「宙、すごく痛そうに見えたけど」
「その通り。あれで手加減してるってことは・・・こわっ!」
「何か言った?」
みーちゃんが怖いくらいの笑みで宙を見ながらつついている。
「いえ、なんでもありません。忘れてください」
「みーちゃん、それくらいにしてあげたら?」
「彩夜ちゃんはみーちゃんと違っておとなしいし、こんなことしないし」
「それで何?」
「宙、みーちゃん仲良くしてよ。みーちゃん、宙が可哀想だから、ね」
いつもみーちゃんは強いけれど今日は一段とすごい。
「今日はいつもより機嫌悪いな」
「何?」
こうやって煽るようなことを平気で言う宙もすごいと思う。二人の間にばちばちと火花が見える。
「ねえこの衣装とこの衣装、こんなのもあるけどどれがいい?」
そんな二人の間にも紗羅さんは平気で入っていく。すごいなー。
「ほら! この中で光月ちゃん、彩夜芽ちゃん、どれが着たいか選んで欲しいの」
「綺麗ですね」
「どれもいいけどなー」
紗羅さんが見せてくれた紙には着物のような服が描かれている。何枚も重ねてあるタイプの着物が元になっていて、そのままの形ではなくて少し現代っぽく変えられている。
「こんな感じなんですね」
お姫様の衣装だからこんなに布がたくさん使われていて豪華なのかな?
「だって昔話だから時代は昔でしょう。だから一応着物なんだけど可愛くしたいし色々難しくてね」
「作るのも大変そうですね」
「そうなの。作ったことないし、どうしようかなー」
「ねえ、もっとアイデアない? なんか普通すぎるからもっと変えたいの」
そう言われても私はデザインを考えるのは得意じゃない。
「彩夜、あいであって何?」
「えっと・・・なんていうか発想?思いつき?考え?みたいな意味じゃないかな?」
「・・・なんか紙ある?」
「これでいい?」
バックからいらなさそうなプリントを出して渡す。こういうのは裏が使えてちょうどいい。
「ありがとう」
「何か思いついた?」
「見たことがある形を書くだけ。なんとなくしか覚えてないけど」
そう言ったけれどすらすらと書いていく。
「周りの人が今書いているような形のを着てたの?」
「・・・何度か見たことがあるだけだよ」
「そうなんだ」
何度か見ただけでここまですらすら書けるだろうか?
水崎村にこんな形のものを着ている人はいない。端っこの店も無いような村だから村の人が着ているのは動きやすい形のものだ。おしゃれできるのは柄くらいしかない。
でもこの絵のものは動きにくそうだし、紗羅さんが書いていた絵と形が近い。結が実際こんなものを見たなら水崎村に来る前だろう。
そんな昔に数回しか見たことがないものをここまで覚えているんだろうか?
「書けた。どうかな?」
「すごく綺麗」
可愛らしいというよりは綺麗だ。やぱり実際あるのは違う。とても上品で本当にお姫様が着ていそうだ。
やっぱり結って本当はすごく良いところの生まれだったりするのかな?
でも、どうなんだろう? 何度かこう思ったことはあるけど・・・でもなー。
「彩夜? どうかした?」
「・・・なんでもない。これ見せていい?」
「うん。良いよ」
「紗羅さん、これどうですか?」
ここで聞いたらダメな気がしたから聞くのはやめた。今日、帰ってからでも聞いてみようか?
「お、良いね。これも選ぶのの中に入れようか」
「結、よかったね」
「うん」
「出来たー!」
ずっと静かに台本を書き換えていたアリス部長が書き終わったらしい。
「ねえ、これでどうかな?」
「部長、だいぶ増えましたね」
「え!」
「でも面白そうですね」
「早速練習しようか!」
アリス部長はなんでも急らしい。
「役者って何人なんですか?」
「んー、決まってないんだよね。毎年主役以外一人何役かしてるし」
もしかしてすごく大変なところに来てしまったんだろうか?
「まだ印刷してないからみんなでこの一冊見てね」
「先に印刷してきましょうよ」
「そうですよ!」
「アリス部長、まだ衣装決め終わってないんですよ。後にしてください」
紗羅さんもここの中で強い立場にいるらしい。
「主役の名前ってなんていうんですか?」
「お姫様が雪で少年が裏音だよ」
「雪と裏音」なぜか聞いた時、心がざわっとした。
読んでいただきありがとうございます。
最近感想をいただくことが増えました。ありがとうございます。とても嬉しいです。
今回はアリス部長と紗羅さんが出てきました。この二人はしばらく登場すると思います。
そして結は何者なんでしょうか? 次話も劇のお話になる予定です。
次話も読んでいただけると嬉しいです。




