四話 水崎村2
夜 友梨さんの家
「はぁー」
夕食の後、使って良いと言われた部屋の布団に倒れ込んだ。
桜さんはすごい。1日中働かされた。ほぼ休みも無かった。もうクタクタだ。
こちらの生活は現代とは全然違う。布団も硬い。
「みんな、どうしてるかな?」
こちらの時間と向こうの時間は同じように進んでいるのだろうか。
それなら私は行方不明者になっているだろう。きっとお兄ちゃんたちは心配している。
そんな事を考えていると・・・
『・・・彩夜』
扉の外から声がした
「結?」
『入っていい?」
「うん」
扉が開いて結が入ってきた。
「今日はもう帰るから」
「あ・・うん」
「明日、朝からすぐ来るよ。だからそんな顔するな」
「えっ?」
そんな顔ってどんな顔?
「置いて行かれる子犬みたいな顔」
思っている事、声に出てた? いや、そんなはずは無い。 まさかエスパー?
「表情でわかる。思ってる事すごく顔に出てる」
「えっ」
「面白い」
「面白くないよ。・・・じゃあね。早く帰った方が良いよ」
「うん。また明日」
自分で言った事なのに後悔する。結が帰ってしまう。
「結」
「ん?」
「あ・・いや、気をつけてね」
結は帰ってしまった。
言いたいことが言えない。 聞きたい事もあるのに・・
あなたはあの人ですか?
でも聞いてどうする?
お礼が言いたい。ありがとうって。
違ったら?
どうしよう。分からない。
色々考えているうちに眠りに落ちていた。
「彩夜芽さん、起きてください」
体を揺さぶる人がいる。まだ眠いのに。
「彩夜芽さん!」
焦っているような声がする。 目を開けると友梨さんがいた。
「早く逃げましょう」
「えっ?」
なんでだろう。夜中なのに外が明るい。
違う。 あちこちで火が燃えているんだ。
「火事ですか?」
「それもあるんですけど・・人を食べるあやかしが出たんです」
あやかしが村を襲っているってこと?
「逃げている時に慌てた人が松明を落として火がついたようです」
「・・・」
「大事なものは持ってください。ここも燃えるかもしれません」
そういえば友梨さんは風呂敷を抱えている。中に大事なものが入っているのだろう。
「大丈夫です。ここに持って来ていませんから」
「ついて来てください。裏山の方に逃げます」
外に出て周りを見るとすでにこの家にも火がついているのがわかった。
「こっちです」
あやかしに見つからないように建物の陰を移動する。
「そういえば、桜さんは?」
「先に村の人たちを連れて山に向かってます」
耳を塞ぎたくなるような声がする。なんでこんなに悲鳴が・・・
「・・自分の事が最優先です。助けに行っても助けられませんから」
「そうですね」
これが現実だ。物語の中なら誰かが助けてくれる。あやかしも倒してくれる。でもこれは現実だから
誰も助けにはこない。ただ逃げるだけ。
「あぁ」
どこからか小さな子の声がする。泣いている?
「彩夜芽さん、先に山に」
「私も一緒に探します」
友梨さんはどこかにいる泣いている子を探して山に連れていくつもりだろう。
「どこにいるの?」
「いるなら返事して」
近くにいるはずだ。どこに・・・
「お・・さ・」
見つけた。ほんの5m先くらいのところに小さな影が見えた。木の陰で見えなかったらしい。
「大丈夫?」
近づいて手を出した。
「お母さんが・・」
「・・行こう」
きっとこの子の母親は火の中か、逃げ遅れたかだろう。でも先に山に向かっている可能性もある。
「山の方にいるのかもしれないよ」
「・・・うん」
手を繋いでぎゅっと握ってくれた。
「彩夜芽さん!」
「見つけたよ。えっ・・・」
この子ばかり見ていて気付かなかった。私たちの方へ火のついた木が倒れて来ていた。
読んでいただきありがとうございます。
しばらく時間が空くかもしれないと書いていましたが、思っていたより書くことができました。
彩夜芽の所に木が倒れてきましたがどうなってしまうのでしょうか?
次話も見ていただけると嬉しいです。