二話 転校生2
昼休み
「どうなってるかな?」
「さぁ? うまくやってるといいけどね」
ちょっと違う顔も見せていたし・・・意外と仲良くできていたりするんだろうか?
一年生には少し入りにくいけれど2階の二年生の教室を覗きに行く。
「どこかな?」
「んー」
「・・あ! 彩夜、遅いよー」
ちょっと泣きそうな顔をした結がダーと走ってきて私の後ろに隠れた。
「どうしたの?」
「とにかく早くどこか行こう。お弁当は持って来たから」
とにかくここから離れたいらしい。それに・・・私たちとお弁当食べるつもりなんだ。
「ねえ、色葉くん」
二年生の女子が結に近づいてきた。それに結がビクッとする。
「誰とご飯食べるの?」
「・・・彩夜と食べようって約束してたから」
また堂々としている知らない顔をする。
「そうなんだ」
「うん。・・・彩夜、行こう」
なんか・・・また私の悪い噂が増えたかな?
今までも色々あるから一つ増えたくらいどうでもいいけれど・・・
「どこで食べる?」
「裏庭かな? あそこなら人少ないしね」
私たちはいつもそこでお弁当を食べている。ここの学校は一部森のようになっていてその中にはちょっとした広場もあったりする。
「結理くんはわからないよね。ついてきて。宙は先に行ってるらしいから」
階段を降りて外に出たところが裏庭だ。校舎裏でもあるけれど・・
「あ、やっと来た。遅い」
「ごめん」
「早くお弁当食べよう」
「結理、クラスはどうだった?」
彩夜にそう聞かれ、あの女子とのことが蘇り鳥肌が立つ。
「女子怖い。集団で攻めてきて逃げられないように包囲してくる」
「攻めてくるって・・・」
「包囲してくるって・・・」
「一気に色々聞いてくるしキャーキャーうるさい。明らかに好感度気にしてる。意味わからないこと言ってくる」
「よくそこまでわかるね」
それは・・・・。彩夜に隠していることにつながる。言わないほうがいいのかもしれないが・・・
「昔からこういうことはよくあったから」
「・・・家族といた頃?」
「そう。・・・そういう人達ばっかり周りに寄って来てた。当時はうまくあしらってたんだけどなー。久しぶりだったから・・」
昔はもっとうまくできていたはずなのに今日はうまくいかなかった。
「結って意外と・・・前で話したり・・・なんか・・・堂々としてて・・ちょっとびっくりした」
そうかもしれない彩夜の前であれを見せたことはなかったはずだ。
「・・それもあの頃の名残だよ。自然とあんな風になるみたい」
「でもすごいね」
「私にはあんなのできない」
「俺も無理」
おれだって最初はできなかった。
「・・・誰かが言ってたんだよね。敵の中でこそ堂々と弱みは見せないように振る舞いなさいって・・・・」
言っている途中で言われた時の、幼い頃の記憶がほんの少し蘇る。
「誰が言ってたんだっけ? あの人は・・・」
「忘れたの?」
「・・声と・・・」
とても小さい頃の話だからおれはその人の膝の上にいて腕の中にいた。女の人の優しい声が上から聞こえてきた。
「そして影・・」
二人の影が畳に映っている。
「あったかくて・・・・香の香りがして・・」
あの人だけの香だった。その香りが好きだった。だから近くに来たらすぐにわかった。
「何かの音が・・・」
シャン・・・とあの人が動くといつもその音がしていた。
ここまで出てくるのにどうしても顔と名前が出てこない。
「家族?」
「違う。それはない」
お母様はそんなことしてくれたことはない。
「・・・・その人なら会いたい?」
「・・・んー・・どうせ忘れてると思うからいい」
忘れていなかったら・・・
『結理。おいで』
そうやって呼んでくれていた人だ。いつか姿だけでも見れたらいいかもしれない。
「・・・あ、なんか授業も難しくて・・」
話を変える。
これ以上は言いたくない。
彩夜は顔色を見るのが上手い。おれを見て察したのかそれ以上は何も聞いてこなかった。
「・・・なんの授業があったの?」
「・・・国語とか」
「わかった?」
「ちょうど古文のとこだったらしいから古文はわかったけど・・」
古文は普段読んでいる文とあまり変わらないからすらすら読める。
「けど?」
「何かあったの?」
「現代語訳っていうのがわからない」
かわいいは美しいとか知らなかった。他にも色々・・・・とにかく難しい。
「仲良くなった人はいる?」
「避けられてるから、それに絡まれたし・・・ついていけない」
「よくわかる」
「彩夜も?」
「その辺の女子の話にはついていけない」
クラスの人と別に仲良くなりたいとも思わない。これでいい。
「・・・みーちゃんと宙はお友達いっぱいいてすごいよね」
彩夜が寂しそうな顔をする。
「いやいや、そんなにいないよ」
「あ、そろそろ行かないと。なんか呼ばれててさ」
「私も行ってくるね」
光月ちゃんも宙もどこかに行ってしまう。
「二人になちゃったね。結」
「・・・いつもあんな感じなの?」
「うん。二人とも・・・友達も多いし忙しいの。だから私は一人。今日は結がいて良かった」
それで寂しそうな顔をしてたのかな?
「他に仲良い人はいないの?」
「たまに話す人達はいるよ。何回かその人たちの輪の中に入っていこうともしたんだよ。けどね、その中にいても一人みたいな感じがするの。全然話には入れないし、誰も見てない。だからもういいやって」
「・・・」
かける言葉が見つからない。
「別にみーちゃんたちがいるから、無理するよりは一人で本を読んでる方が楽しいし・・・・いいの」
「うん」
こんな風に言っているけど・・・羨ましいとも思っている。
昔、杏と華鈴が同じようなことを言っていた。
「結は・・・あ、これ私が嫌いなおかず入ってる。結食べて」
「いいよ」
なんて言おうとしたんだろう? 結ならどう思う?とかだろうか?
「お兄ちゃんね、私の嫌いなのも入れてくるの。入れないでって言ってるのに・・・結は嫌いな食べ物ある?」
「ないかな? あの暮らしで好き嫌いなんてしてられないから。でも・・・苦い山菜は嫌いだった」
「あれは美味しくない」
「でもその苦味も美味しいよ」
「えー、おじいちゃんもそんなこと言ってたけど・・・」
「お兄ちゃんだけじゃなくておじいちゃんと一緒にするつもり?」
流石にそれはやめてほしい。一体彩夜はおれをどんな風に見ているんだろうか?
「そうじゃないよ。味の感想が似てるって言いたかったの。伝わってる?」
「・・・うん」
「・・・私説明するの苦手でよく何言いたいのかわからないって言われるの。だからわからなかったら言って」
「わかった」
時々見せる劣等感のようなもの。今日は特によく見せる気がする。
「・・・早く家に帰りたい」
「おれも疲れたな・・」
「なら午後の授業サボっちゃおうか」
彩夜がとんでもないことを言い出した。とても良い提案だけど・・・
「え・・・いいの?」
「いいよ。ちょっとくらい」
「でもさ・・・」
「私は時々サボってるよ。良い場所もあるから行こうよ」
まあ、いいか。彩夜は笑ってる方がいい。
「うん。どんなところ?」
「ちょっとした避難場所みたいなところ。チャイムがなったら行こうね」
「避難所?」
「そう。疲れた時の避難所」
キーンコーンカーンコーンとチャイムがなった。
「結、そろそろ人がいなくなるからそしたら行こう」
「うん」
「もういいかな・・・」
建物の影から校舎をのぞいてみる。うん。いない。
「結、ついて来て」
一番校舎の中を通らなくていい道を通っていく。
「ここどこ?」
「えっと・・・一階の東側」
そっと校舎の中に入って・・・そこのすぐそばにある部屋に入る。
ここにはソファーが部屋の真ん中にあるがそこになぜかぬいぐるみまで置いてある。
「なんの部屋?」
「保健室」
「先生いたりする?」
「居るけど・・・結構理解のある先生だから大丈夫だよ。私も小学校時代から仲良くしてる先生だし」
先生はどこだろう? またどこかにふらっと行っているのかな?
「先生ー、いますか?」
「あら、彩夜ちゃん?」
先生がベットの周りにかけてあるカーテンの奥から出てきた。
「・・・寝てたんですか?」
スーツを着てバリバリ働いてそうな雰囲気のちょっと怖そうな保健室の先生だ。
みんなは学校で一番怖い女の先生と言っているけれど私にはとても優しい。
「昨日突然引っ越して来たやつがいてね・・・片付けとかつい昔の話で盛り上がって・・まあ、おかげで寝不足なのよ」
「寝てたんですね」
「秘密にしてね」
「はい」
こんな感じの大雑把な二十代くらいのちょっと氷っぽい若くて綺麗な先生だ。
「あ! 紹介します。転校生の結です」
「彩夜・・結って本当の名前じゃないし・・」
結はいつものように知らない人の前だから私の後ろにいるがすぐに先生とも仲良くなれそうだ。
「・・・私は燈依、よろしくね」
「色葉結理です」
「うん。すごい人気みたいね」
早速先生はいつものようにからかってきた。
「先生、その話はダメです」
「どうして?」
「女子に質問攻めにされて怖かったって」
「彩夜・・」
結が言わないでって目で見てくるがもし言わなかったら結が燈依先生に質問攻めにされるだけだ。
「苦手なの? 顔はいいし、モテて慣れてそうなのに」
「慣れてないですよ。・・・餌によってくる鯉みたいでした」
結が普通に先生と話してる。やっぱり連れてきて良かった。
「ねえ、彩夜ちゃんとはどんな関係なの?」
「・・・同居人? 昔からの知り合い?」
「同じ家に住んでるの? なんかいいわね。そのうち恋に発展したり・・」
先生はそういう話がとても好きだ。
「秋翔くんがいる限り無理ですよ」
「でも、可能性はあるでしょう」
「・・・もしそうなったらお兄ちゃんが怖いですよ。結がうちに来たら早速何か言ってましたから」
あんな風にいうのはやめてほしい。私はこのままならずっと恋愛なんかできない気がする。別にしようとは思わないけれど。
「怖かったですよ」
「秋翔くんらしい。あ、立ち話もなんだからその辺に座って。どうせ午後の授業はサボるんでしょう」
「はい」
先生がこんなだからここは居心地がいい。
「彩夜ちゃんは中学校の制服もやっぱり似合うわね」
「ありがとうございます」
「・・・いつから知り合いなの?」
「・・・小学校低学年の時だから・・・もう四年以上前ですよね」
「そうだったかしら? もうそんなに経つ?」
「はい」
出会いは私が小学校二年生の時だ。
「小学校の教室を逃げ出して迷子になったんですよね」
「彩夜ちゃんは昔から変わってないわよね」
嫌でとにかく見つからないところに逃げていたらいつの間にか中学校に迷い込んでいた。
ここの小中高は扉で行き来できるように作られている。そこの扉の一つがたまたま開いていたらしく私はそこから入り込んでしまった。
「あの時の彩夜ちゃんはまだ小さくて可愛かったわ」
「ちょうど通りかかった先生が見つけてくれたんですよね」
「あの頃は泣き虫で・・・」
「それは言わないでくださいよ・・」
先生は私のことをその頃からよく知っている。
「彩夜ちゃんそれから何かあるたび私のところに逃げてくるようになってね」
「学校の外に行くよりマシじゃないですか。行こうと思えば行けるんですよ」
小学校低学年の頃は門の隙間から出ようと思えば出られる。
「昔から問題児なのよ」
「そうですね。今もサボってますし問題児ですね」
別に悪いとも思っていない。これでいい。
「小学校の先生がやっと彩夜ちゃんが中学生になるってホッとしてたわよ」
「やっぱりそうですか」
「・・・・彩夜って思ったより・・・」
「何?」
結には見せたことのない一面を先生は話したはずだ。結はどう思っただろうか?
「そういう悪いところもあるんだなーと思って・・・良いところしか見たことなかったから、そんなところもいいと思うけどさ」
結はいつも予想していないことを言ってくる。だからびっくりしてしまう。
「私は結構悪い子だよ」
「本当に悪い子はこんなに素直じゃないよ」
「彩夜ちゃんはとっても良い子なんだから。その辺の中学生よりずっといい子」
「そうですか?」
私はいい子じゃないと思う。
「だってこんなにまっすぐな目をしてる子あんまりいないんだから」
「・・・ありがとうございます」
「結理くんも同じくらい綺麗な目をしてるのね」
「そうですか?」
「私はその色好きよ」
先生はこうやって嫌いなところを褒めてくれるから好きだ。
「あ、今日は暑いから冷たいお水だしてあげる」
「お茶とかないんですか?」
「今冷蔵庫が壊れてて作れないのよ。ここの学校の設備ボロボロで・・どうにかしてくれないかしら?」
「エアコンもないですからね」
他の学校はついてるらしいのにここにはない。
「もうちょっと涼しくできたらいいのにね」
「そうですね」
読んでいただきありがとうございます。
今回は燈依先生が新しく出て来ました。こんな先生がいたらいいのになーと思います。
しばらくは投稿頻度が少なくなるかもしれません。次話はもう少し燈依先生とのお話を書こうかなと思います。
次話も読んでいただけると嬉しいです。




