十七話 お出かけ2
「遅い。こっちはちゃんと5分前に来たのに」
「なにしてるんだろう」
「どうせ時間忘れて本屋さんにでもいるんでしょう」
秋翔くんの機嫌が少し悪い。宙はよくわかっているらしくただ待っている。
「ねえ、どうせすぐには来ないんだろうしレジャーシートでも敷いて待っとこうよ」
「れじゃーしーと?」
二人との会話にもだいぶ慣れた。ちゃんと会話ができる。
けれど時々よくわからない言葉が出てくるから難しい。
「これのこと。これを地面に敷いておけば座っても汚れない」
布ではないよくわからない素材でできているが便利そうだ。
「どこにする?」
「あの、大きな木の下とかどう?」
「良さそう」
こんなにゆっくり過ごすのは久しぶりだ。
綺麗な青空と森の中とは少し違う風、とても気持ちがいい。
「結理、どうした?」
「いや・・・こんなに日向にいるのは久しぶりだなーと思って」
普段は山の中にいるから大きな木々に遮られてこんなに光が届かない。
町に行っても傘をしっかりかぶっているからこんなに光を浴びることがない。
とても温かい。
「日向って・・・今までどこにいたんだ?」
きっと、温かいと感じるのは気温だけが理由ではないだろう。
「・・・どこだろう」
山の中? それくらいしか名前のない場所だ。でも山の中とは言えないし・・・
「日陰?」
「それってどういうことで? 答えたくなかったら答えなくていいけど・・・・・社会的な日陰ってこと?」
「・・・あー」
確かにそういう意味としても受け取れる。
「それもあってる。本当に日陰のところに住んでたけど」
冬なんか家に全然日が当たらなくてとても寒い。洗濯物を干すところも木の影で冬は日があたらないようになってしまう。
「あってるんだ・・・」
こんなに堂々と外に出たのはずいぶん久しぶりな気がする。
視線はよく感じるけれどただ珍しくて見ているような感じだ。恐怖は感じない。
「なにがあったんだよ」
秋翔くんが独り言のように呟いた。
「・・・聞きたい?」
試しに冗談のような感じで聞いてみる。
「教えてくれるのか?」
「少しなら」
秋翔くんは彩夜の兄だけあってこんなおれを普通に見てくれている。
宙もなんとも思っていないらしいから少しなら言ってもいいだろう。
「聞きたい」
宙も話に乗っかってきた。
「・・・理由は・・周りがそう望んだから」
それが理由だ。一人だったのも、あんなところに住んでいるのも・・
「さあ、早く敷きましょう」
「そうだな」
「それにしても遅いな」
言ったことに対して誰もなにも触れてこなかった。
「ごめん」
「時間見てなくて」
「お姉ちゃんがずっとあと少しって言ったんだよ」
十数分遅れて集合場所の公園に行ったらもちろんお兄ちゃんたちは待っていた。
今日は晴天だからか半袖の人もいるくらいの暑さだ。
「ごめんね」
私たちが当然悪いから謝っておく。
「遅い」
お兄ちゃんの機嫌があんまりよろしくない。
「お兄ちゃん」
「なに? いいことでもあったのか?」
「あのね」
バックからあるものを取り出す。
「これ、お兄ちゃんにあげる」
「! これ発売されてたのか! 続きが気になるところで終わってたんだよ」
「うん。それお兄ちゃん好きでしょう」
お兄ちゃんが好きな漫画を見つけたので買っておいた。
これがこんなところで役に立つとは思っていなかったけれど・・
「ありがとう」
「見つけたのは葉月ちゃんだからね」
お兄ちゃんは疑っているけれど嘘は言ってない。本当に葉月ちゃんが見つけたものだ。
「そうなの。私が見つけたんだよ」
「なんでこれ好きなの知ってるんだよ」
「学校にまで持ってきて読んでるじゃない」
「・・・ありがとう」
時々二人の間に訪れる微妙な空気。これはなんなんだろう?
「秋翔くん、早くお弁当食べようよ。俺はもうお腹が空きすぎて」
「嘘つき、そこまでないでしょう」
「宙ならそこまでお腹空いてたらつまみ食いするよね」
「宙すでにさっきつまみ食いしてたよ」
結も話に普通に混ざっている。仲良くなったらしい。
「どこで食べる?」
「あっちにもう準備しておいたから」
「さすが!」
「全然来ないからだろう」
大きな木の下にシートが敷いてあって真ん中にお弁当が広げられていた。
「わぁ、美味しそう」
「彩夜ちゃんはいいなー、秋翔の美味しいご飯が毎日食べられて」
「葉月、毎日俺の弁当から何か奪っていって食べてるだろ」
「あとで私のお弁当から何かあげてるじゃん」
「そういうのって全部葉月が嫌いな食べ物じゃん」
「なんのこと?」
また二人が言い合いを始めた。今日何度目だろうか?
それでも見飽きなくて面白い。
「早く食べようよ」
「そうだね」
みんなのお弁当を開けて自由にその中からとって食べる。
「これは・・みーちゃん家のお弁当だね」
「お母さんがサンドウィッチ作ってくれたの」
「葉月ちゃんとみーちゃんが手伝ったり・・・」
「するわけないじゃん。今日もお母さんに時間でしょって叩き起こされたから」
「私は光月と違ってお母さんに起こされる前に起きたからね」
「でも何回も目覚まし時計がなってたってお母さんが言ってたよ」
みーちゃんと葉月ちゃんはよく似ている。朝が起きるのが苦手なのもそっくりだ。
「これは宙のだね」
「俺のは普通の弁当だけど」
「普通って言っても宙の弁当はご飯が美味しいよね」
味も少しずつ違うものだ。
「結、お兄ちゃん達となにしてたの?」
「なんか・・・ゲーム?っていうのを見に行くのについて行った」
「お兄ちゃん、また買ったの?」
「新しいやつが出てたんだから」
私たちでいう本と一緒かな?
「あれは買わないと!」
「そうだよ」
お兄ちゃんと宙はゲーム友達だ。よく二人でゲームをしている。
「結理も一緒にする?」
「面白いよ」
「いや・・・難しそうだからいいかな」
確かにこちらに来たばかりでほとんど電気製品に触れたことのないからゲームなんて難しいだろう。
「結、本ならどう?」
「・・・本?」
「これ! 今日見つけたの! 貸すから読んでよ」
新しい本の内容はすぐ誰かに話したくなる。結が読んでくれたら内容についてとことん語り合えるのに。
「・・・ありがとう。字が少し違うから読めないかもしれないけど」
「わからないところがあったら言って、説明するから!」
「彩夜芽、それくらいにしとけ。いきなりそんなことを言ったら引かれる」
「えっ! そうなの? 引いた?」
驚いた顔をしている結に近づいて聞いた。
「・・・本が好きなんだなって思っただけ」
「・・・・そっか」
なんか・・・よくわからないけれど、こんなんでいいらしい。なら・・
「これね、とっても面白いんだよ」
ついつい長く好きな本のことを話してしまった。
「はあ、お腹いっぱい」
「美味しかった・・・」
「私、手汚しちゃったから洗ってくるね」
立ち上がって靴を履こうとする。
「ついていこうか?」
「一人で行けるよ」
「いや、迷子になるかもしれないし・・・」
確かにこの公園は広いが・・・
「一人で行ける」
「秋翔、あんまりそんなんだと嫌われるよって言ったでしょう」
「あ・・・うん。行ってらっしゃい」
葉月ちゃんがいるとお兄ちゃんがめんどくさくなくていい。
「行ってきます」
「あれ、どこだろう」
手を洗ってさっきの場所に戻ろうとしたけれどそれがどこかわからなくなった。
「どうしよう」
見回しても木ばかりだ。こんなことならお兄ちゃんについてきて貰えばよかった。
『ーーーー・・・』
「!」
何か声がした気がした。
知ってる声な気がする。誰の声なのかはわからないけれど・・・
「どこ?」
そちらに向かって行ってみる。お兄ちゃん達がそっちにいるかもしれない。
「・・・ーーー・・」
「ねえ、いるなら返事して」
声がしたところまで行っても誰もいない。
「・・・ーーー」
声がしたと思ったらその時風がふわって吹いた。
気のせいだったんだろうか・・・風の音が声に聞こえただけだろうか?
「どこなの?」
ふと前を見れば大きな木が立っていた。周りには綺麗な花が咲いている。
「はあ」
その木に寄りかかる。
ここまで来てしまったら本当に迷子だ。
「・・・お兄ちゃん」
もうどこに行けばいいのかわからない。どちらにお兄ちゃん達がいるのか検討もつかない。
その木の下に座り込んで花を眺める。
「・・・彩夜芽」
「!」
上から声をかけられて驚いてそちらに目を向けた。
「・・・誰ですか?」
綺麗な銀色の髪と綺麗な群青色の瞳を持った少年が立っていた。私より二、三歳年上な気がする。
「・・・俺は・・」
ちょっと苦しそうな悲しそうなどこか嬉しそうな表情をしている。
なんでそんな顔をするの?
「夏牙くん」
緑がかった青の髪と緑の瞳を持った二十代後半くらいに見える男性が夏牙と呼ばれた人の方を掴んで首を振っていた。
「成雨!」
夏牙と呼ばれた人は今にも泣きそうな表情をする。
成雨と呼ばれた人はほんの少し悲しそうな顔をする。
「ごめんね、彩夜芽ちゃん」
笑顔で優しい口調で話しかけられた。初対面なのに嫌な感じがしない。
「どうしたのかな? 迷子になったの?」
「・・・はい、お兄ちゃん達とはぐれてしまって」
「達・・・他には?」
「友達と」
成雨と呼ばれていた人が少し上を見たあとこちらをまっすぐ見つめてきた。
「・・・・向こうで見たよ。少し遠いから案内してもいいかな?」
「・・・お願いします」
普通なら断って逃げるように離れるはずなのに頷いた。
「こっちだよ」
本当にただ案内してくれる。
夏牙という人も後ろからついてくる。
なんで私の名前を知ってるんだろう?
「あの辺に・・・」
「あっ!」
お兄ちゃん達を見つけた。そちらに向かって走った。
「お兄ちゃん!」
「もう・・どこに行ってたんだよ」
お兄ちゃんはやっぱり心配していた。
「ごめんなさい。帰り道がわからなくなって・・・」
「よく戻ってこれたな」
「あのね、案内してくれた人がいて・・・」
あの二人の方を見たけれど・・・
「あれ?」
誰もいない。気配もない。
「どうした?」
「わかんない。もう行っちゃったみたい」
まるで最初からそこにいなかったかのように・・・・
迷子になったのすらなかったことのようだった。
読んでいただきありがとうございます。
最初に投稿した日からおかげさまで一年が経ちました。読んでくださってありがとうございます。
これからも読みたくなるような作品になるように頑張りたいと思います。
そして今回新キャラが二人登場しました。二人とも今後に深く関わってくる人物です。果たしてどんな人物なのか?
どんな風に関わっていくのか楽しみにしていただければ嬉しいです。ちょこちょこ登場させたいと思います。
次話も読んでいただけると嬉しいです。




