十話 手紙4
ちょっと短いお話です。
今日も三人で一緒にいて家の中で料理をしている。
狭い家に三人でいるととても狭いけれど・・・・
「結理様」
「流、なんだ?」
「一度帰ろうと思います」
「・・・そうか。・・・一度?」
「はい。またすぐこちらにくる予定ですが」
「いや、来なくていいから」
二人がいつものように言い合っている。
「なんか・・・兄弟みたいですね」
「え?」
幼馴染の宙にはお兄ちゃんがいて、宙との会話がこんな感じだった。
「わかりますか? そんな感じですよ。同じ場所で育ちましたから」
「違う。そんなの知らない」
「・・・・そういうところが兄弟みたいですよ」
「・・・」
「結理様、だから早く手紙を書いてください」
手紙?
「・・・何を書けばいい?」
「誰に書くの?」
「・・・・両親」
「・・・難しいね」
「思ったままに書いてください。結理様が元気だと分かればお二人とも安心されますから」
「・・・彩夜ならなんて書く?」
そんなこと聞かれても・・・・
「わからない」
「そうですよね・・・・親なんていつも会っている人ですし・・・結理様はずっと会っていなかったわけですから少しくらい書くことも・・・」
「私・・・両親ともいませんよ」
だから答えるのが難しい。
「! そうでしたか」
「あ・・気にしないでください。記憶には一切ないのでなんとも思っていませんから」
「・・・・そうですか」
でも・・・
「何も知らないんです。両親のこと。・・・祖父と祖母に育てられたんですけど・・・話に出てきたことは一度もないんです」
兄の小さい頃の話の時に少し出てきたことはあるけれど・・・私の小さな頃の話には全く出てこない。
「生きているのか、もういないのかもしりません」
「・・・何か残っていないのですか? せめて・・・お墓、とか」
「それが無いんですよ。だから生きてるのかなって思ってます」
聞いてみてもはぐらかされる。すごく怪しい。
「・・・・」
「兄と祖父母がいればそれでいいんです」
もう一つ怪しいことがある。
私の生まれてすぐの写真が一切ない。
お兄ちゃんの写真は隠した形跡があった。
けれど私のはある時期まで全くない。
「・・・手紙、どうする?」
「・・・言いたいこと書こうかな」
「そうですよ。簡単な文章でいいですから」
「紙とか貸して」
「はい、これでいいですか?」
「ありがとう」
出てきたのは和紙と筆、小さな硯のようなものだ。
「・・・これで書くの?」
「そう」
結が紙にサラサラとふにゃふにゃ文字を書いていく。
「書けるんだ・・・」
「まあ、でも久しぶりだから下手だけど」
「ずいぶん下手になりましたね」
「うるさい」
・・・・もしかして下手な字だから読めないのかな?
「流さん、この字って読みやすいですか?」
「・・まあ、中にはもっと下手な方がいますからね」
「そうですか・・」
下手な字だからという問題ではないらしい。
「・・・流、これでいいかな?」
「・・・いいと思いますよ。お二人とも喜ばれるかと」
「・・・帰るのにどれくらいかかる?」
「そうですね・・・馬で来たので、速くて・・半日と少しくらいでしょうか?」
「いつ帰る?」
「明日の朝にここを出ようと思っています」
結は何か考えるような素振りを見せて・・・
「わかった」
「・・・何かありましたか?」
「帰る前にここに来て欲しい」
「わかりました」
そして翌日・・・
「おはよう」
最近少し暑くなってきたがまだ早朝だからか寒い。
「彩夜も来たの!」
「だって流さんも桜さん家に泊まってるんだよ。道一緒だもん」
朝の山はまた少し雰囲気が違う。
「彩夜芽さんに避けられないようになりましたよ」
もう流さんにも慣れた。
「・・・その・・・・杏を華鈴に今日会う?」
「はい。話すことはなくても顔は見ますから」
「なら・・・・これ、二人に持っていって」
結は流さんに袋を渡した。
「・・・川魚ですか・・」
「なかなかあそこで暮らしてると食べることはないだろうから・・・」
「そうですね」
「だから・・・それを二人に食べさせて欲しい。流ならできるだろう」
結は二人の妹に美味しいお魚を食べさせたいと・・・
「いいお兄ちゃんだね」
「いや、全然・・・」
「お二人とも喜ばれるかと思います」
「おれからって言わなくていいから。流が取ってきったて言っといて」
「はい。結理様からと伝えておきますね」
流さんもなかなかいい性格をしている。
「新鮮なうちが美味しいから、焼きたての時に渡して!」
「はい。昔のように・・・ですね」
「・・うん。それで・・・よろしく」
「では、また」
「気をつけて」
「はい」
流さんはお魚の入った袋を持って山を降りて行った。
「彩夜、朝ごはんは?」
「まだ食べてない。お腹すいた」
「ちゃんと桜に言ってから来た?」
「うん。昨日のうちに言っといたから大丈夫!」
「わかった」
二人で居る家の中が少しだけ広く感じた。
とっても狭いはずなのに・・・
「妹いるんだよね」
「うん」
「・・・どんな人?」
「・・・杏はおとなしい。華鈴は元気、賑やか。・・・今は変わってるかもしれないけど」
結はどこか遠くを見つめている。
「お魚好きなの?」
「昔は好きだったよ。・・・たまに家を抜け出して川に行って魚を取って・・・そこで焼いて食べてた」
「楽しそう」
「楽しかった」
この会話は全部過去形だ。
なんか・・・とても寂しい。
「喜んでくれるといいね」
「・・・うん」
よかった。これは未来形だ。
読んでいただきありがとうございます。
流さんと結の話がこれでとりあえずひと段落つきました。
次回は奏さんが言っていた三日後に話が少し飛びます。
奏さんは何をするつもりなんでしょうか?
次話も読んで頂けると嬉しいです




