七話 手紙1
ただ手を引かれ・・・・
結の家のそばまできた頃、やっと止まってくれた。
「・・・結」
「・・・・彩夜、もう朝ごはんは食べたんだっけ?」
いつもの顔でそう聞かれた。
「うん」
なかったことにするつもり?
「・・・・あの・・・・その・・・手紙、何が書いてあったの?」
「・・・なんか・・・ほら、行ったり来たりするのが周りにバレないようにこっちで色々しておくからって」
「・・・あ・・・そうなんだ」
これは嘘だと思えない。
でも、手紙の内容はこれだけじゃない気がする。
「それだけ?」
「それだけ。これだけならわざわざ手紙に書かなくてもいいのに・・・」
文章の量からして絶対これだけじゃない。
わざと何かを隠してる。
「・・・そうだね」
ここまでするなら・・・・無理に聞くこともないかな?
「戻ってきてたんですね」
流さんまたここに来てたんだ・・・
「流・・・・ちょっと・・・・彩夜と居てくれないか?」
「結、どこいくの?」
やっぱりおかしい。見なかったことにしようと思っていたけれど
なんとなく、それはダメな気がした。
「あとでいいや」
「結、手紙貸して」
「・・・」
「私のだよ! 返して!」
もしかしたら読めるかもしれない。
少しはなんて書いてあるかわかるかもしれない。
「はい」
結は諦めたように手紙を渡してくれた。
「ありがとう。・・・読めないけど、奏さんからもらった物だし・・・ちゃんと取っとこうと思って」
読めない、そこを強調して言っておく。
これで結は私が読もうとするとは思わないだろう。
「奏さんとは・・・・どなたですか?」
「知らない人」
「怖いお面を被った女の人です。・・・・なんか・・・よくわからない人ですけど」
「そうですか・・・」
またそのうちどこからか出てくるのかな?
「他には?」
「おれたちのことをよく知ってる」
「どこまで?」
「さあ、・・・全てじゃないか?」
なんか流さんたち仲良くなってる。敬語がなくなっている。何があったんだろう?
「全て・・・ですか・・・どこにいるんでしょうか?」
「知らない。いつも突然出てきていつの間にか帰っていくから・・・・」
「機会があれば会いたいのですが・・・」
なんで流さんは結に対して敬語なの? この二人ってどんな関係?
「まあ・・・そのうち聞いてみる」
「ありがとうございます」
なんで? 流さんってすごく偉い人じゃなかったの? なんでそんな人が結に対して敬語なの?
それとも流さんって誰にでも敬語を使うような人? 他の人とどんな感じで話してたっけ?
「・・・彩夜芽さん、一緒に向こうで魚でも取りに行きませんか?」
「・・・・」
楽しそうだけど・・・流さんとなんて行っていいのかな?
「行ってきたら?」
「・・・私・・・魚取りなんてしたことありません」
まだ・・・流さんとはな
「大丈夫ですよ。コツがわかればできるものですから」
「・・・・いや・・・」
「行ってきてほしいなー、今日はまだ取ってきてないからこのままだと昼食がご飯だけになりそうだから」
結が何を考えているのかわからない。何かを隠して動こうとしているのはわかるけれど。
「・・・・いやです。・・・それなら・・一人で山菜でも取りに行きます」
「・・・すごいですね」
流さんが楽しそうに笑った。
「えっと・・?」
「いえ、・・・・そこまでくると・・・」
「流、ちょっとこっちに」
結が流さんと連れて家の中に入る。中でヒソヒソと・・・
「だから、ーーーーーーいうことがあって」
「・・・それで?」
「それからダメらしい。・・・・知らない人は本当にダメだから。・・・でも流には・・それなりに懐いてると思う」
「・・・懐いてるって・・・」
「えっ! いたの!」
「・・・・聞こえてる。・・・だから・・・流さん。すみません。まだ・・・・無理なので」
自分でもどうしようもないのだから仕方ない。
「わかりました。でも・・・何もしませんよ。私は・・・結理様が信用している方に危害を加える気はありません」
「・・・様?」
結ってすごく偉い人だったり? いや、そんなわけないか。そんな人が何年もこんな端っこの田舎の村に何年も置いとかれるはずがない。
「・・・なんでもありませんよ」
よくわからないな。 なんでいきなりこんな話になるの?
この二人・・・実はかなり親しい関係だったり?
「七年も経ったので色々と変わりましたよ。一番上の兄なんか娘がいます」
「一番上は陸だっけ?」
「そうです。陸兄上がですよ」
いつもの結に戻った。よかった。
流さんの兄弟のことまで結は知っているらしい。
「陸、怖かったのに。普段は優しいのに怒ると別人だよな」
「・・今も十分怖いです。背も高いので昔の四倍は怖いですね」
もう・・・なんの話かわからない。
「・・・来たのが流でよかったよ」
「私でも本気になれば結理様くらい簡単に捕まえられると思いますよ」
「やめて」
「・・・・わかってますよ」
流さんと結はお互いのことをよくわかっているんだろう。
それに比べて私は・・・・・ほとんど何も知らないな・・・
「・・・結、私洗濯してくるね」
「うん。違うところは行かないように。迷子になるから」
「わかってる」
楽しそうなところに私がいても邪魔だろうと思って洗濯をしに行った。
「・・・・結理様、ここに居たいとおっしゃるのはあの方がいらっしゃるからですか?」
かつての、いや、昔からの主人にそう尋ねた。
「・・・理由はいくつかある」
見ない間にずいぶん成長したものだ。
でも・・・ここに留まる理由にあの少女があるのは明白だ。
「・・・何がそんなにいいのですか? 確かに綺麗な顔立ちだと思いますが・・」
「顔?・・・・確かに・・・綺麗かも・・・」
今気づいたというような反応だ。これは違うらしい。
「あの月のような色の髪と海のような目も綺麗ですね」
「おれと違って綺麗なんだよ・・・・」
これは半分はあっているということか?
「性格もよろしいようで」
「うん。わかる。・・・・そうなんだー、小さい頃からあんなで・・・」
・・・・これが理由か・・・。ちょっと難しい。
「・・・・お互い信用しているのですね」
「彩夜はどうかな?」
まさか気づいていないんだろうか?
結理様に彩夜芽さんは誰から見てもわかるほどの好意を向けているのに・・・・
「とても仲がよろしいように見えますよ」
「・・・彩夜の兄とおれが似てるんだって」
ちょっと寂しそうな顔をする。
「だから・・・」
「約束も忘れてって言われたし・・・はあ・・・・」
これは・・・・・まさか・・・・
「もう一度聞きますが・・・彩夜芽さんとの関係は?」
「・・・・ただの・・・知り合い」
「・・・・妹のように思っているとか?」
「そうじゃなくて・・・」
「友人?」
「いや・・・・それは・・・・違う気がする」
あとは・・・・
「・・・・どこら辺が気に入っているのですか?」
「・・・・わからない。・・・会った頃からこんなだし・・・」
「その・・・会った頃というのは?」
「7歳・8歳くらい?」
もしかして・・・小さい頃からだから気づいてないとか?
いや・・・・ただの・・・家族のようなもので好きという可能性も・・・・
「・・・・そういえば・・・・昨日の夜は二人でどこにいってらっしゃったのですか?」
「綺麗な夜空を見せに行った。彩夜はなんか途中おかしかったけど、喜んでくれて・・・昔のこと話した時は楽しそうに笑ってて・・・」
「それは可愛らしかったでしょうね」
「うん。・・・・でも・・・なんか・・・あの顔で見つめられると・・・」
何を思い出したのか赤くなっている。
「・・・・なるほど」
これは・・・きっとそういうことだろう。あっている自信がある。
でも・・・・この先のことを考えると・・・・結理様には悪いが気づかないでもらおう。
「そうですか。よかったですね」
結理様にとって気づかないのが幸せだ。
いや、結理様だけではない。あの少女にとっても知らない方が幸せだろう。
「・・・結、洗ったよ」
洗濯物を抱えて戻ってきた。服はうまく絞れないからまだ水を多く含んでいて結構重い。
「そこの棒に干して」
「うん」
結はいつもの変わらない顔をしているけれど、流さんはなんだか微妙な顔をしている。
何かあったのかな?
「・・・・結、私には届かない」
木に引っ掛けてある棒は高くて私の身長では触れることもできない。
「おれも届かないよ」
ならどうやって干しているんだろうか?
「こっちの木に少し登って、片っぽ下ろして・・・・掛けたらもう一回登って・・こうやって干してる」
「・・・どうして?」
「これくらい高さがないと裾が地面に着くから」
「あー・・・そっか・・・」
着物はだいたい身長くらいに作ってあるらしい。ちょっと違うこともあるらしいけれど。
「・・・大変ですね」
「もっと小さい頃が大変だった。ちょうどいい高さの木がないし、持ち上げられないし」
結は結構苦労している。
「・・・私もできるようになる」
「頼まないからできなくていいよ」
「・・・・うん」
いつもの結だ。
手紙はどうしようか? 一応読んでみるとして・・・・他は・・・・
もしかして流さんって読める? 結が読めるくらいだからきっと読めるはずだろう。
でも・・・・結の前で聞くわけには行かないし・・・・
さっき、二人で魚取りに行けばよかった・・・・
「・・・彩夜、おれ・・・今日は町に行かないと行けなくて・・・・」
「・・・・うん! 行ってらっしゃい!」
ピッタリ! やったあ!
なんていいタイミングなんだろう。
「・・・・嬉しいの?」
怪しまれてはいけない。それに嬉しいわけじゃない。待っておくのは好きじゃない。
「嬉しくないよ・・・すぐ帰ってくる?」
「昼過ぎには」
「わかった、・・・帰ってくるまでに何かしとこうか?」
「なら・・・ご飯炊いて、魚取って、できれば山菜も、畑から何か使ってもいいよ。あと部屋の掃除を」
「・・・うん」
私から言っておいてなんだが、結構多い。
「じゃあ、それをよろしく」
私はこの時手紙の事ばかり考えていて・・・結のことを全然見ていなかった。
「流、彩夜が危ないことをしないように見張ってて!」
「はい・・・心配しすぎでは?」
「いや、彩夜はよく転ぶし・・毒キノコ触ったこともあって・・・あと寝相が悪くて火に突っ込もうとしたこともあるから!」
「はぁ・・・転んで・・・毒キノコ触って・・・寝相?」
流さんの言葉になぜか結が慌て始める。
「これには事情があって・・・その日は夕方にあって、雨で、もう暗くなってて桜のところに今から連れていくのもなーと・・・そのあとは桜の家が火事になったり・・・そういうことだから!」
「・・・いくつかわかっていますか?」
「わかってる! けどさ・・・彩夜は全く何も考えてなくて・・・」
「・・そういうことですか・・・」
「そう! それだけだから」
「わかりました」
話は終わったのかその後結は荷物を持って行ってしまった。
読んでいただきありがとうございます
しばらく手紙の話が続く予定です。
この話は少し大人な流さんと、まだまだ子供な彩夜芽と結理がそれぞれ考え行動するお話になりそうです。
今回、彩夜はどうにか隠れて手紙を読もうと考えましたが、考え行動しようとしているのは彩夜だけではないはずです。隠すことも・・・
そして何かを知っていながら隠す流さん。二人はそれに気づくのでしょうか?
次話も読んでいただけると嬉しいです。




