六話 流6
「おはようございます。彩夜芽さん」
「・・・友梨さん? ・・・おはようございます」
友梨さんと見慣れない天井が見える。
「早く起きないとお姉ちゃんは機嫌が悪くなるんです」
そうだった。桜さん家にいるんだった。
「あ・・・」
それはまずい。
「えっと・・着替えは・・・」
「そこにありますよ。あとこれ、彩夜芽さんにお手紙が・・・」
「? はい・・・」
渡された紙を広げてみると・・・
「どなたからですか?」
「それが分からなくて・・・・玄関に置いてあったんです」
「・・・・そうですか・・」
髪には文字らしきものが書いてあるが・・・・
「なんて書いてあるんでしょうか?」
きっと昔の文字だ。全く読めない。
「・・・・私は文字読むのは得意ではないので・・・」
「読めないんですか?」
「読める人はこんな田舎にはそこまでいませんよ」
「そういうものですか?」
「店に書いてあるような文字は読めますけど・・・それ以外は使うことなんてないので・・」
だいぶ常識が違うな・・・
「・・・そうですか」
なら、普通に文字を読めて書ける結はすごいのかな?
「これ、漢字も混ざっていますし・・・お姉ちゃんでも読めないかもしれません」
「わかりました」
「私は向こうで待っていますから」
「はい」
一人で静かな山の中、冷たい水で洗濯をする。
葉が生い茂った木の下なのにこれだけ明るいから、今日はいい天気なんだろう。
「はぁ・・・・」
流への返事はどうしようか? それを考えるとため息が出てくる。
答えは決まっているようなものだけれど・・・・・伝えるのは難しい。
「そろそろ彩夜は起きたかな?」
もう日が高くなってきた時間だ。
彩夜を桜の家に迎えに行かないといけない。
彩夜は桜の家でも起きたくないと布団を離さないんだろうか?
・・・・桜の家に行ったら流もいる。できることなら会いたくない。
「もし・・・・断ったら・・・・」
杏と華鈴が代わりをするだけだ。ただそれだけ・・・・それだけだ。
「流だって・・・断っていいって・・・・」
なのに・・・どうしても皆の顔がチラつく。
断ったら・・・・後悔するんだろうか?
「どうしたいんだろう?」
ガサガサと落ち葉を踏む音がする・・・
「・・・・・なんだ?」
誰が来たのかくらいすぐわかる。
「・・・さすがですね。結理様」
「・・・・・・様はいらない。いいかげんその呼び方はやめてくれ」
「それはできませんね」
「・・・・何をしに来た?」
「・・貴方様にお渡ししたいものがあります」
これは本当だろう。うそじゃない。
「なんだ?」
「貴方のお母様から・・・渡すようにと」
「・・・・いらない」
そんなものいらない。欲しくない。
「受け取るくらい・・・して差し上げてはいかがですか?」
「なんで・・・・今更・・・」
「・・・・この中には・・・」
「いらないと言っているだろう!」
なんでこんな風に言ってしまうんだろうか?
流は悪くないのに・・・流とは4つ歳が離れているだけだ。流は何も悪くない。
あの時だってまだ子供だったんだから・・・
「・・・ですが私が持って帰るわけにはいきません。棚の奥に置いておくだけでも結構です」
「・・・」
お母様は・・・多分おれのことを遠ざけていた。
杏と華鈴は母上と呼んでいたのに自分だけはお母様と呼んでいた。
一度だけ母上と呼ぼうとしたら怒られた。
忙しいから・・もともとあまり遊んでくれることはなかったけれど杏と華鈴がお母様と一緒の時、一人だけいつもお世話してくれる人と一緒だったこともあった。
「・・・・あの人はおれのことが嫌いじゃなかったのか?」
「・・・結理様のお母様はいつも結理様のことを思っておられますよ」
「・・・・・なら・・・なんで?」
「・・・・それは・・・私が言えることではありませんが・・・、戻って来て欲しいですけれど結理が嫌なら戻って来なくてもいいとおっしゃっていました」
意味がわからない。
「・・・・・あとで・・・紙と筆を貸してくれないか?」
一つ聞いてみよう。
「・・・持ってらっしゃらないのですか?」
「ここら辺で暮らしてたら使うことなんてない」
「・・・・文字は覚えてますか?」
「多分、・・・でも手紙の書き方なんて覚えてないから適当になるけどいいか?」
「はい。どんな形でもいいかと思います」
別に・・・帰るのが嫌なわけじゃない。
もう何年も関わってなかったから・・・・ただそれだけ。
何になるかは置いておいて・・・向こうがどう思っているのかくらい聞きたい。
「なっていただけますか?」
「・・・・断ろうと思ってる」
「・・・・そうですか。・・・・それでも・・・顔くらいは見たいとおっしゃるかもしれませんが?」
「・・・それくらいは聞くよ」
「・・・・・少し成長されましたね」
「少しって・・・あの頃から少しか?」
「はい」
あの頃とは7歳の頃だ。その頃から少しとは・・・・
「流、ひどい!」
「やっと流と呼んでくださいましたね」
「・・・・それがなんだ?」
そう言われると恥ずかしい。つい・・・昔のように呼んでしまった・・・
「・・・・早く帰ったらどうだ!」
「・・もう少しはここでゆっくりしようかと思っています」
「・・・」
「最近仕事ばっかりなんですよ。全然休みをくださらなくて・・・・」
「・・・そんなに?」
「人手不足なんですよ。だんだん代替わりが始まっていますし・・・でも弟はまだ仕事なんてできませんし・・・」
確か・・・流の弟はおれの一つ下だった気がする。
「なのに・・おれには仕事をさせようとしてるのか?」
「・・・結理様はしっかりしていらっしゃいますから、あの弟とは全然違います」
どんな人だっただろうか?
彼は末っ子で頼りにならないからとあまり連れてこられていなかった。
だから流ほど交流はなかった。
「・・・覚えていませんか?」
「・・・・ちっちゃかったような・・・いっつも流の後ろに隠れてて・・・女の子みたいで・・・」
「それです。・・・まだあのままなんですよ。・・・困ったことに・・・」
もう12歳だろうに・・・・それなら仕事なんてできないだろう。
「・・・彩夜芽さんを迎えに行かなくてよろしいのですか?」
「あっ! そうだった!」
「・・・・これは受け取ってください」
それはお母様からの何かだ。
「・・・桜の家に持って行くわけには行かないからうちに置いておいてくれるか?」
「・・・・わかりました」
あとで何が入っているのか見てみよう。
不思議とさっきより景色が明るく見えた。
「結理遅い」
なぜか一番桜さんが怒っている。
「お姉ちゃん、きっと忙しいんですよ」
玄関で結を待ってはや数十分。
確かにちょっと遅いけれど・・・・・
「そうですよ。桜さん」
「・・・二人とも結理に甘い」
「・・・・そんなこと言われても・・・・」
「お姉ちゃんが厳しいだけじゃないですか?」
「友梨・・・」
「ごめんなさい、お姉ちゃんは優しいです!」
お姉ちゃんがいるっていいなー。
なんか楽しそう。
「彩夜ー、遅くなってごめん」
「結理、遅い!」
「なんで桜が怒ってるの?」
「時間通りに来なさい」
「はーい」
桜さんも結に甘く見えるけどな・・・・
「結、あのね、私に手紙が来てて・・・」
結にあの手紙を渡す。
「誰から?」
「・・・文字があ読めないから・・・わからなくて・・・」
「・・・・読んでいい?」
「うん」
結は手紙を開いて・・・
「奏さんからみたい。内容は・・・・」
「どうしたの?」
結がそこで止まった。
「・・・・い、いや。・・・ちょっと内容が長いからあとで話すよ」
「・・・うん」
明らかに動揺している。
「・・・彩夜、行こう。今日はちょっと遠いところに行くから早く行かないといけないんだ」
「うん。あっ!」
そのまま手を引かれる。
「結理!」
「桜、ありがとう。また、夕方に来るから」
「ちょっと!・・・もう・・・」
何がなんだかわからないまま結の家までそのまま連れて行かれた。
「内容は・・・・」
「どうしたの?」
なんで奏さんがこれを知っている?
どうして彩夜に伝える?
決めたことが一気に崩れた気がする。
彩夜は何も知らない。不思議そうにこっちをみている。
「・・・・い、いや。・・・ちょっと内容が長いからあとで話すよ」
「・・・うん」
こうやって隠すのが精一杯だった。
「・・・彩夜、行こう。今日はちょっと遠いところに行くから早く行かないといけないんだ」
ここにこのまま居てはいけない気がした。
「・・・うん。あっ!」
彩夜の手を取って家の方に向かう。
奏さんは・・・こんなこと言わないと思っていたのに・・・なんで・・・
「結理!」
桜が何か言っていたけど返事をかえす余裕はなかった。
やっと光が見えたのに・・・・だんだん闇に包まれていくような感覚だった。
読んでいただきありがとうございます。
今回は結と彩夜の二人の視点からお話を書きました。
何も知らない彩夜と一人でたくさんのことを考えて悩み決めていこうとする結。
そこに届いた手紙。
中には何が書いてあったのでしょうか?
次話も読んでいただけると嬉しいです。




