四話 流4
「彩夜、帰ろう」
「あ、早かったね」
桜さんたちと話していると結が迎えにきてくれた。
「結理、いらないことするんじゃないわよ!」
「あ・・・流様のこと?」
「他にある?」
「・・・・大丈夫だよ。早く帰ってもらうから」
「・・・・それならいいけど・・・・」
何を話していたんだろう? 私がいると邪魔だから先に帰らせたのはわかっている。
「これありがとう。今日、この子の分のご飯もいるの?」
「いや、こっちで食べるから大丈夫」
「そう」
「あと、暗くなってから連れていくから」
山はすぐ暗くなって、暗いと足元が見えなくてかなり危ない。
「危ないでしょ。明るいうちに連れてきなさい」
「・・・ちょっと用事があるから、そのあと連れてくるよ」
「? ・・・・何の用事? 怪しい・・・」
「怪しくないから、・・・何の用事だったかはそのあと報告する。それでいいだろ」
「出来るだけ早く連れてきなさい」
「はい」
さすがお姉さん。
「流様そろそろ帰ってくると思うから」
「なら早く帰りなさい」
「わかってるって」
何で・・・私には流って言ってたのに桜さんの前では流様なの?
「結・・・・あ・・・えっと・・・」
桜さんの前では聞かない方が良いのかな?
「ん?」
「あとで聞くから」
「言いたいことと文句は遠慮なく言ってよ」
「文句じゃない」
結に文句なんてない。
強いて言うなら・・・・夜は桜さんの家に行かなければならないことだろうか? あとは町に行くときは置いていかれることとか・・・・考えてみると思っていたよりでてきた。
けれどこれは結が私のことを思ってしてることだ。
文句は言えない。
「彩夜芽さん、結理さんがなんかしたら遠慮なくなんかしていいいですからね!」
「なんかとは?」
「平手でばっちんとか別にぐーでもいいですよ。蹴っちゃっても大丈夫です!」
何でそうなるの?
「結は特に何もしませんよ」
「いや、もしもの時のためです」
そんなことないと思うけどな・・・・それにもしもって何だろうか?
「というか・・・ばっちんとかぐーは置いといて・・・蹴るのはどうでしょうか?」
「結理さんこう見えて結構丈夫なんですよ。昔結構高い木から落ちても全然平気だったんです」
そういう問題だろうか?
「たまたまでは?」
「それが何度もあるんですよ」
それはすごいのかもしれない。
「小さい頃から何故か丈夫なんだ。木から落ちるくらいどうってことない」
「だから安心して蹴ってください!」
友梨さんこんな感じなんだ・・・
「いや、けがしないけど、痛いから!」
「・・・・そうなんだ・・・」
「ほら、帰ろう。これ以上ここにいると面倒だから!」
結はこの姉妹にちょっと弱いらしい。
「またあとで」
「待ってますねー」
「はーい」
またきた道を戻っていく・・・
シャカシャカ、ガサガサと二人の足音が静かな森の中に響いている。
でも、4月の時より森の中が賑やかな気がする。
「ねえ、どれくらいなら落ちても大丈夫なの?」
「・・・あのボロい吊り橋の川の・・崖くらいなら」
「! なら木から落ちても大丈夫なはずだよね・・・」
「・・・落とす気じゃないよな?」
結は私から少し距離を取りながらそう聞いてきた。
私を何だと思っているんだろうか? そんなことしないのに・・・
「しないよ。大体何でそんなことしないといけないの?」
「・・・日頃の・・・・文句とか色々溜まって?」
「いやいや、それなら崖から落とすんじゃなくて・・・・友梨さんが言ってたようにするよ」
「やっぱりなんかされるんだ・・・」
「違う! そうじゃなくて・・・もしの話だよ。ね、だから」
私が結に一歩近づくと結は私から一歩下がる。
それを何度か繰り返し・・・・
「何もしないから!」
「・・・・」
結は時々警戒心がとても強くなることがあるらしい。
「文句なんてないって言ったよね!」
「・・・」
「もし、結が何かしたらつい手は出るかもしれないけど軽くだろうし・・・蹴るなんてしないからね! 崖から落とすなんて絶対しないから!」
「・・・わかった。信じとくから」
崖から恩人を落としたら人としてどうかと思う。
そもそも落としたら・・いや、落とさなくても色々おもいっきりやってしまったら・・・現代なら警察沙汰じゃないかな? そんなことは絶対しない。
「うん。・・・私は普通に怪我もするし、崖から落ちたら助からないからそんな事しないでよ」
結がそんなことをしないのはわかっているけれど一応言っておく。
「もちろん」
私たちは何なんだろう。
友達というのか言わないのか、ちょっと違うような、兄弟ともまた違う、家族でもない。
知り合いよりは深くて・・・奇妙な関係。
別にそれでいいけれど、・・・・・いつかこんな日常に終わりが来るんだろうか?
奇妙でいい。だからずっと永遠にこんな日常が続けばいいのに・・・。
そんなことをこの時ふと思った。
「彩夜? どうかした?」
「ちょっと考え事してただけ」
永遠には続かない、いつかは終わりが来ることを知っているからこんなことを思うのだろう。
「彩夜、・・・・将来自分が何してるか想像できる?」
「できないよ。・・・・・昔は何となく想像できたけど・・・・今は、ここに来てから人生何が起こるか分からないってわかったから・・・」
「まだ、12歳だよな。気付くのが早くないか?」
「・・・・・だって・・・普通なんてことがない経験ばっかりだもん」
「?」
「・・・わからない? 結だって・・昔居たところで描いてた未来とここで描いてる未来は違うでしょ。それに気づいて・・・私は今したいことをしようかなって思ったの」
ここに来たことだってそういうことだ。
「したいこと?」
「だってさ、後悔はしたくない。私、ここにくるの怖かったけど来ないといつか後悔するんだろうなって思ってここに来たんだよ」
私は説明するのが苦手だ。ちゃんと伝わっているんだろうか?
「・・・・確かにそうだな。・・・・・なら・・・」
「未来なんて自分次第でどうにでもなるけど後悔は過去だからどうにもならないからね」
「・・・・じゃあ、彩夜ならしたいこととしなくてはいけないこと、どっちを選ぶ?」
難しい質問だ。
そんなことを選んだことなんてないし・・・・
「どっちも今すぐしないといけないの?」
「! ・・・・いや、したいことが今でしなくてはいけないことが数年後」
「・・・なら・・・準備とかがいるのかもしれないけど・・・今はしたいことをする。数年後のことはその時の自分に任せる」
「でも・・・・しなくてはいけないことも早くって言われてたら?」
「・・・・何でそんなことを決められなきゃいけないのって言う。事によるけどね」
「・・・・一生に関わる事だったら?」
仕事とかの話かな? あのおじさんも結がそろそろ成人とか言っていた。
「・・・・嫌なのに断れそうになかったら・・・・せめてあと数年は好きにさせてもらう。それでも嫌なら数年あるんだからそれまでに状況を変えてしまえばいい」
こんなの子供の簡単な考えだ。そうはいかないのが大人の世界だろう。
「なーんて・・・・それが現実を考えた上の理想?」
「・・・・ありがとう」
「?」
私なんかありがとうを言われるようなことしたっけ?
「・・・彩夜、色々しないといけないことがあるから手伝って」
「うん」
なら、せめて1秒でも長くこの時が続きますように・・・・
日が暮れた頃・・・・
「はあー、ご飯おいしかった」
「美味しいなら良かった。明日は何を作ろうか・・・・」
「私がこっちにいる間にこれもう一回作って!」
「うん。・・・・なあ・・・いつまでこっちにいるの?」
「・・・・どうかな?」
私は学校が嫌いだ。勉強も嫌い。
あと数日したらちょっと寂しくなるかもしれないけれどそれ以外で私が向こうに帰る理由なんてない。
こっちにいるとどんどん帰りたくなくなってしまう。
でも・・・・・帰らないと私の居場所がなくなってしまいそうで怖い。
「長くても10日くらいかな?」
「わかった」
私は中途半端だ。
学校だって嫌いで毎日行きたくないけれど・・・・全く行かないなんて無理だ。
「・・・・結、もう真っ暗だよ」
「・・・まだ早いよ」
私は結に甘えているのかな?
このままではだめなのかな?
「服畳んだら?」
「あー、そうだったね」
乾いた服を畳んでバッグにしまう。
「彩夜、・・・・えっと・・・あっちにも奏さんっている?」
「・・・見たことないなー。でも千年先なんだよ。いるかな?」
「神とかだったらあるかも?」
「神っているの?」
「さあ? でもあやかしだって妖精だっているんだからいるんじゃない?」
なら・・・名前だけの神様なのかな?
「歴史的人物だって神社に祀られたりするんだよ。・・・あれも神社に祀られてるくらいだから神様なんでしょ?」
「その辺はよく知らないけど・・・そうなんじゃない?」
「だよね・・・・神様って何なんだろう? 私たちだって歴史的人物になったら祀られてるかもしれないんだよ!」
「・・・・拝んでもご利益なさそう」
「それに祀られた人って祟りがあったからって人多くない?」
「そうだっけ?」
例えば平の何とかさんとかどこかに左遷された人とか、教科書に載っていた気がする。
「あ・・・もっと先の時代の人かも」
「あ・・・」
やっぱり近い未来のことは特に話してはいけない気がする。
「・・・そろそろいいかな?」
「ん?」
「彩夜、行こう」
結に手を引かれて森の中を進んだ。
「早いよ。足元ちゃんと見ないと危ないよ」
「・・・・彩夜は夕方くらいには見えない?」
「?」
「あ・・・おれだけか」
「何が?」
「なんかさ、真っ暗でもある程度見えるんだ。夕方程度には」
「へぇー」
そんなに驚けない。
結は崖から落ちても平気とか言っていたし、あーありそう、くらいに思ってしまった。
「便利だね。結は山で暮らすの全く困らないんじゃない?」
「いや、それなりに大変だよ」
でも火を出せて、暗くても見えて、料理が上手。
いや、最後のは関係ない?
「・・・どこまでいくの?」
登って行っているのはわかるけれどここがどこか全くわからない。
おまけに月は出ているけれど木の葉に隠されてほとんど光がない。
「んー、もう少し」
近くの茂みがガサガサと・・・・
「きゃっぁ!」
「怖くないよ、夜行性の動物が動いてるだけ」
「大きい動物でない?」
「どうかな? たまに出るけど」
夜の森は怖い。何でもっと早くじゃだめだったんだろう?
「・・・ついたよ。これを彩夜に見せたかった」
読んでいただきありがとうございます。
今回は流がでて来たことで少しずつ何かが変わっていく様子を書いてみました。
したいこととしなくてはいけないこと、結は何を選ぶのでしょうか?
そして、結が彩夜に見せたかったものとは?
次話も読んでいただけると嬉しいです。




