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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
一章 知らない世界
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二十四話 雨の日7

 

 あたりは真っ赤に染まっていた。


 「結理、二人のことよろしくね。ちゃんと連れて行ってあげて」


 「待って、お母様は? お父様は?」


 「ちゃんと迎えに行くから」


 「言ったところまで走っていくんだ。いいね」


 こういう時は両親に何を言っても聞いてもらえない。


 「・・・はい」


 「お兄様・・」


 「どこに行くのですか?」


 不安そうに妹たちが聞いてくる。だけど・・・


 「あん、かりん。行くよ」


 小さな妹たちの手を引っ張って暗くて狭いところを泥だらけになりながら走った。


 「待って、速い」


 「あっ、・・痛い」


 かりんが転けた。追っ手が来る前に逃げなくては・・・


 「いたぞ!」


 「!」


 「・・・かりん、泣くな。見つかる」


 「うん」


 大きな木の影に身を隠す。小さな体は簡単に隠れる。


 「・・・・二人であっちに逃げて。絶対声は出すな」


 「どこに?」


 「・・・絶対母様と父様が見つけてくれるから、・・・走れなくなるまで逃げろ」


 「どこに隠れた!」


 速くしないと見つかる・・・


 「うん」


 「お兄様・・行かないで」


 「・・・・あんもかりんもいい子だから兄様のお願い聞けるよね」


 「「うん」」


 二人が少し離れたのを確認して音を立てた。


 「・・いたぞ!」


 「わぁぁー、来るなー」


 何人も追いかけてくる。全員こっちに来ているだろうか?


 「待て!」


 「子供のくせに速い!」


 やっぱり大人は速い。力では絶対大人に敵わない。


 「あっ、・・・・」


 足元に地面が無かった。


 どんどん下に落ちていく。そうか。がけだったんだ。


 「いなくなった?」


 「下だ。・・・ここから落ちれば助からないだろう」


 「でも川がある」


 「溺れるだけだろう」


 かりんとあんは無事に逃げられただろうか?


 お父様とお母様はどうなっただろうか? ちゃんと迎えに来てくれるだろうか?


 妹たちが無事ならそれでいい。おれは二人より体が丈夫だからもしかしたら助かるかもしれない。


 冷たい川の中に落ちて・・・・



  深く沈んで行った。






 そして・・・・・


          桜と出会った。





       ・        ・          ・





 「・・・・」


 上には青い空が広がっていた。


 「おはよう、彩夜ちゃん。いい夢見れた?」


 「・・・・奏さん。・・・結は?」


 「そこにいるよ。まだ夢見てるけど」


 「・・・そうですか・・・」


 速く・・・話したい。いろいろ聞きたい。


 「結理が見てる夢はちょっと長いから」


 「私と見ている夢は違うんですね」


 「そうだね。・・・私が見せるのは忘れた過去だから、・・・結理はいっぱい忘れてるんだ。知ってるでしょう」


 「・・・そうでしたね」


 結が見ているものも大事な思い出なんだろうか?


 「・・・結理が起きるのはもう少し時間がかかると思う。・・帰る準備しておいで」


 「はい」


 一人で山を降りていく。なぜか吊り橋も何もない薄暗い山の中も怖くはなかった。いろんなことをいっぱい考えていたからかもしれない。


 思ったより結の家は遠かった。一人だと余計に遠く感じる。


 「いつも・・・・こんなところ一人で歩いてるんだ」


 誰もいない家の戸を開けた。


 置いてある制服を取って・・・・


 「・・・久しぶりだな・・・」


 まだ一度しか着ていなかった。こんなに制服って重かったっけ?


 「・・・これ・・・友梨さんに返さないと・・・」


 やっぱり・・・あれは着ることないままだった。


 一人で村に行く勇気はない。


 ここに綺麗に畳んで置いておこう。


 「後は・・・」


 カバンに出していたものを詰める。


 ここが本当に過去なら残してはいけないものがいっぱいある。


 「・・・また・・・・くるね」


 奏さんは嘘をついているとは思わない。


 多分・・・・大丈夫。


 また同じ道を歩いて戻る。


 「・・・なんか・・・」


 帰れるのは楽しみだ。お兄ちゃん、おばあちゃん、おじいちゃん・・多分待っていてくれてる。


 私は向こうで存在してなかったなんてことになっていなければ・・・


 けど・・・


 「・・・・あ、おかえり。・・彩夜ちゃん似合うね。その服」


 「・・そう・・ですか?」


 「さあ、・・帰る準備して」


 「彩夜・・」


 「結・・・あのね・・・」


 「・・・」


 なんか結の様子が変だ。


 「ねえ、・・・どんな過去だったの?」


 「・・・・いい・・思い出」


 「そうなんだ」


 「彩夜は?」


 「・・・思い出したの。・・・あの時・・・助けてくれて・・・ありがとう」


 「え・・・」


 すごく・・・驚いた顔をしていた。


 「・・・私・・・ね・・・なんか・・・ごめんね。私から言ったのに忘れてて・・結はずっと持ってて・・覚えててくれたのに・・」


 結の持っている大事なものを入れた袋の中には私が渡した綺麗な石が入っていた。


 「あ・・・うん。その・・・」


 「・・・・」


 「ほら、何をうじうじしてるの?」


 もう・・あんまり時間がないってことかな?


 「・・・とにかく! 助けてくれてありがとう」


 「えっと・・・・あれは・・おれの方が助けられてる」


 「・え?・・・何で?」


 私は何もしていない。


 「・・・・」


 「あのね。二人ともはっきり言わないと」


 「・・・あの時・・・記憶がなくて・・・心に穴が空いたみたいだった。・・・埋める方法を教えてくれてありがとう」


 「いろいろ言ってくれて・・・嬉しかった」


 「あ・・・あれは・・・忘れて!」


 どれも今思えば恥ずかしすぎる。


 「・・・・無理。・・・またここに来てくれてありがとう。・・・今度来た時は・・未来の世界のことでも教えて」


 「・・・わかった。・・・でも・・・未来・・」


 「彩夜にとってここは過去でしょう」


 「・・・そうだけど・・・・」


 過去と言ってしまったら・・・・


 「全然違うところなんだよ。だから・・・世界が違うと思って。・・・過去って言ったら私は関わったらいけない場所になっちゃう」


 「うん。わかった。・・・・なら・・・・そっちの世界のことを教えて」


 「私もわからないことばかりだから・・・こっちのこと教えてね」


 今は・・・奏さんを信じるだけ。


 「結・・・思ってることもっと話して。・・・私には聞くことしかできないけど・・・聞くから」


 「なら・・・早速いいかな?」


 「うん?」


 結の笑顔が崩れていく。


 「思い出した過去・・・」


 「どんなだったの?」


 「・・・家族が・・・いたんだ。・・妹たちと両親と・・・楽しかったころのも思い出した。・・いい思い出だったけど・・・・思い出したくなかった」


 結の過去に何があったのか私は知らない。別に知らなくてもいい。結は言いたく無いと思うから。


 「そっか。・・・うん。・・・・」


 なんて言えばいいんだろう? それとも聞くだけでいいのかな?


 「・・・彩夜、その・・・今まであったことは今度話そう」


 「うん。・・・思ってたより早く会えたね」


 「確かに・・」


 「でも話すこといっぱいあるよ」


 「約束・・・忘れてたのに覚えてるの?」


 「・・・うん。多分。きっと」


 自信がない。あんまり小さい頃のことは覚えてないかな?


 「やっぱり覚えてないんだ」


 からかうように結はそう言った。


 「・・・・それでもいっぱい話すことはあるよ」


 「うん」


 「・・・話は終わった?」


 「はい」


 「・・・あ・・・あれ・・見せ損ねた」


 「?」


 「いいじゃん。お楽しみは後に取っとこうよ」


 奏さんはわかってるんだ・・何のことなんだろう?


 「・・・梅雨になる前にまた来て。そうしないと・・・もっと後になるから」


 「?・・・うん。わかった?」


 二人ともわかっているなら教えてくれたらいいのに・・・


 「言ったら結理がかわいそうだからダメなんだよ」


 「・・・はーい」


 「彩夜ちゃん、こっちにおいで」


 「はい」


 奏さんは川のすぐそばまでやってきた。


 「川に入ったら帰れるよ」


 「・・・・結、部屋に服は置いておいたから友梨さんに返しておいて」


 「うん」


 「じゃあ、・・・またね」


 一歩川に踏み出そうとした時・・手を引かれた。


 「彩夜・・・ごめん、何でもない」


 夢で見た小さな結のような顔をしている。


 「あの時とは違うよ。・・・また会えるってわかってるんだよ」


 「情けないなー、・・・・」


 きっと逆の立場なら私だって引き止める。


 私は家族のもとへ帰るけど結は一人になるのだから。


 「私・・・もうちょっと料理できるように練習してみるね。お兄ちゃんが料理上手だから」


 「なら・・・もっと美味しく作れるか試しておく」


 結の手が離れた。


 「奏さん、ちゃんとまたここに連れてきてくださいね」


 「もちろん。私は約束破らないよ」


 川の中に踏み入れると・・・・


   浅い川だったはずなのに深く沈んでいった。






         ・      ・       ・




 彩夜は川に入った途端消えた。


 「結理、大丈夫?」


 「うん。・・・いそがしいんじゃなかったの?」


 「あいつに任せておけば仕事なんてどうにかなるから」


 「ふーん」


 「ねえ、君はこれからどうするの?」


 聞きたいことはわかる。けれど知らないふりをしよう。この人にはそれさえわかるだろうけれど。


 「何が?」


 「その記憶。・・・君には必要なものだったでしょう」


 「・・・・どうなったか知ってるんだろう。あの後」


 「聞きたい?」


 「別に・・・」


 もう帰ろう。しないといけないことはたくさんある。


 「みんな元気に仲良く暮らしてるよ」


 「・・・そうか」


 別にどうでもいい。あの人たちがどこで何をしていようが。


 「素直じゃないね。君だけ迎えにきて・・」


 「・・・いい。・・・桜が見つけてくれたから」


 「そんなんだから・・・いつまでも・・・もう教えてあげないから! 自分で答えは見つけてね」


 「・・・奏さん」


 「なに?」


 「彩夜と会わせてくれてありがとう」


 それだけ言って家に帰った。


 これからもこんな生活が続けばいいのに・・・・





        ・       ・        ・


 


 「あれ?」


 目を開けると少し赤く染まった空が目に入った。こんな夕方だったっけ?


 服は濡れてないし、川のすぐそばのベンチにいる。


 「あれ? 彩夜ちゃん、こんなところで何してるの?」


 「みーちゃん?」


 幼馴染のみーちゃん(本名は光月)が制服姿で立っている。その隣には・・


 「(そら)・・・ん?」


 「先に帰ったんじゃなかったの?」


 「・・・今何日だっけ?」


 「えっと・・・10・・5日だっけ?」


 多分私は六日間あっちで過ごした。


 入学式は8日であっちに行ってしまったのが9日で・・・


 「今日・・・学校・・私いた?」


 「何言ってるの? 一緒にお弁当食べたりしたよ?」


 「そっか・・」


 どうなってるの? 


 「宙、私・・・初日に川に落ちたよね?」


 「あー、うん。それで学校遅れて大変だったよな」


 わからない。確かに私は六日間あっちにいた。その間のことは何も知らない。


 「・・じゃあね。帰らないと」


 「また明日」


 「またね」


 急いで家に帰る。お兄ちゃん、どうなってるの?


 「ただいま! お兄ちゃん」


 「彩夜、遅かったな」


 いつものように夕食を作っている。なんかほっとする。けど・・・


 「私・・・学校まだ休んでないっけ?」


 「もう忘れたのか? まだ一週間も経ってないだろ」


 「うん・・・そうだね」


 「早く着替えて手洗いして・・洗濯物とえてきて」


 「・・・はーい」


 あの過ごした日々は夢だったのだろうか?


 誰に聞いても私は六日間ここにいたことになっていた。


 




 


 


 


 

読んでいただきありがとうございます。

やっと一区切りついたかと思います。彩夜がいない間どうなっていたのでしょうか?

その辺は次の章で書きたいと思います。予定では次から二章が始まります。

一章は予定通り種をたくさんばら撒くことができました。忘れないように少しずつ全て咲かせていきたいと思います。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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