二十三話 雨の日6
気づけば知らないところにいた。どこかの森の中だろうか?
私はなんでここにいるんだろうか?
結と奏さんと一緒にいて・・・・それで・・・・なんだっけ?
天気が悪い。今にも雨が降り出しそうで・・・なんで私は走っているの?
「誰か、誰か助けて!」
どこからか幼い子の声がする。違う、自分だ。
目線が低い。小さくなってるってこと?
なにがどうなっているの?
「誰か!助けて!」
「うるさいな!」
大人が取り囲み体を押さえつけられる。
「静かにしろ!」
「やめて!」
声が勝手に出ている。体が勝手に動いている。動かそうとしたようには動かない。
必死に考えている間に口が塞がれ、両手両足を縛られた。
「どうするこの子?」
「山奥で片付けようか」
「んー!」
やめて、助けて! 私はこの後どうなるか知っている。
小さな体は大人に簡単にかかえられてどんどん山の奥に連れて行かれる。
そして雨が降ってくる。
「こんな時に・・・・」
雨に濡れて寒くて・・・・
「この辺にしましょうよ」
「そうだな」
どさっと地面に落とされる。
「んー、あー!」
口を塞がれているせいで言葉にならない。
「おとなしくしろ!」
「!・・・・」
この時の私は銃が怖くて声が出せなかった。
「私にさせてくださいよ」
「・・いいだろう」
「じゃっ」
バンっー! とすごい音がした。
熱い? 痛い? 寒い 苦しい そして赤い。
この時の私はわかっていなかったけれど撃たれたんだ。
ずっとただの夢だと思っていた。けれどそうじゃない。昔、私が小さな頃にあったことだ。
そうか。これは忘れた記憶の中か。
「外した。あと数cmで一発だったのに・・」
「どうする? ほっといても長くはないよ」
「じゃあ俺が・・・」
再び銃が向けられ・・・森中にまた大きな音が響き渡った。
この後は夢でも見たことがない。どうして私は生き残ったんだろう。
「なんだ! お前は!」
目の前に誰かいた。
「誰でもよくない?」
この声もまだ幼い。きっと子供だ。目が霞んでよく見えないけれど影が小さい。
この人が探していた人だ。みたい。
「動くな。銃があるんだ。わかってるのか?」
「なにそれ。弱そう。・・・速くどっか行ってくれない?」
「二人まとめて・・」
「そっか」
目の前の影が動いた。
「あぁぁーー!」
「逃げろ。ただの子供じゃない!」
「わぁぁぁーーー!」
大人たちが逃げていく。
「はぁ・・・大丈ぶ・・・しっかりしろ! ねえ、ちゃんと助けた。出てきて! どうにかして!」
たくさんかけられる声を聞きながら意識が途切れた。
どれくらい時間が経ったんだろう。
小さな私が気を失っている間私は真っ暗でなにも聞こえない空間にいた。
「・・・よかった」
やっと明るくなった。音も聞こえる。
「どう?」
地面に敷いた布の上に寝かせられているらしい。
「・・・あ・・・」
うまく声が出なかった。けれど彼の姿ははっきり見えた。
「え、どうした? やっぱり痛い?」
会えて嬉しい。泣きたくなるほど・・
そう思ったら何故か小さな私も泣いていた。
この時の私はなんで泣いたんだろうか? 今となってはもう分からない。
「泣かないで」
慌てる彼にわかったと伝えたくて頷いた。
「・・・だれ?」
私にはわかる。
紺に近い青色の髪に燃える炎のように赤い瞳。
「ゆいり・・・・君は?」
「・・・あやめ」
「・・・あやめ・・・わかった」
やっぱり私を助けてくれたあの人は結だったんだね。
結はこの時のこと覚えているのかな? わかっててあの時助けてくれたのかな?
「ねぇ・・・」
小さな私は結に何かを伝えようとしたようだけれど眠気に襲われたようで私はまた真っ暗な世界に引き摺り込まれた。
「あ、やっと起きた」
次に起きた時は暑かった。
「暑い」
「熱あるからかな?」
なんだかぼーっとする。
「お兄ちゃんは?」
この頃の私はお兄ちゃんにべったりだった。
「・・・えっと・・・・もう少し治ったら会える」
「・・・・わかった」
それから何度も起きては眠気に襲われを繰り返した。
だんだんその間隔は短くなっていき、起きていられる時間は少しずつ長くなっていった。
「あやめ、何か食べる?」
「うん。・・・ねえ、あやって呼んで」
「うん。あや、起き上がれる?」
そこまでは治っていない。
「いつになったら帰れる?」
「起き上がれるようになったら」
「・・・・わかった」
結はおかゆを持ってきて小さな私に食べさせてくれた。
「・・・苦い、美味しくない」
「・・・山菜嫌い?」
「嫌い」
そうだ。この頃から山菜の苦味が嫌いだった。
「ほら、食べて」
「嫌」
「あや、食べないと帰れないよ」
「・・・・食べる」
いやいや食べたのは何となく思い出した。あの味は子供には無理だ。
そして次に食べた時、苦い味が減っていた。
「ゆい、どこ?」
ある時起きたら結がいなかった。
知らないところに一人ぼっちで怖くなった。
「ゆい、ねぇ」
「・・・あや、どうした?」
今思えば結はその時私のために色々してくれていたのだろう。
「帰りたい。いやだ!」
動けなくて、熱があって、怪我をしてていっぱいいっぱいになっていた。
それでわがままを言って泣いた。
「もう少し待って。あと少しで帰れるから」
結は困ったような顔でずっと泣き止むまでそう言っていた。
「あや、・・・・好きな色ってなに?」
きっと私があんまり泣くからこんなことを聞いてきたのだろう。
「・・・ピンク」
「?」
「桜とか桃の花みたいな色、知らないの?」
「知らない」
「・・・ゆいは?」
「・・・青色」
この前もした質問だ。今と変わってない。変わったのは説明が具体的になったことかな?
「・・・今なにしたい?」
「・・・帰りたい」
その時の私にはそれしかなかった。
「・・・そうなんだ」
「ゆいは?」
「・・・・このままずっとここにいたい」
「寒いよ」
温度的にも気持ち的にも・・
「あったかいよ」
「・・・ふーん・・そうなんだ」
よく分からない人だなー、と思って結を見ていた。
それからまた少し経った。
その間に私とゆいは少し仲良くなった。
ザーザーと雨が降っている。
「あや・・・もうすぐお別れなんだって」
「じゃあ、お兄ちゃんに会える?」
「・・・うん」
「ゆい、どうしたの?」
昔の私はひどい質問をしたものだ。
「帰りたくない」
「どうして?・・・家族待ってないの?」
「・・・家に帰っても誰もいない。・・・一人で暮らしているから」
「・・・・お友達は?」
「いるわけないじゃん。・・・こんな髪で真っ赤な目なのに」
ゆいは泣きそうな顔をしている。
なんか珍しい。こんな表情もするんだ。
「こんな見た目嫌だ」
「・・・べつに変じゃないと思うよ」
「みんなとちがうよ」
「・・・海の向こうには肌が黒い人とか金髪の人、目だっていろんな色の人がいるんだって。だから変じゃないってお兄ちゃんが言ってた」
だからいいんだと小さな私は思っていた。
「そうなの?」
「うん。あやたちみたいな人も世界のどこかには何人もいるよ」
「でも・・・」
「それでも嫌なのは一緒だけど・・・そう思ったら少しはいいかなって思わない?」
「そうかも」
ゆいがちょっと笑ってくれたのが嬉しかった。
「ゆいの目、とってもきれいだよ」
「みんな血の色みたいだって・・」
「全然違うよ。きれいな赤だもん。・・・んー、どれに似てるかな?」
「あやだって・・・・お月様みたいな色の髪と夜のお空みたいな目・・・かわいいよ」
夜のお空みたいな・・か。くらい場所だったからそう見えたのかな?
「ありがとう」
「ねえ、あやなら・・・・・ずっと・・・」
「あやたちもう会えないの?」
「わからない」
「・・・なら、うちに一緒に・・・」
よくそんなことを言ったなー。今の私には無理だ。
「ダメだよ」
「でも・・・ゆいと会えないのは嫌だ」
「ゆいだって・・・」
「・・・・・」
「・・・一人は寂しい。・・・・みんな・・・逃げていくんだ」
「大人になったら・・・自由にできるかな?」
「多分」
「なら、大人になったらずっと一緒にいよう。そしたら寂しくないよ」
こんなの告白のようじゃないか。思い出したくなかっった。
「・・・うん」
「・・・・ずっと一緒だったら話すことなくなっちゃう」
「んー、そうだね」
「だから、・・・会わない間話すこといっぱい貯めとこう!」
「?」
「あやは今6歳だから・・・10年よりいっぱいかな?・・・・たくさん貯まるよ」
「10年後?」
「どうなってるかな? 大人かな?」
この頃の私は大人というものに何か夢を感じていた。何でもできると。
「わかった。いっぱい貯めとく」
「そしてどっちがいっぱい貯めたか勝負しよう」
「全部覚えとくの?」
「それはわからないけど・・・とにかくいっぱい話せるようにするの!」
適当だなー。
「・・・また会えるかわからないよ」
「そしたら・・・探してみる」
探してくれたのは結の方だった。
「ゆいのこと覚えておいてくれる?」
「うん。・・・多分・・・あっ! ゆい、これ持ってて」
「何これ? 綺麗な石」
「見た目変わってるかもしれないから・・・そしたら覚えててもわからないもん」
「・・・なら・・・あやにはこれあげる」
私が今はネックレスの飾りにしていた綺麗な石だ。
そうだ。とても大事にしていて無くさないようにとお兄ちゃんがネックレスにしてくれた。
「ありがとう」
「あやもゆいのこと忘れないから、これはその約束の印・・・・絶対また会おうね」
そのあと、気づけば私はベットの上にいて大人たちに囲まれていた。
そのあと警察の人に囲まれて色々質問された。
この頃から大人の人が怖くなった。
原因は誘拐されたことと、しつこくたくさんのことを聞かれたからだろう。
そして事件が終わったあと私はよく体調を崩すようになった。
そしてずっと後になってからなにが起こったのか知った。
結といた数日間私は行方不明になっていた。
私を誘拐した人たちは先に捕まった。
数日後私が山の中で見つかった。
そこは警察が何度も探していた場所だった。
見つかった時私が生きていたことに驚かれた。撃たれた場所はかなり危ないところだったらしい。
無事に事件は解決し・・・
神隠しにあった少女に奇跡が起きたのだと言われるようになった。
読んで頂きありがとうございます。
奏さんが見せたのは忘れている過去でした。
これでいくつかの疑問が解決されたのではないでしょうか?
これでやっと彩夜芽は現代に帰れるのでしょうか?
次話も読んでいただけると嬉しいです。




