一話 先生の家
登場人物紹介は書くのに時間がかかりそうなので先に作っていたこちらの話を投稿したいと思います。
「いいのかな? 邪魔じゃないかな?」
「先生が良いって言ったんだから良いんだよ」
結がピンポンを押してしまう。どうしよう? 成雨さんと会うのも久しぶりだ。どう話していたっけ?
「はーい。おはよう。早速来たんだね。どうぞ上がって」
「お邪魔します」
古い家なせいか玄関がとても広い。
「クー」
「夏牙! 久しぶり!」
廊下の奥からやってきた夏牙を抱き上げる。この前会ったときよりももふもふ感が減った気がする。
「あれ? 夏牙、痩せた?」
「きっと夏で毛が少なくなってるからそう感じるんだよ」
「じゃあ、冬は一番もふもふですか?」
「もちろん。もふもふだし、湯たんぽにもなるからちょうどいいよ」
ふわふわサラサラの毛並みを堪能する。視線を感じて見てみれば結がその様子をじっと見ていた。
「結も触る?」
「やめとく。その狐、さっきから自慢するように見てくる気がするんだ」
「こんなに可愛いのに? そんな顔してないよねー」
「クー」
結はどこか納得いかなさそうな顔をしているが気にしない。
「こっちに部屋があるから入って」
外からはあまりわからなかったが実は広い家らしい。窓から離れの建物が見えた。
「ここに何人も住んでいるんですか?」
「今は・・・8人かな? もう少し増えるかもしれないけどね」
「たくさんいるんですね」
「本当に。意外と集まってくるものでね。一人はうちにいるけどあとは仕事で出てるからゆっくりしていって。ソファーとか好きなところに座って良いから」
通されたのはリビングと思われる部屋だった。ただ少し変わっていて棚に奇妙なものが置いてあったり壁に布がかけてあったりする。
「石? これ、なんですか?」
結が棚のそばで何か不思議そうに見ている。近くに行くと、そこには布に包まれた透明な丸い石。
「ちょっ! 夏牙」
大人しかった夏牙がバタバタと腕の中で暴れ出す。
「夏牙、暴れるんじゃない。どうして・・あ、置いたままだったのか」
成雨さんはその石を手に取った。すると夏牙が大人しくなる。
「これは夏牙のお気に入りのもので近づくと取られると思うのか怒るんだ」
「石の中に子供?がいるように見えたんですけど・・」
よく見る前に成雨さんが取ってしまったから私にはそこまで見ることはできなかった。でもなぜか不思議と何かきゅっと苦しくなる。
「そういう絵が書いてあるんだよ。それよりお菓子でもどう? 燈依が作ったから味は二人の好みかわからないけど美味しかったよ」
「クー」
夏牙が鼻の先で私の頬をつついてくる。
「ありがとう。夏牙、うちに来てくれたら良いのに」
「それはなんか嫌だ」
「あははっ、夏牙。くすぐったいよー」
「クー、クー」
窓辺で彩夜ちゃんと夏牙が戯れている。今は狐姿で二人に記憶が無いから許されているけれど、思い出した時にどうなることか。
「結理くん、気に入らないの?」
「あ・・いえ」
結理くんは兄弟のことは思い出したと燈依から聞いている。記憶の層が浅くなったおかげで思い出すことに一歩近づいただろう。
「同じようなものを成雨さんや燈依先生から感じるんです。夏牙も同じような、彩夜がどんどん人間離れしていく気がして。まあ、夏牙はそうでなくても嫌いですけど」
こちらと関わるほどに人間離れしていくのは事実だろう。今の結理くんはあまりにも人間らしい。それで気に入らないのかもしれない。でもただ記憶が無いのにも関わらず夏牙が嫌いなところは面白い。
「ねえ、結理くん。どうして夏牙が嫌いなの?」
「なんとなく。あの姿を利用して彩夜にべったりくっついてるように見えるので」
見抜いているのはそれだけ彩夜ちゃんを想っているからだろうか?
「羨ましい?」
「! いや、そう言う訳じゃなくて」
彼があの頃を思い出したらたくさんの昔話を聞かせてあげよう。きっと本人は自分しか知らないと思っているであろう出来事だってこっちはちゃんと知っている。
「急にどうしたんですか? 異様に楽しそうですけど」
「いや、ちょっと今後の楽しみを思いついて」
「何か嫌な予感がするのですが」
「君は勘がいいね」
あの頃はそこそこ仲良くしていたのに、今はしっかり警戒されている気がするのは気のせいだろうか?
「まだ先のことだけど、寮で暮らせなくなったらどうするつもり?」
「どうしましょうか? あてが無くて・・ここで暮らさせてもらえたりします?」
「夏牙と仲良くできるなら歓迎するよ」
本音を言えば他のところに行かれる方が困る。彼が生まれた時代の方でばかり生活されるのはもっと困る。どうにかしてここに引き込みたいところだ。
「あれと仲良く・・・喧嘩しない、くらいならできる自信はありますよ」
「できれば彩夜ちゃんも来てくれれば燈依も夏牙も喜ぶんだけど」
「いつか教えてくれますか? みなさんが彩夜に執着してる理由」
今までの会話と何も変わらない声で聞いてきた。燈依に何かあることもとっくに気づいているのだろう。
「そのうちわかるさ」
「何か、・・奏さんや錵鬨螺さんと関係があったり?」
「そちらとはあまり関係はない。ただの知り合い程度だ」
ここまでわかっているなら気づいてもいいのに。『へーそうですか』と何も表情を変えずに話す彼はとてもあの人を思い出させた。
・ ・ ・
一週間後・・・
「おはようございますー」
あれ以来平日は毎日燈依先生の家に遊びに行っている。もちろん学校もちょこちょこ行っていて、そういう時は午前中に遊びに来たり帰ってきた午後に来たりだ。
「おはよう。今日は一人?」
「結は朝から実家です。難しそうな本を積み上げてずっとそればっかり読んでるんですよ。実家からの宿題が大変みたいです。」
夏牙と遊ぶだけでなくて成雨さんと話すことにも慣れてきた。
「何かいいことでもあった?」
「夏休みに会った友達から手紙が来ました。でもまだ読めてなくて・・」
和紙に墨で書かれたふにゃふにゃ文字。かろうじて瑠璃という名前と私の彩夜芽の文字だけはわかった。でもそれ以外は読めない。
「読もうか?」
「読めるんですか?」
「ここに住んでる人はそっち方面に詳しいから大体読めるんだ。燈依は読めないと思うけど」
そっち方面って歴史か何かのことだろうか? それとも古い文学?
「クー」
「夏牙も読めるの? 狐って文字を理解できるのかな?」
「クーン」
そばにやってきた夏牙を膝に乗せる。
「数字くらいなら理解できてるかもしれない」
「ふにゃふにゃ文字を読むコツってありますか? できれば自分で読みたくて」
「慣れるしかないと思う。でもどの字をどう書くのかさえ覚えればすぐに読めるようにはなると思うよ」
「じゃあ、今日はそれを教えようか」
「はい!」
「そろそろご飯にしようか」
12時になるまでノートに向き合っていたらノートが4ページは埋まっていた。
「疲れたー」
「頑張るね。何か他にも読めるようになりたい理由があるとか?」
「瑠璃に自分で書いた字で返事もしたいし、あと・・結が頑張ってるから私もあっちのことを少し理解できたらと」
まだまだ知らないことばかりだから知っていきたい。文字からでも理解できたら結の役にも立てるようになるかもしれない。普段は何かしてもらうばかりだから。
「そっか。彩夜ちゃん、ここにくるのは嫌じゃない?」
「楽しいですよ。ここにいれば誰も私を変だって思わないから、居心地がいいです」
中学生になったせいで今までよりも『中学生なったのだからもう少しーー』と言われるようになってしまった。できるならすでにそうしているのに。お兄ちゃんだってもう子供じゃないのだからそんな振る舞いは変だという。
「大人になりたくないです。もっとちゃんとしなさいって言われますよね?」
「そうだね。俺たちはなんとも思わないけど、世の中いろんな人がいるし・・どちらかと言えば俺たちは普通じゃないから、考えもずれているだろう」
寮の生活も楽しいけれど、同年代ばかりで自分が浮いているのが余計にわかる。
「彩夜乃ちゃんも苦手なこと多いんです。でも、あの明るい性格で出来ないこともただのそういう性格って見てもらえるんです」
「もし、ここでも暮らしてもよかったら来てくれるかい?」
「はい。私はここで暮らすのも・・良さそうだなって思います。夏牙とも一緒にいられますし、先生も優しくて大好きですから」
「そうか。じゃあ、奥の部屋にいる怠け者を呼んできてくれる?」
「怠け者さんですか?」
「そう。出てこなかったらわかってる?って言えば出てくるから」
もう一人、いつも仕事に行かずに家にいるという人のことだろうか? 部屋を出て奥の方へ行く。夏牙が前を歩いてどの部屋か教えてくれた。
私のことは知らないだろうし・・なんと言ったら出てきてくれるだろうか?
「怠け者さん、成雨さんが呼んでますよ。出てきてください」
返事はない。でも中で何か動くような音はしたからいるのだろう。
「成雨さんが言ってましたよ。出てこないなら、わかってる?だそうです」
この伝言は意味がわからないが、効果はあったらしい。中でバタバタガタガタと音がして襖がパーンと開かれた。
「出てくるから、それだけは・・あ」
「!」
大きい。ボサボサ。なんか・・
「あー、変わらないね。でも前より・・あれ? どうしたの?」
何か危険を感じてさっきまでいた部屋に慌てて戻った。
「早かったね。出てきた?」
「成雨さん、あのひとは無理です!」
理由はわからない。でもとにかくゾワッとして逃げたくなった。
「そういえば苦手だったっけ」
「成雨ー、来てるなら早く呼んでくれたらよかったのにー」
フラぁっとやってくる怠け者さん。大きな体にダボっとした服。顔が半分は隠れているボサボサの頭。
「お前は呼ばない。今日だって昼食抜きでもよかったけど? それより彩夜ちゃんが怯えてるけど?」
「彩夜ちゃんって言うのかー」
「がうぅー」
「夏牙ー、まだそんな格好してるのか? 毛逆立てるのいい加減やめてくれてもいいと思うんだけど?」
指で突かれている夏牙を抱き上げる。
「ただいまー、私のお昼ご飯・・・って何してるの?」
帰ってきた燈依先生に助けられた。
読んでいただきありがとうございます。
今回は久しぶりに成雨さんや夏牙が登場しました。このメンバーの会話を書くのは楽しくて、私の気に入っているメンバーです。今回の章はどんなお話になるでしょうか?
次話も読んで頂けると嬉しいです。




