二十七話 近くて遠い4
「お世話になりました」
たくさんの馬がいる門の前で華やかな着物を着た瑠璃がそういった。この場所に私が場違いなのはわかっているけれど瑠璃と話す最後の機会だからと結が連れてきてくれた。
「大変ご迷惑おかけいたしました。国の状況もありますので今すぐには無理ですがお礼は必ずさせていただきます」
瑠璃の隣で慧琳さんが足りないところを補っている。二人が並んで自然に会話をしているのを見ればいい関係を保っているのはわかる。
「瑠璃姫、何かあればいつでも言ってください。力になれるかは分かりませんが」
結はいつもと違い重そうなキチンとした服を着ていてなぜかお面を被っている。
「結理様、ありがとうございます。もう少し時間があるので頑張ってみようと思います」
瑠璃に以前のような儚い感じはない。
「彩夜もありがとう」
「ううん。こちらこそありがとう。楽しかった」
とても短い間だったけれど楽しかった。もう会うことはないだろうけれど・・
「彩夜、会えないけど・・・手紙書くから。慧琳宛に返事書いてくれたら私のところにも届くから・・どうかな?」
「私に?」
「友達・・でしょう?」
いいのかな? 私はここにいたらいけない人なのに。
結の方を見たらいいよというように頷いていた。
「私ね、字が書けないから結に書いてもらって返事出すね。手紙、待ってるね」
会えなくても手紙だけでやりとりできれば十分だ。
「・・・いつか、同じ立場になってまた会おうね。遊びに行くから彩夜が私を招待して。そして私の国にも遊びにきてね」
「同じ立場って?」
私が姫になることはない。そもそも姫は偉い人の娘という立場で・・私にそんなところの娘になる予定も可能性も一切ない。
「妃だよ。私は三葉の妃になるから、彩夜は結理様の奥様になって同じ葉のつく家の妃同士!」
「違うよ! 私達そういう関係じゃないって!」
「そう? ある日かっこよく見えたりするよ? 楽しみにしてるね」
そう言って馬車に乗り込み帰ってしまった。
前に星くんにも同じようなことを言われた。他人から見てそう見えるのかな?
確かに結のことは好きといえば好きだけれど、瑠璃のようにこの人が好きと言えるわけではない。そんな将来のことも考えたことはない。現代育ちの中学生にそこまで考えるのは難しい。
「結、家、継ぐ気になったの?」
「そこ? んー・・・それもありかなーとは思うけど決めきれてない」
「さっきみたいなこと・・星くんにも言われたの。どう思う?」
どうせ妹のように思われてるのだからそんなことは無いのになんて思ったのだろうか? もうちょっとしっかりすれば妹のように思われなくなるだろうか?
「結理様の存在が知られた以上そういう話は出てくるだろうな。ありだとは思うけど? その・・ある程度の歳までそういう話を避けるためとか形だけとか良いところは色々あるし」
「そうなんだ」
その程度か。少し残念。何か一緒に居られる理由になってくれたらよかったのに。
「どちらも不器用ですよね」
「素直に言ってしまえば早いだろうに」
「何か理由でもあるんでしょうか? どちらもお互いを気にして余計に動けないように見えるのですが・・」
「若い勢いでさっさとくっついてしまえばいい」
「兄様方、何の話をされてるのですか?」
聞こえない方が良い会話だっただろうがちゃんと聞こえてしまった。
顔が熱くなる。どうして気づかれてるの? そんなに分かりやすい?
すぅーっと結のいない方を向く。今は顔を見れない。
そうか。やっぱり結のことが好きなんだ。幼稚で浅い考えなことはわかっている。でも今だけじゃなくてずっと一緒にいたい。
答えがストンと嵌った気がした。きっとこれが自分の気持ちの正解なのだろう。
「そろそろ中に行こうか。結理、暑いだろう?」
何枚も着ている上にお面までしていればとても熱がこもるだろう。この時期は熱中症も心配だ。
「暑すぎ。クラクラしてきた」
「冷たいお水出そうか? ちょっと服濡らしちゃうかもしれないけど」
あれからも奏さんとの練習を続け水がある場所に近くなくても水の塊を作れるようになった。本当は氷を作れたら良いけれどそこまでの能力では無いらしい。それでも多少は冷やせるだろう。
「彩夜芽さん、ここではダメですよ。奏様にも言われていたでしょう?」
緊急事以外は人の多いところでは使わない方がいいと言っていた。でもここにはある程度理解のありそうな人しかいない。
「どこで誰が見ているかわからないのですよ?」
「それよりは井戸水を汲んで来てくれた方が助かります。頼めますか?」
「確か、あっちでしたよね? いつもいる部屋に持っていったら良いですか?」
「そうです。ありがとうございます」
場所の確認は大事だということも覚えた。手伝いで何かを取りに行くこともしたけれどその間に結が移動してしまってどこに届けるかがわからなくなり迷子になったこともあった。
水なら溢さないように気をつけつつ運べば良いだけだから私にもできるだろう。
「曲がった角のところだからな」
「はーい」
・ ・ ・
八月末
「広いねー」
みーちゃん、宙、結と広い建物の前で荷物を持って見渡していた。この古い家を2つ続けたところが私たちがこれから暮らす寮になるらしい。
最近増えて来ている空き家を利用することで費用を抑えるとか何とか言っていた。
「彩夜ちゃん、荷物まとめてる時お兄ちゃん泣いてなかった?」
「そこまで無いけど・・本当に行くのか?って何回もしつこいくらい聞かれた。みーちゃんは?」
「特に何も。家なんてすぐそこだから気が向いたら帰っておいでって言ってた」
うちのお兄ちゃんのことだからお兄ちゃんの方から私の様子を見に寮にやって来ないか心配だ。
「でもさ、何で俺達が鍵開けと換気しとかないといけないわけ?」
「大人の人はみんなを連れて一緒に来るんだからしょうがないじゃん」
「光月ちゃんは大人ね。宙くんも多少は見習ったら?」
後ろから久しぶりに聞く声がした。
「燈依先生!」
学校に行くまでは会うことはないと思っていたが夏休み中に会えるなんて。
「彩夜ちゃん、夏休みは楽しかった?」
軽く抱きしめられて頭を撫でられる。先生というよりは歳の離れた姉のような存在が燈依先生だ。
「楽しかったですよ。一人仲良くなった人がいて、そのうち手紙がくるんです」
「よかったわね」
「はい! でも、どうしてここにいるんですか?」
ここに来るなんて何か用事があったんだろうか? それともたまたま通りかかって私たちを見つけて声をかけただけ?
「私がここの住む子達の面倒をまとめてみることになったの。ほら、撮影関係の大人は別の場所で寝泊まりするし対して知らないそんな人が面倒みるって言われても嫌でしょう?」
確かに嫌だ。どんな人と関わるのか名前と顔は紹介されているけれどまだどんな人なのかは知らない。
「だから、先生をやってて彩夜ちゃん達の信頼のある私がみることになったの」
先生なら安心だ。何かあっても燈依先生にならすぐに言いに行ける。
「他のこ達が来る前に窓開けも軽い掃除も終わらせるわよ」
「え、掃除もですか?」
鍵開けと換気をしとくとしか聞いていないのに。
「早くするわよー」
「ここが彩夜ちゃん達が住んでる町なんだ!」
「田舎だね。今どきコンビニもスーパーも校区内にほとんど無いなんて・・」
「九州、暑い・・溶ける・・・」
元気にはしゃいでいるあおいちゃんに田舎なことにとても驚いている彩夜乃ちゃん。そして暑さでぐったりなっている夢羽ちゃん。
「本当暑いよね。いつもこんななの?」
彩夜乃ちゃんも暑いと思うらしい。二人とも北側で育っているからかな?
「彩夜芽ちゃん、今日なんて涼しい方だよね?」
「うん、お盆過ぎたからだいぶマシだよ。もう秋を感じるもん」
「え、これで?」
夜や朝方なんて肌寒さを感じる日もある。昼間はまだまだ気温は上がるけれど湿度が低くなって来たのか七月や八月の前半ほど暑さは感じない。
「でも、もうすぐ台風来るからちょっと暑くなるかも」
台風の前は風が強くなってカラッとしてないなま暖かい風になる。
「早く中に入りたい・・」
「そこが玄関だから入って」
昔ながらの建物を使っているおかげで玄関は広い。靴箱もたくさん入れれるように付け足してある。
「名前が書いてあるからそこを使って良いんだって」
「三足分は入れれるね」
学校の白い靴と普段履くスニーカー、それともう一足分。ちょっと外に行くときにちょうどいいサンダルとか置いとくのが良いかもしれない。
「あっちが女子寮であっちが男子寮だって。ここの真ん中の建物が共有スペース」
「部屋ってどんな感じ? もう見た?」
「見たよ。二人部屋なんだけど、まあまあの広さはあって思ったより棚とか多くて良い部屋だったよ」
部屋は二人で一部屋だけれど部屋の真ん中に棚があることでちゃんと個人のスペースが出来上がっていた。
「本がたくさん入れれる感じ?」
みんな先にここへ荷物を家から送っている。夢羽ちゃんは何故かみんなよりも箱の数が少しだけ多かった。
「まさかあれって本なの?」
「あれでもダンボール一箱分まで厳選したんだよ! 選りすぐりの本達が詰まってるの!」
「夢羽ちゃんってどれだけ本持ってるの?」
私は小説を読むようになって2・3年しか経っていないから大した量は無い。まだ棚一段も埋まっていない。
夢羽ちゃんだってまだ13歳になったかどうかの歳のはずだからそこまで溜まらないはずだ。
「本専用の部屋があるの。おばあちゃんも本大好きで一緒に集めてるから図書館みたいだよ」
「その部屋楽しそう!」
「休日なんか時間を忘れてずっと過ごせるの」
「私は海に行く方が好きだなー」
「私は休日は曲探すのが好きだよ」
「曲好きなの? 流行りのやつとか?」
夢羽ちゃんは本、あおいちゃんは海、彩夜乃ちゃんは音楽、意外と趣味はバラバラらしい。でも何となく気があうようだ。
「私そういうの全く聞かないから知らないなー。良い曲あるなら教えて」
「私にも!」
「いいよ。スマホにたくさん入れてるからどのジャンルが好きか教えてね」
「そこの四人ー」
1人椅子に見張るように座っている燈依先生に声をかけられる。
「早く片付けしたら? 荷物の山の中で眠ることになるわよ?」
「はーい」
読んでいただきありがとうございます。
今回は何か変化があったような一話になったかと思います。
瑠璃はちょこちょこその後のことをお話に混ぜていこうと思っています。
次話も読んでいただけると嬉しいです。




