狐と蛇
とある3分前後の声劇台本募集に出したものです。
二次創作的な前提知識がなくても大丈夫そうな内容だったのでこちらにも投稿します。
狐「ああ、お腹が空いた。どこかに食べるものはないだろうか」
蛇「もし、狐さん。何かお困りかな?」
狐「おや? この声はどこから聞こえてくるんだろう」
蛇「こっちだよ、木の上だ。見上げてご覧なさいな」
狐「なに、上だって? おや、そこにいるのは蛇さんじゃあないか」
蛇「ああ、気付いてくれたか。どうした? もしかしてお腹でも空かせているのかい?」
狐「ああ。もうずっと何も食べていない。このままではお腹が空きすぎて死んでしまいそうだ」
蛇「それは気の毒に。ほら、この木の枝の先に、大きな柿が実っている。これを食べるといい」
狐「おお、それはおいしそうだ。実もとても大きい。これならしばらくはしのげそうだ。でも蛇さん、私ではその枝の先は高すぎて届きそうにない。蛇さん、どうかその柿を落としてはくれないだろうか」
蛇「ああもちろん、お安いご用だ。だが狐さん、代わりと言っては何だが、頼みがある」
狐「頼み? なんだい、言っておくれよ。私にできる事であれば喜んで引き受けよう」
蛇「それはありがたい。いま、ずっと日照りが続いているだろう? あそこの人間の村では、それで作物がとれなくて皆飢えているらしい」
狐「それは難儀なことだ」
蛇「それでな、狐さん。偉いお坊さんに化けて、あの村の道端で倒れていて欲しいんだ」
狐「ほう? まあそのくらいなら出来そうだ」
蛇「そしてな、誰かが声をかけてきたら、『ありがとう、慈悲深いお前にはこの日照りの原因を教えてしんぜよう。これは村から離れたところにある柿の木の呪いなのだ。その木を切り倒せば、きっとこの日照りも収まるだろう』と、こう言ってくれないか」
狐「うーむ、覚えることが多いな。それに、その話だとこの木が倒されてしまうじゃないか。それでは人間たちにその大きな柿を食べられてしまう」
蛇「なあに、気にすることはない。どうせ人間たちは食べることなどないさ」
狐「ふむ、何か知っているようだが。まあいい、わかった。じゃあ行ってくるとしようか」
蛇「ああ、私は一旦、その辺の草場に隠れて見守っているよ」
【SE:人が倒れる音】
【SE:ガヤガヤ音】
【SE:斧の音】
【SE:木が倒れる音】
【SE:ガヤガヤ音(徐々に離れていく・小さくなっていく】
蛇「いや、よくやってくれた、狐さん」
狐「なあに、人間を化かすことなど朝飯前だ」
蛇「さあ、柿ならばあそこに落ちている。食べてしまうといい」
狐「もちろん。遠慮なく頂くとするよ。……ところで蛇さん、一つ聞いてもいいかい?」
蛇「なんだい?」
狐「どうしてこの木を切り倒す必要があったのか、私にはとんと見当がつかない。こんな大きな柿がなる木だ。切り倒してしまうのはもったいなかったと思うんだがね」
蛇「……昔、人間の女がいたんだが、男の子を産んですぐに死んでしまってね。その子供が大きくなったとき、今のような日照りが続いた日があったんだ。当然その子供もお腹を空かしていた。そこでその子供もこの木の枝の先に大きな柿を見つけた。子供は木に登ったんだが、柿までもう少しという所で落ちて、頭を打って死んでしまった。それが理由だよ」
狐「それはおかしな話だ。なんで人間の子供の話が理由になるんだい? 蛇の君には関係ないだろう」
蛇「狐さん、君は前世という奴を知っているかい?」
狐「ああ、人間がよく言っている奴だな。たしか、死んだら別のものに生まれ変わる、だったか。ばかばかしい。死んだらそれまでだ。その先も後もあるわけがない」
蛇「そうだね、ばかばかしい話だ。だからきっと、私がこの木を憎んでいるのも、ばかばかしいことなのだろうさ」
狐「ふむ。よくわからないな。まあいい、私はお腹が膨れた。これでしばらくは生きていけるだろう」
蛇「ああ、狐さんはよくやってくれた。本当に感謝するよ」
狐「なに、どうってことはないさ。さて、じゃあ私はこの辺でおいとまするよ。じゃあね」
蛇「さようなら。もう会うことはないだろうが、達者で。まあ、会えたらまた来世ででも会おうじゃないか」
狐「ははっ。まだそんなことを言っているのか。いいさ、会えたらその来世という奴で会おうじゃないか。では、君も達者でな」
蛇「ああ。本当に、本当に、ありがとう」