メアリーの剣
戦います
「裏に練兵場がある」
そう言って所長は少女ふたりを連れて行った。
立会人として受付の青年も。
「わたしも行きます!!」
もちろん看板娘も。
練兵場は、大人の背丈ほどの赤煉瓦が積まれ、囲われた小さな、簡素なものだった。
外へ出て、所長はずっと気になっていたことを尋ねる。
「それで、嬢ちゃん。武器はどうした?」
メアリーは剣のひとつも持っていなかった。
「僕も気になってたんだ。昨日も武器を持ってるようには見えなくって・・・。
だから、その傭兵だなんて、冗談かと思ったんです」
「剣を持ってた。けど、この街に着く少し前に、壊れたんだ。そのうち、買う」
メアリーは罰の悪い顔をしていた。
武器を持たずに傭兵と称したって、信用されるほうが難しいと今更ながら気づいたようだ。
「そうか、まあ此処には剣ぐらいたんとある。
今回は試験だから木剣を貸してやるから、問題ないが・・・、武器は早めに買っとけよ」
そう言って、所長は木剣を渡した。
威力を抑えた練習用のもの、しかし耐久性を求められた硬いものだった。
「まずは、メアリーからだな。
神官の嬢ちゃんは、後でどうにかする」
リリーは微笑で応えるだけだった。
受付の青年が立会人として見守る。
その横でリリーと、看板娘フローレンスも見守っていた。
狭い練兵場の中央に、対峙するふたり。
少女は所長の肩にも届かぬ背丈ながら、
爛々と瞳を輝かせて、視線を跳ね返していた。
「これで嬢ちゃんの腕が認められれば、俺が箔をつけて、傭兵として送り出してやる。
だが、少し戦えるぐらいの甘っちょろい考えなら、
すぐに追い返すからな」
所長は圧をかけるように睨む。
その空気に当人達ではなく、外野の青年やフローレンスが緊張していた。
「わかってる」
メアリーは変わらず短く応え、剣を構えた。
フローレンスががんばってください、と声を上げて応援していた。
「では、合図と共に試験を開始します」
受付の青年がそう言うと、所長も構えた。
「では・・・、始め!!」
所長は感心していた。
少女は思った以上に剣の腕があった。
ーー随分と肝が据わってる子どもだと思ったが、
実のある自信から来るものだったか
合図と共に、メアリーは突っ込んできた。
見目に合わずに苛烈で、速い小振りの剣筋だった。
ーーだが、まだまだだ。
子どもみたいに振り回してるだけなら、
戦場では役にたたない
所長はそれまで受けていた剣を、いなして攻勢へ変えた。攻撃はできても、防御を苦手とする新人は多い。
しかし、メアリーは直ぐに下がり、剣を避けていく。
隙を見つければ、また苛烈な打ち込みを始めた。
「特攻しかできない馬鹿かと思ったが、
ちゃんと避けれるじゃねえか」
所長は期待していた。
簡単に打ちのめすつもりだったが、
この少女は想像以上に興味をそそられる。
少女は苛烈に打ち続ける。
勢いは増し、強く速く広がる炎の様だった。
所長は体力がつくまて、延ばそうと考えていた。
しかし、勢いの増す剣戟に打ち返す回数が増え、
練兵場に響く木剣の鈍い音は増していった。
一度、メアリーが所長の放った一振りに弾き飛ばされた。軽い体は簡単に飛んだ。
フローレンスの小さく悲鳴が上がり、
青年が止めに入ろうとした。
しかし、それよりも速くメアリーは立て直し、追撃に飛び、試験は続いていった。
終わりは木剣が打たれた一際大きな音だった。
メアリーの木剣が耐えきれずに折れてしまったのだ。
「そこまで!」
青年が終了の合図を出し、やっと長い試験が終わった
メアリーは小さい
フローレンスよりも、リリーよりも
妹のように見える