2 傭兵少女
絡まれる
「おう嬢ちゃん、いまの話、本当かよ」
リリーたちの座る卓に大男が近づいてきた。
片手にエールを持って、にやにやとして少女たちに話しかける。
「そっちの栗毛の嬢ちゃんが傭兵だって聞こえたんだが、聞き違いだよなあ」
「栗毛じゃない、赤毛だ。」
看板娘はメアリーが初めてしゃべったことに驚いたが、とりあえず場を仲裁しようとする。
「ガドさん、こっちは女の子なんですよ。失礼なこと言わないでくださいね」
「おう、フロー。俺はなんも失礼なこた言ってねえさ。
そっちの小さいのが傭兵だって聞こえたから、確認してんだろお」
このガドと呼ばれる大男はタチが悪くて有名だった、酒場に来ては騒ぎを起こしていく。
看板娘フローは、少女ふたりが被害に遭わないようなんとか遠ざけようとしたが、なかなかにしつこいのだった。
「おう、聞いてんのか。」
「ああ、あたしは傭兵だよ、なんか文句あるか」
メアリーは料理から目を離さずに答える。大男に心底興味がないようだった。
「ガハハハッ聞いたか、傭兵だとさ! 剣より細い腕でなにができる?神官だってわけじゃないだろう」
「そこまでだよ、ガド。女の子に絡むんじゃない、とっとと仕事に行きな!」
女将が間に入って、ガドは笑いながら離れていった。
「ごめんなさい。ガドさんお酒飲むと誰にでも絡んでくの」
「いえいえ、ああいうことは何度も遭ったので慣れっこですよ。
メアリーは絡まれやすく、売り言葉に買い言葉なので喧嘩になることも多くて」
このあいだもメアリーは黙々と食事をしている。
今は湯気をふいてるふかし芋に苦戦して、涙目になっていた。
「メアリーさん、また絡まれちゃうので、あまり傭兵だとか言わない方が良いですよ」
「余計なお世話だ、傭兵が傭兵と名乗って何が悪い」
メアリーは看板娘をじろりと睨んでいたが、涙目なので格好がつかない。
「でもこの街なら、ほかにも仕事はあるし、傭兵は危ないですよ」
「あたしはここに戦うためにきたんだ」
「フローさん、まあメアリーなら大丈夫ですよ。
ところで、お尋ねしたいのですが、この街で傭兵を募集しているところを知りませんか」
「ああ、それなら傭兵ギルドに行けばいいですよ。
中央通りにあるので、ここからまっすぐ行って、城から降りていけばわかりますよ。
あなたも戦うんですか?」
「ふふ、私も戦いますが、後衛ですね。ほとんど基地にこもっていますが。」
「ほんとに気をつけてくださいね。戦争に行って明日帰らなくなるなんてよくあるんですから」
いつのまにか卓に溢れていた料理は平らげてあった。
大盛りの料理はほとんどがメアリーがひとりで食べてしまった。
「またくる。」
卓に飯代をおいて、少女ふたりは店を出ていった。
神官だけが魔法を使える世界
神官は貴重なので前線にはほとんどいません。
信じる者は救われる