変わらぬ時間
酒場の話。
メアリーとリリーは傭兵ギルドに通うようになった。
初めは易しい依頼から受注するようになり、依頼終わりに酒場に寄って宿に帰る。
年若いふたりは物珍しく、絡まれることも何度かあったが、所長や受付の青年の仲裁、ときにメアリーの実力行使によって障害を退けていった。
数か月もすれば、この街でふたりを知らない人間はいなくなった。
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「おかえりなさい! 今日もお疲れさまです!」
西の酒場には今日も看板娘の声が響く。
もう見慣れた光景となった、メアリーとリリーを労う彼女はいつもより気合が入っている。
メアリーとリリーが依頼を終えた日には必ず、この酒場に寄るようにしている。
ほかに懇意にしている店がない、というのもあるが、
以前に何日も顔を見せなかったときにフローレンスが心配になるからとメアリーに泣き詰め寄ってから、メアリーたちはこの店の常連だった。
メアリーは照れくさそうにしながらも、この馴染みの場所を気に入っていた。
今日も依頼を完了し、酒場に寄っていた。
メアリーが右手に何かを提げて、フローレンスに差し出した。
「これ、みやげ物。」
「あ! 今日も持ってきてくれたんですか?」
「ウサギは捌けるか?」
「もちろんです!
いつもありがとうございます。
でも、いつも頂いてしまって大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。
依頼された分は納めましたが、余った分は自由にしていいと許可を頂きましたので。
美味しく調理してください」
「そうなんですか。
じゃあ、今日もたくさんご馳走しちゃいますね!」
そう言ってフローレンスはみやげ物を抱えて、厨房に走り、戻ってくるときにはたくさんの皿をもってくるのだった。
いろどり豊かで、できたての料理。
少女ふたりの卓に出すには多すぎるのに、ふたりが帰るころには全てきれいに食べつくしてあるのだった。
そのほとんどをメアリーが食べ尽くし、リリーはスープをひとさら飲むくらいなのだが。
フローレンスはリリーももっと食べるよう勧めるが、相変わらずの小食のようで、笑顔で躱していた。
食事に夢中のメアリーの代わりに、リリーはよくフローレンスと雑談をしていた。
そろそろ山ネギが収穫どきで市場に出るだろうとか、どこかの商人が異国の舶来品を仕入れたとか、他愛もない話。
「ごちそうさま」
そんな話をしているうちに、メアリーが食事を終える。メアリーもすこしの間だけ雑談に加わり、そのうち宿に帰る。
ゆったりした時、酒場は一段と騒がしい時間。
このふたりも日常の一幕に加わった、
変わらぬ時間がフローレンスは好きだった。
今日は少しだけ違うことが起こったが。
リリーは少食。
興味が勝るため珍品は必ず食べる。