行く道に祝福を
「嬢ちゃんたちの実力はわかった」
幻惑に包まれた空気から引き戻すように
所長は強く、そう言った。
「傭兵として、実力は十分だと保証してやろう。
ただ、嬢ちゃんたちは見た目に問題がある。
今後も絡まれるだろうが・・・。
ギルドもできるだけ力になってやるから、
あまり騒ぎを起こさないようにな!」
「努力はする」
「ありがとうございます」
メアリーは安堵して、倒れるように寝転んだ。
折れた木剣の柄が足元に転がる。
「傭兵の嬢ちゃん」
「メアリーだ」
「メアリー、お前には剣の腕がある。
だが、まだまだ未熟で、踏み入り過ぎだ。
もう少し慎重に。
戦場で一日でも生き延びたけりゃ、心得ておけ。
リリー、ちゃんと見張っといてやれ。
簡単に死ぬなよ」
それだけ言うと、所長は青年に傭兵証明書を出すよう指示を出してギルドの奥へ戻っていった。
「で、では、傭兵登録は明日までに終えておくので
本日はここまでということで。
ゆっくりお休みになってくださいね」
青年もメアリーたちにそう伝えてから、ギルドの奥へと戻っていった。
その後、メアリーたちはギルドを出て、
看板娘の酒場へと戻った。
看板娘はメアリーたちの試験結果をたいそう喜び、
店中で、メアリーがどんなに勇敢だったか、
リリーがどんなに優雅だったかを触れ回った。
その結果、この帝国での傭兵少女の名は
僅かだが知られ、彼女たちが街に馴染むのに
この看板娘は一役買うこととなった。
ーーーーーー傭兵ギルド、所長室
「ダイオス所長、本当にあの女の子たちの
証明書、出して良いんですか?」
受付の青年アクスは心配そうに尋ねる。
「アクス、お前も見ただろ。
あの子たちの実力は十分だ」
あの女の子たち、メアリーとリリー。
青年の予想に反して、メアリーの剣は俊敏で、
所長とも戦える腕を持ち得ていた。
それでも、青年の顔は晴れない。
「しかし、あの子たちはまだ子どもですよ。
戦争に送り出すなんて・・・」
「ーーあのふたりは自ら望んで、傭兵となった」
所長は窓の向こうを見て、青年を見なかった。
青年は憤る。
青年には、自分が子どもを死なせる手伝いをしているようでならなかった。
「いつもなら、無理にでも止めるじゃないですか、
捨て駒にされないように、ここで、
ギルドで止めてやるのが我々の役目でしょう?
どうして、今回に限って・・・!」
「ただの子どもなら止めてるさーーー
あの子たちは、生半可な覚悟でやってきてない。
戦えばわかる。戦い方には覚悟が見えるものさ」
所長は青年に向き直る。
「そう心配するな。
これは、何かあったら助け出せるようにするため。
そういった意味でも傭兵登録させる。
だから、心配ない」
「ーーーわかりました。
所長がそこまで言うなら」
青年はしぶしぶ納得し、所長室を去る。
ひとりになったダイオスは沈思する。
ーーー戦い方には覚悟が見える
ダイオスは傭兵少女メアリーと戦い、覚悟を見た。
ーーー若く血が滾るままに振るわれる剣
戦地に赴くには荒削りだが
ダイオスはメアリーを認める気はなかった。
吹き飛ばせば、戦意が鈍り、止められると思った。
しかし、メアリーは勢いを強めていった。
ダイオスはメアリーのそれに危うさを嗅ぎとった。
傭兵ギルドの所長としての、勘に近い、
あやふやなもの、証明も説明もできない。
ーーーあの子は死が怖くないのか
あの試合でメアリーは、剣を恐れなかった。
木剣とはいえ、大きな怪我になる。
ーーーあの戦意は、あの子を危険に晒すだろう。
メアリーを止めることはできない、
だから、リリーはあの子のそばにいるのだろう。
神官に縋る日が来るとはなーーー
願わくはあのふたりの行く道に神の祝福を
葛藤ありつつも
メアリーたちは傭兵になれました