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血塗れ少女は死にたがり  作者: うつむき
10/14

リリーの祈りを


神官回


「ここまでしなくても良いじゃないですか!!」


試験を終えたメアリーと所長は、

フローレンスに叱られていた。


唸るような試合をしたふたりも

泣きながら烈火の如く怒る看板娘には敵わない。



「メアリーさんもですよ!

 だいじょうぶだって言ったじゃないですか!

 そんなに傷だらけになって、

 どこがだいじょうぶなんですか!」


「いや、フロー、あたしは」


言い訳しようにも隙がなく、止まらない。



「メアリーさんを吹き飛ばして、

 まだ続けるなんて!

 ほんとに大怪我になっておかしくないんですよ!」


「さすがに所長、やりすぎです」


青年に責められても、所長は言い返す言葉がない。


事実、新人の腕を見る試験にしては行き過ぎていた。

メアリーは生傷が多く、飛ばされたときの打ち傷ができているだろう。

メアリーの剣が折れなければ、いつまでも

続けていたはずだ、それこそ倒れるまで。



それを理解して、所長は看板娘と青年からの

叱責に言い返せずにいた。







「フローさん、そこまでにしてあげてください」


座り込んだメアリーが助けを求め、

ついにリリーが止めに入った。


「わたしの腕も見て頂かなくてはいけませんから」


リリーは微笑んだ。その笑みに青年も看板娘も

惚けてしまう。



所長は苦い顔をして、口を開く。


「ああ、そうだが、

 しかしなあ、嬢ちゃんは神官だろう。

 剣を振るう必要はないからな。

 

 まあ、嬢ちゃんが良ければ

 実際に力を使ってもらりゃ認めてやるよ」


それは、神官に対して遠慮したような、気を使った言い方だった。




傭兵と神官は反りが合わない。

「兵士と神官を同室にするな」

そういったことわざで知られ、幼い子にも伝わる。


生まれついた稀有な才を持つ者と

凡庸な持たざる者を別するために言われる。

支配者と従者、貴族と平民と、換言され広く知られる言葉だった。





故に傭兵を志願するリリーは非常にまれな存在、

しかし、傭兵ギルドの所長としては、あまり関わりたくない存在となる。


遠慮した態度の裏には、

「あまり関わるな、信用されたければ

 お前の切り札となる、その力を見せろ」


という、威嚇と脅しが含まれていた。





力を見せろと言われたリリーは、微笑を崩すことなく了承する。


心配そうな顔をするフローレンスと青年にも

同じ表情を浮かべて、ふいにメアリーの近くに膝をつく。


「メアリーが初め、大丈夫と言ったのは

 わたしに理由があるからなのですよ」


そういうと、リリーは座り込んでるメアリーに近づき

祈るように手を組む。

祈りの


「あなたに神の慈悲を」


ゆっくりと手を広げると、光の粒が放たれて、

メアリーの体を纏うように舞い、光が降る。

傷が治っていく。




メアリーは慣れた様子で、じっとリリーを見ていた。


しかし、紛れもない奇跡の力を目の当たりにした

他の3人は、驚きに目を離せないでいた。



呆けたままの3人に振り返り、声を掛ける。



「わたしが神官であると証明できましたか?」



リリーは所長に尋ねる。



「ああ、疑いようもない。


 だがな、どうして神官が傭兵をしたがる?

 教会にでも仕事は余るほどあるだろうし、

 戦場に行きたきゃ、国に認可をもらって

 安全に護衛付きで行けばいいだろう」



「教会でも、国でも、身を預けるには

 すこしお堅いところなので。

 自由に動くには、傭兵のほうが良いものですよ。


 それに、わたしはメアリーについて行かないと。

 

 心配でたまりませんから」


ずっと聖女のような笑みを浮かべるリリーを、

メアリーは赤茶の虚ろな瞳を向けていた。





神官は貴重な存在。

教会でも、国でも、保護される。


国に身を置く神官は、多くは貴族の治癒師となる。

強いまたは問題のある神官は、戦場で

兵士の回復を死ぬまで務める。




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