ふたりの少女
戦記が書きたかった。
帝都に扇状に広がる街並み
扇端へ下るにつれて、大衆の喧騒と熱気に渦巻く
西の一画に昼夜を問わず怒号の飛び交うところがある
流れの傭兵が集まる酒場
まだ日が長い月の昼時に、この酒場に客が入った
酒場の女将が、その客人を見留め近づいた。
「やあ、こんにちは。あんたたち見ない顔だね、
新顔にはサービスしとくよ、いっぱい食べな」
客人は注文したそうに、口を開けていたが
女将は大声で話し続けて口を挟む隙がない。
どこから来ただとか、御銭はあるのかとか、
女の子二人じゃ物騒だが、誰かの連れかとあれこれと
話して、困ったように客人は閉口してる。
馴染みの客は、あぁいつものことだと笑っている。
そこへ酒場の看板娘が割って入った。
「お母さん! お客さん困ってるでしょ。
わたしが注文とるから、あっちお願い」
女将が離れると、客人はようやく注文することができた。
看板娘が料理を持ってくると、片方の客人はお礼を言う。
看板娘はその客人の卓に付いて離れなかった。
彼女もこの客人に興味があった。
「さっきはごめんなさい。お母さん、珍しい方を見るといつも止まらなくって。おふたりもこの辺りじゃ見ない方ですしね。」
看板娘はにこにこと話し掛けながら、客人を
観察するように見る。
客人はふたり、女の子で、
おまけに片方はかなりの美人だった。
先程、礼を言ったのは美人の子。
明るい金髪で、看板娘の話を微笑を浮かべて、愛想良く聞いている。
もう一方は、茶髪の少女。よく見ると可愛らしい見た目なのだが目の下に隈があり、目つきが怖い。
料理に夢中で看板娘の方を見ようとしない。
「おふたりはどこから来られたんです?」
「どこというんでしょう、誰も知らないような田舎ですよ。ここからとても遠い村です。
私達はこの街を目指して長く旅して来たのです」
金髪の少女が応えた。
「ずっとふたりだけでですか?」
「ええ、これでもメアリー、
ああこちらの赤毛の彼女ね、とても強いんですよ」
「へええ、わたしと同じくらいの歳ですよね?
そんなに強いんですか!」
「彼女は愛想は悪いけど、傭兵としての腕はあって、
それでここまで来たのですよ」
看板娘にはとても信じられなかった。
この街は腕利きの傭兵が集まるところだ。
帝国は長く戦争を続けて、兵を募集している。
腕が良ければ、身分関係なく執りなしてもらえるので
皆、我こそはと参戦していくが・・・
こんな女の子が傭兵といわれてもなあ、
変な輩に絡まれるだけだろうと思い、注意しようと口を開くが、少し遅かった。
この街でもタチの悪い方で有名な男が近づいていた。
そのうち戦います。