幕間2
宛先:お母さん
題名:活動日誌/二日目
本文:
今日は探偵さんに洋服を買ってもらいました。私には不要と発言したのですが、何事も経験ということで、新しい服に着替えた私のことを褒めてくれたのは嬉しかったです。これがお洒落というものですか。覚えました。
買い物から帰宅すると、探偵さんの担当医で借金主である女医さんが勝手に上がり込んでいてテレビゲームをしていました。仕事上がりにご飯をたかりに来た図々しい人です。
私を見て探偵さんの性癖を疑い、探偵さんから私を引き離そうとするような発言をし、市長に依頼内容の確認までしています。この時点で彼女に対する第一印象は良くありません。後々話してみると悪い人ではないと理解しましたが、探偵さんに馴れ馴れしいのが少し気になります。
本日、料理デビューをしました。
今朝、探偵さんから『美味しい』とは『幸せ』の一種だと教わりました。人の一生はどれだけ幸せに生きたかで、人生の価値が決まる。私には飲食での『幸せ』が理解できなくとも、視覚を通して共感できる可能性を示唆してくれました。その方法の一つが手料理であり、私が作った料理を食べて『美味しい』と言ってもらえれば作った側も共感できると。なのでさっそくネットからレシピを三千種ほどダウンロードし、探偵さんと共同でカレーなるものを作りました。
最初に食べてもらって『美味しい』と褒めてくれたのは探偵さんではなく、女医さんでした。テンションが無駄に高く、『うんま! 何コレ、うんまい! ゲロうま!』と食レポには絶対向かない不適切な発言で称賛してくれました。悪気はないのでしょうけど、素直に喜べなかったです。
彼女に続いて探偵さんもカレーを食べて『美味しい』と言ってくれました。嬉しかったですけど、できれば最初にその言葉を聞きたかったです。
そして二人が食事をしていた時、私はテレビゲームをしていました。女医さんに飲食できないことを不審に思われないよう、『買い物帰りに外食してもう食べられない。それよりも初めてテレビゲームを見たので気になっていた』と誤魔化しました。後半は嘘ではなかったので納得してもらいました。
操作にも慣れたところで女医さんのスコアを軽く塗り替えてやると、触発されたのか、女医さんがおかわりしたカレーを完食してから割り込んできました。なし崩し的に対戦の流れになり、結果は十戦十勝の完封勝利です。がっくりと打ちひしがれた女医さんの姿に、胸がすくような感情を覚えました。これが勝利の美酒というものですか。覚えました。
その後、何度か女医さんで遊んだ後、女医さんはどこか悔しそうな顔で帰っていきました。リベンジを宣言していましたが、また返り討ちにしてやりますとも。
備考:明日は女医さんのお宅に訪問して家事手伝いの予定だそうです。どうして探偵さんがそこまで彼女に肩入れするのか訊ねたところ、家事の手伝いも借金の減額に繋がっているため、定期的に女医さんの家に足を運んでいるんだとか。
何となく面白くありません。これが不愉快という悪感情でしょうか。とりあえず覚えましたが、何故そんな感情を抱いたのか私には解りません。探偵さんに訊ねてみると、
「君の護衛任務中に、ある意味別の仕事をブッキングした俺に対する不満だろう」
とのことでしたが、探偵さんに不満は感じていません。
「なら、海堂に不満があるのか? さっきまで一緒に遊んでたじゃないか」
本当に解りません。
結局、それ以上何も言えず二日目も終わり、現在こうして報告書を書いています。
私は一体、何が気に入らないのでしょう?
大人げない大人の女性、海堂真奈。気を許した相手には嗜好も言動も子供っぽく、初対面の美優に対してもフランクに接しています。
美優はクロガネと真奈の関係に嫉妬心を抱くようになります。これも人間らしく成長している描写でありますが、将来的にどのような形で(精神的)人間化するのか、この時点ではまだ未定です。
さすがに昼ドラみたいなドロドロの人間関係を描く度胸と技量は作者にありませんw