第8章
姉が仕切り、まずは軽く走ってから、ソフト部特有の意味不明な掛け声で体操。その後二人一組でキャッチボール。基本みんな仲良し同士でやっている。
僕は全員を見回してみたが、できる人とできない人の差が激しい。
姉と愛ちゃんは普通に男子で通用するレベルで、もう五十メートルは離れて投げ合っている。テニスの二人もきゃっきゃ言いながら上手い。さすがテニスプレイヤー、ショートバウンドも綺麗に捌いている。
同級生の前田と三田村は、前田が綺麗に胸の前に投げているのに三田村がグラブに当てては落とすを繰り返している。
僕は特にやることもないので、まず三田村に寄っていった。
「三田村、グラブ使いにくいか?」
「ぬわ、む村上。びっくりしたあ」
「こう、掌を前田のほうに向けてみな。で、肘は軽く曲げて」
「こ、こう?」
「そう。前田、いいよ、投げてきて」三田村は綺麗にキャッチした。
「入った。え、なんでさっきだめだったんだろ」
「上手いじゃん。あとは低めに来たら膝も軽く曲げてみ。今の感じ、覚えとけよ」
「うん。あ、ありがと」
双子は二人とも力が足りなくて、二十メートル投げるのがやっとだけど、動きは割とできている。
「沙織、上手くなったな」
「あ、拓ちゃん。ほんまに?て言うか、拓ちゃんだけはうちらのこと絶対間違えへんなー」
「まあな。それでさ、投げる時に脚上げるだろ?そこで、軸の右足で体をぐっと前に押し出して、勢いつけて投げてみな。こんなふうに、けんけんしてもいいから」
「わかった。よっしゃ、詩織行くでえ。けん、けん、とうっ」
「うわわ、どこ投げてんねや、高いがな。打球は左翼の遥か頭上やがな」
「あ、ごめーん。でも今の、えらい飛んだなあ」
「それでコントロールできるように練習しような。詩織にも教えてあげてな」
「うんっ」
後は最大の問題、気の強い金髪と中学生の謎コンビ。でも秋山リサは、僕以外には優しくできるようだった。この二人はキャッチボールとして成り立っていない。
秋山リサはサウスポーで、投げるフォームは良いのに球はあさって、蘭ちゃんは逸れたボールを取りに行くスピードだけが一級品だ。
「秋山さん、ちょっといいですか」
「何よ。私は今、蘭ちゃんと楽しくプレイキャッチしてるの。邪魔しないでくれる?」
「ああ、邪魔はしないんで、ちょっとボールの握り見せてください」
「こうよ。リトゥーは知ってる?フォーシームって言うのよ。私のお兄ちゃんが教えてくれたんだから」
「うん、すごく綺麗な握りです……それで、スポーツとかはしてたんですか?」
「私はね、ハイスクーでやり投げの選手だったのよ。あんたとは格が違うの」
「わかりました。じゃあ、やり投げと少しだけ意識を変えて……こう、この二本の指で、ボールの中心を押し込むように投げてみてほしいんです。僕が受けますから」
「何よ、私に指図するわけ?」
「試してみてください。思いっきり投げていいんで」
「わ、わかったわよ。……ふん、リトゥーのくせに」
まったく引き下がる気なしに、じっと目を見て話したら一応聞いてくれた。僕は蘭ちゃんの側に走っていった。