第61章
「舞ちゃん、次は勝つからな」
「いい勝負だった。しかし、次の話はいいから早くマダックスをよこせ」
「あー、わかったよ。今持ってくるから」
森田がベンチに戻って行った。あれだけ膝を酷使したはずの姉は堂々と立っている。
「なあ姉、膝はいいのか?」
「……もうすぐアイシングする。帰ったらマッサージお願い」やっぱり痩せ我慢かよ。
森田がまたこちらに走ってきた。
「お待たせ、ほら、これ」
「ほう……え、拓、これ本物?」
「たしかにグラブの型はマダックスっぽいけど……このサイン、本物とか以前にマダックスじゃなくない?カート……たぶんカート・シリングって書いてある」
「ふにゅう?」
「と、とにかく約束通り渡したからな。じゃ、おつかれっ」
森田は逃げるように去って行った。
「ちょ、ちょっと何?お姉ちゃんの苦労は?」
「ははっ、いいじゃん。シリングも凄い投手だよ」
「タクマ、見せて見せて。メイジャーリーガーのグラーヴ」
「いいよ、ほら」
「うちも見せてえ」
「うちも見せてえ」
「姉、最後、締めようか」
「そうだね。おーい、みんな片づけてとりあえず球場出るよー」
僕たちは一礼して球場を後にした。初試合、みんな本当によくやってくれた。
マダックスとシリングのグラブ、ほとんど同じデザインのウイルソン製だったんですよね。




