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第59章

「んふふー」

　姉は打席に戻って構えるが、立ち位置がいつもよりベースから遠い。構えも高く、振り子打法のような雰囲気だ。

　二球目、牧田の外に逃げるスライダーを、投球前から体を被せるようにして突っ込み思いきり踏み込んで引っ張った。

　ライナーが左翼線へ。低い軌道のままフェンスに直撃、しかし一メートルほど外側でファール。

「ひゅー」牧田が汗を拭う。

　そうか。軸足に体重が乗らないから、それを逆手にとって上体を突っ込ませ、左足一本で打つための振り子打法か。

「あー、もうちょい、こうか」姉が打席を外して素振りを繰り返す。付け焼き刃で打とうって言うんだから天才的だ。

　しかし、追い込まれた。あと一球コールが相手チームから起きる。姉は「あと一球で終わるのは貴様らだ」とか言って怒ってる。

　今の球、姉は外から踏み込んで大ファールを飛ばした。バッテリーもそれは見ていたはず。僕が牧田の立場なら、ボールになる外のスライダーを二球ほど続けた後、インローに落ちるシンカーで勝負する。それもストライクは投げない。

　三球目、予想通り牧田は外のスライダー、姉は見送ってボール。露骨だったが、少しでも甘くなれば姉は強引に持っていく。

　四球目、やはり外のスライダーを姉は強打。ストライクを欲しがって甘くなったか、しかしまたライナーで左翼線へのファール。