第58章
トップに戻って一番の佐伯さん。その初球に蘭ちゃんが二盗成功。盗塁だけなら本気でプロ並みかも知れない。スタートの判断がいい。これで併殺も消えた。
佐伯さんはシンカーをちょこんと当てて浮かせたが、これは遊撃小野寺の守備範囲でアウト。
一死二塁。桐谷さんはさっきの打席も牧田の球をよく見ていた。初球、ボールになるシンカーを見送り。二球目、外に逃げるスライダーも見送ってストライク。そこから二球スライダーが外れてボール。
スリーボールワンストライク。四球で十分だから、慎重にいってほしい。牧田が投げたのはインローへのシンカー、桐谷さんは打ちにいきかけてバットを止めた。しかし判定はストライク。明らかに低かったし、バットも回っていない。怪しい判定だったが、桐谷さんは「まあ」なんて相変わらずおっとりしている。
最後は同じようなシンカーを打たされてぼてぼての捕ゴロ。今の判定は痛い。
二死二塁、あと一つのアウトで試合が終わってしまう。しかし三番は前田、きっと何とかしてくれる。
牧田は外に逃げるシンカーを三球も続けた。前田は手を出す気配もなく、すべて外れてスリーボール。結局、カウントが悪くなると最後は完全に外した球で敬遠。
姉と勝負するつもりか?直前の打席、姉の打撃は乱れてたし、今日の愛ちゃんの印象は強烈だ。
正直言えば、二人とも敬遠で一点差にして満塁でリズというのがこっちには一番きつい展開かも知れない。
そうなったら詩織を代打で出すか?しかし同点止まりだと、延長戦は姉一人で投げきらなければならなくなる。
ここで決めなければ勝てない。
僕の心配をよそに、姉は長渕剛の名曲とんぼを歌いながらバットを振り回し、平然と打席に入る。
初球、スライダーが外角に決まってストライク。
「ほっほー」姉は打席を外し、ネクストの愛ちゃんに向かって言った。
「愛が後ろにいてくれたから、私はヒーローになれるよ。愛、ありがと」
「あはは、そういうのは打ってから言いな」




